映画『15年後のラブソング』は2020年6月12日(金)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他、全国公開予定
映画『15年後のラブソング』は、『アバウト・ア・ボーイ』『ハイ・フィデリティ』などで知られるイギリスの人気作家ニック・ホーンビィの同名小説をジェシー・ペレッツ監督が実写映画化したもの。3人の男女が繰り広げるラブストーリーです。
ヒロインのアニーを「ピーターラビット」シリーズのローズ・バーン、アニーの恋人が崇拝する伝説のミュージシャン、タッカー・クロウを『恋人までの距離』のイーサン・ホーク、アニーの恋人・ダンカンを『ソウルガールズ』のクリス・オダウドがそれぞれ演じています。
CONTENTS
映画『15年後のラブソング』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ・イギリス合作)
【原題】
Juliet, Naked
【原作】
ニック・ホーンビィ
【脚本】
エフジェニア・ペレッツ、ジム・テイラー、タマラ・ジェンキンス
【監督】
ジェシー・ペレッツ
【キャスト】
ローズ・バーン、イーサン・ホーク、クリス・オダウド
【作品概要】
イギリスの人気作家ニック・ホーンビィの同名小説を実写映画化した本作は、イギリスの港町とアメリカの田舎町に住む大人たちのラブストーリーです。
ヒロインのアニーを「ピーターラビット」シリーズのローズ・バーン、アニーの恋人が崇拝する伝説のミュージシャン、タッカー・クロウを『恋人までの距離』(1995)のイーサン・ホーク、アニーの恋人ダンカンを『ソウルガールズ』(2014)のクリス・オダウドが演じています。
映画『15年後のラブソング』のあらすじ
イギリスの港町サンドクリフ。博物館で働く30代後半の女性アニーは、長年一緒に暮らす腐れ縁の恋人ダンカンと平穏な毎日を送っていました。
2人はそれなりにうまくやっているのですが、90年代に表舞台から姿を消した伝説のロックスター、タッカー・クロウに夢中になっているダンカンのことをアニーはどうしても理解できません。
タッカー・クロウの話になると、アニーはダンカンに対して攻撃的な言い方になってしまいます。そんなある日、彼女のもとに1通のメールが届きます。送り主はなんとタッカー・クロウ。
そこからアニーとタッカーの奇妙な文通が始まりました。
映画『15年後のラブソング』の感想と評価
大人になりきれない大人たちが繰り広げる、ドタバタ恋物語
この物語はイギリスの港町サンドクリフとアメリカ・ニュージャージー州の田舎町を舞台に、ある程度人生経験を積んできた3人の男女が登場します。
ヒロインのアニーは、父親から引き継いだ博物館で働きながら、大学で教鞭をとる恋人のダンカンと15年の付き合いで一緒に暮らしています。
平凡な毎日に「人生なんてこんなもんよね」と納得しながらも、ダンカンに対して不満は山積していました。彼との15年間は何だったのだろう……と疑問さえ持ってしまうほどです。
その上ダンカンは、かつて一世を風靡したロックスター、タッカー・クロウに夢中。いかに彼が優れたミュージシャンであるかをインターネット上で発信することに喜びを見出しています。
彼の部屋はタッカーのポスター、CD、資料でいっぱい。そこまで一人のミュージシャンに心酔するダンカンにアニーは深いため息をつきます。
そんなダンカンへの当てつけもあり、アニーはタッカーのことになるとけんか腰になります。ある日アニーは、タッカーの曲「裸のジュリエット」を酷評するコメントを投稿するのですが、このコメントがアニーの日常を変えるきっかけとなりました。
コメントを読んだタッカー本人から、「きみの言っていることは全くそのとおりだよ」とアニーのもとへメールが届いたからです。
驚いたアニーは戸惑いながらも返信をし、「退屈」と言っていた、かつてのロックスターとメールのやり取りを始めました。
ダンカンに内緒でタッカーとメールのやりとりを始めた頃、アニーに大事件が起きます。ダンカンが職場の同僚と浮気をしたことが発覚、二人は長年の腐れ縁に終止符を打ったのでした。
一方のタッカーは、アメリカ・ニュージャージー州の田舎町で何度目かの離婚をし、元妻の自宅のガレージで自堕落な暮らしをしていました。
元妻との間に授かった幼い息子・ジャクソンが心のよりどころですが、かつてのロックスターの面影はありません。結婚と離婚を繰り返し、ジャクソンには異母兄弟姉妹がたくさんいる始末です。
そんなタッカーは、アニーに対して自身のことを包み隠さずメールで話します。いつしかアニーもあけっぴろげなタッカーに興味を持っていきます。
ある日タッカーは、娘の出産をきっかけに息子のジャクソンとイギリスへ行くことになりました。アニーに「このままメール友達のままでいるか、それともお酒でも飲む?」と質問、アニーは躊躇なくタッカーに会うことを決意します。
ロンドンに着いたタッカーの身にあるトラブルが起こり、二人はすんなり会うことはできなかったのですが、どうにか顔を合わせることができました。
ひょんなことからサンドクリフにあるアニーの自宅でタッカーとジャクソンがしばらく暮らすことになり、アニーの日常が大きく動き出します。
アニー、タッカー、ダンカンの3人は、いわゆる「いい歳をした」大人たちです。しかし3人とも大人になりきれていない未熟者ばかりなのが、この物語の面白いところです。
アニーは長年の恋人と別れ、この先どうすればいいのか、ウジウジと悩みます。妹からは「ついに時がきた。この町を出たら?」と促されますが、博物館の仕事や妹のことが気がかりだと理由をつけてはっきりしません。
タッカーは感情のおもむくままに結婚と離婚を繰り返した結果、母親が違う娘や息子を5人ももうけました。幼いジャクソンは、次々に明らかになる姉や兄に少し呆れ気味です。
ダンカンはとにかく自分のことが第一で、アニーに浮気がバレた時も、話し合いの場で謝りつつ、自分を擁護する発言をしてしまいます。まるで子どもが母親に苦しい言い訳をしているように見えます。
なんとも未熟な3人ですが、不思議なことに3人を嫌いになれません。なぜだろうと考えた時に、彼らが経験してきた人生や日常は、同じ年代の大人たちが、大なり小なり持っているものだと思うからです。
平凡な日常の殻を破れないアニー、自らの過ちで娘や息子たちとの関係や生活がめちゃくちゃになってしまったタッカー、自分のことばかり考えて過ちを素直に認めずに言い訳をするダンカン。
そんな3人を見ていると、「私、似ているところがあるかも」「同じ経験をしたことがある」と自分自身に当てはめてしまうのです。
イーサン・ホーク演じるダメ男・タッカーに愛着を感じる
未熟な3人の中でも群を抜いているのが、イーサン・ホークが演じるタッカーです。くたびれた元ミュージシャンのタッカーは、どこから見てもダメ男。冴えない格好をして決まった仕事もせず、ミュージシャン時代の印税でなんとか地味な暮らしを維持しています。
そんなタッカーですが、娘の出産が心配でイギリス・ロンドンへ向かいます。ところが到着するやいなや、心臓発作を起こして入院してしまいます。
会う約束をしていたアニーと初めて顔を合わせたのが、なんと病院のベッドの上。ロマンチックな雰囲気はまるでない上に図らずも病院に駆け付けたタッカーの元妻と子どもたちが集まる場に、アニーを巻き込んでしまいます。
それぞれの妻たちは、ここぞとばかりにタッカーに嫌味を言い始め、子どもたちはタッカーのいい加減なところに怒りをぶつけます。元妻たちや子どもらの言い分を聞き、それに対して反論したりなだめたり、一方で帰ろうとするアニーを引き留めたり……。病室が一気にカオスな状態になっていきます。
その時のアタフタしたタッカーが、なんとも面白く吹き出してしまいます。心臓発作を起こしたばかりなのに、そんなに興奮して大丈夫? と思わずタッカーに語り掛けたくなるほどのドタバタぶりなのです。
タッカーがなんだかとてもかわいらしく、愛しく見えてしまうシーンとなっています。
そんなダメ男・タッカーですが、元ミュージシャンらしく、アニーの前で弾き語りを披露します。なぜミュージシャンをやめてしまったのか、タッカーに苦しい過去があったことが明らかにされますが、ミュージシャン、タッカー・クロウの復活を期待したくなる弾き語りのシーンとなっています。
まとめ
イーサン・ホークのダメ男ぶりがキュートな本作ですが、アニーを演じるローズ・バーンもとても魅力的です。30代後半の女性が陥ってしまいがちな「こじらせ女子」ぶりを好演しています。
しかしある日博物館を訪れた年配の女性の一言をきっかけに、ウジウジとこじらせていたアニーが生まれ変わろうとします。ある決意を持ってタッカーに向けて放つ言葉に「アニー、どうしたの!」と度肝をぬかれるとともに、思わず拍手を送ってしまいました。
そしてダンカンを演じるクリス・オダウドもいい味を出しています。一人のミュージシャンに夢中なオタクぶりを見事に表現。どこまでも自分勝手なダンカンですが、そこが人間臭くて憎めないキャラクターなのです。
3人の生き様を見ていると、ひょっとしたら人というのは「大人になりました」と言い切れる瞬間などなく、一生成長し続けるものなのかなと感じました。ということは、いくつになっても、人生において新しい扉を見つけることができるのかもしれません。この作品は、そんな明るい気分にさせてくれる物語でした。
映画『15年後のラブソング』は2020年6月12日(金)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他、全国公開予定