「ブリット・ポップ」が全盛だった頃のロンドンから僕たちを引き逢わせてくれた音楽の物語がやってきた…。
新鋭ジョシュ・ホワイトハウスが”泣き虫ギタリスト”を演じた、『モダンライフ・イズ・ラビッシュ ロンドンの泣き虫ギタリスト』をご紹介します。
CONTENTS
映画『モダンライフ・イズ・ラビッシュ ロンドンの泣き虫ギタリスト』の作品情報
【公開】
2018年(イギリス映画)
【原題】
Modern Life Is Rubbish
【監督】
ダニエル・ジル
【キャスト】
フレイア・メーバー,ジョシュ・ホワイトハウス、ウィル・メリック、マット・ミルン、トム・ライリー、デイジー・ビーバン、ソーチャ・キューザック、ジェシー・ケイブ、スティーブン・マッキントッシュ、イアン・ハート
【作品概要】
英国・ロンドンを舞台に、一組の男女の恋の行方をブリット・ポップとともに描く青春映画。タイトルの「モダンライフ・イズ・ラビッシュ」は、英国のロックバンド「blur」が1993年に発表した同名アルバムからとられている。
劇中には「レディオヘッド」、「スピリチュアライズド」、「コクトー・ツインズ」などイギリスを代表するバンドの楽曲の数々が登場する。
映画『モダンライフ・イズ・ラビッシュ ロンドンの泣き虫ギタリスト』のあらすじとネタバレ
リアムとナタリーはロンドンのレコード店で出逢いました。ナタリーが「blur」のベストアルバムを手にしていると、それを見たリアムが、「それはやめとけ」と声をかけたのが始まりでした。
ベスト盤を買うのは“ズル”だ、「blur」なら1stアルバム『レジャー』と次の『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ』から聴かなきゃ、と彼は力説します。
それでもそのベスト盤を買おうとするナタリー。このベスト盤には他に入っていない曲が収録されているの、と彼女は語ります。彼女も「blur」の大ファンで、1 stから全て持っているのだそうです。
「うざかった?」と尋ねるリアムに、ナタリーは笑顔を返しました。
彼女は支払いをすますと、レジに置かれたチラシをとって店を出ていきました。リアムもそのチラシを手に取ります。「泡パーティー」という音楽パーティーの告知チラシでした。
パーティーに出向いたリアムはそこでナタリーをみつけ、改めて話をすると、音楽の好みがとても似ていることがわかりました。
意気投合した二人は恋人同士となり、一緒に暮らし始めます。
リアムは、「ヘッド・クリーナーズ」というバンドのヴォーカル件ギタリスト。いつか、自分のロックを大勢に届けたいと夢見るミュージシャンです。ナタリーも、レコードジャケットデザイナーになるという夢を持っていました。
ナタリーは大学卒業後、広告会社に就職します。それは決して望んだ道ではありませんでしたが、生活を安定させるための手段でした。
リアムの収入は不安定で、彼の夢を実現させるためにも、自分がささえなければと彼女は考えたのです。
しかし、今、二人は別れようとしています。ナタリーは自分のCDやレコードをカバンに詰め、出ていく準備をしていました。
リアムは、想い出の詰まったアルバムやCDを見ながら、二人の過去を思い出していました。
野外のロックフェスに出かけた時のことです。ひどい雨に振られて三日間、テントの中で過ごす羽目になってしまいました。
近くのATMは何時間も待たねばならず、所持金がないうえに食料もありません。リアムは何もせず、ナタリーを怒らせるような言葉を吐くだけです。
夢のようなことばかり語っているリアムに、ナタリーは「あなたのために自分の夢を諦めたのに、バンドやるならちゃんとやってよ!デモテープも作ろうとしないし!」と怒りをぶつけずにはいられませんでした。
二人の生活はすれ違い、また、リアムの頑ななデジタル嫌いも二人の仲に影響を及ぼしていました。
リアムは、デジタル化した音楽のダウンロードコレクションを一切認めず、CDやレコードのアナログ感にこだわり抜きました。そのため、ナタリーが、iPodで音楽を聴こうとすると烈火のごとく怒るのです。
デジタルの時代よ、とナタリーが言っても、彼はそうした音楽や、はやりのカフエなどはみんな企業による均一化の例だ、と忌み嫌うのでした。
ナタリーの会社が協賛したギャラリーの催しで、リアムが酒を飲んで暴れたことが決定打になってしまいました。
5年間のうち、唯一目をつけてくれていたレコード会社から良い返事をもらえなかったことが彼をそうさせたらしいのですが、ナタリーはもう限界だと感じます。
ナタリーは部屋を出ていき、リアムは傷心のうちに実家に戻るのでした。寝てばかりの彼に母が声をかけてきました。その日は彼の誕生日でした。
「こんな生活じゃふられるわね。起きて仕事を探しなさい」そういうと、母は誕生日プレゼントをくれました。あけてみると中からiPhoneが出てきました。
バンドのメンバー・オリーの紹介で働き始めたリアムですが、それは彼が忌み嫌っていたチェーン店のカフェのアルバイトでした。
ある日、偶然、ナタリーが会社の同僚の男と一緒にカフェにやってきます。「働いているのね」と彼女はリアムに声をかけました。
ナタリーと同僚の男は仲睦まじく見え、リアムは激しい嫉妬心にかられました。
ナタリーの同僚はエイドリアンといい、彼女に正式に交際を求めていました。
リアムと彼女が付き合っていたことを彼は知っていたので、彼女を気遣いますが、ナタリーは「私も前に進みたいの」と応えるのでした。
落ち込んでいるリアムにオリーは、恋愛アプリをやれよ、すぐに相手がみつかるぞ、とアドバイスします。リアムは恐る恐る、母がくれたiPhoneを取り出しました。
会う約束をしていた女性は現れませんでしたが、偶然、アメリカ人の女性と知り合います。
彼女は60年代のロンドンにあこがれており、彼に「生まれる時代を間違ったと思ったことある?」と聞きました。「いつも思ってる」と彼は応えました。
二人は付き合い始めますが、彼の好きな「レディオ・ヘッド」の音楽がかかると、彼女は「レディオ・ヘッド」は嫌い、うるさいからと吐き捨てるように言いました。それを聞いたリアムは今更ながらにナタリーのことを思うのでした。
ナタリーのような女性は他にはいない、彼女を失ったことの大きさがひしひしと感じられ、彼はますます悲嘆にくれるのでした。
映画『モダンライフ・イズ・ラビッシュ ロンドンの泣き虫ギタリスト』の感想と評価
タイトルは、「blur」が1993年に発表した同名アルバムからとられています。
主人公の男女が出会うきっかけが「blur」のベストアルバムを巡ってのやり取りだったことや、ジョシュ・ホワイトハウス演じるリアムが、現代のテクノロジーやグローバリズムを否定した生き方をしていることから、このタイトルがつけられたのでしょう。
90年代から現代につながるブリット・ポップの名曲が次々と流れ、デジタルか、アナログか論争など、音楽好きあるあるな、エピソードが満載の、音楽好き必見の作品となっています。
音楽が三度の飯より好きな人にとって、ナタリーのような女性は理想の恋人に映るに違いありません。自分の趣味を理解してくれるだけでなく、彼女自身、その分野が好きで探求しているのです。
「The Smiths」がきっかけで男女が惹かれ合った『(500)日のサマー』を思い出します。好きな音楽は恋のキユーピッドなのです。
『(500)日のサマー』のカップルよりも遥かに恵まれている上に、彼女が経済的に支えてもくれているのに大切にしようとしないリアムはなんて愚かなのでしょう。
二人が別れたあと、リアムが知り合う女性がこれまた大の音楽好きで、60年代をこよなく愛するという、彼にぴったりそうな人物で、どれだけ恋人に恵まれてるんだ、と思わず嫉妬しそうになってしまいました。
ところが、同じ音楽好きでも、微妙に嗜好が違ってくると、これはもううまくいきません。こんなことなら、まったく趣味の違う人のほうがまだましです。
「レディオ・ヘッド」が嫌いというこの女性の一言で、二人の関係は終わってしまいます。音楽好きあるあるなエピソードですが、ここに来てようやくリアムは自分がかけがえのない人を失ったことに気づくのです。
売れない駄目ミュージシャンと献身的な女性の恋物語という超絶ベタなお話ですが、ジョシュ・ホワイトハウスのきょとんとした表情が愛くるしくて憎めず、また、ナタリー役のフレイア・メーバーの麗しさも相まって、爽やかな印象の作品に仕上がっています。
ジョシュ・ホワイトハウスは、これまでいくつかの映画に出演し、『それでも夜は明ける』のスティーヴ・マックイーン監督制作の短編映画で主演を果たしていますが、長編映画の主演はこれが初めてです。また、監督のダニエル・ジルも本作が初の長編劇映画で、そのフレッシュさがうまく作品にあらわれています。
終盤、リアムがナタリーに送る手作りの数々は、“工作映画”好きの嗜好までくすぐってきます。高価な指輪ではなく、工作を気に入ってくれる彼女ってやっぱり最高なんじゃないでしょうか。
まとめ
The Libertines の「Don’t Look Back Into The Sun」、Stereophonics の「Dakota」、The Vaccines の「If You Wanna」など、ブリット・ポップの名曲が次々流れる中、披露される“ヘッド・クリーナーズ”の曲もなかなかの名曲です。
ジョシュ・ホワイトハウスは、インディーズバンド“MORE LIKE TREES”でリードボーカルを務めており、“ヘッド・クリーナーズ”のステージも堂々とこなしています。
泣き虫ギタリストとして、リアムが有名になるきっかけを作ったのが、かつて彼が徹底的に嫌ったデジタル世界に属するYouTubeだというのが面白く、また、ナタリーの新恋人が、“ヘッド・クリーナーズ”という名前を覚えられず、毎回間違って呼ぶのですが、そのバリエーションの豊富さに思わず笑ってしまいました。
ところで、ジョシュ・ホワイトハウスが2014年に出演した作品に『Northern Soul』というのがあるのですが、日本でのロードショー公開が2019年2月に決定したとのことです。
イギリス北部のユニークなクラブカルチャー、ノーザン・ソウルを描いた映画として早くから音楽ファンの間で話題になっていた作品です。どのような作品なのか、ジョシュ・ホワイトハウスがどのような姿を見せてくれるのか、非常に楽しみです。