国家破産の日まで残された時間は7日間。その時、政府は何をしていたのか!?
1997年に韓国で実際に起きた通貨危機の裏側を描いた、社会派エンターテイメント作品『国家が破産する日』。
シヒョン役をキム・ヘス、ジョンハク役をユ・アイン、ガプス役をホ・ジュノが熱演。また、IMF専務理事役を韓国映画初出演となるバンサン・カッセルが演じています。
韓国を震撼させた1997年の通貨危機(IMF経済危機)の裏側に鋭く切りこんだ映画『国家が破産する日』の驚くべき内容とは?
映画『国家が破産する日』の作品情報
【公開】
2019年公開(韓国映画)
【監督】
チェ・グクヒ
【キャスト】
キム・ヘス、ユ・アイン、ホ・ジュノ、ヴァンサン・カッセル、チョ・ウジン、クォン・ヘヒョ、キム・ミンサン、オム・ヒョソプ、キム・ホンパ、
【作品概要】
韓国を震撼させた1997年の通貨危機(IMF経済危機)を題材にした社会派エンターティンメント。韓国銀行の通貨政策チーム長にキム・ヘス、一攫千金を狙う金融コンサルタントにユ・アイン、町工場の経営者にホ・ジュノがそれぞれ扮している。監督は『パーフェクト・ボウル 運命を賭けたピン』などのチェ・グク。
映画『国家が破産する日』あらすじとネタバレ
経済が右肩上がりの成長を遂げる中、韓国は1996年にOECD(経済協力開発機構)に加盟し、先進国の仲間入りを果たしました。
国民の多くが自らを中間層と自覚し、今後も好景気が続くと信じて疑いませんでしたが、翌年の1997年11月には、アメリカの投資家たちは韓国から手を引き始めます。
韓国銀行の通貨政策チーム長ハン・シヒョンは通貨危機を予測し、報告を上げますが、政府の対応は遅れ、10日目にしてようやく上司からの呼び出しを受けます。
ハンは国家破産まで残された期間は7日しかないと訴えます。深刻な事態を受け、対策チームが急遽招集されますが、国民に知らせるべきだと主張するハンに対して、財務局次官のパク・デヨンは、混乱を招くだけだと頑なに拒否します。
ハンは「健全な中小企業は救うべきです」と食い下がりますが、対策チーム長である経済主席の判断で国家破産の危機は非公開となり、対策チームも秘密裏で会合を持つこととなりました。
国家がそのような危機に陥っているとは夢にも思わない町工場の経営者ガプスは、大手百貨店ミドパからの大量発注を、手形決済という条件で受けてしまいます。
一方、この混乱を独自の判断でキャッチしている男がいました。ノンバンク「高麗総合金融」社員のユン・ジョンハクです。
ラジオで多くの庶民が生活の窮状を訴えているのを聴いたことが彼の転機になりました。会社を退職し独立したユンは、ノンバンク時代の顧客を集め、韓国経済が陥っている金融の混乱状態を説明し、国家は破産の危機を迎えていることを熱弁します。
「もしそれが本当だとしても政府が対策をこうじないわけがない」とある顧客が言いますが、ユンはきっぱりと「政府はなんの処置もとっていない。私はその無能と無知に投資するつもりです」と述べます。
あまりに突飛な話だと殆どの顧客は退出しますが、2名だけが彼の話に興味を持ち投資を申し出ます。
11月18日。ハンたち通貨政策チームは、上層部を動かせる証拠を探そうと、緊急調査を行いますが、企業や銀行の杜撰さ、銀行監督局が何の役にもたっていない事態を目の当たりにし愕然となります。
その頃、パク財務局次官は、ハーバード大出身の先輩と共に、有力財閥「イルソングループ」の子息と密かに会い、もうすぐ国が破産する、それに備えるべきだとお父様にお伝えくださいと情報を流していました。
ユンは株とウォンが暴落すると予測してドルを買いあさり、市場は彼の予測通りとなっていきます。
大手企業の倒産が次々と伝えられる中、パク次官は、電話対応に追われる職員たちに「否定しろ! 口をすべらせるな!」と怒鳴り、政府は「一時的な混乱」と発表します。
11月19日、ミドパデパートが倒産寸前というニュースが流れ、ガプスはあわてて、担当者のもとを訪ねていきますが、彼以外ににも多くの人々が詰めかけていて、あたりは騒然となっていました。
ガプスはマンションを売り、取引先の返済に当てようとしますが、提示された売り値は買ったときよりもかなり安くなっており、必ず上がるといっただろ!と担当者に向かって思わず声を荒げてしまいます。
一旦は売らないことにしますが、他にもマンションを緊急に売ろうとする人々の姿をみた彼は手放すことを決心します。
ユンは不動産屋を訪ね、最近、中規模程度のマンションが多く売りに出されているのではないかと尋ねます。そのとおりだと答える不動産屋に、彼はそれを全部私が買おうと申し出るのでした。
ある購入したマンションの室内にユンたちが入ると、住人が首をつって死んでいました。一方、ハンは混雑する高速道路で一人の男性が自殺するのを目撃し呆然とします。
パク次官はIMF(国際通貨基金)に支援を求めるべきだと提案します。しかし、ハンはIMFは必ず韓国経済に介入し、主導権を握ろうとしてくるはずだと主張し、提案に反対します。
100億ドルで外債を買うことを提案しますが、パク次官は一笑し、ハンは女性であるから冷静な判断ができないのだと敵意をむき出しにします。
ハーバード大学の仲間に向かってパク次官は、この機会を利用し、新たな韓国を作るのだと息巻きます。つまりは彼らにとって都合の良い社会を作ろうと企んでいるのです。
ユンは、政府が財閥や富裕層を優先して救うため、IMFを頼るだろうということも予測していました。
経済主席はIMFに頼らないことを選択しますが、翌日、経済主席が突然交代させられます。パク次官が動いたことは明らかで、対策チーム長を変えるとはどういうことかとハンは抗議しますが、既にIMFのチームが韓国に到着したことをパク次官は告げるのでした。
IMFとの協議は非公開とされ、グランドヒルトンホテルに対策本部が設置されました。
11月20日、第一回非公式会議が行われ、IMF側は、合意内容を覆さないという覚書を交わすことを主張し、大統領候補の人気上位3名に署名させることを要求してきました。経済主席はそれに同意します。
11月21日、IMFはさらなる前提条件の合意をせまってきました。金融機関11社にただちに営業停止命令を出すというものです。それに同意させたあと、IMFは6項目の支援条件を提示してきました。
政府金利を12、5%から30%にという条件を聞いたハンは「借入金を返済できず倒産する会社が多数でてきます」と異議をとなえます。
そのほかの項目も納得できないものでハンは「IMFの設立目的に反している」と非難します。
11月22日、ハンはIMFのメンバーがホテルに入ってきたときに、最後尾にいた男の顔を思い出していました。調べてみると男はアメリカの財務次官でした。ハンはIMF側に「なぜこのホテルにアメリカの財務次官が?」と迫ります。
「協議を中止してください」と主席に訴えるハンにパク次官は辛辣な言葉を投げつけました。「あなたはどこの国の人間?!」とハンは言い返しました。
しかし主席はIMFのいいなりで、ハンの言葉は受け入れられません。
韓国経済の発展を支えるという韓国銀行の成立目的を改めて確認したハンは、通貨政策チームとともに資料をまとめ、マスコミを集めます。
貧しいものはさらに貧しく、富めるものはさらに富む、それがIMFの作る世界であり、密室で深い考えもなく交渉を続け、個人の価値観で国の未来を決めていることを訴えますが、翌日の新聞にはいっさい掲載されていませんでした。
映画『国家が破産する日』の感想と評価
(本稿もネタバレがございます。ご注意ください)
1997年、国家破産という未曾有の危機に直面した韓国。その時、国は何をしたのか? 国家のとった政策を鋭く問うた重厚な社会派ドラマです。
聞き覚えのない専門用語がぽんぽんと飛び交い、一見、専門知識や当時の社会状況を知らなければ難しいように感じられますが、そこはよく知らなくても面白く見せてしまうのが韓国映画の旨さです
キム・ヘス演じるところの韓国銀行通貨政策チーム長・ハンを中心とした政府の対策チームの動きと、韓国経済界が陥っている危機を誰よりも早く察知する投資家のユン(ユ・アイン)、中小企業の経営者であるガプス(ホ・ジュノ)という立場の違った3者を交互に描いていくことで、韓国経済が直面している危機がありありと伝わってくるのです。
また、投資家のユンが顧客に向かって行うプレゼンが、このような状態になった原因を観客に分かりやすく説明してくれています。
リーマン・ショックの裏側でいち早く経済破綻を予測していた投資家たちを描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015/アダム・マッケイ)を連想させますが、『マネーショート』ほどはトリッキーでなく、一週間の攻防が緊張感たっぷりに描かれていきます。派手なドンパチは一切ありませんが、手に汗握る展開が続きます。
対策チームでハンは、なんとか国民を守るため奔走しますが、それらは財務局次官のパク・デヨン(チョ・ウジン)にことごとく潰されていきます。
パクとユンは2人共、この危機は韓国社会を変えるチャンスだと考えます。投資家のユンが金儲けにこだわるのはさておき、政府で高い地位にあるパクにとって社会を変えるということは、人々が暮らしやすい社会に導くということではなく、金と権力を手に入れた自分自身を作り出すことなのです。
この人物は女性差別主義者でもあり、映画は彼を民衆の敵として描いています。しかし、こうした人物がのうのうと生き残り、権力の座についているのは、韓国だけの出来事ではなく、また、過去の話でもなく、世界中で今まさに横行している現実なのです。
映画のスタイルとしてはケイト・ブランシェット主演の『ニュースの真相』(2015/ジェームズ・バンダービルト)を連想してしまいました。勝負には負けたが人間としての正しい生き様を証明することで、一種のカタストロフィーがもたらされるという点は共通しています。
『国家が破産する日』は、さらにそこからもう一歩進みます。ハンが最後に述べる“絶えず疑い考える” 、“目を開いて世の中を見る”という言葉は彼女自身の決心の言葉でもあるのですが、ズバリ、我々へのメッセージでもあるのです。
権威主義に陥り、思考停止になることへの警告なのです。
まとめ
韓国銀行の通貨政策チーム長ハンを演じたキム・ヘスは、韓国のトップ女優のひとり。貧しいものはさらに貧しく、富めるものはさらに富む、失業が日常化するような社会を作ってはならないと唯一国民の側に立って孤軍奮闘するさまには誰もが共感せずにはいられないでしょう。
投資家ユンに扮したユ・アインは、イ・チャンドン監督の「バーニング 劇場版』(2018)ではまったく真逆の誠実な青年を演じていました。青年は「韓国には何をしているかわからないのに裕福なギャッツビーのような人物がたくさんいる」とつぶやいていましたが、本作ではまさにそんな人物になるべく大勝負を打つ男を演じています。
街の工場長には名優ホ・ジュノが、経済危機を自分の私利私欲のために利用する次官にいぶし銀のチョ・ウジンが扮し、名バイプレイヤーのチャン・グァンがまたも権力側のいやな奴を演じています。
『国家が破産する日』は、冒頭、韓国の経済が成長していく過程を過去の新聞やニュース映像をつなげて表現していき、『1987、ある闘いの真実』(2018/チャン・ジュナン)を思い出させます。
『1987、ある闘いの真実』、『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017/チャン・フン)、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』(2018/ユン・ジョンビン)など、韓国映画は現代史を題材にした社会派エンターティンメントの秀作を数々生み出していますが、本作もそれらに匹敵する見事な出来栄えです。