Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2017/01/12
Update

映画『娘よ』ネタバレあらすじと感想。ラスト結末も《日本で初めて公開されたパキスタン作品》

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

今回ご紹介する映画『娘よ』は、日本で初めて公開されるパキスタン映画。

世界の片隅では、今だ起き続ける紛争に巻き込まれた少女や、少年の哀しみをネットでよく見かけます。また昨今は、過激な発言で一部の国民を扇動する指導者の姿も目にしますね。

そのような出来事に一石を投じる作品で、部族の争いに巻き込まれた女性を通して描いています。

2016年9月に、あいち国際女性映画祭にて『Daughter』のタイトルで上映され、パキスタンの大自然の絶景を舞台に、サスペンスに満ちたエンターテイメント映画、今話題の『娘よ』をご紹介します!

映画『娘よ』の作品情報

【公開】
2017年(パキスタン・アメリカ・ノルウェー)

【脚本・監督・制作】
アフィア・ナサニエル

【キャスト】
サミア・ムムターズ、サレア・アーレフ、モヒブ・ミルザ

【作品概要】
監督は、この作品が初監督となるアフィア・ナサニエル。2014年トロント国際映画祭ディスカバリー部門出品、第87回アカデミー外国語映画賞のパキスタン代表作品に選ばれた、サスペンスドラマ。

世界20カ国以上で上映がされ、ソノマ映画祭最優秀国際映画賞、南アジア国際映画祭では、最優秀監督賞と最優秀作品賞をダブル受賞。他にも数多くの映画賞を受賞して、ついに日本公開となりました。

映画『娘よ』のあらすじとネタバレ

娘よ
(C)2014-2016 Dukhtar Productions, LLC

世界最大の山岳氷河地域にある、パキスタンとインド、中国との国境付近にそびえるカラコルム山脈。

その麓で、幼い娘ゼイブナは、女友達とあどけない遊びをしながら、将来幸せな結婚を夢見る乙女でした。

一方で、大人たちの世界では、この地域には多数の部族が暮らし、絶え間ない衝突でひしめき合っている現実がありました。

そんな部族の1つに属する美しい母親アッララキの生き甲斐は、10歳になる幼い娘ゼイブナと過ごす一時でした。

ゼイブナは優しく賢い子。文字の書けない母親アッララキに読み書きを教えることもあります。

そんなある日、他の部族との紛争が勃発。お互いの部族の親戚や仲間が報復合戦の連鎖に巻き込まれ、戦いの真っ只中。

アッララキの年の離れた夫ドーラットは部族の長。紛争相手の老部族の長トール・グルに友好関係の回復を申し出ます。

トール・グルは、紛争解決の条件の提示として、ドーラットの幼い娘ザイナブを自分の嫁に欲しいと結婚を要求。

ドーラットは自分の息子たちを紛争で亡くし続けている状況もあって、苦悩するも条件を了承。そのことを妻アッララキにその旨を伝えます。

実は、若くて美しい妻アッララキは、かつて彼女自身も15歳でドーラットに同じように嫁がされてきた過去がありました。

アッララキにとって、最も恐れていたことが現実になろうとしているのです。

このままでは娘ゼイナブの人生も、自分の15歳当時のように何もかも終わってしまうと考えます。

両部族の間で、婚姻の儀式の準備が着々と進められると、ついに結婚式当日の朝を迎えます。

幼い娘ザイナブを呼びに部屋へと向かった父親で部族長のドーラットは、妻アッララキと娘ザイナブが部屋を抜け出したことを知ります。

娘ザイナブの身の上を思った母親アッララキが連れ出して部族からの逃走をはかり部族を離脱。

部族間での締結された結婚の約束を破棄にすることは、絶対にありえない厳しい鉄の掟を破り。計り知れない不名誉を家族のみならず、親戚縁者にも与えてしまうのです。

相手部族の家族や一族の誇りに、汚名として傷を付け、掟に背く者には死が待つのみ。

対面と誇りを傷つけられた、トール・グルの部族とドーラットの部族は共同の連合となり、母親アッララキと娘ザイナブを探し出す追っ手を送り出します。

例え何十年掛かろうと、どこの場所に逃げ隠れしようと、己の命を持って償わなければ解決をしない鉄の掟なのです…。

以下、『娘よ』ネタバレ・結末の記載がございます。『娘よ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
明日も知れない命がけの母親アッララキと娘ザイナブの逃避行。2人は追跡者たちから危機一髪で逃れると、偶然であったトラック運転手のソハイルに助けられます。

何も事態を知らないソハイルだったが、追跡する追っ手はソハイルのトラックにも及び、岸壁がそそり立つ渓谷でのカーチェイスの追撃。

ソハイルは、2人の存在を知られたら自らの命もないことに気づきます。道すがらの休憩所でソハイルと再開した友人は、追っ手によって撃ち殺されてしまいます。

もう後戻りができなくなったソハイル。追跡の厳しさが増していく中、トラックが故障してしまい動かなくなってしまいます。

周囲は見渡す限り何もない砂漠のような広大な大地。仕方なく3人は歩いて冬山へと向かうのです。

身を隠しながら、湖の湖畔で野宿をするなどしながら、ソハイルとアッララキ、その娘ザイナブは、彼の親友の家へと向かいます。

逃亡の日々、氷河に抱かれた山奥から一転、ソハイルの親友の家で、つかの間の心休まる時間を過ごします。

アッララキは、ソハイルと2人でインダス河を望む城塞で語り合いながら、いつしか許されない恋心を抱き始めたことに気が付きます。

そんな思いを振り払うかのようにアッララキは、長い間再開をしていない母親に会いたいという、思いが募っていきます。老いた母親に孫のザイナブを会わせてあげたいと感じています。

やがて、アッララキは抑えきれない思いから母親に電話を掛けて、危険を感じながらも母親と再開すること決めます。

ソハイルは、身を匿ってくれた親友に別れを告げ、3人はアッララキの母親と待ち合わせたラホールの街に向かいます。

アッララキは、ソハイルにここからは娘ザイナブと母親の3人で会いにいくので待っていて欲しいと告げます。ソハイルは了解します。

しかし、追っ手はすぐ側にいたのです。追っ手は銃で脅しをかけながらアッララキと娘ザイナブ、老いたアッララキの母親を路地裏に連れ込みます。

追っ手は、娘ザイナブを差し出せば、アッララキとその母親は解放する言います。追っ手がかつて自分を好きだったことを知っていたアッララキは、自身が身代わりになると申し出るが駄目だと言われてしまう。

そこへソハイルが駆けつけると揉み合いになります。ソハイルは追っ手を射殺しますが、同じくして追っ手の放った銃弾がアッララキを撃ち抜いてしまいました。

ソハイルは、愛しているアッララキを車に乗せて病院に向かいますが、次第に意識が遠のくアッララキ…。

娘ザイナブは母親アッララキの手を握り、必死に声掛けをします。しかし、意識のなくなったアッララキは、15歳の時に母親と別れて河を渡った昔を思い出すのです。

母親と幼い娘だったアッララキの別れ…。あの時のように別れたくはない、アッララキは娘ザイナブの手を強く握り返すします。

映画『娘よ』の感想と評価

娘よ
(C)2014-2016 Dukhtar Productions, LLC

アフィア・ナサニエル監督は、初監督でありながら、構想から10年の歳月をかけてこの作品を完成させました。

アフガニスタンの国境に近いパキスタンのクエッタで、1974年8月28日生まれの女性監督

彼女は、40人もの男性スタッフを率いて、映画製作のための多くの困難を乗り越えたのです。

イスラム法の厳しい条件下での撮影、パキスタンという他民族の危険地域のロケ、氷点下などの厳しい自然環境のロケ、フィクション映画を作ったことがないスタッフ、資金源確保の困難さ(結果的にはノルウェーのSORFUNDが助成)。

これらの事を丹念にスタッフと解決しながら、1級品のサスペンス映画として、実際にパキスタンで起こった実話をもとに、マイノリティである女性問題を”緊迫感に満ちた母と娘の逃避行”通して見つめていきます。

映画『娘よ』の見どころは、これまでに多くの人たちが目にしたことのない、パキスタンの雄大な自然の中で大ロケーションを敢行した美しい山岳地帯の映像です。

自然のスケール感に劣らない人間賛歌の愛情は、ヒューマンドラマとして観客の心に強く問い掛けてきます。

なぜ、それほど観客に印象深いのか?いくつかのシーンを並べてみると見えてくることがありました。

まとめ

娘よ
(C)2014-2016 Dukhtar Productions, LLC

壮大な自然の美しさに目は行きがちですが、印象的だった場面には、“登場人物たちが会話(話し合いをする)場面”です。

作品冒頭から始まると、直ぐに幼い娘ザイナフと女友達の会話、抗争し合う部族の長老が融和策持ち出す話し合い、娘ザイナフが母親と言語の学び合いをするシーンなど、通常の映画よりも深い思慮を感じました。

他の映画では感じない、“場の空気感”のようなものにアフィア・ナサニエル監督の意志を感じたのです。

相手とコミュニケーションが争いに満ちたものではなく、互いに理解し合いながら、“話し合う”という念(祈り)と言えば良いでしょうか。

それが最も色濃く出ていたシーンは、モヒブ・ミルザーが演じたソハイルが、サミア・ムムターズの演じたアッララキを誘い出して、インダス河の言い伝えの物語を優しく語る場面

アフィア監督は、オーディションを行なった際に、慎重かつ計画的にモヒブにソハイル役が演じられるか、この場面を演じさせて決めたとそうです。

モヒブは素晴らしい演技を見せて、その場で直ぐにアフィフ監督はキャスティングを即決。それだけ、あの場面はこの作品の重要ポイントなのです。

監督の書き下ろしたメッセージの中で、ソハイルの役柄の意味を述べています。

愛の対象となり、かつ葛藤を生むとても重要な存在です。報われない愛、禁断の愛。愛は、パキスタンの詩や言い伝えの中でも語られています。愛と喪失は常に隣り合わせです。

許されない恋心を抱き始めたことに気が付いた時、それが話し合い、互いを認め合う理解なのではないでしょうか

また、アフィア監督は、書き下ろしのメッセージの中で、女性について重要な問題を提起を述べています。

家父長制が根付く社会で、日常的に女性が虐げられ苦労するのを見てきました。女性不在の世帯は、社会においてだけでなく、地域住民からも非難の対象になります。女性は男性なくして存在することが許されないからです(中略)実際に娘を持つ母親となり、幼い少女の結婚問題に目を背けることが出来なくなりました。毎年1400万人の少女が強制的に結婚させられているという事実は、大変受け入れ難いことです(中略)現代社会における伝統やしきたりを考えた時、自由、尊厳、愛のために、一体どれだけの犠牲を支払わなければならないのか

現在アフィア監督は、ニューヨークに拠点をおき、コロンビア大学でシナリオライティングの教鞭を取り、アメリカとパキスタンで映画監督を志望する学生の指導を行っているそうです。

この作品の中で、母親アッララキに言語を教えていた娘ザイナフ。争いに終止符を打つのは、その地域の言語学び、“話し合う”ことで他者理解を行っていく、アフィア・ナサニエル監督の姿勢なのでしょう

映画『娘よ』は、2017年3月25日(土)〜4月28日(金)まで、東京の岩波ホールにて上映開始。順次全国公開予定。

ぜひ、劇場でご覧ください!美しいパキスタンの壮大な自然を舞台に母と娘の愛情は、必見です!

関連記事

サスペンス映画

【ネタバレ】女子高生に殺されたい|感想解説と結末あらすじ考察。原作漫画から田中圭演じる主人公の“欲望のディテール”をより鮮明に炙り出す

僕はただ、女子高生に殺されたいだけなんだ。 田中圭が主演を務めた映画『女子高生に殺されたい』。 「女子高生に殺されたい」という欲望に取り憑かれた高校教師が、「自己暗殺」のために前代未聞の完全犯罪に挑ん …

サスペンス映画

映画『パーフェクトルーム』あらすじネタバレ。フル動画を無料視聴!

映画『パーフェクト・ルーム』は、2014年に公開されたアメリカのミステリー映画で、2008年にベルギーで制作された『ロフト』のリメイク作品です。 妻帯者5人が情事を楽しむためだけに用意したマンションの …

サスペンス映画

【ネタバレ】ヒットマンズ・レクイエム|結末あらすじ感想と評価考察。ファレルが映画で“殺し屋たちの義理人情”をユーモラスに魅せる!

殺し屋たちに下された“最後の審判”の行方を物語る・・・ 今回ご紹介する映画『ヒットマンズ・レクイエム』は、各国際映画祭や第90回アカデミー賞で多数の賞を受賞した『スリー・ビルボード』(2017)のマー …

サスペンス映画

映画『去年の冬、きみと別れ』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も【岩田剛典おすすめ代表作品】

岩田剛典主演映画『去年の冬、きみと別れ』 映画『去年の冬、きみと別れ』は、『教団X』『悪と仮面のルール』などで知られる芥川賞作家の中村文則によるサスペンス小説の映画化です。 映像にするのは不可能と言わ …

サスペンス映画

イザベルユペール映画『エヴァ』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

ハドリー・チェイスの小説『悪女イヴ』を映画化した映画『エヴァ』は2018年7月7日から全国公開されました。 娼婦エヴァに出会った事で、破滅の道を辿るようになる若き作家の悲劇を描いた、映画『エヴァ』をご …

U-NEXT
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学