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映画『ガーデンアパート』感想と評価解説。石原海監督の悪夢ともファンタジーとも感じられる世界観

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

愛が崩壊しかけているカップルと、愛が欠落した女性の、一晩の出来事を描いた映画『ガーデンアパート』

6月7日から、テアトル新宿ほか全国で順次公開される作品をご紹介します。

映画『ガーデンアパート』の作品情報

【公開】
2019年6月7日(日本映画)

【監督・脚本】
石原海

【キャスト】
篠宮由香利、竹下かおり、石田清志郎、鈴村悠、石原もも子、稲葉あみ、彩戸惠理香、Sac、Alma、森雅裕、奥田悠介、塚野達大

【作品概要】
「UMMMI.」名義で、現代美術やヴィデオアートで映像作品を発表している、東京藝術大学に在籍中の石原海監督長編デビュー作。

数々の映画監督を発掘してきた「ロッテルダム国際映画祭」で、「輝く未来」部門に選出された事でも話題のガールズムービー。

主演のひかり役を、モデルとして活動しながら、写真作品やZINEも手がける篠宮由佳利、アルコール中毒気味の女性、京子役を数々の映像作品や舞台で活躍する、竹下かおりが演じています。

映画『ガーデンアパート』あらすじ

大学を卒業したばかりのひかりは、恋人の太郎と同棲しています。

ひかりは、太郎の子供を妊娠しており、結婚も視野に入れた交際をしています。

ですが、太郎は定職に就く様子も無く、ひかりは太郎との将来に不安を感じていました。

ある日、2人で立ち寄ったカフェで、ひかりは太郎の叔母である京子に遭遇します。

下着に近い姿で外出し、フラフラとカフェに入店してきた京子の、異様な雰囲気にひかりは圧倒されます。

ひかりは京子と距離を置こうとしますが、太郎が京子に借金をしている事が発覚します。

太郎は「気にしなくて良い」と、ひかりを引き止めますが、ひかりは太郎を無視して京子を追いかけます。

夫を亡くした京子は、莫大な遺産を引き継ぎ、自宅に若者を何人も住まわせるという、異様な生活を送っていました。

京子に誘われたひかりは、京子の自宅で開催されたパーティーに参加します。

踊り狂う京子と若い女性たち。

その状況に置いていかれた形となったひかりは、京子の自宅で生活している若い男、世界と知り合います。

パーティーの様子に居心地の悪さを感じていたひかりは、世界に「パーティーを抜け出さないか?」と誘われます。

迷った末に、ひかりは世界とパーティーを抜け出し、何処かに消えて行きます。

世界が、突然いなくなった事に気付いた京子。

世界の存在は、京子にとって心の支えでもありました。

これまで、自分に何も言わずに、姿を消した事が無い世界が、突然いなくなった事に、京子は発狂します。

また、太郎も突然いなくなったひかりの行方を探して、京子の自宅を訪れます。

京子と太郎は、夜の街で世界とひかりを探しますが…。

崩壊しかけたカップルの一晩の出来事

愛情が崩壊しかけている男女と、愛情を失った女性の狂気が交差する、一晩の出来事を描いた本作。

「愛は時間のかかる作業で、時間の短縮もできず、愛の間はそれが終わる事も無い」というナレーションから始まる本作は、「愛を巡る物語」ですが、描いているのは「愛情の厄介さ」です。

主人公のひかりは、同棲している恋人の太郎との子供を身籠り、結婚を前提で考えています。

ですが、大学卒業後、就職をせずにアルバイト生活を送っている、太郎との今後に不安を抱えています。

一方、太郎の叔母である京子は、亡くなった夫から、莫大な遺産を引き継いでおり、お金には困らない暮らしを送っています。

生活には困っていませんが、内面的には強い孤独を抱えており、アルコールに依存し、若者を自宅に住まわせる事で、孤独を埋めようとしています。

太郎とひかりは、愛情で繋がれていますが、就職をせず、借金も作っているらしい太郎の将来性の無さが、愛情の崩壊を招いています。

逆に京子は、莫大な資産を受け継いでいますが、周囲に心から信用できる人間がおらず、愛情が欠落した存在です。

愛が終わりかけているカップルと、愛する事を忘れた女の、一晩の物語

それが、本作『ガーデンアパート』です。

物語の鍵になる世界という存在

真逆とも言える状況に置かれた京子とひかりを繋ぐ存在として現れるのが、世界と呼ばれる男性です。

世界は、愛情を欲する京子にとっては、側にいないと困る存在ですが、ひかりにとっては、自分の内面を掻き乱す、困った存在として描かれています。

世界が、本作における重要キャラクターである事は間違いないのですが、では、どういうキャラクターかと言うと、一言では表現できないキャラクターで、人によって、印象が変わるのではないでしょうか?

本作の一晩の出来事は、世界がひかりを連れ出した事により、始まります。

また、ひかりに「人生の節目に、女の子はパニックになる」と、意味深な言葉を伝えます。

世界との出会いによって、ひかりは自身が抑え込んでいた不安と向き合う事になります。

そして、不安と向き合ったひかりが下す、ある決断。

この決断が、永遠と呼ぶには難しい「愛情」の厄介さ、しかし「愛情」があるからこその、人間関係の繋がりを描いています。

世界によって、内面を掻き乱されたひかりと、太郎の行く末は?

「愛」と「現実社会」の厄介な関係

本作で描かれているのは、人間と愛情です。

考えてみれば、人が人を愛するという事は、太古の昔から行われてきた事で、人間の本能とも言える部分です。

しかし、現代社会は、愛だけでは生きていけません。

ひかりが太郎に抱いた不安のように、生活をしていくには、お金が必要なのです。

お金を得るには、仕事をして賃金を得なければならず、いくら「愛している」と言っても、生活を成立させる能力の無い人に、振り向く人がいるのでしょうか?

「愛」を成立させるには「現実社会」と向き合わなければならないという事実が、厄介で複雑な社会で生きている事を実感します。

また、莫大な資産を受け取り、不自由の無い生活を送るが故に、世間からかけ離れた存在となってしまった京子。

夫を亡くして以降「誰かを愛する事を忘れた」と語る彼女の本心と心から欲する、本当の愛情とは何か?

それも、本作の終盤で描かれています。

まとめ

本作の監督である石原海は、「UMMMI.」名義で、これまで現代美術、ヴィデオアートで映像作品を発表してきています。

『ガーデンアパート』でも、京子の自宅のシーンは、ピンクを基調にした色彩になっていて、異様な雰囲気を与えるなど、視覚的な表現が効果的に使われています。

特に、印象に残ったのが、太郎の運転する車のボンネットに寝転がる京子のシーンです。

ゆっくりとしたスピードで走る車に寝転がり、京子は「全てを忘れた」と言いながら、亡き夫への想いを語ります。

ゆっくりと進む車は、時間の流れを現しているようであり、その上で寝転がる京子は「人生を前に進める」という事を拒否しているようにも見えます。

しかし、京子の意志とは無関係に、時の流れは進んでいき、その中で京子は、矛盾した事を語る異質の存在になってしまった。

そんな事を感じるシーンです。

また、本作のセリフの一つ一つが、実に哲学的で、視覚的な効果と相まって、独自の世界観を作り出しています。

築き上げるまで時間がかかりますが、崩れ始める時は一瞬という、厄介な愛

厄介ではありますが、愛を失った時に、人間はどうなるのか?

一夜の悪夢とも、ファンタジーとも感じる世界観で、現代の人間にとっての愛を語った映画『ガーデンアパート』。

人によって、解釈が変わる作品ですので、是非、自分だけの答えを探してみて下さい。

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