J・J・エイブラムスが手掛ける、新生“スター・トレック”
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』は、前作『スター・トレック(2009)』公開から4年を経て、製作された待望の“愛”と“犠牲”の物語。
新たな敵、ハリソンにベネディクト・カンバーバッチを迎え、スケールアップしたストーリーが展開されます。
宇宙艦隊の調査船、エンタープライズを指揮する型破りな艦長、カークは、とある事件をきっかけに規則を軽視する傾向を問題視され、艦長職を解かれてしまいます。
そんな中、宇宙連邦に対し、反旗を翻す謎の男、ハリソンが現れ、宇宙連邦は危機に見舞われます。
ハリソンの抹殺を命じられたエンタープライズとカークは宇宙連邦の裏に潜む陰謀の気配を感じながらも最大の危機をどう切り抜けるのでしょうか。そして、ハリソンの驚愕の正体とは?
前作を遥かに凌ぐスケールで贈るSF超大作、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』をご紹介します。
映画『スター・トレック イントゥ・ダークネス』の作品情報
【公開】
2013年(アメリカ映画)
【原題】
Star Trek Into Darkness
【監督】
J・J・エイブラムス
【キャスト】
クリス・パイン、ザッカリー・クイント、ベネディクト・カンバーバッチ、ゾーイ・ザルタナ、ジョン・チョウ、サイモン・ペッグ、アリス・イブ、カール・アーバン、アントン・イェルチン、ブルース・グリーンウッド、ピーター・ウェラー、ノエル・クラーク、レナード・ニモイ
【作品概要】
アメリカで社会現象を巻き起こし、『スター・ウォーズ』と並び、SFの金字塔と呼ばれるテレビドラマ「スター・トレック」シリーズを『M:i:III』(2006)や『SUPER8/スーパーエイト 』(2011)で知られるヒットメーカー、J・J・エイブラムスによりリブートされた第2弾。
主演は前作『スター・トレック(2009)』に引き続きクリス・パインはもちろん、ザカリー・クイント、カール・アーバン、ゾーイ・サルダナ、サイモン・ペッグらが再集結。
新たに主人公 カークたちと敵対することになる謎の男、ハリソン役に、テレビドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」シリーズや『クーリエ』(2021)のベネディクト・カンバーバッチが演じます。
映画『スター・トレック イントゥ・ダークネス』のあらすじ
西暦2259年。
宇宙艦隊の調査船、USSエンタープライズが調査に向かった惑星ニビルは火山の爆発が迫っていました。
しかし、ニビルの住人の文化レベルは低くこのままでは星もろとも消滅してしまいます。
エンタープライズの艦長、ジェームズ・T・カーク(クリス・パイン)は船医のレナード・“ボーンズ”・マッコイ(カール・アーバン)と共に住民の気を引いている間、副長のスポック(ザッカリー・クイント)通信士のニヨータ・ウフーラ、操舵手のヒカル・スールー(ジョン・チョウ)が火山を凍結、ニビルを守る計画を立てます。
しかし、スポックたちが乗る飛行艇にトラブルが発生、スポックは火山に取り残されてしまいます。
救助に向かおうとするカークですが、未発達の文明に過度に干渉してはならない艦隊規則により、エンタープライスの姿を見られるわけにはいかず、スポックを助けに行くことが出来ません。
自らの命と引き換えに凍結装置を起動しますが、カークはエンタープライズを発進させ、住民に見られることを厭わず、スポックを救出します。
一方、地球では、難病に苦しむ娘を持つ宇宙艦隊士官の前に謎の男(ベネディクト・カンバーバッチ)が現れ、娘を助けることが出来ると語ります。
地球に帰還したカークはサンフランシスコの艦隊本部か呼び出され、スポックと共に向かいます。
カークはニビルでの規則違反を隠ぺいしようとしていましたが、規則を重んじるバルカン人であるスポックが真実を話していたことにより、上司であるクリストファー・パイク(ブルース・グリーンウッド)の知るところとなり、カークはエンタープライズの艦長を解任、養成学校へ戻されることになります。
その頃、謎の男は自らの血を用いた血清を士官に与え、士官はその血清で娘の治療に成功します。その見返りとして、士官は自らの命と引き換えにロンドンの宇宙艦隊のデータ保管庫を爆破します。
時を同じく、艦長の任を解かれたカークはやけ酒を煽っていました。
そこに現れたパイクは自身がエンタープライズの艦長に任命された事を伝え、カークを自身の副長にするよう責任者であるマーカス提督を説得したことを明かします。
思いがけぬ状況に言葉を失うカークですが、直後、ロンドンで起きた爆破事件により、緊急会議が招集。パイクとカークは向かいます。
映画『スター・トレック イントゥ・ダークネス』の感想と評価
SF界の麒麟児、J・J・エイブラムス監督によって描かれる本作『スター・トレック イントゥ・ダークネス』は、ファンの間では前作『スター・トレック(2009)』から繋がる“ケルビン・タイムライン”と言われる時間軸の物語で従来のテレビシリーズを基準とする物語とは一線を画し、新たなファンを獲得しながらも、過去シリーズのオマージュやスター・トレックシリーズが紡いできた冒険と仲間との絆を描き、往年のファンたちからも支持されています。
とりわけ、本作では“愛情”と“犠牲”をキーワードに、豊かなキャラクターたちが織り成す濃厚なドラマの中で、それぞれが抱く‟愛情”のために何を‟犠牲”にするのかという深いテーマが描かれています。
劇中で描かれた‟愛”と‟犠牲”の形も様々で、クルーを守るため自身の命を顧みず動力コア炉へ飛び込んだカークはもちろん、同胞を救うため、宇宙艦隊に戦いを挑んだカーン、父親の蛮行を止めるため、身分を偽りエンタープライスに乗り込んだキャロルなど、それぞれの‟愛”と捧げる‟犠牲”が描かれていました。
特に印象的だったのが、自らの命を捧げ、汚名を着せられることを覚悟で娘を助けた艦隊士官の姿でした。
いわば、‟ヒーロー”ではない無名のキャラクターだからこそ、その決断と想いが私たちにとって身につまされ、心象に深く刻まれる演出となっているのではないでしょうか。
この一連の士官の決断を促したカーンの暗躍も以降、得体がしれず謎の多い悪役として活躍するため強い印象を残すためのいわば布石になっている点も見事な演出でした。
また、J・J・エイブラムスと言えば、アクションシーンにおいて、“走る”シーンを多様することで知られ、本作でもその片鱗がうかがえます。
特に、制御不能に陥ったエンタープライズを復旧するため、動力コアへと向かうカークたちが、重力制御を失い上下反転する通路や、船体の破損で落下する機材を避けながら、時に宙づりになりながらも目的地を目指す場面は、切迫する状況と緊迫の生身のアクションにより、手に汗握る展開を見せ、SF作品でありながらVFXによる映像に頼らず、いかに迫力ある映像を演出できるかと言う製作陣の意気込みが伝わってくるシーンでした。
キャスト陣の演技も見事で、特に、本作の悪役、カーンにキャスティングされたベネディクト・カンバーバッチの演技は圧巻でした。
特に印象的だったのが、劇中で同胞を想い涙を流す場面です。
表情は一切変えずに語気に怒りを孕ませながら、いつしか一筋の涙が零れるという一瞬で複数の感情を組み込んだ演技は見事でした。
また、この場面でカークらに背を向けていた為、おそらくカーンが涙を流していたことに誰も気づいていないというのも、カーンが見せた一瞬の純情をさらに印象付けていました。
本作への出演をきっかけに、ベネディクト・カンバーバッチは広く世界に知られることになるのも納得のできるほどの名演技だったのではないでしょうか。
まとめ
本作『スター・トレック イントゥ・ダークネス』を手掛けた、J・J・エイブラムスはインタビューの中で、「本作はエンターテイメント作品であるが、ただ、アクションシーンの連続では飽きられてしまう。観客が作品の中でどれだけキャラクターに感情移入させられるかが大事だ」と語っています。
確かに本作がテーマに掲げている“愛”と‟犠牲”をテーマにした作品や、宇宙を舞台にしたスペクタクル作品は多く存在しますが、それでも、本作が大ヒットしたのは、個性的なキャラクターが直面する危機に何かを“犠牲”にして“愛”を貫く姿が身につまされて感じられたからではないでしょうか。
このテーマは往年のSFドラマ「スター・トレック」シリーズの主題と通じるところがあり、広くファンに評価される作品となっていると感じられます。
本作の最期でエンタープライズは新たな旅立ちを迎えました。
これからキャプテン・カークとエンタープライズは宇宙の彼方でどのような冒険を繰り広げるのか楽しみでなりません。