『ゲット・アウト』のジェイソン・ブラムが製作した映画『アップグレード』
『アップグレード』は、「ソウ」シリーズや「インシディアス」シリーズの脚本を書いたことで知られるリー・ワネルの監督作品。
AIが進化した近未来を舞台に復讐に燃える男性を描いたSF・アクションスリラーです。
80年代の『ターミネーター』(1985) や『ロボ・コップ』(1988) を彷彿とさせる、クリエイティブな物語と独創的なアクションシーンが話題を呼んでいます。
主演は『プロメテウス』のローガン・マーシャル=グリーン。
映画『アップグレード』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Upgrade
【監督】
リー・ワネル
【キャスト】
ローガン・マーシャル=グリーン、ベティ・ガブリエル、ハリソン・ギルバートソン、ベネディクト・ハーディ、リチャード・カウトーン、メラニー・パレイヨ
【作品概要】
『アップグレード』は、リー・ワネルにとって『インシディアス3』に続き2度目の長編映画監督作品です。製作はヒットメーカーのブラムハウス・プロダクション。本作は批評家から高評価を獲得し、サウス・バイ・サウスウェスト映画祭で観客賞を受賞しています。
映画『アップグレード』のあらすじとネタバレ
メカニックのグレイ・トレースは、顧客である天才発明家エロン・キーンの車を修理。車を届けた帰りに足が必要な為、妻・アシャに頼み一緒に行ってもらいます。
エロンの家は地下に建造されており、最先端の機能を装備しています。グレイとアシャが到着すると、エロンは自分が作ったステムと呼ばれるコンピューター・チップを2人に見せ、全てを可能にする最先端の脳だと説明します。
自動運転車で帰路に着いたグレイとアシャですが、自宅とは反対の方角へ向かっていることに気が付きます。搭載されたAIは機能不全に陥り交通事故を引き起こします。
そこへ複数の男達が現れ夫婦を襲います。AIの緊急通報に応じたドローンが上空を飛行する中、アシャは射殺されグレイも背中を撃たれます。
脊髄を損傷したグレイは身動きが取れず、救急車のサイレンを聞きながらアシャが自分を見つめたまま息絶える所を目にし涙を流します。
四肢麻痺となったグレイは車いすの生活を余儀なくされ、薬の服用も自宅のAIに頼る生活。
ドローンが録画した事件当時の映像では犯人の特定が出来ないとコルテス刑事から聞かされ、グレイは更に落ち込んでいきます。
グレイは自宅のAIに薬剤の過剰摂取をさせ、病院へ搬送されます。絶望するグレイを見舞いに訪れたエロンは、ステムを埋め込めばまた歩けるようになると話します。
生きる希望を失ったグレイに対し、「アシャなら何を望むだろう?」そうエロンは言い残します。
グレイはステムを受け入れる手術を決意。全く動かせなかった指が動き、車椅子から立ち上がったグレイは、一歩踏み出します。
エロンは機密保持契約への署名をグレイに求め、対外的にはこれまで通り車椅子の生活をするよう忠告します。
自宅へ戻るとコルテス刑事から事件資料が届いていました。グレイがドローンの録画映像を見ていると、突然頭の中で「見せたいものがある」そう声が聞こえます。
自分が正気を失ったと思うグレイですが、自分に話し掛けているのはステムだと気が付きます。
ステムはグレイとだけ交流できるオペレーション・システムだと分かり、その指摘を聞いて見ることにします。
ステムは録画映像を解析。アシャを射殺した男は腕の中に埋め込んだ銃を使用し、別の男の手首には刺青がしてあります。
更に、ステムはぼやけた画像を復元。グレイの手を操り紙に刺青の絵を描きはじめます。
軍人が入れる刺青から、サークという名の元海兵隊で血液型O、カトリック教徒、そして登録住所も判明。
グレイは犯人の1人を特定できたとコルテス刑事に伝えようとしますが、ステムは、自分について口外せずに説得できる証拠は無く、警察に通報する前に男が犯人であることを先ず確かめるべきだと助言します。
グレイは車椅子でサークの家へ行き、カギをこじ開けて侵入。履歴に残っていたサーク当てのメッセージから地域のバーに手掛かりがあることが分かります。
そこへサークが自宅に戻ってきます。グレイに飛び掛かったサークは、自分が襲った相手だと気が付きグレイを殺そうとします。
グレイはステムに助けを求めますが、ステムは許可が要ると答えます。許可を与えると言った途端、グレイの体は驚異的な身体能力を発揮。
グレイは、自分の意思とは関係なく体が勝手に動いてサークを攻撃するのを見ながらおののきます。
台所へ投げ飛ばされたサークがナイフを握ると、グレイは「ナイフを持ったぞ!」と怯えて叫びステムに忠告。
「こっちにもあるよ」とステムが言ったそばから、ナイフを掴んだグレイがサークを刺殺。グレイは人を殺害したことに動揺します。
ステムに助言を求めると、家の中からグレイの指紋を全てふき取るよう助言します。
何に触れたのか分からないと言うグレイに、ステムは、グレイが触った物全ての記録があると答えます。
警察の検視官から呼び出されたコルテス刑事は、サークの体に医療的に埋め込まれたコンピューターや筋肉内の銃を見せられます。
ステムの動向を追跡したエロンは自分の発明が漏れることを危惧し、グレイに苛立ちを露わにします。
更に、グレイからステムが独自の思考を有していると聞いて驚きの表情を浮かべ、これ以上事件の捜査はしないようグレイに釘を刺します。
しかし、妻を殺害した首謀者を探す為、グレイはサークの家で知ったバーを訪れます。
映画『アップグレード』の感想と評価
『アップグレード』は、思考を持つコンピューター・チップが人間の体を乗っ取る為、唯一支配できない心を折ろうと画策する斬新な物語です。
内容が緻密になればなるほど辻褄を合わせるのが難しくなるSFジャンルで、監督と脚本を兼ねたリー・ワネルは最後までペースを落とさず、ひとひねり加えたエンディングを用意しています。
製作したブラムハウス・プロダクションは続編以外の映画製作には5百万ドル前後の予算枠を設けることで知られていますが、ワネルとクルーがこれだけのSF映像と特撮を僅か資金で完成させたことは驚異的。
プロデューサーのジェームズ・ブラムが当初4千万ドル掛かる映画だと本作を呼び、縮小を求められたワネルは、チームと一緒に予算の限界に挑んで近未来の世界を構築。俳優陣の好演も加わり批評家と観客双方から高評価を得ました。
例えば、グレイがエロンから派遣された暗殺者を倒すシーンは、2回のテイク分しか予算上準備できませんでした。
最初は爆発が上手くいかず、ワネルやクルーは祈る思いでモニターを見守り、2度目で期待通りに人形の頭が飛び散った瞬間、皆で喜び合ったとワネルは撮影の苦労を明かしています。
また、主人公グレイ・トレースを演じたローガン・マーシャル=グリーンのコミカルさとドラマを上手く混ぜた演技が映画を強く印象付けています。
『24』シーズン4でナイーヴな青年、ジェリー・ブラッカイマーのDARK BLUE/潜入捜査では格好良い麻薬捜査官、とテレビドラマで注目を集めたマーシャル=グリーン。
スティーヴン・キング著『シャイニング』の劇中に使われたホテルで開催されるオーバールック・映画祭で2014年にマーシャル=グリーンが主演した『インビテーション』(日本公開は2014)が上映されました。
アドバイザーに名前を連ねるワネルは同作を観て、彼を本作の主演に選択。
また、コルテス刑事を演じているのは『ゲット・アウト』で複雑な心情を、泣き笑いで見事に表現したジョージア役のベティ・ガブリエルです。
ワネルは、大金やビッグネームを使わなくても、プロを起用することで良質で楽しい映画が作れることを『アップグレード』で証明しています。
まとめ
妻の復讐劇を描く近未来を舞台にした『アップグレード』。全身麻痺の大怪我を負ったグレイは犯人を追う為、最先端のコンピューター・チップを脊髄に埋め込み並外れた身体能力を手に入れます。
しかし、事件の黒幕は、人間の精神が限界に達して壊れるまで肉体の全面支配が出来ないと知るコンピューターでした。
本作は、リー・ワネルが独自の発想と工夫で心の可能性を描いたSFアクションスリラー。既視感の無いアクションは特に見所です。