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Entry 2017/11/19
Update

映画『予兆 散歩する侵略者 劇場版』ネタバレあらすじと感想。ラスト結末も【夏帆×染谷将太×東出昌大おすすめ代表作】

  • Writer :
  • 西川ちょり

2017年9月9日公開『散歩する侵略者』のアナザー・ストーリーとして、WOWOWで放送&ネット配信された全5話のドラマ『予兆 散歩する侵略者』を映画版としてまとめ、待望の劇場公開!

本家以上の黒沢清ワールドが展開されています!

映画『予兆 散歩する侵略者』作品情報


(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

【公開】
2017年(日本映画)

【監督】
黒沢清

【キャスト】
夏帆、染谷将太、東出昌大、中村映里子、岸井ゆきの、安井順平、石橋けい、吉岡睦雄、大塚ヒロタ、千葉哲也、諏訪太朗、渡辺真起子、中村まこと、大杉漣

【作品概要】
黒沢清監督が劇団「イキウメ」の舞台を映画化した『散歩する侵略者』(17)のスピンオフとして制作され、WOWOWで放送&ネット配信された全5話のドラマ『予兆 散歩する侵略者』の劇場版。

悦子のところに後輩が訪ねてくるが、彼女の家には幽霊がいるという。彼女はどうやら「家族」の概念を失ってしまったらしい。そんな折、夫が勤める病院で、悦子は真壁という奇妙な医師と出会う。

2.映画『予兆 散歩する侵略者』のあらすじとネタバレ


(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

山際悦子が仕事から帰宅すると、先に帰宅していた夫の辰雄がベランダでぼんやりとたたずんでいました。いつもと何か様子が違うように見えましたが、辰雄はなんでもないと否定します。

それはほんのちょっとした違和感から始まったのです。

悦子は職場の工場で同僚の葉子に何見てるの? と声をかけられます。悦子は空を見ていました。「ちょっと気になって」。

工場長の粕谷がやってきましたが、右手に持った帳簿を二度も落とし、葉子は呆れたような目を悦子に送ってきました。

悦子が倉庫で探し物をしていると、非番のはずの浅川みゆきがそばに立っていました。「今晩泊めてもらっていいですか?」

その理由を聞くと「怖いんです」と彼女は答えました。「何が?」「幽霊が。」

彼女は話し出しました。今家にいるのはそうとしか考えられないと。見た目は普通の人なのに、誰だかわからない。なのに、当たり前のようにそばにいる。これって見てはいけないものを見ているっていうことですよね?

悦子は自宅にみゆきを連れ帰りました。辰雄が帰ってきたのを見て、みゆきは恐怖の表情を浮かべました。「悦子さんは平気なんですか? 今の男の人みたいなああいうの、ここにもいるんですね」

翌日、悦子はみゆきに連れられてみゆきの家にやってきました。インターホンを押すと、彼女の父親らしき人が出てきましたが、みゆきは隠れてしまい、悦子だけが家にあがりました。

男はれっきとしたみゆきの父親のようでした。急によそよそしくなり、最近では見るのもいやだという態度を取る、母親が死んで10年になるが、手塩にかけて育ててきたつもりです、なんでこんなことにと父親は嘆くのでした。

その時、庭の方で音がするので、父親がカーテンを開けると、そこにいたみゆきが激しく悲鳴をあげました。

悦子はみゆきを診察してもらうため、辰雄が勤務する病院の心療内科へやって来ました。診察が終わるのを待っている時、彼女は不吉な音と揺れを感じます。

それがおさまったと思った途端、側の自動ドアが誰もいないのにすっと開き、しばらくしてから背の高い医師らしき男がやって来ました。

悦子と男の視線がぶつかり、男が悦子の方に近寄ろうとした時、辰雄がやってきました。「真壁先生いきましょう」と呼び、悦子を妻だと紹介しました。真壁は「新任なんで山際君にはお世話になっているんですよ」と悦子から視線をはずさずに言いました。

みゆきの診察が終わり、病室に行くと、担当医の小森は「家族の概念が消えているようだ」と告げます。「健忘症の一種なのか…? でも概念が無くなるなんて聞いたことがない」

帰宅した悦子は辰雄に「真壁先生とはどういう関係なの?」と問いました。病院に慣れてないから面倒を見ていると答える辰雄に「あの人何かおかしい」と悦子は言うのでした。

辰雄が皿を落として割ってしまったので、二人で掃除していると、辰雄は左手しか使っていません。右手はどうしたの?と尋ねてもなんでもないという返事しかかえってきません。

悦子は悪夢にうなされて目が醒めました。辰雄はベランダに立っていました。彼は振り返り、「もうすぐ世界が終わるとしたらどうする?」と尋ねました。

「私多分何もしない。いつもどおりの生活を続けると思う」と答えると、辰雄は「助かる枠があるとしたら?」と重ねて聞いてきました。数人だけと聞き、「じゃあやだな」と悦子は応えました。

悦子は葉子にそれとなく、辰雄が質問してきた事柄を話し、どういう心理状態なのだろうと尋ねてみました。

葉子は「冷静で客観的なんじゃないかな。世界なんていつ終わってもおかしくない。終わらない方がおかしい。でもどうせ終わるならあと50年位は終わってほしくないな」と応えました。

みゆきの見舞いに来た悦子は、ロビーでひそひそ話をしている辰雄と真壁を見かけます。近づいてみると、真壁は、みゆきの事を話し始めました。誰かが“概念”を奪ったのではないか、と。

地球を侵略しようとしている宇宙人が、人間を動かす“概念”というものの存在を知り、それを理解するために集めているのだと。

あわてて辰雄はみゆきのところに行くよう悦子を促しました。どうしてあんなことを言うんだと責める辰雄に、「僕たちも行こうか。君はガイドだ。紹介してくれるんだろ?」と真壁は悪びれず言うのでした。

小森医師によると、似たような症例が何件も報告されているそうです。欠落する概念はまちまちだが、誰もが突然概念を失っているようなのだと言いながら、彼は困惑しているようでした。

「君の奥さん、もう気づいているよ。僕が普通じゃないことに」と真壁は言いました。「妻に手を出すなよ」という辰雄に「ガイドは君だ。君が紹介してくれる人間にしか手を出さない。約束しただろ」と言って微笑みました。

辰雄は初めて真壁と会った時のことを思いだしていました。病院のゴミ捨て場の前で真壁が「君は今日から俺のガイドだ」と言いながら右手を強く掴んできたことを。

我に返った辰雄は真壁にせがまれるまま、ある女のもとへ来ていました。彼が務める病院のお得意さまの女社長です。「低レベルと判断した材料は?」と問われ、「はんぱじゃないワイロを払っている。肉体も含めて」と答えました。

真壁は女に駆け寄ると「あなたは低レベルな人間ですか?」と問いました。女が腹を立て、「私にもプライドはあるのよ」と言うと、真壁は「それもらいます」と人差し指を女のひたいにあてました。女は涙を流し、その場にうずくまってしまいました。

その夜、悦子は辰雄に言いました。「助かる枠があったらどうする?って言ってたよね。あの時はいいやっていったけどあれはうそ。私辰雄とふたりで助かりたいな」。

辰雄は真壁を連れ、中学の時の担任の自宅を訪れていました。辰雄を気に入らないという理由だけで差別した男です。辰雄は激しい恨みを抱いていましたが、彼はそんなこと何一つ記憶にないようでした。

卒業アルバムや文集などをめくりながら、一人懐かしがっている元担任に真壁は近寄ると、「あなたのその頭の中に浮かんでいるものはなんですか?」と尋ねました。「過去?」と元担任が答えると「それ、もらいます」とひたいに人差し指をあてました。

担任は崩れ落ち、涙を流します。さらに真壁は「未来」「命」とタイトルのつけられた文集を差し出し、これをイメージしてくださいと言って、それらの概念も奪ってしまいます。

その夜、疲れて帰ってきた辰雄は不機嫌で、一人ソファーで眠ってしまいました。しかし悪夢を見て激しくうなされます。

翌朝、心配した悦子は、仕事は休むように、絶対家を出てはいけないと言い残して出かけました。

悦子は葉子あてに「病院に行ってきます。午後になっても帰ってこないようなら警察に連絡してください」というメールを送り、真壁の元へ向かいました。

真壁に「夫を開放してやってください」と言うと、彼は「僕に何か感じてますね。あなたは特別な人間だ」と言い、悦子に近づいてきました。悦子から「恐怖」の概念を奪おうとするも、指が弾かれ、出来ません。「すごいよ、君は!」真壁は驚きの声をあげました。

「夫を開放してくれますか?」「彼はただのガイドです」「どうやったら正常に戻れるのですか?」「彼の心の問題なんだけどなぁ。心にやましいことがあると痛みを感じるのです」

「だが、あなたは違う」と真壁は悦子を見つめました。「どうしてあなたのような個体が誕生したのか。我々は興味があります」

自分たちは宇宙から来た侵略者だと名乗る真壁から逃げるように駆け出した悦子は廊下で人にぶつかってしまいます。

それは葉子でした。あんなメールもらったら誰でも心配するでしょ、と彼女は笑って言いました。

みゆきの病室で、「真壁先生には気をつけて」と悦子が葉子に話しているのを耳にした小森は「真壁先生は関係ないでしょ」と笑いましたが、悦子は「関係あります! 先生に電話して今すぐここに来るよう言ってください!」と大声をあげました。

彼女の迫力に押され、電話を入れた小森でしたが、真壁はもう院内にはいないらしいとのことでした。

その頃、真壁は辰雄の家に来ていました。「恐怖」という概念が欲しい、案内してくれと強引に辰雄を連れ出します。

右手の痛みが増し、覚悟を決めた辰雄は、見知らぬ男に麻酔薬をかがせ、拉致。誰もいない場所に運び、二人で大きな穴を掘りました。

男は人違いだ、何かの間違いだ、と騒いで暴れていましたが、二人は穴に男を運ぶと、土をかけ始めました。真壁は男の額に触れ、「これが死への恐怖か」とよろめきながら、満足そうな声を出しました。

「君の奥さんはサンプルとして生かしておく。よかったなぁ、君の奥さんは助かるんだ」と言う真壁の頭を辰雄はスコップで思いっきり殴り、逃走。戻っていた悦子に「もう終わりだ。俺は人を殺した」と告げました。

以下、『予兆 散歩する侵略者 劇場版』ネタバレ・結末の記載がございます。『予兆 散歩する侵略者劇場版』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
「あいつは来る。必ず来る。」震える夫を抱きしめて「あの男の好きにはさせない」と悦子は決意を固めるのでした。

翌日、悦子が工場に行くと、倉庫で粕屋が倒れていました。粕屋は、自分はガイドで、みゆきを差し出したのは自分だと言い出しました。

悦子が私の夫もガイドですと言うと彼は驚いたようでした。彼女が一番若いという理由だけで差し出してしまった、彼を動かしているのは彼の妻で、なんとかやめさせてくれと頼んだがダメだったと告白します。

そこに彼の妻が入ってきました。彼は血まみれの右手を高々と挙げて固まっていました。彼女が歩くと周りの人間がバタバタと倒れていきます。

「あなたが今感じているそれは…嫌悪感ってやつね。それ、もらいます」と粕屋の妻は言うと、悦子の額に指をあてましたが、「何、これ? 奪えない」と叫びました。

その頃、葉子は真壁に会いに病院を訪れていました。「先生はすごい秘密を隠していますね」と彼女が言うと真壁は、我々は地球を侵略しにやって来た宇宙人です、と答えました。

でも普通の人間に見えますけど、と葉子が言うと、「彼の外見と記憶を介してしゃべっています」と答えました。

「あなたは悦子に関心を持っていますね。どうしてですか?」葉子は真剣な顔を真壁に向けました。「悦子さんは特別な人間です」

「私じゃダメですか?」 葉子を見て真壁は「面白い」と言いました。「あなたのような人が持っている概念、興味があります」

悦子が家に戻ると、辰雄は右手の痛みに苦しんでおり、根本を固くしばってくれと頼まれました。包丁で右手を切り落とそうとする辰雄をあわてて止め、「真壁さんに戻してもらおう」と言いました。

真壁が病院内を歩くと、周りの人々がバタバタと倒れていきました。病院に駆けつけた悦子と辰雄はその有様に驚きます。「これはひどい…。俺の選んだ相手しか奪わないと言ったのに」と辰雄は呟きました。

二人は真壁の部屋に行きましたが、扉の前で「もういない」と悦子は断定しました。「ちょっとここで待っていて」と辰雄は言い残してその場を離れ、悦子は真壁の部屋に入ってみました。

すると見覚えのある上着が落ちていました。あわてて、部屋内の倉庫のドアを開けると、そこに、意識を失った葉子が倒れていました。

辰雄は念のために痛み止めを持ち出そうとしていました。中毒になることを心配した悦子は、自分が預かることにしました。

その時、病院の裏口から男が一人入ってくるのが見えました。男は厚生労働省の西崎だと名乗り、「悦子さんですか?」と尋ねました。

「小森先生からあなたのことは聞いています」彼らは、一連の事件を調査しており、真壁を追っていました。

ファミリーレストランで客やウエイトレスが倒れている中、一人、黙々と食事をしている真壁を警察は密かに取り囲んでいました。突入すると彼はおとなしく手をあげました。

体育館のような広々とした場所の中央に、車椅子に縛られ手錠をかけられた真壁がおり、かなり離れた位置にカメラやPCを配置し、警察や西崎たちが彼を取り囲んでいました。

「概念を集めていますよね。もっと安全な方法があるのではないですか? お互い認めあって共存できませんか?」と西崎が語りかけました。

「共存ってなんですか?」と問う真壁。「全面戦争になればそちらも犠牲が出るじゃないですか?」と答える西崎。しかし、真壁は意味がわからないと交渉を拒否しました。

あなたに頼るしかないと言われ、悦子は真壁のもとへ近づいていきました。真壁は微笑み、自分は死の恐怖を知ったんですよと嬉しそうに告げました。

「サンプルにもなんでもなります。山際の手の痛みをとってください」と悦子は頼みました。「彼の心の問題なんだけどなぁ」としぶる彼に「あなたに頼るしかないのです」と悦子は懇願します。

「わかりました。もう一度彼の手を握りましょう。そうしたら彼は開放されます」そうして悦子の手を取ると、きつく握り、悦子が逃れようとしても離しません。あたりが騒然とする中、やっと手を振り切り、悦子は走ってその場を離れました。

西崎は、本来なら我々があなたを守らなければならないのだが、と言いながら、拳銃を彼女に渡し、ご自身で自分を守ってくださいと言うのでした。

固く抱き合う悦子と辰雄。「逃げよう!」 二人は車を走らせました。すると、辰雄の右手が痛み始めました。「ダメだ。逃げられない!」

あまりの痛さに、車を止め、工場のようなところに入って体を横たえ、痛み止めを打ちました。

悦子はここで待っていてと夫を寝かせると、真壁を迎えに行きました。真壁は体育館で一人座っていました。

「概念を奪える範囲が広がったので、みんな逃げていきました。手錠をはずしてくれませんか?」 悦子は手錠のキーを探して彼を開放すると、車に乗せるのでした。

「人類はいざとなると人類全体のことは考えず、自分のことだけを考えるんだ。悦子さん、あなたは山際くんのためなら人類を裏切りますね? なぜですか?」

「愛しているからです」と悦子が答えると、彼は「愛」の概念を欲しがりました。「もし、本当に助けてくれるのなら、ほんの少しだけあなたを好きになるよう努力します」と悦子は言いました。

辰雄のいる工場につくと、彼の右手の痛みは限界に達していました。抱き合う二人を見て、「これが愛か」と真壁は呟きました。

真壁は辰雄の右手を握りましたが、右手はしびれた感じで一向に良くなりません。「それは君の心の問題だ。僕を求めている間は何も変わらない」と真壁は言いました。

辰雄は真壁に一つだけ願いごとがあると言い出しました。「外科医なら右手を切り落としてくれ。向こうに斧があるから」

彼の言葉に悦子はダメだよ!と反応しますが、辰雄は小声で伝えます。目の前のレバーを引けば、天井からぶら下がっているパイプが落下するよう細工しておいたと。

二人は錆びたレバーを懸命に引きますが、変化がありません。真壁が二人の様子に気付き顔色を変えました。ダメか!と思った瞬間、パイプがけたたましく真壁の上に落下しました。

二人は外へ駆け出しました。右手の痛みがましになっている、と辰雄は運転席に座りました。しかし、真壁はパイプの中から這い出していました。

右手が痛み始めました。やつは生きていると辰雄はうめき、痛み止めを欲しがりました。短期間に打ち続けるのは危険です。悦子は拒否しますが、辰雄は悦子のかばんを奪おうとします。かばんが飛び、拳銃が飛び出ました。

「こんなものを持ってたのか」と驚く辰雄に「ここで10分間待ってて」と言い、悦子は拳銃を持って、中に入っていきました。

拳銃を構えながら、真壁を探す悦子。真壁は斧を持って物陰に隠れていました。どこを見ても真壁がいないので、悦子が少し力を緩めた瞬間、後ろから真壁がするすると近寄り、斧を振りかざしました。

一瞬悦子が早く銃を撃ち、動きの止まった彼の体に何発も弾を打ち込みました。

真壁は心臓が止まったのを悟り、「人類が共存を望むのはこれだな」と口走ると息絶えました。

悦子が外に出ると、雨が降り出していました。それは彼女たちが悪夢で観た風景そのものでした。

こうして侵略が始まったのです。

3.映画『予兆 散歩する侵略者』の感想と評価


(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

2017年度は黒沢清の『散歩する侵略者』が観られただけでも大満足な一年だというのに、さらにスピンオフまで出来て、映画バージョンとして劇場公開されるなんて嬉しすぎます!

風に揺らめくカーテンという冒頭から、真後ろから近づいていって、いつの間にか対象物を真横にとらえているカメラの移動、その画面の斜め後方に黒い影が立っているホラー演出と、開始早々、黒沢映画らしさ全開で物語は進んでいきます。

東出昌大は初登場の『クリーピー 偽りの隣人』(2016)から黒沢作品と相性のいい俳優なのでは?と各方面で言われていましたが、今回、そのことが明確に立証されました。

『散歩する侵略者』でも愛を語る神父役で登場し、少ない出番ながら強烈な印象を残しましたが、本作では、主役の一人として、ほぼ全篇、怪しくも魅力的な“侵略者”として画面を支配します。

一方、夏帆は、普通の主婦として登場しますが、やがて東出によって「特別」な存在として崇められていきます。

ですが、彼女は地球の平和を守るための救世主でなく、愛する夫を守るため闘うヒロインとして映画に降臨します。

世界が滅びても夫と二人で生き残りたいという恐ろしいほどの強い愛を持っていることが彼女の「特別」ともいえ、活劇に相応しい人物として、拳銃を持つことを映画から許されるのです。

本作は明快に「愛」と「活劇」の物語です。

そもそもこの映画では、概念を奪われた人がバタバタと倒れる以外、雨が降る以上の現象は起こりません

本家『散歩する侵略者』で起こる派手な事故も、あるいは、宇宙人による侵略シーンも登場せず、代わりに銃と斧が織りなす活劇が展開するのです。これが実に素晴らしい!

さらに「愛」という観点で追えば、本作は宇宙人の失恋を描く稀有な作品とも解釈できます

二人が目の前で抱き合う姿を見て、これが愛か、と呟く東出は、まるで指をくわえてみている無垢な子どものようであり、結局愛の概念を手にすることはできず、死んでいく姿には哀愁すら漂っています。

(ただ、そのせいで、本作における侵略は本家のそれのように途中で中断することはないと予測できます。「愛は世界を滅ぼす」展開となるわけです。)

全篇、重々しい空気が流れている本作ですが、黒沢清作品特有のユーモラスなシーンもきっちり存在します。

大杉漣が、東出に向かって、口笛を吹くシーンには思わず笑ってしまいました。犬じゃないんだから(笑)。

まとめ


(C)2017「散歩する侵略者」スピンオフ プロジェクト パートナーズ

夏帆が、後輩の診察を待って病院の待合に座っているシーンの異様さは特筆に値するでしょう。

おそらく、実際は病院ではないところを病院として撮っているのでしょう。その違和感というか、居心地の悪さの中で、怪奇現象が起こります。しかしその怪奇現象以上に奇怪なものが存在しました。

カメラが赤い手すりをたどって進むのですが、ここは病院という刷り込みがあるせいか、血管のように見えたのです。

しかも、よく観れば、夏帆が座っている座席の背後は窓になっているのですが、その向こう側にカーテンらしきものが風になびいているのが見えます。

え? 窓の向こう側にカーテン? と驚き、よく見て、あ、ベッドのシーツを洗濯して干してあるのかと思い直したのですが、しかしそれにしては干す位置が非常に高く、何か得体の知れない衣が窓の向こうで風になびいているとしかいいようがありません。

また、最後の舞台となる廃工場もいかにも黒沢的な舞台で、嬉しくなりますが、寧ろ、最近の作品では、なんの変哲もない、どこにでもあるような家屋や土地で異様なことが進行している事が多いように思われます。

ただ、それらが絶妙な雰囲気の物件であることは確かです。見ようによっては夏帆と染谷将太が住んでいるマンションもどことなく変です。窓枠やキッチンの柱で画面を分割するかのように撮っているのも見逃せません。

WOWOWの連続ドラマの方も観たのですが、これは続けて映画という形で観る方が断然面白く、ドラマを観た方も是非、映画バージョンを観ていただきたいと思います

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