監督は瀬々敬久、主演は菅田将暉と小松菜奈。
中島みゆきの名曲『糸』をモチーフにしたラブストーリー
映画『糸』は、1998年にリリースされた中島みゆきのヒット曲「糸」をモチーフにして、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(2017)の瀬々敬久監督が手掛けた作品です。映画『糸』は2020年8月21日(金)ロードショー。
主演は漣役を菅田将暉、葵役には小松菜奈。その脇を斎藤工、榮倉奈々、山本美月、倍賞美津子、成田凌、二階堂ふみ、高杉真宙らが集結。
平成元年に生まれた男女の18年間を、生活者からの視点から見た平成史という形で、2018年に話題となった『友罪』『菊とギロチン』、2019年に『楽園』で注目された、瀬々敬久監督描いた愛の物語『糸』です。
映画『糸』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原案】
平野隆
【脚本】
林民夫
【監督】
瀬々敬久
【キャスト】
菅田将暉、小松菜奈、山本美月、高杉真宙、馬場ふみか、倍賞美津子、永島敏行、竹原ピストル、山口紗弥加、二階堂ふみ、松重豊、田中美佐子、成田凌、石崎ひゅーい、斉藤工、榮倉奈々
【作品概要】
1998年にリリースされ、今や多くのアーティストにカバーされ続けている中島みゆきの名曲『糸』。この楽曲を基に『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の瀬々敬久監督と平野隆監督がオリジナルストーリーを創り上げました。
主演は『溺れるナイフ』『ディズトラクション・ベイビーズ』(2016)に続いて3度目の共演となる菅田将暉と小松菜奈です。
映画『糸』のあらすじ
平成元年生まれの漣と葵。北海道、美瑛の丘の花火大会で出逢って恋に落ちます。13歳の初恋でした。
実は、葵は義父からの虐待を受けていて、いつも怪我を抱えて、学校も休みがちでした。中学を出たら、家を出て働き、一人になるそれまでは我慢するしかないとあきらめたように言う葵。それを聞いた漣はとっさに葵の手を取って駆け落ちをします。
しかし、中学生の逃避行は長続きせず、忍び込んだ山荘を出たところで警察官に見つかり離ればなれになってしまいます。
8年後共通の友人竹原の結婚式で漣と葵は再会することに。ただ、葵には交際中の若手企業家の水島がいて、漣も美瑛のチーズ工場の同僚の香と交際していました。
7年ぶりの再会もぎこちなさだけを残して二人は別れてしまいます。
その後、漣は香と結婚し、一人娘の結を授かりますが、その一方で香の悪性腫瘍が発覚します。
一方、葵はリーマンショックの影響で会社をつぶした水島を追いかけて沖縄まで行きます。けれども、結果として水島と別れることになりました。
独りになった葵は、年齢をごまかして働いていたキャバクラの同僚だった玲子に誘われてシンガポールでネイリストとして働くようになります。
やがて、葵と玲子は会社を興しますが、玲子の無茶な投資で会社は経営難に陥り、葵は周囲を整理すると日本に戻ってきます。
一方、チーズ職人として国際コンクールに挑み始めた漣は、病身の香を支えながら北海道で暮らしていました。しかし、香りの病は悪化、漣と一人娘を残してこの世を去ります。
そして平成最後の年、漣と葵に大きな転機が訪れます。
映画『糸』の感想と評価
今やスタンダードナンバーとなった感のある中島みゆきの『糸』。この映画『糸』は中島みゆきの歌をモチーフにして作られました。
‟糸”というフレーズは、‟繋がり”を連想させてくれます。歌の歌詞もシンプルで判りやすい一方で、多くの解釈をすることができ、様々な風景を想起させてくれます。
映画『糸』は一組の男女の出逢いと別れの物語ですが、親子の物語を想像した人もいるかもしれませんし、友人やペットが相手と考えた人もいたかもしれません。
見えない糸で結ばれた男女の物語としての映画『糸』。その舞台は、北海道から始まり、東京、沖縄、シンガポールまで壮大に拡がります。
この幅広いロケーションは中島みゆきの持つスケール感にはまったものでしょう。
また、ロケは夏と冬に分けて撮影されたとのことですが、そんな撮影態勢は映画を通してわかりました。
こんなところにも、ピンク映画からキャリアを始めて『64-ロクヨン-』前後編(2016)のような大作から、『菊とギロチン』(2018)のような中小規模の意欲的・挑戦的な作品まで幅広く手掛けてきた瀬々敬久監督の手腕と実績が見て取れます。
キャストでいえば、これまであまり“等身大のキャラクター”を演じて来なかった菅田将暉が、普通の青年である漣を演じるのはとても新鮮。
また、過去にも共演経験がある小松菜奈との相性の良さ、息の合い方も安心感があります。
物語の後半、病で倒れるキャラクターを演じた榮倉奈々の思い切った減量は、ハリウッドのように一本の映画だけに時間を割けないという日本の俳優の事情を考えるとかなり驚かされました。
今年も映画に出ずっぱりの成田凌の軽快さや、それに負けないほどのベテラン倍賞美津子の軽やかさも安心して見ていられます。
このように『糸』はオールスターキャスト映画です。それぞれにキャストの独特の見せ場があって、観る者を飽きさせません。
130分という少し長めの映画……、しかもエンドロールまで続きますが、最後までぎゅっと濃縮された物語を堪能できます。
挿入歌として使われる中島みゆきの『ファイト!』の使われ方も絶妙でした。
まとめ
約30年間の平成という時代の終わりは、物語の作り手に創作意欲を掻き立てるのかもしれません。
映画『糸』では、平成元年に生まれた2人の男女が30年間を悩み、傷つき、恋をしながら生き抜いていく姿を描いています。
別れてもまためぐり会える男女の絆は何よりも強い……。映画では、辛く苦しい出来事に押しつぶされそうになっても、それは心の支えとなっていました。
時代時代の出来事として、全米同時多発テロ、リーマンショック、東日本大震災など大事件や大事故が描かれ、過ぎ去った30年間を思い出させます。
アイテム一つとっても、携帯電話がガラケーからスマホに変わっているのが目立ちました。
平成の約30年は大きな出来事が多く、それに翻弄される人も多かったことでしょう。振り返ってみればどの時代にも同じことがいえますし、今の悩みもいずれは過去のことと振り返る形で語られる日が来るのかもしれません。
映画『糸』は2020年8月21日(金)ロードショー