ひとりの女性の焦燥と孤独、抵抗を追う物語
サトウトシキ監督による『さすらいのボンボンキャンディ』が2022年10月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開となります。
主演の影山祐子と原田喧太のほか、飯島大介、辻しのぶ、伊藤洋三郎らが出演します。
孤独を抱えた女性の心の旅を追う本作の魅力についてご紹介します。
CONTENTS
映画『さすらいのボンボンキャンディ』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【原作】
延江浩
【脚本】
十城義弘、竹浪春花
【監督】
サトウトシキ
【編集】
目見田健
【出演】
影山祐子、原田喧太、雅マサキ、足立智充、嶺豪一、飯島大介、辻しのぶ、伊藤洋三郎
【作品概要】
延江浩の短編小説集『7 カラーズ』の一編を、『短篇集さりゆくもの もっとも小さい光』のサトウトシキが企画・監督を務め映画化。『アタシはジュース』(1996)以来のタッグとなります。
愛を探す人びとの愚かで滑稽でちいさな物語が綴られます。
映画初主演を飾るのは『ラストラブレター』(2016)や『激怒』(2022)の影山祐子。原田芳雄を父に持つギタリストの原田喧太が恋人・マサル役を好演しています。
映画『さすらいのボンボンキャンディ』のあらすじ
焼酎を飲みながら街をさすらう34歳の仁絵。ひとりで野球観戦をしながら酒を飲んでいた彼女に、48歳のマサルが話しかけます。
家に誰もいないからぶらぶらして過ごしていると話す仁絵に、マサルは中学生の娘がいることや、電車の運転手になりたかったけれど試験に受からなかったため車掌をしていることを話します。
生まれて初めてバイクの後ろに乗せてもらい、雨の街を走る仁絵。マサルとの会話はとても楽しいものでした。
翌日も約束して会ったふたりはすぐにキスをし、体を重ねるようになります。仁絵の夫は海外に長期出張しており、彼女は寂しさを持て余していました。
既婚者同士でありながら惹かれ合ったふたりは逢瀬を重ねます。しかし、ある日マサルは彼女の前から姿を消してしまい…。
映画『さすらいのボンボンキャンディ』の感想と評価
自堕落さと透明感を併せ持つヒロインの魅力
作家・延江浩自身がどうしても世に出したかったという一編を、サトウトシキ監督が映画化した『さすらいのボンボンキャンディ』。
初の受賞作『アタシはジュース』(1996)でもサトウ監督とタッグを組んだ延江は、そのめぐりあわせに感動したといいます。
本作では、空白を埋めるものを求めてさすらい続けるひとりの女性の心情が細やかに描かれます。
『ラストラブレター』(2016)や『サラバ静寂』(2018)、『花束みたいな恋をした』(2021)、『激怒』(2022)など注目作への出演が続く影山祐子が、本作で初主演を飾りました。
彼女が演じる仁絵は、強い焼酎の霧島の瓶をバッグに入れて持ち歩いてところかまわずストレートで飲み、数々の男性と関係を持つ人妻という自堕落な女性です。しかし、彼女は決して酒に飲まれることはなく、また性愛に溺れることもありません。
影山はそんな仁絵を体当たりで演じ、透明感や清潔感さえ感じさせる魅力的なヒロインに息を吹き込みました。
仁絵からは心の空白を埋める難しさとともに、傷を負うことで慰められる心が存在することを教えられます。
仁絵が恋に落ちる男性・マサルを演じるのは、ギタリストの原田喧太です。彼の父・原田芳雄の遺作である『大鹿村騒動記』の原作者でもある延江が、原田喧太の出演と音楽を提案して実現しました。
原田の歯切れのよいセリフや、醸し出す品と孤高の空気感が作品に見事にマッチしています。彼の奏でるエンディングテーマを最後まで鑑賞して作品の世界観を楽しんでください。
仁絵とマサルの並ぶ何気ない情景がとても心地よく映し出されます。二人乗りのバイクは、どこか異世界を旅しているかのようです。
孤独な仁絵の心はマサルの虜になりますが、生まれて初めて乗ったバイクから見た景色がその大きな一因となったことは間違いありません。
まとめ
作家・延江浩と監督・サトウトシキが約25年ぶりにタッグを組んだ作品『さすらいのボンボンキャンディ』。
言葉では表せない感情を映像に浮かび上がらせるサトウトシキならではの演出が光る一作です。
影山祐子が圧倒的な存在感と大胆な演技で映画初主演を鮮やかに飾っています。
原田芳雄を父に持つギタリストの原田喧太がヒロインの心を奪う男性を好演。本作の音楽も手がけ、映画の世界観を彩ります。
『さすらいのボンボンキャンディ』は2022年10月29日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開予定です。