同じ顔をした2人の男の間で揺れる女の8年間の思いを描き出し、恋に落ちた時の甘さ、せつなさ、苦しさとともに、先の読めないスリリングさを併せ持つ“大人の恋愛映画”の傑作。
映画『寝ても覚めても』は、9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開です。
今回は、8月27日(月)に、女優の玄理さんと映画解説者の中井圭さんを招いて行われたトークイベント付試写会の模様をお届けします。
CONTENTS
映画『寝ても覚めても』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【原作】
柴崎友香『寝ても覚めても』(河出書房新社刊)
【監督】
濱口竜介
【脚本】
田中幸子、濱口竜介
【キャスト】
東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知(黒猫チェルシー)、仲本工事、田中美佐子
【主題歌】
tofubeats「RIVER」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)
【作品概要】
芥川賞作家である柴崎友香が第32回野間文芸新人賞を受賞した恋愛小説「寝ても覚めても」を映画化。
第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品。
演出は『ハッピーアワー』で世界的に注目を集めた濱口竜介監督。
2017年公開『関ケ原』『散歩する侵略者』に出演の東出昌大が1人2役で主演を務め、本作が本格的な映画デビューとなる唐田えりかが初のヒロイン役を演じた。
映画『寝ても覚めても』のあらすじ
大阪に住む21歳の朝子は、麦(バク)と運命的な恋に落ちます。
ところがある日、麦は忽然と朝子の前から姿を消してしまいます。
2年後の東京。
亮平は、コーヒーを届けに会社に来た朝子と出会います。
真っ直ぐに想いを伝える亮平に、戸惑いながらも朝子は惹かれていき、ふたりは仲を深めていきました。
しかし、朝子には亮平には告げていない秘密がありました。
亮平は、かつて朝子が運命的な恋に落ちた恋人・麦に顔がそっくりだったのです。
麦と亮平、同じ顔をした、過去の“恋”と、現在の“愛”が朝子の心を微妙に揺らしはじめます…。
映画「寝ても覚めても」トークイベント付試写会開催
9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開となる映画『寝ても覚めても』。
8月27日(月)に、女優の玄理さんと映画解説者の中井圭さんを招いてトークイベント付試写会が行われました。
濱口監督の過去作に出演している玄理さんによる、濱口監督の演出裏話からスタートしたトークイベントは、45分間にわたり、たっぷりと本作の魅力が語られました。
濱口竜介監督の独特な演出方法
玄理さんは、濱口監督の過去作『天国はまだ遠い』(2016)に出演し、殺傷事件で亡くなった姉の関係者を訪ねてドキュメンタリーを撮ろうとする才女を演じています。
まずは玄理さんが、撮影時に体験した濱口監督の演出方法について話しました。
「普通セリフは自分で黙々と覚えますが、濱口監督の場合は、最初からセリフが固まっているのではなく、まずはキャストが向かい合い、カードに書かれた質問をしながらインタビュー形式で会話をします。それを濱口監督がカメラで撮影し、録音したものを文字に起こし、キャラクターの深いところを決めて、セリフに直します。ある程度役が固まると、今度は役としてインタビューをして、また録音したものを脚本にしていくというやり方。私が話したことがそのままセリフになっているわけではないけど、私が話したことから感じたことが、自分の演じる役の裏付けになっていたりします」
「インタビューを通じて役を深堀りし、脚本を構成していく。ユニークなやり方ですね」という中井さんのコメントに、「他の現場では同じ演出方法に出会ったことがない。東出くんは、濱口監督の演出方法を“濱口メソッド”と呼んでいる」と明かしました。
“日常の中の非日常性”を映した恋愛映画
中井さんから本作の感想を求められ、「私は大好き。キラキラの恋愛映画ではなく、大人向けの恋愛映画」と答えた玄理さん。
中井さんも、「年間ベストテンに必ず入る作品。近年、こんな形で恋愛を描いている作品はないので、目が覚めるような感じがした」と大絶賛。
玄理さんは、本編で東日本大震災が描かれていることに触れ、「震災前と後で日本は変わり、映画も、映画の見方も変わると言われていたけど、実際に震災を取り込んでいる作品は少ない。でも本作は違和感なく震災を取り入れていた」と話し、ようやくスクリーンで震災が起きた事実を見ることができたと、感慨深い表情を浮かべていました。
中井さんは、表面的には、好きだった人と瓜二つな男性が現れ、麦と亮平という2人の男性の間で揺れる朝子という女性の恋愛を描いているが、深層には別のテーマがあると指摘します。
「朝子は、おとなしい普通の子なのに、日常が崩れる瞬間がいくつも訪れる。瓜二つな男性2人との出会いもそうだし、震災もそう。濱口監督は以前、東日本大震災の記録映画を撮っていて、その影響もあるのではないか。僕らは普通に暮らしていると、地震が起きてもだんだん慣れてしまって、変わらない明日が来ると思ったりするけど、実はそうではないのではないかということを、濱口監督はこの作品を通じて提示しているという印象を持った。表のテーマ“人は何をもって好きになるの?”という存在の裏側にあるのは“日常の中の非日常性”というものを観客に突き付けるような作品になっている」
このように中井さんは解説しました。
本音をさらけ出して築く人間関係
麦と亮平、2人の男性の間で揺れる朝子の恋愛を描いたラブストーリーということで、劇中での朝子の行動に賛否分かれることが予想される本作。
「観終わった人とぜひ話したい。自分だったらどうするか、特に女性に聞きたい」という玄理さん。
「人間関係は、嘘やうわべで構築されると強度は弱い。だから、本音で自分の欲求や欲望に対してきちんと向き合った行為を見せた時に、人は強固な関係を築けるということを濱口監督は仰っていた。この作品はそれを体現している。本音をさらけ出して関係性を構築することは、これからの時代を生きていくうえで、特にもう家族とかの関係性が揺らいでいる中で、我々は本当のことを言わなきゃいけないのではないかと、この作品を観て思わされた」
中井さんは強く力説しました。
そして、本作の登場人物が本音をさらけ出して築いた人間関係が、その後どうなっていくのか想像を掻き立てられるラストの場面が神がかっていると評価しました。
唐田えりかがとにかくかわいい!
唐田えりか/朝子役
映画の内容に踏み込んだところで、「唐田さんすっごくかわいくないですか?」と興奮気味に玄理さん。
中井さんも、「唐田さんが演じる朝子だからこそ、中身や行動はエキセントリックなのに、表面的には平坦な感じがして、日常の中の非日常を際立たせている」と冷静に分析。
「“小悪魔系”ではなくて、“無意識系”?」と玄理さん発案のモテる女性のニューカテゴリーが生まれました。
強い映画は摩擦を起こす
本作がカンヌ国際映画祭で上映され、高い評価を受けたことについて玄理さんは「日本では朝子許せない!ひどい!共感できない!という意見があったけど、フランスでは“何が悪いの?”が100%」と自己主張することが普通なフランスでは、朝子の振る舞いが受け入れられたと話しました。
中井さんも次のように絶賛しました。
「皆がおもしろいという作品もあるけど、本当に強い作品は摩擦を起こす。朝子の恋愛観に共感できたり、わからないけど理解はできるとか、うらやましいと思ったり、亮平に感情移入したり、それは当たり前で、それこそが映画だと思う。見る人の人生が照射される映画は素晴らしい。1つの見方しかできない映画は豊かではないと思う。本作は、自分がどんな生き方をして、どんな恋愛をしてきたのか、全部照射されて、反射されて、感想になっていく。自分のものになっていく映画」
最後に玄理さんは、「大きい笑いが起きたり、すごい驚きの展開があるわけではないけど、最後までずっとおもしろい貴重な映画」と太鼓判を押しました。
いっぽう中井さんも「平坦な状態でずっとおもしろい。自分の人生が持っていかれて目が離せない。公開されてからのみんなの意見が楽しみ」と、間近に迫る本作の公開へ大きな期待を寄せました。
まとめ
トークイベントの最後には、話が尽きない玄理さんと中井さんによる、麦派か亮平派かの観客アンケートも実施され、大人の女性が多く集まった会場は、静かに熱く盛り上がりました。
本作を観たら、誰かと語り合いたくなること間違いなしです!
映画『寝ても覚めても』は、9月1日(土)より、テアトル新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほか全国公開です。
ぜひ、劇場へお出かけください!