第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品に選ばれ、ネット公開と劇場公開の大論争を巻き起こしたNETFLIX配信の話題作!
韓国の名匠ポン・ジュノ監督による『オクジャ/okja』をご紹介します。
以下、あらすじやネタバレが含まれる記事となりますので、まずは『オクジャ/okja』映画作品情報をどうぞ!
1.『オクジャ/okja』作品情報
【公開】
2017年(韓国・アメリカ合作映画)
【原題】
Okja
【監督】
ポン・ジュノ
【キャスト】
ティルダ・スウィントン、ポール・ダノ、アン・ソヒョン、ピョン・ヒボン、スティーブン・ユァン、リリー・コリンズ、ユン・ジェムン、シャーリー・ヘンダーソン、ダニエル・ヘンシュオール、デボン・ボスティック、チェ・ウシク、ジャンカルロ・エスポジート、ジェイク・ギレンホール
【作品概要】
共に成長してきた心優しい巨大生物と一人の少女。田舎で平和に暮らしていた彼らが、現代社会の科学倫理と動物愛護主義、企業欲の醜い争いの渦に巻き込まれていく。
2.『オクジャ/okja』あらすじとネタバレ
(C)Netflix. All Rights Reserved.
アメリカの巨大企業ミランド社のCEOであるルーシーは、チリで見つけた「餌も排泄物も少なく、環境に良く、味もとても美味しい豚」スーパーピッグの繁殖に成功し、その26匹を世界中の畜産家に預け、10年後に最も優秀なスーパーピッグを決めるコンテストを開くことを宣言しました。
10年後――。
韓国の山奥でオクジャと名付けられたスーパーピッグと共に暮らす少女・ミジャがいました。両親を早くに亡くしたミジャにとっての家族は面倒を見てくれる祖父、そしてお互いを信頼し合っているオクジャだけでした。
3.『オクジャ/okja』の感想と評価
(C)Netflix. All Rights Reserved.
70年目を迎えた今年のカンヌで話題をさらったのは、劇場未公開の作品でした。
動画配信サービスの大手であるNetflixが巨額の製作金を投じて作ったこの『オクジャ』です。
Netflix制作としてはもう1本ノア・バームバック監督の『The Meyerowitz Stories(New and Selected)』(原題)が入っていましたが、フランス国内で劇場公開予定のない作品のコンペティション部門出品に疑問の声があがりました。
審査委員長であるペドロ・アルモドバルは「個人的には、映画館で公開されない映画にはどんな賞もあげたくない。映画は大きなスクリーンで観るべきもの」と発言し、一大論争が勃発。後にこの発言を撤回し謝罪したようですが。
結果として来年以降はコンペティション部門に出品されるにはフランス国内の劇場での公開が必須項目となりました。
さらに、その騒動は韓国本土にも飛び火し、業界の映画館チェーン大手3社が、Netflix側の公開日同日配信のやり方に反発。
『オクジャ』はシネコンから閉め出された結果、監督の母国である韓国においても約120スクリーンのみの公開となりました。
ハリウッド大作が約800~1,000スクリーンで公開されるのと比べるとその規模の差がよくわかるかと思います。国を代表する映画監督の最新作と考えれば、冷遇されていることは否めません。
ここで本題とは逸れますが、韓国の現在の興業システムについてお話しします。
韓国の映画館は前述の大手映画館チェーン3社で国内の90%以上のスクリーンを保持しています。つまり日本以上にほとんどシネコン化しているということです。
そして、例えばそのシネコン10スクリーンがあればその内の5スクリーン程はハリウッド大作が占拠しているのが現状です。
つまり同じ作品がスクリーンを変えて色々な時間帯でかかっているわけです。
ハリウッド大作を観るだけなら申し分ない環境かもしれませんが、製作費の少ない小規模作品を観る機会が激減します。
韓国人の友人もこの状態を嘆いていました。しかし、それでもなお毎年興行収入ランキングの上位をほとんど自国の映画が占めるのが、韓国映画業界のパワフルさを表していますが。
内容以上に周りの騒動に注目が集まってしまいましたが、映画ファンとしてはあのポン・ジュノの最新作ですよ。期待しない訳にはいきません。
ポン・ジュノは『殺人の追憶』や『グエムル-漢江の怪物-』などパワフルかつ思わず困惑してしまうようなシーンにも溢れた傑作を連発している韓国の奇才です。
個人的に「母なる証明」は衝撃的過ぎて思わず笑いましたが、その才能は海外からも評価され、ハリウッドで『スノーピアサー』を監督。
そして今回の『オクジャ』へと繋がるわけです。
今回のお話は食肉の是非を問う社会的なメッセージが詰まっているので、きちんと撮ればものすごく格式高いものになり得るはずです。
食べなければ生きていくことのできない人間が永遠に悩み続けなければいけない一大テーマ。
しかし、監督は、見た目はカバにしか見えないスーパーピッグと少女のトトロ的な交流に重点を置いて描いていきます。
そして、ジェイク・ギレンホールやティルダ・スウィントンなどのスターに最高に気持ち悪い役(褒めてます)をやらせています。
ギレンホールなんてまさしくジム・キャリー的なはじけぶりで、あの声の出し方と足のクネクネは本当に必見です。
今作は決してメッセージだけがたつことはなく、しっかりとドラマの部分とアクションの面白さでグイグイと引き込んでいきます。
素晴らしいポイントは山程ですが、例えば役者の自然な動かし方。山を登ってきた博士が焼酎のボトルを口にしたところで自然とオクジャに目がいく流れ。
ソウルに向かうミジャが貯金箱を叩きつけ、自然と祖父が懇願する姿勢になる流れ。冒頭の部分だけでもうまいなと思えるシーンばかりです。
その後も、ミジャが強化ガラスに飛び込んでからまさに映画自体が走り出していく一連のシーン。
翻訳を巡るもうひとつのメッセージ。これに関しては勝手な解釈ですが、翻訳を間違えた(意図的ではありますが)ために悲惨な出来事が起こってしまいます。
つまり、相手の気持ちになって考えられない勝手な解釈はダメだよと言うこと。
加えて、映像表現で世界中の人にメッセージを伝えることを可能にする映画という文化の持つ素晴らしさにも触れている気がします。
ミジャがオクジャの耳元で囁く言葉が翻訳されないのも、言葉を超えた信頼関係を演出していて非常に感動的です。
しかし、他国の人を色眼鏡で見てしまう部分は私自身も反省しなければならないところですが…。
ドラマの描き込みはさすがの一言。各キャラそれぞれに間違いなくドラマがあり、それが物語に厚みをもたらしています。
例えば、叔父のムンド。彼のあの一言で奥さんとの日常生活が色々と立ち上がってきます。例えば、ウィルコックス博士。これもあの一言があるおかげでまた違って見えるわけです(ここでギレンホールが作る表情は素晴らしい)。
例えば、ルーシーとナンシーの姉妹のやり取り。実体の見えない父を含めた奇妙な関係性がよく見えてきます。それに、あのトラック運転手もアクセントとしてよく効いています。
4.まとめ
贅沢を言うならば、名匠ポン・ジュノ監督による『オクジャ/okja』は、やはり映画館のスクリーンで観たい。CG表現や映像の美しさを堪能したい。
しかし、どんな形であれ観られるわけですから。映画ファンとしてその幸せを享受しないのはもったいない話です。
今まで以上にスクリーンにかかるありがたみを感じながら、また新作映画をきちんと劇場で観ていきたい。そんな気持ちにもさせてくれる快作でした。