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Entry 2017/01/31
Update

映画『キッスで殺せ!』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

  • Writer :
  • リョータ

一人の女が残した大いなる謎とは一体…?!

ソリッドかつクールな私立探偵マイク・ハマーが躍動する『キッスで殺せ!』をご紹介します。

映画『キッスで殺せ!』の作品情報

【公開】
1955年(アメリカ)

【原題】
Kiss Me Deadly

【監督】
ロバート・アルドリッチ

【キャスト】
ラルフ・ミーカー、クロリス・リーチマン、アルバート・デッカー、ポール・スチュワート、マキシン・クーパー、ギャビー・ロジャース、ジャック・イーラム

【作品概要】
ミッキー・スピレイン原作の私立探偵マイク・ハマーシリーズ『燃える接吻』(1952)をロバート・アルドリッチ監督が映画化。

50年代アメリカに漂う荒涼とした雰囲気を見事に表現したフィルム・ノワールの歴史的傑作。

映画『キッスで殺せ!』のあらすじとネタバレ

深夜の道路を駆け抜ける一人の女。裸足でトレンチコートを羽織っただけという異様な姿に加え、何かから逃げるように必死の形相を浮かべています。

何を思ったのか車道の中央に躍り出て強引に車を止めようとする女。暗闇の中に佇む女の存在に直前まで気付かなかったその車は、彼女を避けようとギリギリのタイミングでハンドルを切り、路肩へと突っ込みました。

ロサンゼルスへ向かうバス停まで乗せて行って欲しいという女の頼みを聞くことにした車の男。車の方は多少の不具合が出たものの、幸い走行には支障をきたさない程度で済んだようでした。

道中、女に名を尋ねると、彼女はクリスティーナだと答えました。詩人のクリスティーナ・ロセッティにちなんだ名だと。また、車の登録証から男の名がマイク・ハマーだということが彼女にも分かりました。

そうして車を進めていると、やがて検問に引っかかってしまいます。どうやら精神病院から女性患者が脱走したようなのです。この状況に怯えた様子をみせたクリスティーナ。それに気付いたハマーは、機転を利かせ検問をなんなく通過。

そうしてさらに車を走らせていくと、先ほどの事故の影響か、どうも調子が悪い。近くにあったガソリンスタンドで、軽く見てもらうことにしました。その合間にクリスティーナは、店員に手紙を出しておいてくれと頼みます。

車の方は、どうやらシャフトの上に小枝が引っ掛かていただけのようで、問題なく再び走り始めました。車内ではクリスティーナが、妙なことをハマーに伝えるのでした。もしバス停までたどり着かなかったら、「Remember me(私を覚えていて)」と。

すると突然、大勢の車に囲まれ、クリスティーナとハマーは謎の男たちに拉致されてしまいます。拷問にかけられるクリスティーナ。眠らされたハマー。彼は朧げな意識の中で、青いスエード靴の男がいたことだけを記憶に刻み込みました。やがてクリスティーナが絶命し、2人を乗せた車ごと崖から突き落とされ、炎上してしまいます。

そんな大事故にもかかわらず、ハマーは奇跡的に生還します。3日間の昏睡状態の後、彼が病院で目覚めた時、目の前には私立探偵であるハマーの秘書ヴェルダ(恋人でもある)と友人のパット警部の姿がありました。

崖から落ちた車は、古い友人の自動車整備工ニックが回収に当たったと聞いたハマーが彼の下を訪れると、あの車はもう欠片も残っていないとのこと。しかし、そのことよりも重要なことをニックが教えてくれました。少し前に強面の男たちが根掘り葉掘り聞きにきたというのです。不穏な空気が流れていました。

自宅へ戻ると、ヴェルダが訪ねてきます。入院中、レイ・ダイカーという男が電話してきて、ハマーに会いたいという伝言を残していたそう。

レイ・ダイカーという男は、元々科学担当の記者でしたが、つい最近突然失踪したと報じられていました。ヴェルダが聞き取った住所を訪ねようと向かっていた所、跡をつけてくる男の存在に気付きます。その男を捕まえ、殴り倒し、階段から突き落としたハマー。

無事に辿り着いた先にいた男レイ・ダイカーは、顔にやけどのようなただれた痕の残る男でした。彼はクリスティーナの秘密を知っているようでしたが、口にすれば命はないと考えていました。怯える男からクリスティーナの住所を聞き出し、その場所へと向かいます。

クリスティーナにはガーヴァーというルームメイトがいたと彼女のアパートの管理人は言いました。しかし、その女性も数日前に突然出ていったそう。ハマーは、クリスティーナのベッドサイドにあったクリスティーナ・ロセッティの詩集を見つけ、何となく持ち帰ります。

カーヴァーの居所を見つけ出したハマーが、彼女に色々と尋ねてもクリスティーナに何が起こったのかは分からずじまい。そうして自宅へと戻ったハマーを待ち受けていたのは脅迫電話でした。この件から手を引け、そうすれば素敵な贈り物をしてやるというのです。明日の朝、アパートの前を見ろと言い残し電話は切れました。

翌朝、ハマーの下を訪れた整備工のニックは、玄関先にピカピカの高級そうなオープンカーを見つけます。ハマーが新車を手に入れたと思い込んだニックは、嬉しくなって乗り込み、キーを回そうとします。その時、ハマーが現れ慌てて制止します。ダイナマイトが仕掛けられていたのです。

さらに詳しく調べると、新たな爆弾を発見します。この車をくれてやるから情報を集めて欲しいという頼みを、ニックは二つ返事で引き受けました。

その頃、ヴェルダの下に再びダイカーから電話があり、クリスティーナの知り合いの名を挙げたという情報を得たハマー。H・ウォレス、C・トラファーゴ。そして、L・カウォルスキー、N・レイモンド。この2人は不可解な死を遂げた男でした。

ウォレスを訪ねるハマー。彼はレイモンドを轢いてしまった男です。自分に過失はなく、レイモンドは明らかに誰かに突き飛ばされたようだと証言を得ました。

続いて、元ボクサーであるカウォルスキーが所属していたジムを訪ねます。以前から知り合いであったジムのオーナーと他愛もない話をしていましたが、話がカウォルスキーのことに及ぶと、急に黙るオーナー。

彼から聞き出せたのは、チャーリーとシュガーという2人組の男がやってきて、口をつぐんでいろと言われたということだけ。背後にある強大な組織の存在を感じずにはいられないハマーでした。

チャーリーとシュガーという男のボスは、暗黒街の顔役であるカール・エベロでした。彼の邸宅に潜入したハマーが青のスエード靴がないかとプールの更衣室を探っていると、チャーリーとシュガーがやってきます。一撃でシュガーを倒すハマー。チャーリーは逃げ出します。彼はハマーを尾行し、階段から突き落とされた男でした。

エベロの下へと辿り着いたハマー。崖から突き落としたのも、爆弾つきの車を贈ったのも全て彼の仕業だったことが分かります。ハマーを買収しようとしますが、その手は通じません。お前の命はないとすごむエベロ。

邸宅から無事に外へと出たハマーが次に向かったのは、失業中のオペラ歌手トリヴァーゴ。彼は亡くなった科学者レイモンドの友人でした。そこでは、レイモンドが死んだ直後に強面の男たちが来て、何か「小さな物」を探していたという情報を得ます。

カーヴァーの下を再び訪れると、昨晩エベロの手下たちが来たとのこと。怯える彼女を連れ出し、ニックの下へ向かいます。彼に何か情報は手に入ったかと尋ねますが、収穫は無し。ハマーは自宅でカーヴァーをかくまうことにしました。

以下、『キッスで殺せ!』ネタバレ・結末の記載がございます。『キッスで殺せ!』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
ハマーが去って間もなく、何者かによってニックは殺されてしまいます。悲しみに暮れるハマーは、ヴェルナに慰めを求めます。彼女はダイカーから新たな情報を手に入れていました。ドクター・ソベリンの名。情報を得るため、ヴェルナは彼らに接近します。

ニックの死に責任を感じ、バーで酔いつぶれていたハマー。すると見知らぬ男がバーテンにメッセージを届けます。ヴェルナを誘拐したというのです。

その時、ふと思い出したことがありました。クリスティーナの手紙です。ガソリンスタンドへと向かうハマー。手紙を受け取った店員がそれを覚えてました。宛名は、マイク・ハマー。

慌てて自宅に戻ると、手紙が届いていました。内容は再び「Remember me(私を覚えていて)」。夢中になっていたハマーはチャーリーとシュガーの待ち伏せに気付かず、拉致されてしまいます。

海岸沿いにある別荘で、うつぶせの状態でベッドに縛り付けられるハマー。そこへ現れた男の靴に見覚えがありました。クリスティーナと共に監禁されていた時、朧気ながら覚えていた青いスエードの靴。

自白剤を投与され、エベロに訊問されるハマー。しばらく後、自力で縛めを解くことに成功した彼は、まだ薬が効いているフリをして、エベロたちを欺き、その場を脱出。

自宅へ戻ると、カーヴァーが待っていました。おもむろに詩集を手にするハマー。その中にこんな一文がありました。「私を覚えてて。あなたが私たちの将来を語らなくなる時に。私を覚えてさえいればきっと分かる。でも、もし暗黒と崩壊が私たちが有した想いの跡を残すなら…」

彼女の亡骸に秘密が隠されているのかもしれないと悟ったハマーは、カーヴァーと共に死体安置所へ向かいます。解剖をした医師は、小さな鍵を彼女の遺体から取り出していました。しかし、それと引き換えにと金をせびる医師。ハマーはそんな彼を痛めつけて強引に奪い取ります。

鍵のHAC(ハリウッド・アスレチック・クラブ)という刻印から、これがロッカーの鍵だと判明。現場に着くと、中に厳重に保管されていたは小さな箱でした。そっと開けると強烈な光とともに、火傷を負ってしまったハマー。危険を感じ、箱をロッカーに戻し、鍵をかけます。

ハマーがクラブを出ると待っていたはずのカーヴァーの姿が見えません。今度はパット警部の下へと向かいます。そこで知ったのは、一週間も前にカーヴァーという女が殺されていたことでした。では、あの女は一体…?

ハマーの火傷を見て、警部はこう告げました。「マンハッタン計画、ロスアラモス、三位一体」。警察もこの危険な放射性物質の正体を掴んでいて、その行方を追っていたのです。真相を知ったハマーは警部に鍵を託します。

ちょうどその頃、クラブのロッカーは破られており、すでに小箱は奪われていました。一方ハマーは、ヴェルナが調べていた人物ドクター・ソベリンの居所を探していました。調べを進めると、彼は海辺の別荘に滞在中だとの情報を得ます。ハマーが監禁されていた、あの場所です。

青いスエード靴を履く男ドクター・ソベリンの下には、カーヴァーを名乗る女がいました。小箱を奪ったのはこの女だったのです。彼女の本名はガブリエル。ソベリンの手下です。彼らは高飛びしようと荷造りをしているところでした。

小箱の中身を知らぬものの貴重なものであることが分かっているガブリエルは、ソベリンから全てを奪おうと彼を撃ち殺します。「絶対に開けるな」という言葉を残し、絶命するソベリン。

いざ彼女が箱を開けようとしたその時、ハマーが登場します。しかし、彼女に腹を撃たれたハマーは倒れてしまいます。

ガブリエルの抑えられない好奇心によって、開けられる箱。大量の光を浴び、燃え上がる女。

別荘全体に炎が広がろうとしていた時、ハマーは傷付いた身体を引きずりながらも監禁されていたヴェルダを救出。彼らが何とか脱出した瞬間、大爆発を起こし、跡形もなく消えた別荘。あとには、女の断末魔の叫びだけが残されていました。

映画『キッスで殺せ!』の感想と評価

全体に漂う鬱屈とした雰囲気、1950年代としては過激な暴力描写、そして何より目的のためなら手段を選ばない男マイク・ハマーのダーティ・ヒーローっぷりが冴えるのがこの作品『キッスで殺せ!』です。

1950年代のアメリカといえば、マッカーシズムが吹き荒れる狂乱の時代。ロバート・アルドリッチ監督がこの作品で示したのは、まさにその当時の世相を反映させたものでした。

マッカーシズムとは、いわゆる赤(共産主義者)狩りのこと。共和党上院議員であったマッカーシーによって唱えられ、過激化した政治的運動を表します。

多くのハリウッド関係者が、いわれもない疑いをかけられ、共産主義者のレッテルを貼られていきました。『ローマの休日』の脚本を手掛けたダルトン・トランボなどもその内の一人。

こういった時代背景がある中、人々は恐怖に怯える日々を送っていました。もしかしたら、隣人は共産主義者かもしれない。もしかしたら、隣人に共産主義者として告発されるかもしれない。疑いが疑いを呼び、誰も信じられなくなってしまったそんな時代。

この作品では、誰もがクリスティーナについて口をつぐみ、守れなかったものは哀れな末路を迎えます。言いたいことも自由に口にすることが出来なかった当時の人々の姿がここに垣間見えます。

そして、最後まで顔の見えない謎の男ドクター・ソベリンの存在は、まさにこの時代が抱えた見えざる恐怖そのものを具現化したような人物だといえるのかもしれません。

また、謎の小箱について作中では言明されていませんが、核物質であることは明らか。冷戦真っ只中のアメリカにおいて、人々が常に抱いていた核への恐怖にも言及しているという点においても非常に興味深い作品です。

ちなみにパット警部の挙げたマンハッタン計画とは、第二次大戦時の原爆製造計画のことで、ロスアラモスがその研究所。三位一体はトリニティ実験にあたり、これは人類最初の原爆実験を指しています。

最後に、監督ロバート・アルドリッチの面白い演出にもご注目。この作品、観ていると階段のショットが数多く登場するんです。その階段を、敢えて平板に映すことで観ているものに上下の間隔を失くさせ、出口の見えない迷宮に迷い込んだかのような錯覚を起こさせる効果を発揮しているようです。ぜひ、この世界観を堪能してみて下さい。

まとめ

ロバート・アルドリッチ監督のデビュー作『アパッチ』(1954)と続く『ヴェラクルス』(1954)が西部劇であったことを抜きにしても、3作目にあたる『キッスで殺せ!』の描く世界観はそれまでとは全く異なるものが展開がされています。

この作品こそが、初期ロバート・アルドリッチの作風を決定付けた記念碑的作品といっても過言ではないかもしれません。

クエンティン・タランティーノが『パルプ・フィクション』で引用していたり、デヴィッド・リンチが『ロスト・ハイウェイ』でオマージュを捧げたりと、この作品の持つ影響力は計り知れないものがあります。

また、ヌーヴェルヴァーグの旗手であるジャン・リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーらも彼に影響を受けた内の一人。次作『枯葉』(1956)では、ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を受賞するなど、アメリカだけでなくヨーロッパにおいても高い評価を受けていたことが窺い知れます。

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