Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

SF映画

Entry 2020/10/05
Update

【テネット解説】主人公の名もなき男の秘密ネタバレ考察!映画冒頭間もなく死んでいたことの検証

  • Writer :
  • 20231113

映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国ロードショー!

SF映画、クリストファー・ノーラン映画ファンのみならず、スケールの大きな大作映画を待ち望む世界の観客を集め、大ヒットを記録した映画『TENET テネット』。

内容は非常に難解だと話題です。繰り返し見る者、複雑な映画に挑もうとする者が、映画館に足を運んでいます。

自作に最新の科学考証を取り入れ、劇中に登場する言葉に仕掛けを用意しながらも、発見と解釈は観客の手に委ねるノーラン監督。

『TENET テネット』に関する様々な説に触れ、自分自身の解釈を生み出すのも楽しみ方の一つです。

映画『TENET テネット』のあらすじ


(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

正体不明の敵に捕らえられた”名も無き男”。拷問を受けた彼は死を覚悟します。

目覚めた彼は未来から現れた敵と、人類の存亡をかけた戦いが行われている事実を告げられました。

未来で開発された、時間の逆行を可能とする装置を駆使した戦いに身を投じる”名も無き男”。

未来からの敵に協力する者は何者か。そして仲間と共に、彼は最後の戦場に向かいます…。

詳細なストーリーを知りたい方は、こちらをお読み下さい。

過去の名作映画でも活躍する”名も無き男”


(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

※以下、ストーリーに関わる記述があります

冒頭、オペラハウスのテロ現場の突入部隊に加わる”名も無き男”。そこで多くの人々を救うものの、敵の手に捕らえられます。

拷問される”名も無き男(Protagonist=主人公)”。彼は自殺用の毒薬を取り上げられ追及を受けます。任務の秘密を守ることを選んだ男は、自らの命を絶とうと試みました。

ここで映画のタイトル、『TENET』が現れます…。

目覚めた”名も無き男”は目の前の男から、お前は死んだと告げられ、使命を与えられ新たな世界で生きるよう求められます。

さて、ここで”名も無き男”は、突然現れた男から告げられたように、文字通り死んでいたのでしょうか?

この構図は過去の映画の中に度々登場しています。

古くは黒澤明監督の『用心棒』(1961)。三船敏郎演じる主人公は”名も無き男”で、偽名として”桑畑三十郎”を名乗ります。

彼はヤクザたちに捕らえられ、拷問され半死半生の目に遭って逃れ、最後の決闘に臨みます。

『用心棒』はイタリアの西部劇映画、『荒野の用心棒』(1964)としてリメイクされました。

『荒野の用心棒』でクリント・イーストウッドが演じた主人公も”名も無き男(Man with No Name)”。

激しいリンチを受けた後に、最後の戦いを繰り広げます。

『荒野の用心棒』以降の西部劇映画にリンチを生き延び、逆種する主人公の姿は度々登場します。その後のアクション映画でもお馴染みとなる展開です。

これは疑似的な死から復活した主人公が、救世主となり悪を倒し人々を救う姿が、キリスト教的な価値観に重なり、好んで使われた結果です。

フェイとバーバラの正体とは


(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

『TENET テネット』は『用心棒』以降の、アクション映画で繰り返し描かれる展開に実に忠実な映画です。

普通に解釈すれば主人公が意識を取り戻した時点で、彼は死んでいません。比喩としてお前は死んだ、と告げられたはずです。

“名も無き男”にそれを告げた、この場面にしか登場しない人物の名はフェイ。

“妖精”の意味を持つ、神話的性格や未来を見通す力を示す名です。キリスト教的に解釈すれば、”天使”のような存在でしょうか。

フェイの言葉に従った彼はバーバラと出会い、銃の発砲が逆行する現象を見せられ、時間の逆行を理解します。

彼女もこのシーンにしか登場しません。バーバラの名にキリスト教的意味を求めると十四救難聖人の1人、聖バルバラ(バーバラ)にたどり着きます。

聖バルバラは建築家や消防士や鉱夫、そして囚人と砲手の”守護聖人”です。『TENET テネット』の主人公を守る聖人に相応しいのは、偶然でしょうか。

もし”名も無き男”が死んでいればその前に”天使”と、囚われ人と火器を操る者の”守護聖人”が現れ、彼を新たな世界に導いたと解釈できます。

キリスト教、カトリックの教理で死んだ者の魂は、天国と地獄の間にある「煉獄」に行き、そこで浄化されて初めて天国に迎え入れるとされています。

『TENET テネット』の世界を「煉獄」とすれば、そこにいる人々は天国に迎え入れられるか、地獄に堕ちる時まで延々と試練に耐えるしかありません

フェイとバーバラは普通に解釈すれば、人類の滅亡を企てる未来人を阻止する側の未来人、もしくはその意志に忠実な者です。

その名の宗教的意味と、”名も無き男”が「死んで、蘇った」直後に現れた点に着目すると、彼を異なる時間が支配する世界、来世にいざなったと解釈できます

こうして”名も無き男”は時間が逆行し循環する、逃れられない「煉獄」に囚われました。

繰り返される循環する世界


(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

終わること無く繰り返される世界のイメージは、クリストファー・ノーラン監督作品に度々登場します。

『インターステラー』(2014)は様々な科学考証を駆使し、時間を越え過去に働きかける、循環する壮大な物語を作り上げました。

夢の世界を描いた『インセプション』(2010)。登場人物は今いる世界が、夢か現実かを判断する手段として、トーテムを持っていました。

結末が現実であればハッピーエンド、夢の世界であればそこに、永遠に囚われていることになる『インセプション』の主人公。

ラストシーンで主人公のトーテムであるコマは、果たして倒れたのか回り続けたのかは、映画を見た者の間で議論の対象になります。

『プレステージ』(2006)では奇術師として、自分の複製を作ると共に殺害し続ける、狂気じみた男の姿を描きました。

『メメント』(2000)では記憶障害を持った男が、その症状を利用して繰り返し、自らを復讐に駆り立てる姿を描いています。

さらにこの作品は全ては主人公の空想であり、病院に閉じ込められた男の頭の中で繰り返す、果たされることの無い復讐劇とも解釈を生みました

ノーラン映画のる主人公は、抜け出せない循環に囚われた、「煉獄」の住人のイメージで創造されているのです。

まとめ


(C)2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

『TENET テネット』のタイトルが出る前に、”名も無き男”は死んでいないと解釈するのが自然です。

本作のラストで”名も無き男”は、死んでいた男により救われます。

時間が逆行する世界では、自分の死を踏まえた上で、状況を上書し修正することが可能だと示しました。

『TENET テネット』の世界にも死は存在するが、時間への逆行を利用すれば、自分の死を超越した行動が可能です。

“名も無き男”が死んだとしても、正確には「時間に逆行してきた自分の死を目撃しても」、それを踏まえて行動することが可能だと、このシーンは教えてくれました。

“名も無き男”は、巡行する時間の流れにいる人間には、死を超越した人物に見えるのです。

その意味で彼は、死後の復活を遂げた男であり、ゆえに世界を救う救世主になりました。

しかし彼自身は「煉獄」に囚われ、人知れず永遠に戦い続ける宿命を背負ったのです。

改めてフェイとバーバラの正体は何者でしょう。正義の側の未来人でしょうか。

それとも、抵抗組織を作り上げた”名も無き男”の指示で、彼を「煉獄」に案内する役割を引き受けたのでしょうか。

ノーラン映画に重ねて登場する「煉獄」のイメージ。

『メメント』は自らを復讐に駆り立て、『プレステージ』では自らを破壊する行為を繰り返します。循環から抜け出す時は、地獄に堕ちるであろうイメージしか得られません。

『インセプション』や『インターステラー』では、循環の中で愛する人に迫ろうと試みます。作品を重ねる毎に「煉獄」に生きる登場人物の行動は、前向きなものに変化します。

『TENET テネット』で”名も無き男”は、フェイとバーバラという”天使”と”守護聖人”に導かれ、「煉獄」に足を踏み入れました。

その戦いは彼自身にとって魂の浄化です。”名も無き男”が循環する「煉獄」から離れる時は、おそらく天国に向かう時でしょう。

このように解釈すれば彼は死んでいるのだ、と受け取れるのです。

映画の中に様々な仕掛けを散りばめたクリストファー・ノーラン。それを意識せずとも『TENET テネット』は、アクション映画として楽しめます

しかし劇中のワードやピースを集めると、様々な解釈が可能になります。

ノーラン監督は作品の解釈を観客に委ねています。それを大いに楽しみましょう。

映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国ロードショー!




関連記事

SF映画

『ビルとテッドの大冒険』ネタバレあらすじとラストまでの感想考察。SFタイムトラベル映画でキアヌリーブスの人気を確立したコメディ!

キアヌ・リーブスを一躍スターにした、伝説のSFコメディシリーズ第1弾 レンタルビデオにアーケードゲーム、ミュージック・ビデオやMTVなど新たに誕生したポップカルチャーがアメリカと、全世界を席巻しようと …

SF映画

映画『ファンタスティック・プラネット』あらすじ感想と考察評価。進撃の巨人のアニメに影響を与えた共通点も解説

映画『ファンタスティック・プラネット』 は2021年5月28日(金) より 渋谷HUMAXシネマほかにて公開予定。 70年代に生まれて以降、世界中のクリエイターに多大な影響を与え続けているフランスSF …

SF映画

映画『スパイダーマン(2002)』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の解説。サムライミ版で初代トビー・マグワイアが演じる少年がスーパーヒーローへ!

稀代のスーパーヒーローが映像化された『スパイダーマン(2002)』! アメリカンコミックを代表するスーパーヒーローを実写映画化した『スパイダーマン』。 VFXにより描かれる圧巻の映像と従来のスーパーヒ …

SF映画

バック・トゥ・ザ・フューチャー2|ネタバレあらすじと感想考察。結末解説でタイムトラベルシリーズの関連性を解く!

今度は未来とタイムトラベル騒動を描いた、待望の第2作を紹介 第1作公開から4年後、ついに完成し公開された『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』。 ビデオデッキやレンタルビデオが普及した当時、19 …

SF映画

【ネタバレ】スター・トレック イントゥ・ダークネス|あらすじ感想とラスト結末の評価解説。ベネディクト・カンバーバッチも登場してスケールアップした新シリーズ第2弾!

J・J・エイブラムスが手掛ける、新生“スター・トレック” 『スター・トレック イントゥ・ダークネス』は、前作『スター・トレック(2009)』公開から4年を経て、製作された待望の“愛”と“犠牲”の物語。 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学