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Entry 2019/02/26
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トランプ大統領がラジー賞最低主演男優賞に!【第39回ゴールデン・ラズベリー賞2019】

  • Writer :
  • 松平光冬

その年に公開された映画の中から最低作品を選ぶゴールデン・ラズベリー賞が、アカデミー賞授賞式前夜に発表されました。

ほとんどの人が「どうでもいい」と思っているであろう、この不謹慎な賞ですが、2019年開催の第39回は、前人未到の快挙ともいえる結果もあったようで?!

最低映画を決める「ラジー賞」って何?

通称「ラジー賞」ことゴールデン・ラズベリー(Golden Raspberry)賞は、映画製作者から宣伝に転身したジョン・ウィルソンという人物が、1981年に創設しました。

「Raspberry」は、「野次る、からかう」という意味の動詞「Razz(ラズ)」の名詞形で、果実の「木イチゴ」の意味もあります。

選考は、「ゴールデン・ラズベリー賞財団」に加入する会員の投票で決まりますが、会費の40ドル(約4,200円)を払えば誰でも参加可能

授賞式は基本的にアカデミー賞授賞式の前日に行われ、受賞者には、木イチゴと8mmフィルム缶のオブジェを金色に塗ったトロフィーが贈られます。

2018年公開の映画の中から決める第39回ゴールデン・ラズベリー賞も、アカデミー賞授賞式前夜の2019年2月23日(現地時間)に発表されました。

最低作品賞ほか受賞『俺たちホームズ&ワトソン』

栄えある(?)最低作品賞となったのは、ウィル・フェレルとジョン・C・ライリー共演のコメディ映画『俺たちホームズ&ワトソン』

フェレルがシャーロック・ホームズ、ライリーがワトソン、そして宿敵モリアーティ教授をレイフ・ファインズがそれぞれ演じ、ガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ』(2009)や、テレビドラマの『SHERLOCK』といったホームズ映像作のパロディを随所で盛り込んだ本作。

しかし、今回もフェレルお得意の過剰なベタベタギャグが炸裂しているせいか、「歴代のホームズ映画の中でも最低の出来」といった酷評を受けることに…。

本作はそれ以外にも、最低助演男優賞(ジョン・C・ライリー)や最低監督賞、最低リメイク/パクリ/続編賞など、最多の4部門受賞となってしまいました。

ナンセンスかつ下品なコメディ映画が選ばれる傾向が多いラジー賞ですが、中でもフェレル出演作は、発表されるたびに当然のようにノミネートされてしまうのが悲しいところ。

案の定、日本では劇場未公開となってしまった本作は、2019年6月5日にDVDがリリースされます。

参考映像:『俺たちホームズ&ワトソン』予告

最低主演男優賞はドナルド・トランプ


(C)2018 Midwestern Films LLC 2018

最低主演男優賞は、マイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『華氏119』(2018)のドナルド・トランプ米大統領が選出

俳優ではない現役の大統領の受賞は、同じムーア監督の『華氏911』(2004)のジョージ・W・ブッシュ以来となります。

ムーアならずとも、世間のトランプ政権への反発がストレートに票につながったようで、ジョニー・デップやジョン・トラボルタといった、並みいる常連ノミネート俳優を抑えました。

トランプ政権が続々受賞の珍事

なお本作は、トランプの右腕のケリーアン・コンウェイ大統領顧問が、メラニア・トランプ大統領夫人を抑えて最低助演女優賞を獲得。

さらに、映画内の最低の組み合わせを選ぶ最低スクリーンコンボ賞を、「ドナルド・トランプと彼の永続的な心の狭さ」として受賞するという、ブッシュ政権でも成し得なかった快挙を達成しました。

参考映像:『華氏119』予告

最低主演女優賞はメリッサ・マッカーシー

最低主演女優賞は、アメリカ屈指の人気コメディエンヌのメリッサ・マッカーシーが、『パペット大騒査線 追憶の紫影(パープル・シャドー)』で受賞。

人間とパペット(人形)が共存する世界で、メリッサとパペットの刑事コンビが繰り広げるドタバタコメディですが、ドギツい下ネタやバイオレンス描写が多いため、ラジー賞の本命とされていました。

日本でも、公開時に「ラジー賞6部門ノミネート」と堂々と開き直って宣伝されていたのがポイント。

ちなみにメリッサは、2019年開催の第91回アカデミー賞で『ある女流作家の罪と罰』(2018)で主演女優賞にノミネートされたのを受け、ラジー賞の名誉挽回賞(ラジーの救い手賞)も併せて受賞しています。

参考映像:『パペット大騒査線 追憶の紫影(パープル・シャドー)』予告

最低脚本賞は『フィフティ・シェイズ・フリード』


(C)Universal Pictures

2018年公開の映画で最低な脚本に選ばれてしまったのは、ラブロマンスの『フィフティ・シェイズ』シリーズの完結編『フィフティ・シェイズ・フリード』(2018)でした。

このシリーズは、第1作『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(2015)が、主演男優賞&女優賞、最低脚本賞など5部門、2作目の『フィフティ・シェイズ・ダーカー』(2017)も助演女優賞を含めた2部門を獲得しています。

『トワイライト』(2008)や『ダイバージェント』(2014)といったティーン向け小説原作の映画は、とかくラジー賞に目を付けられることが多く、中でも官能小説を原作としたこの『フィフティ・シェイズ』シリーズは、良識派に忌み嫌われていたようです。

参考映像:『フィフティ・シェイズ・フリード』予告

トランプによってラジー賞を免れた?

ここで、幸運にもノミネートだけで済んだ作品にも触れておきましょう。

史上最も有名なギャングとして知られたジョン・ゴッティの生涯を描いた、『ギャング・イン・ニューヨーク』(2018)。

ゴッティ役のジョン・トラボルタが製作総指揮も兼ねており、ゴッティの妻役を実生活でもパートナーのケリー・プレストンが演じるなど、渾身の一作でした。

しかし、当初2017年公開予定だったのが延期となったのを機に、色々とゴタゴタが噴出。

最終的に2018年6月に封切られるも、予想をはるかに下回る成績で終わってしまい、ラジー賞では作品賞や主演男優、助演女優を含む6部門でノミネートされてしまいました。

結果として無冠となったものの、もし『華氏119』がなかったら、トラボルタ的にはあらゆるラジー賞部門を独占した主演作『バトルフィールド・アース』(2000)の二の舞になっていた可能性も…。

民主党支持者とされるトラボルタですが、ことラジー賞においては、思わぬ形でトランプに救われた格好となったようです。

参考映像:『ギャング・イン・ニューヨーク』予告

まとめ

以上、第39回ゴールデン・ラズベリー賞の主な受賞結果を挙げてみましたが、一つ強調しておきたいのは、ラジー賞には何の権威も名誉もないということ。

むしろ、「受賞したことを誇りに思う」として、監督のポール・ヴァーホーベンや、女優のハル・ベリーにサンドラ・ブロックといった受賞者自らが、式に登壇したケースもあるほどです。

また、『ベイウォッチ』(2017)が「ひどすぎて逆に大好きになったで賞」を受賞した際、同作品に出演のドウェイン・ジョンソンが、「成功したとは言えないかもしれないが、快くラジー賞を受け取るよ」と動画でコメントしたりもしています。

映画会社や俳優の中には不愉快に思う者もいるでしょうが、ラジー賞自体を「エンタメ」として楽しむ度量の広さがあるのもまた事実。

「ラジー賞に選ばれたから観る気が起きない」のではなく、むしろ期待値のハードルを下げた状態で気楽に観られるので、逆にプラスとなっているのかもしれません。

アカデミー賞がある限り、ラジー賞は注目する人だけすればいい稀有な映画賞として、今後もあり続けるのです。

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