リモート短編映画『アワータイム』全国一⻫配信開始。
新型コロナウイルス感染拡大により、映画業界も大きな影響を受ける中、神戸のミニシアター・元町映画館がリモート短編映画『アワータイム』を制作、配信し話題を呼んでいます。
これまでにも様々なアーティストがリモート映画を発表していますが、映画館発の作品は『アワータイム』が初めて。さらにZOOMという機能ならではの現象をいかしたプロットもユニークで、映画ファンは勿論、誰もが楽しめる作品に仕上がっています。
「Cinemarche」は今回、神戸・元町映画館のスタッフの石田涼さん、監督の大矢哲紀さん、主演の四人の中のひとりを演じた津田晴香さんにZOOM取材を敢行。様々なお話を聞かせていただきました。
元町映画館スタッフの石田涼さんが企画
リモート映画を企画されたのは、神戸元町映画館スタッフの石田涼さん。
「非常事態宣言を受けて、映画館が休館になり、“京阪神13館応援Tシャツ“や“ミニシアターエイド基金”など映画ファンのみなさんのご支援をいただく中、自分自身が何もできないことをとてももどかしく感じていました。何かやれることはないかと考えていたときに、行定勲監督のリモート映画『きょうのできごと a day in the home』を観て、これだと思いました。映画館のスタッフが映画を制作したら面白いのではないかと考え、プロットも自分で考えて、元町映画館を拠点に活動する学生団体・映画チア部の大矢哲紀さんに話を持っていきました」
映画チア部制作の映画『KOBE OF THE DEAD』(2019)で監督を務めた経験のある大矢さんですが、前回とはまったく違った形のリモート映画制作に挑戦。本編の8割がノーカットというワンテイク撮影を見事に成功させました。
出演されているDEGさん(MOOSIC LAB 2019出品作『追い風』主演)、上野伸弥さん(PFFアワード2018入選作『愛讃讃』)、津田晴香さん(神戸発の話題の映画『みぽりん』)は、元町映画館で作品が上映されたのをきっかけに交流が始まった方々。
そこに石田さんと以前から交流のあった3SET-BOBのYUSUKEさんが加わり、四人のメインキャラクターがそろいました。四人の他にも、実にユニークな面々が顔をそろえています。
俳優のそれぞれの個性が出たアドリブ
津田晴香さんは『アワータイム』に出演したことについて、次のように語ってくれました。
今、ずっと家にいるので、あまり人としゃべることもないですし、かかわることも少なくなっている中で、呼んでいただけたことがすごく嬉しいですし、自分のことを思い出していただけたことがとても嬉しいです。作品の中でもあの子どうしているのかなという感じから始まってリモートの飲み会が始まるんですが、遮断された中でも人とつながっていられるという暖かさが表現されていて、素敵な映画だと思っています。
一発撮りにはとても緊張したという津田晴香さん。四人にはプロットの一部がふせられていたこともあり、「何が待っているのかわからない怖さがあった」とのこと。
そんな津田さんを石田さんは「津田さんは場の空気を一瞬で読み取りアドリブをきかせてくれた。天才だと思いました」と絶賛。津田さんは松本大樹監督が制作したリモート映画『はるかのとびら』でも主演を務めており、松本監督の神戸発の映画『みぽりん』で見せた姿とはまた違った魅力を放っています。
大矢監督も映画のみどころとして、
役者の方ひとりひとりが、脚本を自分の演技に落とし込んで表現してくださり、自分の役柄にオリジナルな部分を入れて作ってくださったところが多々あります。脚本とは離れたアドリブの部分も個々の個性が出ていますし、そういったところを特に観ていただきたいです
と語ってくれました。
“現在”に思いを込めた『アワータイム』
石田さんは「この作品は『過去』と『現在』があるだけです」と語ります。
脚本を書くにあたって、あの話の中で「過去」と「現在」しか描いていないんですよ。「未来」のことは話していなくて、それは私がネガティブな人間だからなのですが、今も「あした」のことは考えないといいますか、考える気にもなれないので、「過去」と「現在」の話だけで構成しました。「未来」に希望がなくても「今」が楽しければいいんじゃないかなというのが私の脚本の中の一番のメッセージです。今を一番大事にできたらいいなという思いをこめました。
映画チア部は発足して今年で5年目。石田さんはその創設時メンバーだったとのこと。
大矢さんは現在大学の四年生で、学生が大学構内に入れず、授業もオンラインで行われ、サークル活動もままならない中、『アワータイム』の制作などで映画チア部とのメンバーとオンラインで相談したり交流できたことが大きな慰めになったそうです。
映画館によっては、なかなか若い人が来てくれず、どうすれば幅広い層の観客を呼べるのか悩んでいるところもあると伝え聞きます。
そんな中、映画館と学生を中心とするグループががっちりタッグを組んでいるというのは非常にユニークで、元町映画館の動向はこれからも大いに注目されることでしょう。
最後に“未来のこと”も少し
大矢さんは、「普段は現場に呼ぶことのできない人でも、リモート映画でなら画面一つですぐに呼ぶことができる、そのような利点をいかして『アワータイム』の続編を作ってみたいです」と語り、また石田さんは、「リモート映画の長編が作られてもいいのでは」と、それぞれリモート映画のさらなる可能性に言及されていました。
映画の配給ではリモートを使った映画のプロモーションなども行われているとのことで、コロナ禍中における対策や工夫が伺えますが、映画館も、舞台挨拶をリモートで行うことなども選択の一つになっていくのでしょうかとお聞きしたところ、石田さんは「今後、そのような形でやっていかないといけないことが増えると思うのですが、やはりミニシアターの良さは人と人が対面するところにあると思いますので、最終的にコロナが終息するころには、対面してもらえるような環境を整えていければと思っています」と答えてくださいました。
写真提供/石田涼(元町映画館)
映画『アワータイム』の作品情報
【配信】
2020年(日本映画)
【企画・脚本・キャスティング】
石田涼(元町映画館)
【監督】
大矢哲紀(映画チア部)
【キャスト】
DEG、上野伸弥、津田晴香、YUSUKE(3SET-BOB)、ひと:みちゃん、職業怪人カメレオール、竹下かおり
【主題歌】
「それでもまだ」(3SET-BOB)
【挿入歌】
「オーバーフェンス」(DEG)
映画『アワータイム』のあらすじ
映画館でアルバイトをしている大智は、映画館が閉館中のため家で過ごす日々を送っており、日記をつけ始めました。
その日は楽しみにしていたオンライン飲み会の日。集まったのは幼馴染の男女四人です。近況を報告しあい、たわいない話で盛り上がる四人でしたが、突然そのミーティングにまったく見知らぬ人物が現れます。
どうやら別のミーティングと間違えて参加している様子。楽しかったオンライン飲み会は予想もしない展開へと向かいます。
まとめ
動画『アワータイム』
神戸のミニシアター・元町映画館が制作・配信したリモート短編映画『アワータイム』は、元町映画館Youtubeチャンネルにて無料公開中です。是非ご覧ください。