『ジオラマボーイ・パノラマガール』は2020年11月06日(金)より新宿ピカデリーほかにて全国公開!
1980~90年代に若者たちのリアルな恋や友情を描くマンガを数多く生み出し、今でも熱狂的な指示を受けている岡崎京子の同名コミックを映画化。
監督は、短編映画『あとのまつり』(2009)、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(2010)、『PARKS パークス』(2016)などの作品で知られる瀬田なつき。
渋谷ハルコ役を山田杏奈、神奈川ケンイチ役を鈴木仁が務め、Netflixドラマ『全裸監督』(2019)で注目を集めた森田望智や、滝澤エリカ、若杉凩などフレッシュな顔ぶれが魅力の青春映画です。
映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』の作品情報
【公開】
2020年公開(日本映画)
【原作】
岡崎京子
【監督・脚本】
瀬田なつき
【キャスト】
山田杏奈、鈴木仁、滝澤エリカ、若杉凩、平田空、持田唯颯、きいた、遊屋慎太郎、斉藤陽一郎、黒田大輔、成海璃子、森田望智、大塚寧々
【作品概要】
岡崎京子が1989年に刊行した同名コミックを映画化。監督は、短編映画『あとのまつり』(2009)、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(2010)、『PARKS パークス』(2016)などの作品で知られる瀬田なつき。
渋谷ハルコ役を山田杏奈、神奈川ケンイチ役を鈴木仁が務め、Netflixドラマ『全裸監督』(2019)で注目を集めた森田望智や、滝澤エリカ、若杉凩などフレッシュな顔ぶれが並ぶ一方、成海璃子、大塚寧々ら実力は俳優ががっちりと脇を固めている。
映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』あらすじとネタバレ
渋谷ハルコは建設ラッシュが進む東京湾岸の高層マンションの一室に家族四人で暮らしている平凡な高校生です。
友人のカエデやマルと一緒にロマンチックな恋をしたいと語り合うような普通の日常を送っていたハルコは、ある日コンビニで買い物をして帰る途中、同じくらいの年齢の男性が路上に傷だらけになって倒れているのに出くわします。
男性は神奈川ケンイチという高校生でした。といっても勢いで高校を辞めると宣言したばかりなので、高校生とはもういえないかもしれません。
ケンイチは街で出会った年上の女性マユミとお茶しているところを、マユミの知人らしき男にみつかってボコボコにされてしまったのです。なんとか家まで歩いて帰ろうとしていた途中、力尽きて倒れたのです。
ハルコは救急車を呼びましょうかと声をかけますが、ケンイチは首を振ります。
なんとか起き上がって帰ろうとするケンイチにハルコは声をかけ、買ってきた漫画雑誌とお菓子を渡しました。ケンイチはそれを受け取ると「このお礼はいつか」と言って立ち去りました。
ふとみると、路上に彼の学生証が落ちています。ハルコは学生証を大切に持ち帰りました。
カエデとマルと一緒に学生証に記された高校で、ケンイチを持ちぶせするハルコ。ところがカエデとマルは「あとはお一人で」と言って笑いながら先に帰ってしまいます。
結局、彼は現れなかったのでハルコは学生証に記載された住所を訪ねることにしました。たどり着いたのは昔ながらの一軒家でした。こっそり覗いていると突然水をかけられ、ずぶ濡れになってしまいます。
怪しい人物が家の前にいると勘違いしたケンイチの姉が、水をかけたのでした。家にあげてもらい、姉の服を借り、髪の毛を乾かすハルコ。ケンイチたちの父親は既に亡くなり、母親も病院に入院中だと知ります。
トイレに行くとみせかけて、ケンイチの部屋を覗くハルコ。ところが突然ケンイチが帰ってきます。
隠れ場所がみつからず大慌てするハルコ。ケンイチは自分の部屋に直行し、ベッドに寝そべりますが、布団をひっぱると中に女の子がいてびっくりします。
こんなふうに2人は知り合い、ハルコはすっかりケンイチにときめきますが、ケンイチはマユミに夢中でした。
マユミから紹介してもらったホテルの清掃アルバイトをしながら、「好きな女の子さえいれば、なんだっていいんだよ。世界がどうなろうと、知ったこっちゃない」と語り、外国人留学生の同僚に呆れられる始末です。
今日はケンイチの姉に誘われたライブイベントの日。最初は高校生だからと断ったのですが、ケンイチも来ると聞かされたハルコは、母にはカエデの家に泊まると嘘をつき、オシャレしてマルと共に渋谷の会場に出かけました。
マルはすぐにお相手ができたようで、仲良く話し込んでいます。手持ち無沙汰で不機嫌な顔をしていると、一人の大人っぽい素敵な女性が近づいてきました。
ハルコに口紅を塗ってくれて、イヤリングまでくれた女性はマユミでした。ハルコはすっかり気持ちが晴れてうきうきした気分になっていました。
しばらくしてケンイチがやってきたのが見えたのでハルコは手を振りますが、ケンイチは誰か女の人と仲良さそうに話し始めました。
その女性がさきほど出会った女性と気付きハルコはショックを受けます。ケンイチが女性とキスを交わすのを観たハルコは思わず会場を飛び出し、ビルの屋上にあがっていきました。
そこには美容師をしているという大学生の男性が一人でビールを飲んでいました。ハルコは彼の手を引くと、ここを出ようと言いました。
渋谷のPARCOの前で興奮したように話をするハルコ。大学生はハルコに思わずキスしますが、驚いたハルコは彼を振り切って駆け出していました。
早朝、ハルコはカエデと会い、一部始終を報告していました。
「彼女がいるかもしれないってことにどうして思いあたらなかったんだろう?」
ハルコとカエデは盗んだ自転車で2人乗りしているところを、運悪く警官に呼び止められます。ハルコは未成年にも関わらずお酒を飲んでいたことがわかり、警察署まで連れて行かれて大目玉を喰らいます。
ハルコが家に戻ると、カエデのところに泊まったという嘘がばれていて母親はかんかんでした。自分が悪いとはわかっていても母のいうことは横暴すぎるとハルコもまた怒り出し、2人は冷戦状態に。
さらに警察から学校に通報があり、ハルコは3日間の停学処分を食らったうえに、決まりかけていた大学の指定校推薦の話もおじゃんになってしまいました。
カエデはそんなハルコを励まそうと、道であったハルコの妹とその友人も合流して、建設中の高層マンションの一室に秘密基地と称して忍び込みます。
ダンボール箱の中に入ったカエデとハルコ。カエデはハルコが好きでもない人とキスしたことを妬いていると告白しました。彼女はハルコが好きなのです。
ハルコはカエデの方を向いてキスしようとしました。カエデは「ビッチ」と小声でつぶやくと部屋を出ていってしまいました。
一方、ケンイチはマユミと恋人同士になったかのように見えましたが、マユミがお金を払う人となら誰とでも付き合うことがどうしても理解できません。
恋の悩みにくよくよしているうちに、マユミはグァテマラに行ってしまったと聞き、ケンイチは落ち込みます。
学校でハルコはカエデに借りていた小沢健二のアルバムを返し、話をしようとしましたがカエデはするりとその話題を避け、ハルコの17歳の誕生日会をしようと言いだしました。
この前と同じメンバーで建設中の高層マンションに再び忍び込み、ささやかなパーティーを楽しむハルコたち。
映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』感想と評価
瀬田なつきは「出逢い」を実に巧みに描き出す作家です。
2012年の監督作品『5windows』は、横浜の黄金町と大岡川を舞台に14:50という同じ時間にいろんな人がすれ違っている様子を何度も時間を巻き戻して描いていました。この映画で主演となる何人かはそれぞれ無意識に出逢い、すれ違っています。
2017年の『PARKSパークス』では、井の頭線に乗ったハル(永野芽郁)が車窓から純(橋本愛)、あるいは純とトキオ(染谷将太)が一緒にいるところを目撃します。このシーンではカメラが電車から、純、あるいは純とトキオを見下ろし、同じカットでハルのところに戻ってきます。
けれど、彼らは互いには自覚していません。確実に近い場所にいるのですが、お互い、気づかずすれ違っているのです。
『ジオラマボーイ・パノラマガール』の渋谷ハルコ(山田杏奈)と神奈川ケンイチ(鈴木仁)もまた、映画の中で何度かすれ違います。ケンイチは見下さず、ハルコは見上げないので、2人の視線が合うことはありません。
そんなふうに人は、毎日、無数の人とすれ違っています。ふとしたきっかけで知り合い、もしかしたら恋に落ちることになる相手とも、まったく気づかずにすれ違ってきたのかもしれません。
逆の見方をすると無数のすれ違いの中で生じる出逢いというものは、やはり奇跡とか運命と呼ぶにふさわしいことなのかもしれません。
瀬田なつきの作品にはこうした出来事を俯瞰で眺めているようなどこかふわっとした視点が存在します。
ハルコとケンイチの本当の出会いはそれなりにドラマチックですが、出会っていたにも関わらず実は出会っていなかったという強烈な「落ち」も用意されています。甘くてほろ苦い、ティーンエイジャーの恋が、瑞々しく描き出されています。
そして瀬田なつきといえば、なんといっても歌とダンスでしょう! 小沢健二の楽曲を口ずさむハルコたちと、廊下ですれ違いざまに軽やかな身振り、手振りを見せる同級生たち。
はずむリズム、高揚感に満ちたステップがスクリーンにはじけます。この時、カメラは横移動で、廊下で起こるささやかだけれど鮮やかな躍動を映し出します。
思えば、冒頭から再開発が進む湾岸地域の高層ビル群を映し出す際、カメラは横移動を繰り返していました。
また、ケンイチがつけたテレビに映るのは山中貞雄の『丹下左膳余話 百萬両の壺』(1935)の一場面です。
黒沢清は『黒沢清、21世紀の映画を語る』(boid)で、丹下左膳が街を歩く横移動のショットについて「このショットが出てきた瞬間、心がうきうきしてくる」と述べています。さらに次のようにも書いています。
フルサイズの横移動で音楽に乗って歩く人というのは、なぜかそれまで背負ってきた様々な物語上の設定から突然一気に解放されていくような感じがするということです。世界が急に広がった感じとも言えます。
『ジオラマボーイ・パノラマガール』では『丹下左膳余話 百萬両の壺』のこのシーンとは違う別のシーンが映し出されていますが、この作品における横移動への言説を意識してのものともいえなくもありません。
すれ違いと横移動により、キャラクターたちが生き生きとスクリーンに息づいている作品、それが映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』といえるでしょう。
それにしても、黒沢清の『スパイの妻』における『河内山宗俊』といい、本作といい、2020年公開の新作映画の中で立て続けに山中貞雄作品を目撃することになるとは思いもよりませんでした。
まとめ
本作は漫画家の岡崎京子が1989年に刊行した同名コミックの映画化作品です。
物語の舞台は2019年に置き換えられ、主人公が暮らす集合住宅も郊外の団地から湾岸の再開発地域の高層マンションに変更されています。
岡崎京子作品が持つフレバーをリスペクトしつつ、岡崎京子らしさを突き詰めるのではなく、瀬田なつきの持ち味と融合させることによって、新しい青春映画が生み出されました。
新型コロナウィルスの感染拡大が起こるなどとは誰も知らず、翌年には普通に東京オリンピックが行われると誰もが疑っていなかった2019年の東京の姿がここには記録されています。
一年前というのにもう懐かしい遠い世界のように感じられる2019年という時代の中で、無邪気に、でも真剣に、他に何も目に入らないくらい恋にときめいたティーンの青春群像が刻まれていることが、なんだか無性に目頭を熱くさせるのです。