是枝裕和監督はふたたび『そして父になる』に出演した福山雅治を主演に、9月9日(土)より映画『三度目の殺人』を劇場公開します。
また、『そして父になる』の撮影したカメラマンの瀧本幹也とも再タッグを組みました。是枝監督は撮影にあたり瀧本幹也にクランク・イン前に伝えたことがあります。
その際に『三度目の殺人』には、実在に起きた社会問題的事件を元ネタした事件は無いようですが、参考にしたと思われる過去の名作映画があるので、それをご紹介します。
CONTENTS
1.再タッグを組む撮影の瀧本幹也とは
宮本輝原作・是枝裕和初監督作『幻の光』(1995)
2011の秋頃に是枝裕和監督は、スチールカメラマンの瀧本幹也にメールで「ご相談があります。お願いしたい作品があります。映画です」と送ったそうです。
メールを読んだ瀧本幹也は、映画カメラマンとしての撮影経験はなかったためにとても驚いたそうです。
実は是枝監督はリリー・フランキーと深津絵里が出演したテレビコマーシャルをたまたま見かけたことがきっかけで、瀧本幹也に是枝作品『そして父になる』の映画撮影のオファーしたそうです。
しかし、そんな是枝監督と瀧本幹也は、以前に間接的ではありましたが、一緒に仕事をしていたことがあったそうです。
1995年に公開された是枝監督の作品『幻の光』のポスター撮影を行っていた際に、写真家の藤井保のアシスタントに付いていたのが瀧本幹也でした。
またその後も、2001年公開の是枝作品『ディスタンス』に出演した4人の俳優を雑誌で撮影したことや、2009年の是枝作品『空気人形』のポスターとパンフレット撮影の仕事をしていたそうです。
でも、この当時の瀧本幹也は、是枝裕和監督の一方的なファンしか見ていなかったとも話していますから、人と人はたとえ偶然の出会いであっても、必然的として互いの縁を深めていくのかもしれませんね。
人と人、仕事と仕事、そして“映画と映画”もどこかで繋がっているのです。
2.是枝組の撮影が語るスチールと映画の違い
第66回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞作『そして父になる』(2013)
瀧本幹也は初めて映画撮影に挑んだ是枝作品『そして父になる』で、日本アカデミー賞最優秀撮影賞を受賞しています。
スチールやCM撮影の経験があった瀧本幹也でしたが、映画の撮影現場の中心的な場所に身を置き、その結果として名誉ある最優秀撮影賞を受けたのは快挙であったといえますね。
日本映画界に関わる業界人で構成されている日本アカデミー賞授賞式で、瀧本幹也は初映画参加で名誉ある賞を手にした意味は大きいのではないでしょうか。
そんな瀧本幹也は2013年当時、朝日新聞の取材で映画とCM撮影の違いについて、次のようなにインタビューで述べています。
CMって、15秒なり30秒なりで伝えたいことを盛り込まなきゃいけない。でも、その手法で2時間の映画をつくると、たぶん要素が多すぎて、見てる方は疲れちゃうと思うんです。だから、重要なシーンをのぞいてはなるべく絵づくりをしないように心がけました。ただ、できるだけ登場人物たちの心の揺らぎを伝えるようには撮りたい
(朝日新聞デジタル)」
とても貴重な映画作りに関する話ですね。
瀧本幹也は映画撮影の場合に、おそらくはシナリオを読み込んだ上で緩急をつけてショット撮影を行なっているのです。
アングル(構図)や視覚的情報などをショットに盛り込み過ぎないことで、映画のストーリーや登場人物の感情に観客が疲れないように気を使っていることを心掛けている事実が分かる証言です。
また、カッチリとした撮影計画を立て過ぎないことで、現場で活き活きとする俳優たちの心の揺らぎをショット内に収めようとしている考え方も分かっきますね。
また、瀧本幹也は『そして父になる』の印象的なシーンについては、次のような場面をあげています。
「家に帰ろうとする母と息子が並んで座席に座っている、電車の中のシーンでしょうか。電車がある駅に止まったとき、ホームにかかる陸橋の影で一瞬真っ暗になるんです。座席に残ったふたりのすごく哀しげな表情がぎりぎりの光に浮かび上がって。撮りながら、ゾクゾクッとしました。最初は、電車が走っているところで撮ろうと思っていたので、偶然でした。
映画も写真もそうなんですけど、頭のなかではそこまで完成したイメージはなかなか描けるものではありません。自分で予測できるイメージってたいしたことなくて。むしろ、そこからどれだけ飛躍できるか、その自由度をどれだけもっているか、なんだと思います
(朝日新聞デジタル)」
瀧本幹也は完成予想したイメージの撮影にだけこだわるのではなく、自己イメージを越えた“出来事”をショット内に取り込みたいというカメラマンであることを想像させてくれる証言です。
カメラマンにとって撮影した際に、世界の一部からフレームを切り取ることは、その映画の持つ“現実”のすべての世界観がそこにあるかのように見ている観客に錯覚をさせることです。
だからこそ、カメラマンが撮影現場でフレームを決め切り取るショットを選びながらも、それが完璧ではなく、“飛躍”や“自由度”をフレーム内に呼び込むことこを映画としての“リアリティと美意識”を導くものなのかも知れませんね。
その裏付けとして、瀧本幹也は「是枝組」の撮影現場について、次のような是枝裕和監督の演出スタイルについて述べています。
「是枝さんは、偶然のようなハプニングが起こる状況をあえてつくろうとするんです。たとえば、ある場面を撮り終えたとしてもカットをかけないで、そのまま回し続ける。そうすると、演じている役者さんたちは何か言わなきゃいけなくなる。そのうち、演じているのか、なりきっているのかわからないような自然なセリフが出たりするんです。化学変化を取り込むというか。あえて、つくりこまないようにつくる。そうして、リアリティとフィクションの境目を行ったり来たりするんですね。だから、あまりお芝居を撮ってるという感じがしませんでした
(朝日新聞デジタル)」
ここで面白いのは証言は、取材インタビューの後半にある「リアリティとフィクションの境目を行ったり来たりするんですね。だから、あまりお芝居を撮ってるという感じがしません」です。
“リアリティとフィクションの境目”という言葉は、このインタビューすべてに関わる言葉でもあります。
瀧本幹也がカメラマンとして、アングル(構図)や視覚的情報をショットに収める際に緩急をつけている点や、“飛躍と自由度”を呼び込むことなどといった点にもつながります。
瀧本幹也が頭のなかでイメージしたことをカメラマンとして撮影することで再現するのではなく、世界の一部からカメラマンとしてフレームを切り取ることが、“リアリティとフィクションの境目”だと自覚しているのでしょう。
このことを的確に意識しているカメラマン瀧本幹也は、映画撮影に向いたカメラマンだと断言できるほどの感性の持ち主ということではないでしょうか。
是枝裕和監督は海外の映画祭からも認められている日本を代表する映画監督です。
その彼は映画を制作する際に、原案から脚本を書き、また監督を務め、その上で映画制作の最終作業の語り部である編集を自身で行っています。
しかし、一方で撮影担当だけは他者であるスタッフに常に委ねています。
過去の是枝作品作についても映画スタイル合わせて、カメラマンのみは慎重に検討して是枝監督は決めているようです。
瀧本幹也の才能もさることながら、たまたま見かけたテレビCMのみで瀧本の才能を見抜いた是枝裕和監督の才能には驚かされますね。
また、“リアリティ(現実)とフィクション(虚構)の境目”という要素は、『三度目の殺人』では重要なポイントになっています。
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3.映画『三度目の殺人』で是枝監督が拘ったものは
2013年に初めて瀧本幹也に撮影依頼をした『そして父になる』、そして続く2015年に『海街diary』。
是枝裕和監督は2016年の監督作品『海よりもまだ深く』では、瀧本ではない違うカメラマンの山崎裕に撮影依頼をしている。
このことからも是枝監督は作品内容でカメラマンを決めていることがわかりますね。
(筆者は個人的には、過去の是枝作品『ワンダフルライフ』(1999)『DISTANCE』(2001)『誰も知らない』(2004)撮影した山崎裕カメラマンの撮影スタイルも好みです)
そして、2017年公開の『三度目の殺人』の撮影には、ふたたび瀧本幹也に撮影カメラマンを依頼します。
その理由には主演を務めたのが福山雅治という2度目のタッグと気の知れた現場作りのための起用を理由ひとつでしょう。
しかし、それ以上に福山雅治が演じる重盛と対峙した、役所広司演じる“心情を読み切ることができない容疑者の三隅”といった所に撮影依頼を決定的なものにしたのではないかと思います。
それは容疑者三隅の深層心理のなかにある「真実・真相・真犯人」といったポイントになる鍵を、“リアリティとフィクションの境目”ということに重点を置き、よくよく大御所俳優である役所広司をフレーム内に捉えることをしたかったのでしょう。
今作『三度目の殺人』は新たな境地である“法廷心理サスペンス”と予告編にもテロップが出ます。
これまでの是枝作品の持つ“家族愛”というホームドラマのイメージを払拭して挑んだのは、この作品が質の高い娯楽性とヒューマンドラマの新境地であるということです。
是枝監督は映画制作にするにあたり、撮影カメラマンの瀧本幹也に『三度目の殺人』の作品の世界観を理解してもらうために、50年代頃のハリウッド生産された犯罪映画を例にあげたそうです。
そのことから解る事実は、今作『三度目の殺人』はフィルム・ノワールにリスペクトした作品だということです。
つまり、福山雅治演じる主人公の弁護士重盛は、劇中の中で“激しく破綻していく存在”なのです。
4.フィルム・ノワールとは何か
資料映像:フリッツ・ラング監督の『飾り窓の女』(1944)
フィルム・ノワール (film noir) は、ギャング映画やアクション映画と混同されることが多いがそのようなものではありません。
「虚無的・悲観的・退廃的な指向性」を持つ犯罪映画を指したジャンル名です。
また、1940年代前半から1950年代後期にかけて、主にアメリカで製作された犯罪映画を指していて、その亜流として、フレンチ・フィルム・ノワールや香港ノワール、またジャパニーズ・ノワールがあります。
さて、この章の冒頭で述べましたが犯罪を描いた映画がすべてフィルム・ノワールと呼ばれるものではありません。
フィルム・ノワールとされる映画には、ドイツ表現主義の流れを組み、影やコントラストを多用した色調で撮影が行われ、登場人物の心情のメタファーとして“行き場のない閉塞感”が作品全体を覆っているのが特徴です。
また、ナイト・ロケーションの撮影が多いのも特徴といえ、フィルム・ノワール全盛期にはB級作品として扱われたことからモノクローム(白黒)で制作された作品となります。
カラー映画が極めて少ないのもフィルム・ノワールの特徴ですから、是枝裕和と撮影カメラマンの瀧本幹也が、カラー作品としてどのように今作『三度目の殺人』の撮影に取り組んだのかは見どころです。
例えば必ずナイト・ロケーションはあるはずです。光と影のコントラストということだけでなく、色彩を極めて抑えることでフィルム・ノワール的にすることができるからです。
もう、あなたもお分かりでしょうか?
その逆に雪のシーンの撮影はナイト・ロケーションではないのですが、影やコントラストを出すことが可能になり、しかも色彩を抑えることも可能にさせます。
『三度目の殺人』には雪のシークエンスがあるの理由は、“フィルム・ノワール的な絵作りを目指した”ことと、“行き場のない閉塞感”を表現しています。
さらにフィルム・ノワールを例に『三度目の殺人』を深掘りしていきましょう。
多くのフィルム・ノワールは、男を堕落させる「ファム・ファタール(運命の女)」が登場するのが特徴です。
また、登場人物の職業設定に多く使用されるのは、「私立探偵、警官、判事、富裕層の市民、弁護士、ギャング、無法者(これは職業か?笑)」などがあります。
フィルム・ノワールとそれ以前の映画で大きく異なる点は、これらの登場人物が職業倫理、もしくは人格的堕落、あるいは状況を悪化させていく存在で、キャラクター的には一筋縄ではいかない特徴も持っています。
さらには、登場人物の人生にある閉塞感、悲観的要素に彼らは支配されており、相互関係の裏切りや無慈悲な仕打ち、また支配欲など必ず描かれ、それに伴う“殺人”と主人公の破滅が物語の核になっています。
なぜ、是枝裕和監督が今の時代に『三度目の殺人』という作品を用いて、フィルム・ノワールを蘇えらせたのか。
それは映画のテーマやメッセージに直結した読みどころといっても良いでしょう。
主人公が職業倫理観にかけ、堕落した存在で運命を前に自身の状況を悪化していく…、彼らのようなフィルム・ノワールの主人公は、国家の規律の厳しい国や独裁国家の国の下で制作される映画の主人公にはなり得ません。
あとは、今という時代を生きるあなた自身で『三度目の殺人』を読み解いてみるはいかがでしょう。
さて、ここまできたら、女優・広瀬すずの役柄もお分かりですね。
彼女が今回挑んだ役柄は、「ジャパニーズ・ファム・ファタール(運命の女)」です。
どんな運命に男を墜落させるのか。楽しみですね。
5.是枝監督がリスペクトした映画その1
『ミルドレッド・ピアース』(1945)
名作『カサブランカ』でアカデミー賞監督となったマイケル・カーティス作品
『ミルドレッド・ピアース』のあらすじ
ある夜、地元の名士モンティ・ベラゴンの命が奪われる事件が発生すると、彼の妻ミルドレッド・ピアースの元夫バート・ピアーズが逮捕されてしまいます。
しかし、ミルドレッドは刑事に「バートは犯人ではない」と強く主張します。やがて、バートの所持していた拳銃が見つかると、アリバイのないバートの有罪を誰もが疑う余地はありませんでした。
それでもミルドレッドだけは、彼が犯人ではないと主張し、彼女は事件に至るまでの経緯を語り出します。
4年前は平凡な主婦だったミルドレッドは、不動産の経営していた夫バートが職を失ったあげく、以前から浮気していたこともあってバートを家から追い出します。
2人の娘をこれまで通りの上流階級の娘のように育てたいミルドレッドは職を探しますが、専業主婦の彼女になかなか仕事は見つかりません。
しかし、偶然立ち寄った食堂が人手不足と知ると、その場で自分を売り込むとウェイトレスとして働くことになります。
その後、ウェイトレスになっても有能に働いたミルドレッドでしたが、そんな仕事をしている母親を長女の娘ヴィーダは恥ずかしいと忌み嫌いてしまう…。
『ミルドレッド・ピアース』の見どころ
是枝裕和監督が『三度目の殺人』のクランク・イン前に、撮影カメラマンを務める瀧本幹也に初めに観てもらった作品が『ミルドレッド・ピアース』です。
この映画をご存じないあなたも、1942年に同監督マイケル・カーティスが演出を務めた、映画史上の名作中の名作である『カサブランカ』は知っているかも知れませんね。
それから約3年後、ジェームズ・M・ケインによる1941年発表の同名小説をハリウッド映画化した作品で、当時は日本未公開作品でした。
主人公の妻ミルドレッド役を務めたジョーン・クロフォードは、MGMからワーナー・ブラザースに移籍した直後に、この作品で初のアカデミー主演女優賞を受賞しています。
実は『カサブランカ』と『ミルドレッド・ピアース』はどちらも撮影を務めたカメラマンはアーネスト・ホーラーです。
撮影を行うショットのフレーム切り方が巧みで、影のコントラストの使い方とても印象深い名カメラマンといっても良いでしょう。
名作『ミルドレッド・ピアース』と是枝作品の『三度目の殺人』をどこが似ているのか見比べてみるのはいかがでしょう。
6.是枝監督がリスペクトした映画その2
『セブン』(1995)
あまり有名なブラピ作品で、あなたも好きな映画かもデヴィッド・フィンチャー作品
『セブン』のあらすじ
退職を間近に控えたベテラン刑事サマセットと若手刑事ミルズは、猟奇連続殺人事件の捜査にあたります。
激しく雨の降り続いたとある大都会。退職をあと1週間に控えたベテラン刑事サマセットと、若手で血気盛んな刑事ミルズは、とある遺体発見現場に急行します。
その遺体は信じられないほど肥満の男性で、食べ物の中に顔を埋めて亡くなっていました。
死因は食物の大量摂取と腹部殴打による内臓破裂で、何者かによって手足を拘束された状態で、銃で脅されながら食事を強制されていた事実も判明すると殺人事件と断定されます。
サマセットは遺体の胃の中から発見された遺留物のプラスチック片から、現場にあった冷蔵庫の裏に容疑者が脂で書いたと思われる「GLUTTONY(暴食)」の文字と、事件の始まりを示唆するメモを発見します。
やがて、容疑者はキリスト教の「七つの大罪」に基づいて殺害を繰り返していることが明らかになり、サマセットとミルズは容疑者を割り出し追い詰めていくものの、寸前で取り逃がしてしまいます。
さらにミルズの素性が容疑者に知られていたこで、事件は大きく驚愕な事態へと向かう…。
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『セブン』の見どころ
鬼才と呼ばれるデヴィッド・フィンチャー監督の初期代表作『セブン』。
是枝裕和監督は瀧本幹也に『セブン』を映画における撮影を薦めた理由に、映画の画面サイズ「スコープ・サイズ」の横縦比がおおよそ2:1以上の横長のフレームのカメラ・ワークを上手に使った作品例として提示したそうです。
画面サイズは、ほかにも「スタンダード・サイズ(横縦比が1.375:1または1.33:1)」や「ビスタ・サイズ(横縦比が1.66:1程度の横長の画面)」があって、映画が始まり、物語に集中してしまえば気にならないこともありますが、それでもフレームは世界の一部を撮影カメラマンが意図的に切り取ったものです。
ふたたび瀧本幹也の言葉を引用しますが、“リアリティ(現実)とフィクション(虚構)の境目”という重要な要素です。
どのように観客のあなたに見せるかは、カメラマン次第でもあるのです。ここでもう一度、『三度目の殺人』の予告編を見てみましょう。
瀧本幹也カメラマンは、なんとなくフレームを切り取っていないことが、きっとご理解できるはずです。
フレーム画面内の移動物である電車動きや横位置の人物配置は「スコープ・サイズ」を十分に横の広さと空間の間を十分に活かしています。
また、画面の奥行きでは廊下を歩くショットや面会室での隔たりなど画面奥の空間を、予告編だけでも緊張感を感じるのではないでしょうか。
さて、一方で例に挙げた『セブン』の撮影監督を務めたのはダリウス・コンジ。UCLAやニューヨーク大学を卒業した後、1981年にフランスに帰国。撮影現場で助手を務めます。
1991年にジャン=ピエール・ジュネ監督の『デリカッセン』を手掛けて以来、ジュネ作品の撮影を担当。また、デヴィッド・フィンチャー監督やロマン・ポランスキー監督、ウォン・カーウァイ監督の作品にも参加しています。
以下の作品も撮影監督はダリウス・コンジによるものです。サスペンス作品でどのようなカメラワークを見せているのか、撮影監督ダリウスは最新作2017年ではどのようなフレーミングをしている撮影監督なのか参考までにいかがでしょう。
是枝裕和監督が映画史の過去に存在した社会批判に最も適したフィルム・ノワールというジャンルを、カメラマン瀧本幹也の撮影による「スコープ・サイズ」に強く拘ったのか『三度目の殺人』で注目してはいかがでしょう。
7.是枝監督がリスペクトした映画その3
『天国と地獄』(1963)
世界のクロサワ!黒澤明監督の現代モノの代表作
『天国と地獄』あらすじ
ある日、製靴会社『ナショナル・シューズ』社に常務して務める権藤金吾のもとに、電話を掛けてきた男から子供を攫ったという誘拐の知らせが入ります。
そこに息子の純が現れ、イタズラと思っていると住み込みの運転手青木の息子がいないことに気がつきます。
誘拐犯は子供を取り違いたまま、身代金3000万円を権藤に要求します。
後藤の屋敷にはデパート配送員に扮した刑事たちが到着。妻や青木は犯人からの身代金の支払いを権藤に懇願するも、権藤はそれができない事情を抱えていました。
権藤は密かに自社株を買占めを計り、近く開かれる予定の株主総会で経営の実権を握ろうと計画を進めていたからです。
翌日までに大阪へ5000万円の送金しなければ必要としている持ち株はそろわず、地位も財産のすべて失うことになってしまうのです。
権藤は誘拐犯の要求など無視をしようとしたが、その後、秘書に裏切られると、一転して身代金を払うことを決意します。
権藤は3000万円を入れた鞄を持って、犯人が指定した特急こだまに乗り込むのだが…。
『天国と地獄』の見どころ
是枝監督は「スコープ・サイズ」への演出に拘りを見せるなか、黒澤明監督の『天国と地獄』も一例として挙げました。
この作品を撮影したカメラマンは、東宝入社の宮斎藤孝。
1962年に黒澤明監督の『椿三十郎』でメインカメラマンとしてデビュー。『どですかでん』(1970)『影武者』(1980)『乱』(1985)などの撮影を務めました。
(ちなみに、アイツがクロサワならオレはフルサワだでお馴染みの古澤憲吾監督の『ニッポン無責任時代』(1962)のカメラマンも宮斎藤孝は務めています。会社の仕事だと言う話もありますが…笑)
ほかにも、実は黒澤明監督の1961年の『用心棒』では、クレジットに表記されていない宮斎藤孝ですが、撮影担当であった宮川一夫よりも使用された映像はフィルムは宮斎藤孝の方が多いそうです。
それだけ黒澤映画では相性も良く、力量を発揮したフレーミングのセンスの持ち主です。
予告編を観ても分かるが、「スコープ・サイズ」のフレームを隅々まで意識した構図で、フレーム内に蠢く人物配置や空間の使った緊迫感を表しています。
ちなみに移動撮影ショットもいくつか予告編では見られます。しかし、移動撮影といえば、実は瀧本幹也も得意なはずです。
「スコープ・サイズ」のフレーミングで、どのように緊張感を失わず移動撮影をしたか。
そこに注目して比較すると、日本映画史の今昔撮影として、『三度目の殺人』と『天国と地獄』は楽しめるのではないでしょうか。
まとめ
是枝裕和監督は法廷心理サスペンス『三度目の殺人』を制作するにあたり、実際に裁判所を訪れたり、多くの事件や判例を調べたことでしょう。
そのことはこの作品を通して観客のあなたに福山雅治や役所広司、また広瀬すずたちの登場人物たち異なった設定のなかで活き活きとした人物像を演じてもらうためです。
また、その演技を超えた芝居、あるいは瀧本幹也の言うところの是枝作品の真骨頂である、“リアリティ(現実)とフィクション(虚構)の境目”を現場で作り出すためでもあります。
監督自ら上記に示したスタッフとの共有した作品『ミルドレッド・ピアース』『セブン』『天国と地獄』のほかにも、世界三大映画祭の監督賞をすべて受賞したアメリカの映画監督ポール・トーマス・アンダーソン監督の作品も薦めたとか。
是枝監督が映画の見せ方もさることながら、ハッキリと海外に通じる映画作品としての撮影方法を意識しているかが分かります。
ポール・トーマス・アンダーソン監督の2000年作品『マグノリア』は、ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。2002年作品『パンチドランク・ラブ』は、カンヌ国際映画祭監督賞を受賞。
2007年作品『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は、ベルリン国際映画祭監督賞を受賞。2012年作品『ザ・マスター』は、ヴェネツィア国際映画祭監督賞を受賞しています。
是枝裕和監督が紡いだ人物たちが深層の淵で見えた“真実”をフレームによってカメラマン瀧本幹也。
その際に明確に元ネタになった事件は無いようですが、参考にしたと思われる過去の名作映画があることは、映画鑑賞の手引きのひとつです。
是枝裕和監督とカメラマン瀧本幹也を中心に、キャスト、スタッフが一体となって渾身の力を注いだ、『三度目の殺人』。
ぜひ、劇場でご覧ください。映画『三度目の殺人』は9月9日(土)より劇場公開。