今回ご紹介するのは、川端康成の中編『眠れる美女』を原作とした映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』。
原作の耽美な世界観をそのままに、舞台を海外へ移して生まれ変わった本作。
オーストラリア映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』の魅力をお伝えします。
CONTENTS
映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』の作品情報
【公開】
2011年(オーストラリア映画)
【原題】
Sleeping Beauty
【原作】
川端康成『眠れる美女』
【監督・脚本】
ジュリア・リー
【キャスト】
エミリー・ブラウニング、レイチェル・ブレイク、ユエン・レスリー、ピーター・キャロル、クリス・ヘイウッド
【作品概要】
監督はオーストラリア出身、本作が長編映画デビュー作となるジュリア・リー。
主演は、『エンジェル ウォーズ』(2011)『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(2014)の女優エミリー・ブラウニングが務め、大胆なヌードも披露。
これまで国内外で何度か映画化されてきた川端康成の中編小説『眠れる美女』をベースにした官能サスペンス。
2011年、第64回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。
映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』のあらすじとネタバレ
大学生のルーシーは奨学金の返済のため、カフェで働いたり、会社で書類のコピーをしたり、時にはバーで高所得者の男性をひっかけコカインを吸い、売春婦のようなことをする生活を送っています。
彼女は居候させてもらっており、家賃を催促されたり家事を押し付けられたりと、家にも居場所がありません。会社には酒癖の悪い占い師の母親から電話がかかってきて、冷たい目で見られることも。
そんなルーシーの支えは、アルコール中毒で不安定ながらも繊細な心を持つ友人バードマンだけでした。
ある日ルーシーは、普通のアルバイトよりもかなり高額な仕事の広告を見て応募します。
面接にやってきたルーシーを迎えたのは、クララという中年のエレガントな女性。彼女はルーシーに幾つかの質問をします。
ピルは服用しているか。煙草は吸うか。ルーシーを下着姿にしてボディチェックをし、晴れて“合格”となります。
仕事は指定の下着をつけ、シルバーサービスの女給をするというもの。時給は250ドルでした。ルーシーはサラという名前を与えられました。
出勤日になり、厳しいメイクのチェックも終え、裕福な老人たちに下着姿で酒を注いで回るルーシー。
しかしこれは本来の募集されていた仕事ではありませんでした。
映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』の感想と評価
原作の川端康成による『眠れる美女』は、本作とはかなり異なるものとなっています。
主人公は1人の老人。彼が“すでに男ではなくなった”有閑老人限定の“秘密くらぶ”の会員となり、眠らされた美女たちと幾夜も過ごします。
亡くなった母、自分の娘、忘れられない過去の恋人、自分の人生に携わってきた女性たちを思いながら若い美女達を思い返す老人。
そして最後の夜、彼は隣で若い女性が死んでいるのを発見します。
彼は眠っている間に自分が殺してしまったのではと震えますが、女主人は動じずに、「気にせず、お休みになってください。隣にもう一人、娘がおりますでしょう」と彼に言いました。
老人の夢と妄想を行き来し、女性たちの美しさを緻密に描いたデカダンス文学の名作です。
映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』の主人公は、“眠る美女”の側となる女の子、ルーシー。
あどけなさと甘い官能を併せ持つエミリー・ブラウニングの魅力が光り、映像は美しく官能的なだけでなく、緊張感にあふれています。
彼女をじっと観察し続けたロング・ショットや、無音が占める映像は、いつ何が彼女に起こるか分からない不穏さを駆り立てます。
薬によって老人たちの“眠り姫”となるルーシーですが、彼女は全編通して“眠り”についています。
生活と奨学金返済のため、バイトをいくつも掛け持ちしていることを序盤では描かれています。
そんなルーシーはいつも無表情で、観客は彼女の感情を読み取ることができません。
男性といきずりの関係を持ち、1人の時は汚いアパートで眠る。彼女は全ての感情に蓋をして、意識を“眠らせて”いるのです。
そんなルーシーが働くことになった館、秘密の部屋では老人たちにとって“死”と眠りについていることとは同じ。
彼らは若い女性の裸体を見つめ、いくら自分の欲求をぶつけてみようとも、人形に話しかけているような虚しさが残り、自分たちの老いを実感します。
そして文字通り眠っていたルーシーが物語最後に見たもの、それは“死”。
目の前で起こっていることからいくら意識を背け、“眠り”についていても、物事は止まらずに動いていることを彼女は知るのです。
気づかないうちに“死”さえも自分のそばに存在している、ルーシーはあの館を出た後、今までとは違う“目を開けた”人生を送ることを決めるでしょう。
まとめ
日本のデカダンス文学の傑作が、海外で新たな視点を交え生まれ変わった美しい作品『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』。
官能と鋭利な恐ろしさが渦巻く本作を、ぜひお楽しみください。