無感情のアマンダと感情的なリリーは、
混ぜると危険な関係。
サンダンス映画祭観客賞をはじめ、インディペンデント作品を対象とする数々の映画賞にノミネートされ注目を浴びた映画『サラブレッド』。
強い血は残し、さらに強いものが生み出される、サラブレッド。純血種の馬は、美しく早く走れるが、ケガをしやすくデリケートである。
性格も育ちも正反対な幼なじみが再会したことで、眠らせていた凶悪な心が目を覚ます。映画『サラブレッド』を紹介します。
映画『サラブレッド』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ)
【監督】
コリー・フィンリー
【キャスト】
オリビア・クック、アニヤ・テイラー=ジョイ、アントン・イェルチン、ポール・スパークス、フランシー・スウィフト
【作品概要】
『レディ・プレイヤー1』のオリビア・クックと、『ウィッチ』のアニヤ・テイラー=ジョイの人気若手女優が共演したサスペンス映画『サラブレッド』。
監督・脚本は、舞台演出家として活躍してきたコリー・フィンリー監督。今作が、映画監督初作品となります。
2人の少女の殺人計画に巻き込まれるティムを演じたアントン・イェルチン。2016年事故で亡くなった彼の遺作となりました。
映画『サラブレッド』のあらすじとネタバレ
馬と向き合う少女。彼女の名前は、アマンダ。アマンダは、ナイフを取り出します。
ここはネティカット州の郊外にある豪邸です。アマンダは、久しぶりに幼なじみのリリーの家に来ていました。壁には白馬に乗った幼いリリーの写真が飾ってあります。
アマンダがこの家を訪ねた理由は、母がお金でリリーに教育係を頼んだからです。すべてをお見通しのアマンダでしたが、大人しく言う通りに出向きました。
上流階級の家に育ち、名門校に通いながら一流企業でのインターンも経験しているリリーは、絵に書いたお嬢様でした。
一方、アマンダは突飛な行動で周りを驚かせ、社会からはのけ者にされ、母親も手に余すほどの問題児でした。
幼なじみの2人は再開に戸惑いながらも、次第に本音で語り合うようになります。それはどこか秘密めいたやり取りでした。
アマンダはすべての感情が欠落していました。喜びや罪の意識もなく、いつでも泣ける演技を身につけています。
そんなアマンダに興味を抱くリリー。リリーは反対に感情的でした。くすぶる感情を持て余し、夜は学生パーティーに顔を出していました。
リリーのもっぱらのイライラの原因は、継父のマークの存在でした。抑圧的なマークは、母とリリーにも厳しくあたり、リリーを邪魔者扱いしていました。
日々のトレーニングを欠かさないマークの、夜な夜な響くトレーニングマシーンの「グゥーングゥーン」という耳障りな音も、リリーを不快にさせていました。
リリーのマークへの殺意に感づいたアマンダは「殺さないの?」と挑発します。最初はそんなアマンダを遠ざけるリリーでしたが、今度は自分からアマンダの家を訪ねます。
アマンダが飼っていた馬を殺したという噂の真相を聞くリリー。リリーの心の潜む凶暴な感情が顔を出していました。
映画『サラブレッド』の感想と評価
スタイリッシュ・サスペンスと謳われている通り、今どきの女の子たちによる、スマートな殺人劇という印象です。
劇作家・舞台演出家としても活躍するコリー・フィンリー監督が、元々は舞台劇として書きおろした作品ということです。
確かに、劇中に流れる印象的なドラムの音や、2人の少女のテンポ良い掛け合いが演劇を見ているような感覚に陥ります。
映画『サラブレッド』の魅力として、少女2人のキャラクターが挙げられます。
感情のないアマンダは、何事も論理的です。冷静に自分の分析し、行動にも意味があります。そんなアマンダが、時折みせる不器用な愛情表現に、ただの変わり者ではないことが分かります。
馬を殺した理由もそうです。アマンダはサラブレッドの馬が足を折ってしまった結末を知っていました。安楽死で私が楽にしてあげるという気持ちでした。
リリーから殺人の濡れ衣を着せられることを知った時も、アマンダはそれを受け入れます。リリーの残忍性を知ってもなお、友達だからです。
一方リリーは、上品そうに見えて怒りっぽくて、わがまま。典型的なお嬢さまタイプです。リリーはアマンダに再会したことで、より感情的になっていきます。
嫌いなものを排除したい。その凶暴さは、アマンダよりも激しいものがあります。感情に流されてしまう人の弱さと怖さがリリーを通して見えてきます。
また、アマンダとリリーを演じた、オリビア・クックとアニヤ・テイラー=ジョイのカリスマ性あふれる演技に魅せられます。
残虐な殺人もミニスカートでやっちゃう。秘密の会合はレトロな映画を観ながら。プールで遊び、庭でチェスをし、馬を殺し、殺人計画を練る。
はちゃめちゃなティーンエージャーを、2人の名女優がクールにオシャレに演じます。
そして、アマンダとリリーによって殺人を依頼されるティム。子供相手にドラッグの売人をしている小心者です。
強がったことを言いふらし、滑稽に見える様も、2人の少女の前では一番まともな人間に見えてくるから不思議です。
今作が遺作となってしまった、ティム役のアントン・イェルチン。2人の少女に負けないぐらいの存在感で物語を引き締めます。
まとめ
性格も育ちも正反対の幼なじみが再会。彼女たちの訳ありな友情は、凶悪な殺人事件を引き起こす。スタイリッシュ・サスペンス『サラブレッド』を紹介しました。
無感情のアマンダと感情的なリリー、そして共犯者のティム。3人の殺人計画は、秘密と裏切りの末、思いもよらない展開へ。
「町にはサラブレッドしかいないわ」。アマンダの最後の言葉通り、町にあふれる美しく気高いサラブレッドの群れ。真の姿は、感情的で凶悪な悪魔なのかもしれません。