亀梨和也演じるサイコパスが猟奇的殺人鬼と対決!
倉井眉介による同名小説を、亀梨和也の主演で映画化した『怪物の木こり』。
幼い頃に脳チップを埋め込まれて、サイコパスになった主人公が、「怪物」のお面を被った男に殺されそうになります。もとより冷酷な心しかない主人公は、ためらうことなく「怪物」面の男と対決に挑みます。
なぜ主人公が男に狙われたのか。そこには悲しい理由がありました。
脳に埋め込まれたチップのおかげで、歪んだ心の冷たい人間にされた主人公。果たして人の心を取り戻せて人間らしい人生を送れるのでしょうか。サイコパスにされた人間の生き様を、三池崇史監督が描き出しました。
人が作り出した殺人鬼のサイコホラー『怪物の木こり』を、ネタバレありで解説します。
映画『怪物の木こり』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【原作】
倉井眉介:『怪物の木こり』
【監督】
三池崇史
【脚本】
小岩井宏悦
【音楽】
遠藤浩二
【主題歌】
SEKAI NO OWARI
【キャスト】
亀梨和也、菜々緒、吉岡里帆、柚希礼音、みのすけ、堀部圭亮、渋川清彦、染谷将太、中村獅童
【作品概要】
第17回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作の倉井眉介による同名小説を、亀梨和也の主演で映画化したサイコホラー。監督は『妖怪大戦争』(2005)や『初恋』(2020)の三池崇史が務めました。
連続殺人鬼に狙われるサイコパスな弁護士の主人公・二宮彰を『事故物件 恐い間取り』(2020)の亀梨和也が演じるほか、事件を追う警視庁のプロファイラー・戸城嵐子を菜々緒、二宮の婚約者の荷見映美を吉岡里帆。他に渋川清彦、染谷将太、中村獅童らが集結しています。
映画『怪物の木こり』のあらすじとネタバレ
ある町の出来事です。大きな屋敷に刑事たちが踏み込んできました。部屋中を見て子どもたちを捜します。そしてベッドの上で『怪物の木こり』という絵本を読んでいた、頭に包帯をまいた少年を見つけます。
側にいた女医の東間翠に「ほかの子どもたちはどこだ」と聞きますが、その時隣の部屋から子どもたちの死体が見つかりました。刑事からいっせいに銃を向けられた女医は、手術用のナイフで自ら首の頸動脈を斬って死にました。
場面は変わって、またある町に敏腕弁護士の二宮彰がいました。彼は仕事はよく出来るのですが、その傍らで自分の意見とあわない人間を冷酷に処分するサイコパスで、同じサイコパス仲間の脳神経外科医・杉谷九朗とつるんで人体実験ぎりぎりのあくどいことをやっていました。
その頃世間では、被害者の頭蓋骨を刃物で割り、脳を奪い去るという連続猟奇殺人事件が発生し、警察が動き出していました。
ある日、仕事を終えた二宮は、マンションの地下駐車場で「怪物マスク」を被った男に襲われます。手斧で頭をかち割られそうになりましたが、寸前のところで人が来たために犯人は逃走しました。
頭部に損傷を受けつつも九死に一生を得た二宮は、病院で怪我の手当をしてもらいました。そのとき、頭のMRIを撮り、脳チップが前頭葉に埋め込まれているということを知りました。
そこへ二宮の婚約者・荷見映美がお見舞いにやって来ました。二宮は資産家である映美の父親の後継者の地位を狙って、彼女と婚約をしました。
そして、先日、自殺と見せかけて映美の父親をビルの屋上から突き落としたのでした。事件は自殺とされ、事実は二宮一人が知っているだけです。
一方、連続猟奇殺人事件を追う警察は捜査をすすめ、捜査一課の戸城嵐子たちは、被害者全員が児童養護施設出身で、性格や行動に問題があることや被害者の一人には脳チップが埋め込まれていた事実を突き止めます。
脳チップが絡んだ過去の事件といえば、日本の歴史上最低最悪と称される「東間事件」しかありません。
「東間事件」とは、26年前に起った児童連続誘拐殺人事件です。犯人は脳神経医師だった東間翠で、彼女は誘拐した子どもたちに脳チップを埋め込むという人体実験を行っていました。
東間は、脳にチップを埋め込むことでサイコパスの神経回路を持った子どもを作り出し、児童養護施設に送り込んで、大人になるまで観察するという恐ろしい計画を実行していたのです。小さな子供たちは手術に耐えきれずに死亡し、一番最初に実験台にされた年長の少年剣持武士が生き残って救い出されています。
一方、病院から帰った二宮は、しばらくすると、自分のなかである変化が起きていることに気づきました。
二宮のサイコパス仲間である脳神経外科医・杉谷九朗が彼の脳のCTを撮影したところ、性格の変化の原因は二宮の頭に埋め込まれた脳チップの故障であることが判明します。
そして二宮は偶然見つけた『怪物の木こり』の絵本の挿絵に描かれていたお面が、自分を襲った男が付けていた物だと気が付きました。
二宮は『怪物の木こり』の絵本を買って読みます。それは、怪物が木こりの姿をして村に住み着き、1人ずつ村人を食べていくという物語。ラストは、怪物は自分が木こりなのか怪物なのか分からなくなりますが、寂しくなって自分の仲間を生み出していくのです。
実は二宮は「東間事件」の被害者でした。彼のサイコパスな思考は脳チップによって人工的に作られたものだったのです。
二宮が頭に損傷を受け、彼の脳チップが機能しなくなったことで、彼は本来持つべきはずだった“人間の心”を取り戻しつつあり、冷ややかに接していた映美にも、優しい言葉をかけ始めます。
映画『怪物の木こり』の感想と評価
サイコパスの脅威
強欲で乱暴者の世間の嫌われ者たちが、次々と殺されて脳を持ち去られる事件が発生。サイコパスである二宮もお面を被った男に襲われました。ここから、サイコパス対殺人鬼の怖ろしい戦いが始まります。
本作でまず驚くべき点は、サイコパスが人工的に作られたことではないでしょうか。
サイコパスは、自分以外の人間に対する「愛情」や「思いやり」などの感情が著しく欠け、自己中心的に振る舞います。また、道徳観念や倫理観、あるいは恐怖などの感情も乏しい傾向にあり、冷淡、冷血な行動をとります。
二宮が殺人鬼と戦うのもわが身を守るためであり、人のためとか正義のためとかではありません。お面を被っているような作り笑顔の下には、他人が受ける痛みがわからない冷たい心しかないのです。
脳チップを埋め込むという最先端の医療技術が、埋め込む場所によっては、泣いたり、笑ったり、感激したりする人間としての温かな感情を意図的に無くしてしまうという恐ろしい結果をうみました。
しかも実験台とされたのは、誘拐してきた幼い子どもたちですから、誘拐犯の東間女医には怒りを覚えます。
また、人の心を作り替えるなど人間の倫理に反する行為と思われ、それによって人格を変えられ、人生を狂わされた被害者の子どもたちが哀れでなりません。
原作と映画の違い
映画は原作小説とは違ったラストで締めくくられます。ここで注目すべきは、主人公たちの行く末です。
映画では、やっと人間の心を取り戻し、サイコパスに戻らずに普通の人間として生きていこうと決心した二宮が、彼を父の仇の殺人者と知った婚約者の映美によって刺されました。
二宮が普通の人間として生きていけそうな予感を残す原作小説のラストとは、大きな違いです。
映美に刺されたことは、それまで二宮が陰でしてきたことの報いと言えばそれまでですが、本人の意志に関係なくサイコパスにされたという事実を忘れてはなりません。
後半の亀梨和也演じる二宮と中村獅童演じる剣持との戦いでは、破れた剣持がサイコパスから人間に戻った時の苦しみを訴え、涙を流して自らの人生を終わらせます。
普通の人間になった時にサイコパスだった自分がしてきた罪の意識に慄く苦しみがあるのです。果たして二宮はそれを乗り越えることが出来たのでしょうか。
三池監督は、二宮にその答えを求めず、衝撃的な結末を用意しました。原作小説と違った結末に、サイコパスの人生の良し悪しについて考えさせられます。
まとめ
人為的に作られたサイコパスの主人公二宮。幼い頃に埋められた脳チップが、彼を悪魔のような性格の人間にしてしまいました。
人間の心を取り戻した時、サイコパスに戻るのか、それともそのままの人間でいるのかとの選択が注目すべきところなのですが、原作と映画とは違った結末を迎えます。
本当の悪魔は人間の心にいるのではないかなと思えるラストに、三池監督の深い意図が伺われます。
感情を一切表に出さない、冷酷な仮面を被った二宮。淡々と演じる亀梨和也のサイコパスぶりも見ものでした。