ハドリー・チェイスの小説『悪女イヴ』を映画化した映画『エヴァ』は2018年7月7日から全国公開されました。
娼婦エヴァに出会った事で、破滅の道を辿るようになる若き作家の悲劇を描いた、映画『エヴァ』をご紹介します。
映画『エヴァ』の作品情報
【公開】
2018年(フランス映画)
【原題】
Eva
【監督】
ブノワ・ジャコー
【キャスト】
イザベル・ユペール、ギャスパー・ウリエル、ジュリア・ロイ、マルク・バルベ、リシャール・ベリ
【作品概要】
1963年に公開された映画『エヴァの匂い』の原作小説、『悪女イヴ』を再び映画化。
他人の作品を盗み、作家デビューを果たした青年ベルトランが、娼婦エヴァに出会った事で破滅の道に進んでいく官能ドラマ。
主演は『たかが世界の終わり』(2017)でセザール賞主演男優賞を受賞したギャスパー・ウリエルと、フランスを代表する演技派女優イザベル・ユペール。
映画『エヴァ』のあらすじ
ベルトランは、ある孤独な老人の介護をしていました。
その老人は、イギリスでは有名な劇作家として活動していましたが、評価されなくなり、フランスへ移り住みました。
ですが、フランスでは作風が評価されていませんでした。
老人は、それでも新作喜劇『合言葉』を執筆、世の中に出す機会が無いと嘆きます。
そして老人は、入浴中に発作を起こして、この世を去ります。
ベルトランは『合言葉』の台本を持ち出します。
喜劇『合言葉』はパリで大ヒットの舞台となります。
ベルトランは、婚約者のカロリーヌを始め、多くの人の高い評価を受け、ベルトランの出資者レジスから次回作を催促されます。
ですが、他人の戯曲を盗み発表したベルトランに、次回作が書ける訳がありません。
筆が進まないベルトランに、カロリーヌは両親の別荘での執筆を提案します。
別荘に到着したベルトランは、窓ガラスが割れている事に気が付きます。
そして中に入ると、見知らぬ男がいました。
男は、吹雪で立ち往生した為、ガラスを割って勝手に入ったと説明、腹を立てたベルトランは、男と一緒にいる女性を探し出そうとします。
別荘の2階に上がったベルトランは、バスタブに入浴中の女性を発見します。
勝気な性格で、美しい容姿の女性に心を奪われたベルトランは、男を追い出して、その女性に手を出します。
しかし、女性に拒否され鈍器で頭を殴られたベルトランは、失神してしまいます。
次の作品が全く進まない事に不安を感じているレジスに、ベルトランは適当に記憶喪失者の話を提案します。
また、頭を怪我したベルトランの「階段から転落した」という説明に、カロリーヌは納得しておらず、2人の間に亀裂が生じ始めます。
パリで大ヒットした『合言葉』は、フランスの地方公演で上演される事になります。
地方公演に帯同しながら、何のアイデアも出さないベルトランに、舞台監督は失望した様子を見せます。
ベルトランは宿泊したホテルのカジノに向かいます。
そこで偶然、別荘で出会った女と再会したベルトランは、エヴァと名乗る女から名刺を受け取ります。
エヴァは娼婦で、エトラ通り12番の自宅で客を取っていました。
後日、エヴァに連絡をして自宅を訪ねたベルトランは、自宅が豪邸である事に驚き、エヴァは「美術商の夫、ジョルジュの家で、夫はいつも家を空けている」と説明します。
エヴァのミステリアスな部分に、更に惹かれたベルトランは『合言葉』の公演にエヴァを招待しますが、エヴァは姿を見せませんでした。
映画『エヴァ』の感想と評価
今作はベルトランとエヴァ、二面性を持つ男女の話です。
若手の劇作家、ベルトランが悪女エヴァによって人生を狂わされていく話ですが、作品内でベルトランがどういう人物か?は、ほとんど語られていません。
他人の作品を盗み、劇作家として認められましたが、最初から劇作家を目指していたかも不明です。
作品冒頭、老人の家で高価そうな物を盗んでいる描写があるので、お金に困っていた事は間違いないようです。
また、なかなか次回作が書けない状況で、出資者のレジスに見放されると、破産の危機に直面している状況にも、焦っている様子は描かれていません。
映画終盤、別荘でエヴァとカロリーヌが鉢合わせになったのも、偶然なのか作為的なのか分からず、献身的に自分に尽くしてくれたカロリーヌを、ベルトランがどう思っていたかも分かりません。
ベルトランは、他人の作品で得た名声は長く続かず、いつかは破滅するという事を察していたのかもしれません。
だからこそ謎の多いエヴァに惹かれたのでしょう。
エヴァもベルトランと同じ、他人を欺いて生きているからです。
本作で、唯一ベルトランの素の部分が見える場面があります。
エヴァとレストランで食事をする場面で、お酒の入ったベルトランはエヴァとの自然な会話を楽しみます。
劇作家として評価されて以降、ベルトランの周囲には「新進気鋭の劇作家」として接してくる人間ばかりで、ベルトランは誰にも気が許せなかった、婚約者のカロリーヌでさえ、本当のベルトランを知りません。
そこで出会った娼婦のエヴァに、ベルトランは気を許し、癒しを求め、収監された夫の仮釈放に奔走し疲れていたエヴァも、ベルトランとの幻想の時間を楽しみ、現実を忘れたかったのかもしれません。
人との繋がりや男女の関係は、複雑で微妙なバランスで成り立っており、人は孤独な存在なのかもしれない、そんな事を考えさせられる作品でした。
まとめ
本作で印象的な場面がもう1つあります。
レジスが“ジャン・ルイ”と名乗り、エヴァの自宅を訪問する場面です。
そこでレジスは「婚約者のいる若い娘と寝た」と語りますが、これはおそらくカロリーヌの事でしょう。
カロリーヌは「レジスと寝たのは嘘」と言っていましたが、これが嘘だった事になります。
つまりエヴァとベルトランだけでなく、カロリーヌとレジスも嘘を吐いていたという事です。
そして、その事をレジスは“ジャン・ルイ”という偽名を名乗り、全く面識の無いエヴァに懺悔します。
大人になり、社会で生きていくには、人は「何者か」を演じ、時には嘘を必要としなければ、人間関係は円滑に回らない部分があります。
そして、その嘘に耐えられなくなった時、ベルトランやレジスはエヴァに救いを求めたのでしょう。
そうなるとエヴァは決して悪女ではないと感じます。
ベルトランを演じたギャスパー・ウリエルは、「『エヴァとは一体何者なのか?』という問いには誰も答えられない。だからこそ魅力的な人物なんだ。」と語っており、観る人によってエヴァの印象は変わるかもしれませんね。