『CLIMAX クライマックス』は2019年11月1日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開!
日本で1994年公開の中編映画『カルネ』、2000年公開の長編映画『カノン』。カンヌ国際映画祭で衝撃を与えたギャスパー・ノエ監督作品は、日本でも衝撃を持って迎え入れられました。
その後もフランス映画界で、孤高の活動を続ける鬼才の作品が、いよいよ日本公開されます。
人里離れた雪山の中にある、廃屋に集まった22人のダンサーたち。公演に向けたリハーサルを終え、打ち上げパーティーを始めた彼らは、なぜか理性を失い、狂気に囚われてゆく。
そのストーリーだけでなく、映像に音響など、映画を構成する全てが、見る者を蝕む問題作。97分間ただ墜ちまくる、耐えられないほど魅力的な狂宴が、幕を開ける…。
CONTENTS
映画『CLIMAX クライマックス』の作品情報
【日本公開】
2019年11月1日(金)(フランス・ベルギー合作映画)
【原題】
Climax
【監督・脚本・編集】
ギャスパー・ノエ
【出演】
ソフィア・ブテラ、ギレルミック、ソウヘイラ・ヤケブ、キディ・スマイル
【作品概要】
新作を発表するたびに、賛否両論を巻き起こす映画監督、ギャスパー・ノエの最新作。見る者をトランス状態に陥らせる、ドラックとセックス、バイオレンスに満ちた問題作が誕生しました。
その映像を生み出した撮影監督はブノワ・デビエ。独自の照明技法を生み出し、2003年日本公開作『アレックス』以降の、ノエ監督作品には欠かせない人物です。
彼の映像の魅力は、ハーモニー・コリン監督の『スプリング・ブレイカーズ』、俳優ライアン・ゴズリングの初監督作『ロスト・リバー』でも味わう事ができます。
出演は『キングスマン』『アトミック・ブロンド』のソフィア・ブテラ。ダンサーとしてキャリアをスタートさせた彼女が、他のダンサーと共に激しいダンスと、その後繰り広げられる狂宴を披露します。
第71回カンヌ国際映画祭監督週間で上映され、芸術映画賞を受賞した作品です。
映画『CLIMAX クライマックス』のあらすじ
雪景色の中に現れた血にまみれた女性。その姿を上空からとらえた映像から始まり、この映画は1996年冬に起きた、実話であると紹介されます。
場面は変わり、様々な国から集まったダンサーたちの、ダンスや音楽への熱意や人間関係、不安や恐怖の対象、セックスそしてドラックの体験などを語る、インタビュー映像が流されます。
その後インタビューに登場した、セルヴァ(ソフィア・ブテラ)たちダンサーの、激しくも美しいパフォーマンスが披露されます。彼らは雪に閉ざされた廃屋で、公演に向けたリハーサルを行っていました。
リハーサルは上々の出来で終了、一同は打ち上げパーティーを始めます。用意されたサングリアを飲み、踊りと会話に興じるダンサーたち。
徐々に彼らの言動は激しく、欲望や怒りをむき出しにしたものに変貌します。常軌を逸した行動をする者が現れ、彼らは何者かがサングリアにドラッグ(LSD)を入れたと気付きます。
その犯人探しから、彼らの行動は一線を越えてしまいます。トランス状態に墜ちた彼らは、暴力的に振る舞い、欲望をむさぼり、恐怖に囚われ、やがて廃屋の中は地獄絵図と化していきます。
一体誰が、何の目的でサングリアにドラックを入れたのか。そして理性を失ったダンサーたちの狂宴は、いかなる結末を迎えるのか…。
映画『CLIMAX クライマックス』の感想と評価
暴力的な映像・音楽・クレジット!
紹介したあらすじに、R18+指定。映画が不穏当なものであることは、鑑賞前に誰もが気付くでしょう。
そしてギャスパー・ノエ監督の過去の作品を知る者の予想通り、この映画は俳優の演技や映像、音響のみならず、クレジットやスーパーの文字までが、挑発的に登場します。
画面の登場する文面を、一つだけ取り上げると“誇りを持って世に出すフランス映画”と、高らかに本作を紹介しているノエ監督。これから起きる地獄絵図は、確信を持って作られたものと、覚悟してご覧下さい。
圧巻のダンスシーンを長回しでとらえた映像は、映画の進行と共に不安をかき立てるアングルへ変化し、ノエ監督&ブノワ・デビエ撮影監督お馴染みの、赤や青の満ちた映像の迷宮が描かれます。
狂宴が始まると叫び声だけでなく、場内は重低音に包まれ、観客を生理的にも追い込みます。映像にこだわる監督の意図に応えるべく、日本語字幕も一工夫(!)して画面に登場します。
過去のノエ監督作品の暴力シーン、性描写シーンの方が凄かった、と語る方もいるでしょう。しかし断言します。本作は監督の過去作以上に、映画そのものが暴力的な内容です。
ギャスパー・ノエは準備周到に挑発する
この映画の舞台は1996年冬。冒頭のダンサーたちの、インタビューを映すシーンで、ブラウン管テレビの横に、映画関係の書籍と、映画のVHSビデオが積まれています。
ビデオのタイトルは『サスペリア』に『サンゲリア(ゾンビ)』、『ポゼッション』に『ファスビンダーのケレル』、『イレイザーヘッド』に『アンダルシアの犬』、『ソドムの市』に『切腹』、ケネス・アンガー監督とヤン・クーネン監督の短編映画…。
ノエ監督には珍しい、自身が影響を受けた、好きな映画の表明が行われています。また劇中に突然挿入される、スーパーでの出演者・音楽・主要スタッフの表記には、カラフルでポップな文字を使用。これらのお遊びは、クエンティン・タランティーノ監督を思わせます。
しかし他の劇中の文字の挿入は、ジャン=リュック・ゴダール監督の手法にならったもの。ポップな表現と、難解かつ高尚な表現が、劇中に両立しています。
そして素晴らしいダンスを収めた映像は、天井から真下を見下ろした映像で描かれます。ミュージカルシーンで多様される“バークレイ・ショット”という技法です。
この安定した美しい映像も、登場人物を追い不安定なアングルに変化し、居心地の悪い映像に変わります。それと共にポップな要素も高尚な要素も消え、地獄絵図だけが残ります。
安定した、そして娯楽的・芸術的な映画の様式を、破壊する目的で作られたこの作品。ギャスパー・ノエ監督は、あらゆる観客を挑発する映画を作り上げました。
バイオレンスな作品を認めないフランス映画界への挑戦状
カンヌで高い評価を得ているノエ監督。しかし意外な事にフランス本国での評価は、決して高いものではありません。
残酷な人形劇“グラン・ギニョール”を生んだフランス。ジョルジュ・フランジュ監督の『顔のない眼』や、ロジェ・ヴァディム監督の『血とバラ』など、優れたホラー映画を生み出しています。
しかしフランス映画界にとって、映画とは格調高く芸術的なもの。ホラー映画は映画界本流のものと扱われず、国内の映画祭で評価されることもまずありません。
そんななか孤独に、保守的なフランス映画界を、挑発する様に映画を作り続けるノエ監督。その姿は、0(ゼロ)年代始まった“ニュー・ウェイヴ・オブ・フレンチホラー・ムーブメント”の監督たちに、大きな影響を与えます。
このフランス映画界の現状は、小林真里監督のドキュメンタリー映画、『BEYOND BLOOD』で紹介され、世界のホラー映画ファンに大きな驚きを与えました。
アレクサンドル・アジャ、アレクサンドル・バスティロ、ジュリアン・モーリー、ザヴィエ・ジャン、パスカル・ロジェといった、バイオレンス性の高い“ニュー・ウェイヴ・ホラー”映画を作った監督たち。
彼らが影響を受けたと語る、唯一フランスで現役で活躍している、ホラー・バイオレンス映画の監督が、ギャスパー・ノエです。
彼の孤独な戦いは、優れた後進監督を産み、そして今フランス映画界をも変えようとしています。その経緯は『BEYOND BLOOD』でご確認下さい。
まとめ
映画的に大胆かつ挑発的な構成を持つ、『CLIMAX クライマックス』について解説しました。しかしそんな事は全て忘れて、ただ映画に向き合えば、間違いなく衝撃を受ける作品です。
エッジの効いた映画好きで、危険な世界を覗きたい人に、自信を持ってお薦めします。ですが、映画で描かれた地獄絵図に、付き合いきれないと感じる方もいるでしょう。
セックスと暴力に満ちた、トランス状態の狂宴もやがて終わります。そして惨状の中には、どこか安らぎに満ちた人物(カップル)の姿もあります。
地獄や狂気の中に、確かに存在した幸せな時間や、僅かに残った救いを描く。これもまた、ギャスパー・ノエ監督らしい要素を持つ作品です。
映画『CLIMAX クライマックス』は2019年11月1日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開!