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Entry 2020/07/20
Update

韓国映画『鬼手』感想考察とレビュー評価。囲碁棋士のリベンジ復讐談を描く『神の一手』のスピンオフ作品

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『鬼手』は2020年8月7日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて全国順次ロードショー!

「人生は二つに一つ。遊び場になるか、生き地獄になるか」囲碁の世界に身を投じた男たちの、生々しい生きざまを描いた映画『鬼手』。

囲碁とアクションという奇抜なアイデアで注目を浴びた2014年の映画『神の一手』のスピンオフ作品『鬼手』は、『神の一手』に登場する正体不明の囲碁棋士「鬼手」の数奇な生い立ちを描いた作品です。

監督を務めたのは、本作で長編映画デビューとなるリ・ゴン。そして韓国スターの一人として絶大な人気を誇るクォン・サンウが、囲碁に賭けた凄惨な青春を送る主人公役を務めます。

クォン・サンウは本作の役作りのため、3カ月以上にわたるトレーニングで、体脂肪9パーセントながら6キロ以上増量というすさまじい肉体改造を経て撮影に臨みました。その肉体美と激しいアクションシーンは本作の見どころでもあります。

映画『鬼手』の作品情報


(C)2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED

【日本公開】
2020年(韓国映画)

【原題】
신의한수:귀수편(英題:THE DIVINE MOVE 2: THE WRATHFU)

【監督】
リ・ゴン

【キャスト】
クォン・サンウ、キム・ヒウォン、キム・ソンギュン、ホ・ソンテ、ウ・ドファン、ウォン・ヒョンジュン

【作品概要】
幼くして両親を亡くし、頼りにしていた姉を一人のプロ囲碁棋士の手により亡くした身寄りのない少年が、囲碁の棋士として精神と肉体を鍛え上げ、復讐の旅に出るさまを描きます。

本作で監督を務めたのは、この作品で長編映画デビューとなるリ・ゴン。主人公の男性を務めるのは、近年では「探偵なふたり」シリーズや『ラブ・アゲイン 2度目のプロポーズ』などバラエティに富んだ作品に出演を重ねるクォン・サンウ。会社員の経験を持ち35歳で役者になったという遅咲きの俳優ホ・ソンテは、映画『密偵』(2016)で注目を浴びて以降多くの映画、ドラマで活躍を展開しています。

また主人公の相棒となるトン先生役を『アジョシ』(2011)などのキム・ヒウォン、主人公の師匠ホ・イルド役を『ゴールデンスランバー』(2019)などのキム・ソンギュン、主人公に対し因縁の復讐心を燃やす孤児役を『MASTER マスター』(2017)『ディヴァイン・フューリー/使者』などのウ・ドファンら実力派俳優が脇を固めます。

映画『鬼手』のあらすじ


(C)2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED

父が自ら命を絶ち、母にも捨てられた貧しい一人の少年。彼はある日頼りにしていた最愛の姉を失い、天涯孤独の身になってしまいます。

一人出た放浪の旅の途中で追いはぎに金をとられ困っていた彼は、とある囲碁サロンで自身の特技であった囲碁の腕を生かして金を稼ぐことに成功します。そんな彼を見つめる一人の男がいました。

彼の名はホ・イルド。彼もまた囲碁の世界に引き込まれた男の一人でした。ホ・イルドは彼の才能を見込んで山寺で猛特訓させ、その潜在能力を開花させるとともに心身共にたくましい大人へと成長させます。

やがて彼は下山し裏社会の暗黒棋士たちと次々と死闘を繰り広げ撃破していきます。 そしていつしか姉を死に追いやった冷酷な棋士ファン・ドギョンの後ろ姿が見え始めてきます。彼は復讐のため、 人生のすべてを賭けた最後の闘いに向かって行きました……。

映画『鬼手』の感想と評価


(C)2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED

クォン・サンウの円熟味を増した存在感

デビュー当初より、どちらかというとクールないでたちで多くの女性ファンのハートを虜にしてきた韓流スター、クォン・サンウ。さまざまな作品、役柄を経て演技の幅を広げつつある彼ですが、この作品では初期のクールなイメージで演じています。

彼が演じる主人公・グィス(鬼手:日本読みでは“きしゅ”)ですが、この名は『神の一手』のエピソードから引き継がれたものです。

ここでは一応彼の家族の大まかなエピソードは描かれているのですが、実はその本名は劇中では明かされていません。「グィス」という名が彼につけられるまでの物語となっています。

これは敢えて特定の人物的として描くことを避けることで、浮き世離れした印象を作り上げているようでもあります。

その主人公が織りなす物語では激動の人生が描かれており、激しい展開の中でクォンは終始、感情の揺れをほとんど見せることなく演じ切っています。

運命の師匠との出会い、間抜けだが頼りになる相棒との出会い、身の毛もよだつ魑魅魍魎のような敵との対決、そして因縁の対決を繰り広げる孤児との運命の再会。

その中で起こる、物音などはばからない緊張感あふれる囲碁対決でも、激しいぶつかり合いの格闘シーンでも、クォン・サンウは歯を食いしばることも、眉毛一つ動かすことなく、そこにたたずんでいるのです。


(C)2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED

そこには「鬼手」と呼ばれる神懸かった存在感を表現する意図が感じられるとともに、この役がまさにクォン・サンウが手掛けるにふさわしい役であることが見て取れます。

ここで見られるクォン・サンウのたたずまいからは、自身のキャリアに迎えた一つのターニングポイントを、そのまま示しているようでもあります。

そして主人公を執拗に憎む孤児を演じたウ・ドファンのたたずまいもまた、この役柄にピッタリといえるでしょう。

復讐心に燃え、冷徹で残虐性にあふれた視線。幸か不幸か、彼にはこの役のようなスーパーサブ的、かつ悪役的なポジションのキャスティングも多く、本作でもまさにハマり役として抜群の演技を見せています。

クォン・サンウとウ・ドファンの火花散る対決シーンは本作最大の見どころでもあります。

囲碁の世界が導き出すノワール感


(C)2019 CJ ENM CORPORATION, MAYS ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED

一方で本作は、全体から醸し出される空気感が作品の特徴的な個性を生み出しています。

日本でも「駄目」「布石」「捨て石」「定石」と多くの囲碁用語が日常的な会話などで多く使われていたりしますが、囲碁の世界はある意味、人間の社会生活をさまざまに、深く表現しています。

本作はそのように囲碁が表すさまざまな情景を掘り下げて描いたものともいえます。囲碁戦のシーンもしかり、『神の一手』同様に本作では、シーンの頭を囲碁の用語で表現しており、いわば囲碁の世界観で物語を構成しています。

この一貫性が物語自体のダークな色彩感のもとになっているといえるでしょう。また全編を通して感じられることですが、本作には目を覆いたくなるような残虐なシーンやバイオレンスなシーンを、敢えてギリギリで抑えているのも特徴です。

この配慮は見る側の想像力をかき立て作品のイメージをより印象深くするとともに、囲碁ならではの世界観、人間観と重なって物語の重厚なイメージを作り出しています。

まとめ

また、本作では隠れた見どころとしてグィスを助けるちょっと間抜けな相棒・トン先生役を務めるキム・ヒウォンの存在があります。

バイプレイヤーとしても高い評価を得てさまざまな作品に出演を続けているキムですが、彼は2014年の韓国ドラマ『ミセン-未生-』にも出演を果たしました。

このドラマは囲碁のプロ棋士を目指すも挫折した一人の青年が、あるきっかけで一流商社に契約社員として入社し、さまざまなピンチに対し囲碁で得た精神で向き合うというもの。

キムは社内での不正行為発覚により破滅に追い込まれていく一人の社員役を演じています。その形勢不利になっていくさまはまさしくドラマの主人公が囲碁の手のように打っていく攻めに、抗えなく自滅していく敗者の姿。

物語における役柄の結末は両作でまったく違えど、『ミセン-未生-』で演じた彼の役柄は、本作に登場するどこか囲碁の精神と相反しながらなんとなく生きているトン先生の印象にダブって見えるところがあります。

そんな意味でもキムの立ち位置はまさに役柄にピッタリでした。

囲碁というジャンルにおいて、21世紀に日本の実力を越え世界的にもトップレベルに踊り出た韓国。

現在では街中にプロ棋士を育てる囲碁道場も多く作られており、日本から囲碁の修業をしに韓国に出向くというケースも少なくありません。

ゆえに韓国と囲碁という関りは、切っても切れない関係があり、囲碁を通して描くさまざまな人間関係は、社会的な構造、問題をそのまま表現していると解釈することもできます。

そんな視点で物語を改めて観れば、また違った広がりをストーリーから読み取ることができるでしょう。

映画『鬼手』は2020年8月7日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて全国順次公開されます!





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