ドラマシリーズ「名探偵ポワロ」
第9シーズン52話『ナイルに死す』
近日公開予定の、ケネス・ブラナー監督・主演映画『ナイル殺人事件』。
『ナイル殺人事件』は、アガサ・クリスティが1937年に執筆した『ナイルに死す』が原作です。
名探偵のエルキュール・ポワロの活躍を描いたアガサ・クリスティの人気シリーズは、いままでもたくさん映像化されてきました。
今回は、原作のポワロに近いと評価の高い、デヴィッド・スーシェが主演を務めたドラマシリーズ「名探偵ポワロ」第9シーズン52話『ナイルに死す』をご紹介します。
スーシェの完璧な役作りはさることながら、被害者であり悪役ポジションでもある富豪のリネット役を、ブレイク前のエミリー・ブラントが演じているのも見どころです。
ドラマ『ナイルに死す』の作品情報
【製作】
2003年(イギリスドラマ)
【原作】
アガサ・クリスティ『ナイルに死す』
【監督】
アンディ・ウィルスン
【キャスト】
デヴィッド・スーシェ、エマ・グリフィス・マリン、JJ・フィールド、エミリー・ブラント
ドラマ『ナイルに死す』のあらすじとネタバレ
ジャクリーンとサイモンは結婚を誓い合った仲。ですが、サイモンは職を失い、将来に不安を覚えます。
彼らが頼ったのは、ジャクリーンの友人で大富豪のリネット。サイモンを彼女の屋敷で雇ってくれないかお願いします。
富と名声、そして美貌も兼ね備えたリネットは、なんでも欲しいものを手に入れてきました。サイモンにひと目で惹かれた彼女は、ジャクリーンから奪い取り、結婚します。
3ヶ月後、エジプト。豪華なホテルには様々な宿泊客がおり、ダンスパーティーを楽しんでいました。
作家のサロメ・オッタボーン婦人と、その娘ロザリー。過保護なミセス・アラートンと、マザコン気味な息子ティム。
老貴婦人ヴァン・シュワイラーと、お世話係として同行する姪のコーネリア。リネットの財産管理人のペニントンや、医師のベスナー、進歩主義者の若者ファーガスンたちが、それぞれの思惑を抱きながら過ごしています。
そして、探偵エルキュール・ポワロが、休暇を取ってひとりのプライベートな時間を楽しもうとしていました。
そこへ、新婚旅行中のリネットとサイモンが登場。リネットの略奪劇は社交界の噂の的でした。
周囲の目など気にせずに仲睦まじくしているふたりの前に、ジャクリーンが現れ、笑顔で声をかけ、去っていきます。
どうやらジャクリーンは、ふたりの後をつけているらしく、行く先々に現れていました。
ホテルの外で一服していたポワロの元にリネットが近づき、ジャクリーンのことを相談します。なんでもお礼をするから、もう姿を現さないよう説得してほしいと。
ですが、ポワロは休暇中のため、彼女の頼みを断ります。リネットは、「殺すと脅された」と言い、去って行きました。
残されたポワロの目線の先には、ジャクリーンの姿。ポワロは彼女に声をかけました。
取り出したハンカチから、小型の銃を落とすジャクリーン。
愛する婚約者と親友に裏切られた彼女は、幸せの絶頂にいる彼らの目の前に現れ、恐怖に怯えさせることこそ生きがいなのだと語ります。
ポワロは、嫉妬に囚われた苦しい生き方より、未来に目を向けるよう説得しますが、彼女は聞き入れません。
父に教わり、射撃の腕には自信があるという彼女は、「この銃を頭に突きつけて引き金をひく」と決意していました。
何者かの気配がして、怯えるジャクリーンでしたが、ポワロが確認しても誰もいませんでした。
翌々日の朝。ナイル川ツアーのクルーズ船が出港。ポワロをはじめ、ホテルにいた客も船に乗り込んでいます。
リネット夫妻はジャクリーンに気取られないように船に乗り込みましたが、ジャクリーンは先回りをしており、彼らを待ち構えていました。リネットはポワロを責め立てます。
その夜、デッキにたたずむジャクリーンに、ポワロは「愛が全てでは無い」と、再び説得を試みます。ですが、彼女にとっては、愛が全てでした。
ポワロにはそれ以上掛ける言葉が見つかりません。
数日後、船はデンデラに停泊。一行はハトホル神殿の見学に向かいますが、リネットめがけ、女神ハトホルの彫像が崩れ落ちてきました。
直前に避け、難を逃れたリネットを、ジャクリーンが笑いながら見つめています。
遺跡の途中で、彼らの一行に、ポワロの友人である英国特務機関員のレイス大佐が加わりました。
船内に戻った彼らは、それぞれ夜の時間を過ごしています。船内のバーラウンジで、リネット、サイモン、ペニントン、レイス大佐の4人はカードゲームを楽しんでいます。
バーを先に出て部屋に戻ろうとしたポワロと入れ違いでジャクリーンが現れます。
コーネリアを話し相手に、ジャクリーンはリネットへの悪意を彼女に聞こえるように話し始め、リネットは気分を害して中座。
ペニントンとレイス大佐も後を追うようにバーを出て行きました。残されたのは、サイモン、ジャクリーン、コーネリア、、ファーガスン。
見つめ合うサイモンとジャクリーン。ジャクリーンは銃を取り出し、サイモンの足に発砲。
サイモンは負傷し、ジャクリーンはショックで銃を取り落としてしまいます。
サイモンの指示で、コーネリアがジャクリーンを部屋へ連れて行き、ファーガスンはベスナー医師を呼びに、バーを出て行きました。
約5分後、ファーガスンがベスナー医師を連れてバーに戻り、ふたりでサイモンをベスナー医師の部屋へ運びます。サイモンは大怪我を負っていましたが、ベスナー医師の処置で一命を取り止めました。
自分の愚かさを悔やみ、ジャクリーンを心配するサイモン。ボーイに見つからないよう、内々にこの件を処理したいと考えます。
ジャクリーンが落とした銃の回収をファーガスンに頼みますが、銃はバーから無くなっていました。
明くる朝。身なりを整えているポワロの元に、レイス大佐が訪れます。リネットが頭を撃たれて亡くなったと言うんです。
ベスナー医師によると、夜中の12時から2時ごろに、頭のすぐ近くを撃たれたとのこと。枕元には、「J」というダイイングメッセージが。
ジャクリーンの頭文字は「J」ですが、ジャクリーンの部屋には一晩中コーネリアがついており、アリバイがありました。
レイス大佐とポワロは、乗客たちから話を聞くこと。
まずはコーネリアとファーガスンが昨夜のバーでの事件を話します。次にジャクリーン、さらにはベスナー医師の部屋でサイモンから、昨晩のことを聞き出すポワロ。
リネットを恨む人物はいなかったかと尋ねるポワロに、「名前は教えてくれなかったが、彼女の父が株で大損させた人物の子どもが乗っていると話してた」と答えるサイモン。
その後、リネットの遺体の第一発見者であるメイドのルイーズが、ベスナー医師の部屋に呼ばれました。
ショックで動転し、そして自分の今後に不安を抱くルイーズに、サイモンは「お前の面倒は僕が見る」と安心させます。
ルイーズの話では、リネットは高価な真珠のネックレスを持っていたとのこと。ですが、昨晩外してテーブルに置いたはずの真珠は消えていました。
その後も乗客への取り調べは続きます。みな話すのは、「1時10分頃に水音がした」ということ。ヴァン・シュワイラーの証言によると、ロザリーが何かを川に投げ入れていた音だそう。
川底を探すと、ヴァン・シュワイラーの穴が空いたストールと、2発発砲されたジャクリーンの銃が見つかりました。犯人はストールで銃声を消したようです。
呼び出されたロザリーは犯行を否定。ロザリーの母、サロメ・オッタボーン婦人はアルコール依存症で、ロザリーは母を守るために、母が眠ったあと、酒瓶を川へ投げ捨てたんです。
ロザリーは他の誰の姿も見ていないと言いました。
ドラマ『ナイルに死す』の感想と評価
アガサ・クリスティー原作の人気ドラマシリーズ「名探偵ポワロ」。主演は、原作に最も忠実にポワロと世界中で絶賛されるデビッド・スーシェが務めました。
1989年から2013年まで、24年にわたってポワロを演じてきたスーシェは、ポワロの役作りのために「ポワロ・ファイル」を持ち歩いて研究していたそう。
小柄な体つき、卵形の顔に口髭という特徴的な外見だけではなく、偏屈ともいえる潔癖さを、とてもチャーミングに演じています。ちょこちょこと小股で歩く仕草や、ものを摘み上げる仕草ひとつひとつに、彼のポワロへの真摯なアプローチを感じます。
本物の悪意には容赦しない彼ですが、たとえ犯罪者であっても真っ直ぐ向き合って対話をしていくポワロの冷静な人情味が、本シリーズを無二の探偵ものに仕立て上げました。
ポワロの面白さは、犯罪や殺人を暴くものの、裁きはしない点が挙げられます。本作でも、計画の完璧さを称えたり、大きな犯罪を明かすために他の悪事を見逃したり。
ティムの悪事を暴く場面では、ティムの詰めの甘さもあって、とてもコミカルに描かれています。
また、リネット役を、ブレイク前のエミリー・ブラントが演じているのも見どころのひとつ。キラキラ輝く美しさと、我の強さを感じさせる瞳で、被害者ながら悪女のリネットを堂々と演じきっています。
まとめ
参考動画:ケネス・ブラナー監督作『ナイル殺人事件』(2020)
アガサ・クリスティの作品は、個性的な女性が多く登場する点にもワクワクさせられます。
本作ですと、サロメ・オッタボーン婦人とロザリーの、依存ともいえる歪んだ親子関係に共感する方も多いんではないでしょうか。
また、コーネリアが開放されていく様子には同調し、ジャクリーンの決意には、それしか選べなかった彼女の愚かな愛情に胸が締め付けられます。
同じくアガサ・クリスティの『ナイルに死す』を原作とした、ケネス・ブラナー監督作『ナイル殺人事件』は、公開日の延期が重なり、2020年11月現在、全米公開が無期限延期となってしまいました。
『オリエント急行殺人事件』(2017)から続くケネス・ブラナー版ポワロは、可愛らしさの中に偏屈さを忍ばせたスーシェとは異なり、生真面目さから滲み出るユーモアが特徴。
『オリエント急行殺人事件』にて女性キャラクターを魅力的に捉えていたブラナーが、『ナイル殺人事件』でもその手腕を存分に発揮してくれると期待しています。