優柔不断な若社長×ド派手なドラァグクイーンのハートフルコメディ『キンキーブーツ』。
イギリスの田舎町の小さい靴工場の実話を基にジェフ・ディーンとティム・ファースが共同脚本。
『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』や『ジェイン・オースティン 秘められた恋』など、イギリスカラーの強い作品を生み出したジュリアン・ジャロルドが監督を務めています。
ブロードウェイでミュージカル化され、2013年トニー賞で13部門ノミネートの年間最多記録となりました。そして日本でも日本人キャストで公演、更に2021年にはブロードウェイ・ミュージカルを映画の劇場画面で公開されました。
2005年にアメリカとイギリス合作で制作され、ジュリアン・シャロルド監督の長編劇場デビュー作品『キンキーブーツ』をご紹介します。
映画『キンキーブーツ』の作品情報
【公開】
2005年(アメリカ・イギリス合作映画)
【原作】
Kinky Boots
【監督】
ジュリアン・シャロルド
【キャスト】
ジョエル・エドガートン、キウェテル・イジョフォー、サラ=ジェーン・ボッツ、ジェミマ・ルーパー、リンダ・バセット、ニック・フロスト、ユアン・フーパー、ロバート・ピュー
【作品概要】
『ジェイン・オースティン 秘められた恋』(2007)『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』(2015)やジュリアン・ジャロルドの初長編映画デビューとなった作品。イギリスで100年以上の歴史をもつ靴工場「ブルックス社」がモデルとなっています。
この工場では実際にドラァグクイーン用の商品を開発し経営を改善させ、そのストーリーを基にジェフ・ディーンとティム・ファースが共同で脚本しました。
笑いあり、涙ありのハートフルコメディとなりイギリスから世界へと発信。映画に留まることなくブロードウェイでミュージカル化も果たし現在も人気の作品です。
映画『キンキーブーツ』のあらすじとネタバレ
舞台はイギリスの田舎町ノーサンプトンにある小さな靴工場プライス社。そこでは伝統的な紳士靴を作ってきていました。
三代続く家業でしたが、三代目の息子チャーリーは父のプライス社を継いで欲しいという願いに反し、婚約者のニコラの転勤を機に共にロンドンに引越し、マーケティングの仕事を始めようとしていました。
ロンドンに引っ越した矢先、父の訃報が届きます。突然チャーリーはプライス社の社長になることに、更に最悪なことに工場の経営が倒産寸前の危機であることが発覚します。
唯一の取引先も無くなっており、靴は在庫の山だったのです。優柔不断で頼りないチャーリーがこの経営危機からプライス社を救うことはできるのか?
継いで直ぐに発覚した経営危機に愕然としたチャーリーはロンドンのパブでやけ酒をしていました。
店を出てお金を恵んで欲しいと頼むホームレスにプライス社の靴を渡しましたが、サイズが違うと言われてしまいます。その時、不良に絡まれていた女性を見かけ、チャーリーは助けに行きました。
しかし、その女性は自分が履いていたブーツを武器に不良と戦おうとしていたのです。運の悪いことにそのブーツがチャーリーに当ってしまい、気絶。
チャーリーが目を覚ますとそこが、ドラァグクイーンの控室。とても体の大きい女装したローラが居たのです。
ローラはヒールが何度も壊れてしまうことに「人生の重みに耐えられないのよ」と呟きました。その呟きから後にチャーリーはアイディアを見出すことになります。
ロンドンからノースサウサンプトンに戻ったチャーリーは、15人のリストラを始めました。気弱で優柔不断な性格からリストラも上手く伝えられず、「What can I do?(どうしたらいい?)」と寧ろ従業員に訪ねてしまうほど頼りないチャーリー。
リストラを伝えていくなかで女性従業員のローレンから、「どうしよう、と嘆いてばかりでなく、新しいことを考えるべきよ」と助言されます。そこで、チャーリーはロンドンで出会ったドラァグウイーンのローラを思い出しました。
女性用のヒールを男性が履いたら壊れてしまう。そこにニッチな市場がある、工場の立て直しに希望を見出したチャーリー。
設立から代々紳士靴を作ってきていたプライス社が、ドラァグクイーンのブーツを作るのは簡単なことではありませんでした。
チャーリーとローレンはロンドンで出会ったローラに助言をもらおうと再会しました。そして、ローラの足を寸法させてもらい、ミラノの展示会を目標にブーツ作りが始まりました。
昔ながらの工場で女装した男性は目立ってしまうことを懸念したチャーリーは、ローラに出来上がり次第ブーツを届けることを約束しました。
しかし、ローラはノースサウサンプトンまで取りに来てしまったのです。案の定工場内では目立ち、工場内のボス的存在のドンから受け入れられず、棘のある言葉を投げかけられてしまうローラ。
取りに来た試作品のブーツにローラは「こんなもの私が求めているものではない、私はRedがいいの!Red!Red!」と激怒。
従業員の女性にも試作品のブーツを履きたいか聞くローラ、そして全員が履くことを望まなかったのです。
そこでドンは「ローラなら似合う」と心無い言葉を投げかけます。「女性が履きたくないものはオレだって履きたくないのよ」と威圧的に対抗。
ローラと従業員の関係性は縮まらないなかで、ブーツの作成は続いていきます。
映画『キンキーブーツ』の感想と評価
「紳士と淑女、そしてまだどちらか迷っているあなた!」ローラがショーの始まりで放つこのセリフは、まさに映画の観客全員に向けているメッセージでもあります。
どんな人でも受け入れてくれるキンキーブーツは、見た人全てに感動と幸福感を与えてくれます。差別や偏見を扱いながらもコメディ要素が強く、見る者に抵抗感を持たせない作りになっています。
チャーリーとローラは一見真逆の人間に見えますが、実は共通点が多かったように感じるでしょう。父親の期待に反し生きてきたことや、周りから少し浮いてしまっていたこと。表面から見えない共通点が二人を強く結びつけたのではないでしょうか。
表面で見えているものは本当にわずかなことであり、偏見で壁を作ってしまうことで素敵な人と関わるチャンスを逃しているのです。
生まれたままの自分を愛することの重要性を感じ、それと同時に周りの人も同じように愛し受け入れていきたいと思うことができました。
この作品のもう一つの魅力は、なんといってもローラが歌い踊るドラァグクイーンのシーンです。
ショーはとても色鮮やかでパワフル、圧倒されてしまいます。ブロードウェイで舞台化されているのも納得のショーパフォーマンスで、映画を見た人は舞台にも足を運びたくなるでしょう。
そして、ローラ演じたイジョフォーは独特でユーモラスなキャラクターを見事に演じ、ゴールデングローブ賞主演男優賞のミュージカル(コメディ)部門にノミネートされました。
実話を基に作られた作品はどうしても演出の視点から考えると“どこまでが実話なのか気になってしまう”ところ。しかし、本作はそのようなことに左右されることなく、楽しくと面白さを踏まえたハートフルさで、このような素敵な実話であるということを堪能できるはずです。
まとめ
ジュリアン・ジャロルド長編映画デビュー作品。
田舎町の小さな靴工場の若社長と都心で暮らすドラァグクイーン。けして交わるように思えない異色な二人は周囲の人の心を打ち、そして引き込んでいく。
笑いながら感動する主人公のタッグと同じように不思議だけど温かい、そんな感情が観客の心に染み渡るものになっています。
ローラは女性の心を持ちながら芯があり男らしく、チャーリーは男性の心を持ちながら優柔不断で男らしくない性格。
“男らしく”ある必要はなく“その人らしく”いられれば人生は幸せなのだと見る者に気付きを与えてくれます。
偏見を捨てて人生を楽しみたい!ありのままの自分を愛したい!心の底にある思いがこみ上げてくる作品です。
また、自宅で気軽にミュージカルを楽しめるものにもなっており、家族や恋人、友達と一緒に観て気持ちを共有するのに最適な映画です。