フレデリック・フォーサイスのベストセラー小説を巨匠フレッド・ジンネマン監督が映画化。
ド・ゴール大統領暗殺を目論む冷酷非情な殺し屋“ジャッカル”。彼を追うフランス司法警察の腕利き刑事ルベル…。
フランス大統領ドゴールの暗殺を請け負った殺し屋“ジャッカル”をエドワード・フォックスが演じ、人気作家フレデリック・フォーサイスが小説に綴った、2人の息詰まる攻防戦をフレッド・ジンネマン監督が映画化。
ジンネマン監督の後期作品の傑作となった映画『ジャッカルの日』をご紹介します。
映画『ジャッカルの日』の作品情報
【公開】
1973年(イギリス・フランス合作)
【原題】
The Day of the Jackal
【監督】
フレッド・ジンネマン
【キャスト】
エドワード・フォックス、マイケル・ロンズデール、デルフィーヌ・セイリグ、エリック・ポーター、シリル・キューザック、オルガ・ジョルジュ=ピコ、アラン・バデル、デレク・ジャコビ、 ミシェル・オークレール、バリー・インガム、ティモシー・ウェスト
【作品概要】
フレデリック・フォーサイスのベストセラー小説『ジャッカルの日』(1971)をフレッド・ジンネマンが監督した傑作サスペンス・スリラー。エドワード・フォックスが冷酷な殺し屋“ジャッカル”を演じ、彼の出世作としても有名な作品。
第46回アカデミー賞(1974年)編集賞(ラルフ・ケンプレン)ノミネート作品。他にも、第31回ゴールデングローブ賞(1974年)ドラマ部門最優秀作品賞、最優秀監督賞(フレッド・ジンネマン)、最優秀脚本賞(ケネス・ロス)でノミネートしている。
映画『ジャッカルの日』のあらすじとネタバレ
1962年8月、アルジェリア独立を認めた仏大統領シャルル・ド・ゴールを暗殺すべくOAS(秘密軍事組織)は、ペティ・クラマール郊外に潜伏していました。
わずか7秒間の襲撃で大量の銃弾がド・ゴール一行を乗せた車を襲ったにもかかわらず、暗殺に失敗したOASの一行。
6ヶ月後。大統領暗殺未遂の主犯であったOASのジャン=マリー・バスティアン・ティリーが当局に捕らえられ、銃殺刑に処されます。
その後、OASの他のメンバーも次々に逮捕され、組織はほぼ根絶やしに。
そこからさらに3ヶ月後。逮捕を免れたOASの指導者ロダン大佐らはウィーンのホテル・クライストに潜伏していました。
いまだにド・ゴール暗殺を諦めていない彼らは、フランスで活動歴のない暗殺者を雇おうと試みます。
6月15日。多数の候補の中から選ばれたイギリス人の殺し屋がロダンの下を訪れました。彼はド・ゴール暗殺は可能だが、問題はその後だと話を切り出します。そこから逃げ出すことが出来なければ成功とはいえないというのです。
そのためには多くの時間と資金が必要になると男。「50万」とロダンに告げました。「ポンドか?」と尋ねると「ドル」だと男は言います。
もはや壊滅状態にあったOASにとって50万ドルもの大金を要することは非常に困難でしたが、渋々ながらその要求を呑みました。
前金として半額がスイスの銀行口座に振り込まれた時点で行動を開始するという男に「君をなんと呼べばいい?」とロダン。
「ジャッカル」と言って男は去っていきました。
その後、フランス各地の銀行などを襲うことで資金を調達するOAS。一方、フランス当局のローラン大佐はローマに移動したダガンらの動きを掴んでいましたが、肝心の目的まで把握できず、監視体制を強化するのでした。
イギリス、ロンドン。ポール・ダガンという名で偽のパスポートを取得したジャッカル。ダガンという人間は2歳でこの世を去っており、今は存在しない男です。
さらに空港でデンマーク人のパスポートを奪い、その男にも成り済ます準備を整えます。
その頃、半金の25万ドルが入金されたことを知ったジャッカルは“ヴァルミ”という人間が連絡員で、今後はこの男を通じて接触を図るようOASから連絡を受けました。
イタリア、ジェノバ。ロダンらの動きを監視していたローラン大佐は彼らがホテルに籠り全く動きを見せないことに不穏な空気を察知します。
唯一外出するのは副官のウォレンスキただ一人で、奪われないようにするためか、アタッシュケースを手錠で自らの腕につないでいる姿が度々目撃されているのです。
ローラン大佐はこの件をコルベール将軍へ報告しました。
一方、OASの連絡員ヴァルミは、組織の一員である女性のデニースにド・ゴールの側近であるサンクレールに近づいて、情報を入手するよう命じます。
その頃、ジャッカルはジェノバにいるガンスミスの下を訪れていました。軽量で扱いやすく、組み立て式の銃の製造を依頼しに来たのです。
アルミ製でサイレンサーと照準器付き、距離は120mを越すことはないとジャッカル。弾は炸裂弾が良いとのことで、水銀にしようということで話が付きました。
彼が続いて訪れたのは偽造屋。各種IDなどを製造するよう依頼し、撮った写真はネガも含めて全て引き渡すようきつく言い渡します。
その後、パリへと向かったジャッカル。暗殺に適した場所を探し、ある建物に目を付けます。管理人の隙をついて鍵の型を取りその場を去りました。
一方のデニースはド・ゴールの側近サンクレールに近づくべく、ある作戦を仕掛けました。乗馬中に犬をけしかけ、落馬させたのです。
謝罪するデニースに仕方がないことだからと気にしていない様子のサンクレール。どうやら腰を痛めたようで、デニースは彼を介抱するという名目で近づくことに成功します。
その頃コルベール将軍は、不審な動きをしていたウォレンスキを捕らえるようローラン大佐に命じてました。拷問し、全てを吐かせようというのです。
1963年8月14日。ウォレンスキが漏らした言葉を分析中、「ジャッカル」という言葉と「ホテル・クライスト」という言葉を聞き取ったローラン大佐。
どうやら再びド・ゴール暗殺計画が進行中で、その暗殺者がジャッカルであると判明し、内務大臣へ報告します。
当のジャッカルはその頃ジェノバの偽造屋の下を訪れていました。出来上がったIDなどを受け取るも、全て引き渡せと言っていたはずのネガなどを渡そうとしない偽造屋。
どうやらデカいヤマだと踏んだらしく、ジャッカルから強請ってやろうという魂胆でした。必要以上の金を要求する偽造屋に笑顔を浮かべるジャッカルは、どてっ腹をぶん殴り、首を折って殺害します。
その後、ガンスミスの下へ向かったジャッカル。アルミ製だとどうしても曲がってしまうので、ステンレスにしたが軽さは問題ないとガンスミス。ジャッカルもその出来栄えに満足したようでした。
ローラン大佐からの情報を受けて、会議を招集した内務大臣。暗殺の手が迫っているということを説明したにもかかわらず、大統領は頑なに公式行事に参加すると言ってきかないのだとか。
となると事前に暗殺を阻止するほかはないのですが、肝心の暗殺者の情報がほぼ皆無という状況に警視総監のベルティエも困り顔でした。
とにかくそのジャッカルという暗殺者をまず特定しなければ捕まえようもないということで、最高の刑事だと称されるルベル警視が捜査責任者としてベルティエに指名されます。
早速捜査を開始したルベルと助手のキャロン警部。まず最優先にしたのはフランス国内で活動経験のある殺し屋探しでした。
内務大臣が招集した会議にはサンクレールも出席していました。その頃すでに同棲関係ににあったデニースは彼からジャッカルの捜査が開始されたという情報を得て、ヴァルミに知らせます。
ルベルが当たったフランス国内の殺し屋は全て外れたため、スコットランドヤード(ロンドン警視庁)やアメリカFBIなど主要国の警察機構に殺し屋のリスト作成を依頼しました。
連絡を受けたスコットランドヤードのマリンソンは、部下のトーマス警視にこの件を命じます。その後の捜査で彼が諜報部から得た情報で事態は動き出しました。
1961年にドミニカの独裁者暗殺に関与した男“チャールズ・ハロルド・カルスロップ”というイギリス人の存在を掴んだのです。
この男がレーダーにかかったのにはある理由がありました。“Jackal”をフランス語に直すと“CHACAL”。
“CHARLES(チャールズ)”の最初の3文字“CHA”と、“CALTHROP(カルスロップ)”の最初の3文字“CAL”を組み合わせたものなのではと考えられたからだったのです。
映画『ジャッカルの日』の感想と評価
フレデリック・フォーサイスの同名小説を基にした傑作サスペンス・スリラー『ジャッカルの日』。
この作品は史実に基づいた部分が非常に大きいので、その辺りを知っておくとより楽しめると思いますので、ごく簡単に説明させて頂きます。(もちろん知らなくても十分面白いのですが…)
OAS(Organisation de l’armée secrète)というのは実在したフランス極右民族主義組織の名称で、当時フランスの支配下にあったアルジェリアは自国の領土であると信じ、その独立を阻止しようと武装闘争を行っていました。
こういった情勢の下、アルジェリア独立を支持したのが当時のフランス大統領シャルル・ド・ゴール。彼を排除すべく、1962年8月のOASによる暗殺未遂事件(プティ=クラマール事件)が起こったのです。
そして首謀者だったジャン=マリー・バスティアン・ティリーが逮捕され、銃殺。それに伴いOASはほぼ壊滅状態に。
ここまでが冒頭部分で、ここから先がフィクション部分に当たる所です。この作品が素晴らしいのは、こういった歴史的背景の説明をしなければけない場合でも、決して過剰になることがなく、スムーズに観客の頭の中に情報が植え付けられるという所にあると思います。
こういった演出が監督のフレッド・ジンネマンの巧みな所です。シンプルだけれども効果的に情報を提供しながらも、テンポよくサクサクと進行させることで、決してダレることがないのは偏に彼の手腕による所が大きいでしょう。
特にテンポの良さというのはこの作品で際立っていて、ポンポンポンと切り替わっていく場面転換が心地よいスピード感を生み出し、そのスピード感は徐々に徐々に高まって緊張感をさらに加速させる役割を担っているのです。
また、こういったスピード感を大事にしながらも、ジャッカル側の視点もルベル側の視点もどちらも非常に緻密に描かれているという点は特筆すべき所ではないでしょうか。
克明になおかつ詳細に表現されるルベルの捜査状況。一方のジャッカルは、一つ一つの準備状況をしっかりと見せながら(それに対する口頭での説明はない)、それが後々の彼の行動にしっかりと繋がってくるという見せ方は本当に「巧い!」の一言です。
このように、シンプルだがテンポよく緻密に構成された『ジャッカルの日』。監督の手腕に加えてキャスト陣も魅力で、何といっても主人公ジャッカル(エドワード・フォックス)の存在は外せません。
冷酷非情という言葉がこれほどピタリと当てはまるキャラクターは他に類を見ないのではないでしょうか。
目的のためなら手段を選ばず、殺す必要があれば殺すし、そうでなければ殺さないという何とも合理的かつ論理的思考に基づいて行動しているジャッカルという人間を、エドワード・フォックスが見事に演じていますね。
他にも、常に疲れた表情を浮かべながらも決して明晰さを失わないルベル警視を演じたマイケル・ロンズデール。そして、少ない出番ながらも美しきインパクトを残したデルフィーヌ・セイリグ(モンペリエ男爵夫人役)も魅力的ですね。
まとめ
『ジャッカルの日』は、後に『ジャッカル』(1997)としてマイケル・ケイトン=ジョーンズ監督、リチャード・ギア&ブルース・ウィリス主演でリメイクされました。
しかしこの作品、リメイクとは名ばかりで全く別の作品(商業主義の臭いがプンプンする単なるアクション映画)になってしまっているのです。
元々は同名タイトルの『The Day Of The Jackal』としてスタートしたものの、フレッド・ジンネマンにもフレデリック・フォーサイスにもクレームを付けられて、タイトルを『ジャッカル(The Jackal)』に変更せざるを得なくなったんだとか。
元々の『ジャッカルの日』がかなり原作を忠実に再現したものだっただけに、リメイクを名乗るはちと無理があったかなと言わざるを得ませんね。
そして何より、商業主義的作品に批判的だったフレッド・ジンネマンが亡くなった1997年に『ジャッカル』が発表されたという点は、悲しいかな、人生というものの皮肉さを痛感させられるばかりです。