『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督待望の映画『パーティで女の子に話しかけるには』をご紹介します。
1977年ロンドンで、パンク少年が出逢った最高に可愛い女の子の正体は? エル・ファニングがチャーミングな異星人を演じるとびきりキュートな”ボーイ・ミーツ・ガール”ムービーです!
1.映画『パーティで女の子に話しかけるには』作品情報
【公開】
2017年(イギリス、アメリカ合作映画)
【原題】
How to Talk to Girls at Parties
【原作】
ニール・ゲイマン
【監督】
ジョン・キャメロン・ミッチェル
【キャスト】
エル・ファニング、アレックス・シャープ、ルース・ウィルソン、マット・ルーカス、A・J・ルイス、イーサン・ローレンス、ニコール・キッドマン
【作品概要】
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督が、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのエル・ファニングとトニー賞受賞の若手実力派アレックス・シャープを主演に迎え、1977年ロンドンを舞台に、内気なパンク少年と異星人の少女との不思議な出逢いをポップに描く。
2.映画『パーティで女の子に話しかけるには』あらすじとネタバレ
1977年ロンドン郊外のクロイドン。
パンク少年のエンは、目が覚めると、パンクファッションに身を包み、机の上の自作のステッカーを手にすると自転車に飛び乗り、街のあらゆるところにステッカーを貼っていきます。
仲間のヴィックとジョンと合流すると、バンクのライブ会場に潜り込みました。
ボディシーアという女性が率いるディスコーズというバンドが今日の主役です。会場にはヴァージン・レコードの関係者も来ていました。
ディスコーズの演奏は最高でしたが、ヴォーカルが、ヴァージン・レコードの人に抱きつきキスを迫ったお陰で契約の話はおじゃん。ボディシーアはカンカンです。
打ち上げがあるというので、エンたちも参加しようと出かけていきました。ところが、エンが聞いた場所には誰もいません。
確かにこんな野外の公園で打ち上げするはずがありません。仲間から責められるエンでしたが、近くで何やら変わった音楽が聞こえます。
音の方に進んでいくと「空き家」と書かれた家に電気がついて、そこから音が漏れているようでした。
三人がドアのチャイムを押すと、奇妙なコスチュームをした女性が出てきました。三人は家に入ることを許されましたが、白いコスチュームを着た集団が踊っているかと思えば、円陣を組んで話し合っている集団もいます。
アメリカから来た旅行者だろうと三人は勝手に解釈し、ヴィックは早速、最初に迎えてくれた少女を口説き始めました。
奥手なエンは台所に向かいましたが、そこには自分の服をはさみで切り刻んでいる少女がいました。
「それってパンクだね」と彼が声をかけると少女は「パンクって何?」と聞き返しました。
それがエンとザンの出逢いでした。
そこにヴィックが大慌てでやってきました。彼は先程の少女とすっかりいい雰囲気になっていたのですが、気付くと少女の体から別の男性が出てきたというのです。
あまりの恐ろしさにヴィックは「逃げよう」と叫び、エンたちを連れてバタバタと家を出ました。
するとザンが追いかけてきました。48時間しか猶予がないと言う彼女。エンはザンを自分の家に連れて帰りました。
エンはパンクのファンジンを作っていて、主に絵を担当していました。彼が作ったキャラクター”ウイルスボーイ”の話しをするとザンは目を輝かせて話しを聞いていました。
翌朝、起きてきた母はザンを見て驚きますが、彼女はかわいいとエンに告げます。
エンは父が作ってくれた小屋にザンを案内しました。壁にはエンの描いた絵がぎっしり貼られています。両親は離婚して、父は家を出ていました。
「世間のルールにしばられなくってパンクだった」とジャズミュージシャンの父のことを言うと、「だから息子を捨てたの?」とザンは尋ねました。
「私がPTならあなたを捨てないわ」とザンは言い、二人はキスを交わしました。
エンたちは、ザンが所属する集団がアメリカのカルト集団だと思いこんでいました。実際のところ、彼らは宇宙人で、旅をしてこのロンドンにやってきたのです。
ザンは、自分たちは旅人というよりは、ただの観光客だ、もっと現地の人と溶け込むべきだと主張していました。しかし、PTと呼ばれるリーダーは彼女の意見に取り合わず、ザンはストレスがたまる一方だったのです。
「あと22時間よ! パンクを見たいわ」とザンは叫びました。
ボディシーアにザンを紹介すると、彼女はザンをステージにあげました。最初はまごついていましたが、彼女は自分の境遇と主張を歌にして堂々たるステージを見せました。
途中で加わったエンとは驚くほど息もピッタリで会場は大盛り上がり。
ところがいつの間にか会場にはザンを連れ戻しに来た仲間の宇宙人たちで占められていました。
3.映画『パーティで女の子に話しかけるには』の感想と評価
原作は『アメリカン・ゴッズ』や『コララインとボタンの魔女』などでヒューゴー賞を受賞(映画化もされている)した小説家&コミック作家ニール・ゲイマンの短編です。
監督は『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル、主演は今をときめくエル・ファニングと、トニー賞史上最年少で主演男優賞受賞のアレックス・シャープ!
これで面白くないわけがないのですが、とりわけ、エル・ファニングの素晴らしさは特筆に値します。
エンの母親が一緒に体を揺らすゼンを「可愛い」と息子に言う場面がありますが、これはこの映画を観ている全ての人々の気持ちを代弁していると言っても過言ではありません。
そう、ゼンを演じるエル・ファニングがとにかく愛らしいのです。
脇を触らせる風変わりな愛情表現はおかしく、キスしようとして嘔吐してしまうのすら愛おしく見えてしまいます。
そもそもこんな可愛い女の子が自分のテリトリーに自ら飛び込んできてくれて、それを共に分かち合えるだなんて、もうこれは夢か、相手がこの世の人でないに違いないってくらいのものなので、宇宙人という設定は逆にリアルです。
ロンドンの下町で暮らす少年の社会への不満と、宇宙人の不満がパンクと結びついて、共感し合うというのがなんともユニークですが、パンクの持つ反骨精神が二人を結びつけます。
宇宙人たちの社会は思い上がりのため、消費しつくされ瀕死状態。子どもを食べて人口を減らし、静かに消えていこうとする大人たちはなんて身勝手なのか。
これはどこかで見た世界。そう、今、私たちが暮らしている地球の姿ではないでしょうか!?
何十年後、何百年後の子どもたちの暮らしなどおかまいなしに、今さえよければ、自分の代だけ平穏であれば、という大人が多すぎる!
大人に戒めを説き、子どもたちには反乱せよ! と映画は呼びかけているのです。あなたたちの力は必ず社会を変えることが出来ると。
今必要なのはパンクだ!70年代のノスタルジックな世界だけを映画は描きたいわけではなく、今、この時代にパンクを!という思いが(大真面目に)込められています。
このカラフルでポップでユーモア溢れる愛らしい作品は、そうした気骨も持ち合わせているがゆえに魅力的なのです。
ラストのエピソードは恋愛映画としても秀逸で、今思い出しても泣けてきますが、パンクの精神を持ち帰った彼女の成果であると考えれば、パンクの勝利の瞬間でもあるわけです。
そう考えると、二重の意味で泣けてくる名シーンとなっています。
4.まとめ
パンクバンド「ディスコーズ」の元締め、ボディシーアを演じるのはニコール・キッドマンです。
彼女の最近の精力的な仕事ぶりは目を見張るものがあります。
テレビドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』(2017)で、夫のDVに耐えている郊外に住む理知的な女性を演じていたかと思えは、ここではパンクファッションに身を包み、パンクキッズたちの姉御的キャラクターを演じ、その幅の広さに驚かされます。
『パディントン』(2014)の悪役もよかったですし、役柄をとても愉しんで演じているのが伝わってきます。
また、パンクを主題とした映画ということで、数々のパンクナンバーがかかり、楽しませてくれますが、パンクシーンのもう一つの現象、「ファンジン」の世界が描かれているのも興味深いです。
エンのイラストを手掛けたのはアメリカのグラフィック作家ダッシュ・ショウ。この映画のビジュアルに大きな役割を果たしています。
彼は、レイソン・シュワルツマン、レナ・ダム等が声を担当した長編アニメーション映画『My Entire High School Sinking into the Sea』(2017)を監督しており、日本での公開が待たれます。
ビジュアルといえば、宇宙人たちのコスチュームが実にユニークでした。デザインしたのは、サンディ・パウエル。
2016年のアカデミー賞では、衣装デザイン部門で『キャロル』(15 トッド・ヘインズ監督)と『シンデレラ』(2015 ケネス・ブラナー監督)の二作品でノミネートされ、話題を呼びました。アカデミー賞には10回以上ノミネートされているイギリスのベテランデザイナーです。
自身も70年代ロンドンのパンクシーンを熟知するというだけあって、パンクファッション、当時のロンドンのファッションも魅惑的に蘇らせています。
数々の才能が集まった本作、音でもビジュアルでも楽しめ、ハートを鷲掴みされる傑作に仕上がっています。