ナチスに暴行を受けた女の復讐を描く密室サスペンス
映画『マヤの秘密』が、2022年2月18日(金)より新宿武蔵野館ほかにて全国公開となります。
「ミレニアム」三部作(2010)、『プロメテウス』(2012)のノオミ・ラパスが主演と製作総指揮を務める渾身のサスペンスを、ネタバレ有りでレビューします。
映画『マヤの秘密』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
The Secrets We Keep
【監督・脚本】
ユヴァル・アドラー
【製作】
ロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラ、エリク・ハウサム
【製作総指揮】
ノオミ・ラパス、ミゲル・A・パラス・Jr.、グレッグ・クラーク、ビクトリア・ヒル、ベン・ロス、アンドレア・スカルソ、ジェイミー・ジェソップ、マルコ・ヘンリー
【共同脚本】
ライアン・コンビントン
【音楽】
ジョン・パエサーノ
【キャスト】
ノオミ・ラパス、ジョエル・キナマン、クリス・メッシーナ、エイミー・サイメッツ
【作品概要】
過去にナチスから暴行を受けた女性マヤが、加害者と思しき男性を拉致・監禁し、罪の告白を強ろうとするサスペンスドラマ。
マヤ役を『ストックホルム・ケース』(2020)のノオミ・ラパスが演じ、本作では製作総指揮も兼任。
捕らわれの身となる男役を「スーサイド・スクワッド」シリーズのジョエル・キナマン、マヤの夫ルイス役を『夜に生きる』(2016)のクリス・メッシーナがそれぞれ演じます。
監督は、『ベツレヘム 哀しみの凶弾』(2013)のユヴァル・アドラーです。
映画『マヤの秘密』のあらすじとネタバレ
1950年代後半のアメリカ郊外の街。
近所の芝生で息子のパトリックとくつろいでいた女性マヤは、聞き覚えのある指笛の音を耳に。
指笛を鳴らしたと思われる男の姿を衝動的に追うも、見失ってしまいます。
別の日、夫で医師のルイスからスペアキーの作成を頼まれたマヤは、店内で指笛の男の姿を見かけて尾行。男が妻や子どもらしき人物と共に帰宅するまでを見届けるも、パトリックを学校に置き去りにしてしまいます。
「また再発したのか?」とルイスに問われ、「大丈夫」と答えたマヤでしたが、その夜は悪夢にうなされました。
翌日、スカーフとサングラスで変装したマヤは、男が勤める工場前で待ち伏せし、男に話しかけた直後、背後から鈍器で殴って気絶させ、車のトランクに乗せて去ります。
人気のない川辺で男に拳銃を向けるマヤでしたが、目を覚ました男の「子どもがいるんだ」という命乞いに引き金を引くことが出来ず、自宅に連れていきました。
その夜マヤは、帰宅したルイスにこれまで隠していた過去を語り出します。
ルーマニア出身にしてロマの血を引くマヤは、第二次世界大戦中にナチスの収容所に収監されました。
収容所から脱走して故郷ルーマニアを目指すも、ナチスに襲われて暴行され、妹ミリヤは殺されてしまったといいます。
今まで知らなかった過去に驚くルイスでしたが、さらに、自分を襲った男を捕えて車のトランクに入れていると告げられ動揺。警察に通報しようと提案するも、尋常ではないマヤの様子を察し、家の地下室に連れていくことに。
椅子に縛り付けられた男は、名前をトーマスといい、自分は最近街に越してきたばかりのスイス人だとして、元ナチ兵であることを否定。
しかしマヤは「あんたの名前はカールだった」と、暴行時に鳴らしていた時と同じ指笛を鳴らしていたとし、それを信じようとしません。
しかしながらナチスに襲われる前後の記憶を失っており、それが悪夢となって苦しめられていたのです。
夜、目が覚めたルイスは一人地下室でトーマスを尋問しますが、わずかな隙を突かれて逃げられそうになります。
トーマスは玄関ドアのすき間から大声で助けを求めるも、追ってきたルイスに体当たりされて気絶。目覚めたマヤは、声を聴いて外に出た隣人に取り繕い、その場を収めます。
翌朝、ルイスは診療所でトーマスのカルテを調べ、彼がスイス出身であるのを確認。その頃マヤは、トーマスに無理やりウイスキーを飲ませ、「“ツィゴイネル・フォッツェ”と言え!」と強要します。
トーマスは拒否するも、ハンマーで脅され「ツィゴイネル・フォッツェ(ジプシーの売女)」と連呼。
マヤは、「自分が妹を見捨てて逃げたのか否かをはっきりさせてくれれば殺さない」と言うも、トーマスは「君とは初対面だ」として否定しました。
帰宅したルイスが地下室でトーマスに詳しい素性を聞いている中、リビングにいたマヤを、隣人と警官、そして1人の女性が訪ねます。女性はトーマスの妻レイチェルでした。
昨晩の助けを求める声の件と、家に戻らない夫を心配するレイチェルの捜索願で聞き取りをする警官に応対するマヤ。その頃ルイスはトーマスから、自分は重婚しており、違法を犯しているから警察には行けない身であると聞かされます。
その夜も悪夢にうなされたマヤは、翌日パトリックを連れてレイチェルの元を訪ねます。
幼い娘と家にいたレイチェルによると、トーマスは母国スイスで役人をしており、終戦後の欧州復興プログラムで出会い結婚し、アメリカに移ってきたとのこと。
その夜、トーマスがルイスに語った経歴とも一致しているとして、ルイスに彼を解放するよう説得されるも、暴行時の記憶を取り戻したいマヤはやはり拒否します。
映画『マヤの秘密』の感想と評価
ナチスによるホロコーストがテーマの映画は、毎年のように作られています。
本作『マヤの秘密』もその系譜の作品ですが、特徴的なのはホロコーストの被害者がロマ民族であることです。
ナチスドイツの優生思想による迫害は、ユダヤ人以外に同性愛者や身体障碍者、聖職者などに及んでいましたが、監督のユヴァル・アドラーは、ロマもホロコーストの対象だった事実は、これまでにあまり語られていないとして、脚本を執筆。
何よりも、主演にしてプロデューサーも務めたノオミ・ラパス自身がロマの血を引いていることが、製作の要となりました。
ナチス残党に復讐を企てるというストーリーは、近年公開作だとユダヤ旅団を主とするナチス狩り部隊を描く『復讐者たち』(2021)がありましたが、本作では戦時中に暴行され妹を殺されたロマの女性マヤが、加害者と思しき男トーマスに報復しようとします。
しかし、トーマスは果たしてナチスだったのか? それともマヤの妄想に過ぎないのか?という疑念が、観る者を釘付けにしていきます。
主要の登場人物こそ少なくありませんが、ストーリーはマヤとトーマス、そしてマヤの夫ルイスの3人を中心に進みます。その中でも、ある意味で観る者の代表となるのがルイスです。
本作は、夫として、または理性ある1人の人間として、妻の行動に否が応でも向き合わねばならなくなるルイスの、“選択”の物語でもあるのです。
まとめ
トーマスを解放して平穏な生活に戻ろうと言うルイスに、「私に平穏は訪れない」と答えたマヤ。しかし平穏を戻したのは、殺人という手段を使ったルイスでした。
本作の原題は「The Secrets We Keep(我々が抱える秘密)」。秘密を抱えた人物はマヤだけでなくトーマスも、そして最終的にはルイスも含むこととなります。
アドラー監督は、スッキリとした終わり方にしなかったのは、観た後でマヤたちの選択が是か非かを議論してほしかったとのこと。
観る人の立ち位置によっても賛否分かれるであろう本作。あなたはどう感じますか?
映画『マヤの秘密』は、2022年2月18日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開。