映画『惑星ラブソング』は2025年5月に広島で先行公開予定、以降全国順次ロードショー!
現代の広島で自分たちの将来に悩む若者たちが、「平和」とともにポジティブな未来を掴むための道をたどっていく姿を描いたファンタジー『惑星ラブソング』。
撮影のほとんどが広島で行われた本作は、従来の作品とは一線を画す奇想天外な物語を通じて、平和に対する様々な考えを観る者に想起させてくれます。
映画『惑星ラブソング』は2024年11月23日(土)に開催された「広島国際映画祭2024」でプレミア上映され、多くの注目を集めました。
今回は同映画祭での上映を記念し、本作を手がけた時川英之監督にインタビュー。本作の大胆な構成・世界観を構築するに至った経緯をはじめ、広島で映画を制作し続けるその思いや意義などを伺いました。
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「平和」というテーマを広島で描く覚悟
──「平和」がテーマの映画を広島で制作することは、その時点でプレッシャーに感じられたのではないでしょうか。
時川英之監督(以下、時川):それは、確かにありました。これまで自分の作品を観てくださった方にも「いつかは作ってほしい」と言われることがありましたが、「平和」というテーマの時点で多くの方は映画を構えて観るので下手な作品は作れないし、実際に作るとなると覚悟が必要なテーマだと感じていました。
『鯉のはなシアター』(2018)の作中で「カープと戦後」の話題になった場面で、原爆ドームなどのシンボル的なイメージは登場しましたが、他の映画では原爆ドームすら映していません。そういう意味では、本作の企画以前から「広島で映画制作をする以上、今まで向き合っていなかったものに向き合わなくてはいけない」という覚悟は抱いていました。
「広島国際映画祭2024」舞台挨拶でのキャスト陣
時川:そして何年か前に、被爆者の方のドキュメンタリーを撮らせていただく機会がありました。「広島に来た外国人のインタビューを通じて広島の街を見る」という内容でしたが、それをきっかけに「平和」をテーマに映画を撮ろうと改めて思い至ったんです。
ですが「きちんと描かなくては」という気持ちだけが先行してしまうと観づらい映画になってしまうと感じたため、多くの方に観てもらうためにも物語が硬くなり過ぎない、より破天荒で野心的なアイデアを盛り込んだ展開・構成を形作っていきました。
また「平和」というテーマを描く上で、「次に何ができるのか」に焦点を持っていく必要があると思いました。過去を振り返るのも大事ですが、振り返った後に「じゃあ、広島という場所から何ができるのか」と次の世代が考えなくてはいけない。具体的な答えは出せないまでも、それを人それぞれが模索することが大事だと感じたんです。
幼少期の「平和の歌」の記憶
共同プロデューサー・横山雄二さん
──タイトルにも含まれる「ラブソング」という言葉をはじめ、本作では「歌」が重要なモチーフとして登場しますね。
時川:歌は、人々が「平和」を目指す時の旗印になると思うんです。例えばジョン・レノンの「イマジン」は平和を語る時に用いられる曲の一つであり、「想像して」と語りかけることで、人々は普段想像だにしない平和について考えることができる。そんなアイデアと、幼少期の個人的な記憶から本作の物語を考えました。
僕が小学校3年生くらいの頃、「ジョンは撃たれて亡くなった」と学校の先生が話してくれたんです。当時の僕はビートルズも、ましてやジョンのことも知らなかったんですが、先生はとても悲しそうにしていました。そして話を終えた後に、ビートルズの曲を聴かせてくれたのを覚えています。
そうした「『平和』の歌を作った人が、人に殺された」という幼少期の思い出を「過去の記憶が巡り巡って現在へと戻ってくる」という意味も込めて本作で描きたいと思いました。何より「『平和』を祈り、訴え続けたジョンの意志は、実は今も生きている」という物語は、今の時代だからこそ、より多くの方に共感してもらえるのではと考えました。
本作は「平和にまつわる物語」とは別に「歌が導いてくれる物語」という側面もあります。実は元々「ピース・ソング」というタイトルをつけていたんですが、少し地味かなとも感じて、プロデューサーの横山さんとも話し合い平和に不可欠な「愛」が含まれる今回の『惑星ラブソング』というタイトルにしました。
常に求めている「今まで観たことのない映画」
──「より破天荒で野心的なアイデアを」という姿勢は、本作のみならず映画制作の際には常に意識されているのでしょうか。
時川:映画を観る時は、誰もが「今まで観たことのない映画」と求めるはずです。そもそも映画自体が「観たことのないものを観たい」という欲求から生まれたものといえます。
特に今は発信される作品の数も相当多く「今まで観たことのない映画」への欲求はより高まっている。そんな自分自身の内にも存在する映画への思いに、やはり応えたいんです。またCGなどの映像技術の発展により、そうしたアイデアに基づくイメージが10年前よりも遥かに「具現化しよう」と強く信じられるようになったのも大きいですね。
一方で本作では、今まで観たことのない映画のためのアイデア作りだけでなく、制作を続けていく上での作品の「重さ」についても議論しました。
「観やすい映画」と「観る人に考えてほしい映画」のバランスは常に課題であり、当然個人によってバランスの感覚も違います。また、その議論を重ねていく中で「人それぞれに『平和』との距離感が違うんだ」ということも思い知らされました。
より平和に関する話を聞きたいという人もいれば、平和という言葉を信じられず、全く興味がないという人もいる。様々な感じ方・捉え方がある中で「そんな自分たちが、どんな『平和』を映画で描けるのだろうか」と考え続けました。
──時川監督はいつ頃から、映画に惹かれるようになったのでしょうか。
時川:高校の頃はサッカーに打ち込んでいたんですが、その時期を除くとずっと映画に興味を持ち続けていたと思います。
小学校の時から映画が好きで、想像を超えてくる映画や、とてつもない感動を与えてくれる映画、「すごい」としか言いようのない気持ちにしてくれる映画を観るうちに「自分で映画を作ったら、どうなるだろう」と感じ、5年生の頃にカメラを買って友だちと撮り始めたんです。ですから、昔からやりたかったことを今はやっているという感覚ですね。
広島で育ち、映画を作る自分が撮れる「何か」
──2024年現在、時川監督は広島を拠点に映画制作を続けられていますが、そのことをご自身ではどのように捉えられているのでしょうか。
時川:実は正直なところ、「広島で映画を作る」ということにそこまでこだわっているつもりはなく、映画が作れるところなら海外を含めてどこでも作っていきたいと思っています。
ただ、広島は自然と題材が見つかるんです。「どんな作品を撮ろうか」と思った時、広島では毎回自然に企画が見つかるので、作家として無理のない自然なスタイルで映画を作れています。また広島はとても映画を撮りやすい場所でもあり、街の風景が魅力に溢れているのはもちろん、そこで暮らしている方も協力的に接してくれるんです。
僕は、広島という場所が好きなんだと思います。ここに心地よく住んでいて、かつ広島らしい題材が見つかるので、毎度それを魅力的に撮りたいと思ってしまうんでしょう。
今のところ、映画制作の拠点としての東京には、あまり興味がないんです(笑)。東京でのお仕事のお話をいただくこともあるんですが、中には「監督は僕以外の人でもいいんじゃないか」と感じてしまう題材もあるんです。
本作は自分にしか撮れないものを作ったという気持ちが強く、幼少期の自身の思い出も盛り込み「広島で育ち、広島で映画を作る僕以外の人じゃ絶対撮らないだろう」と思えるくらいに個人的視点で描いた作品だと認識しています。
こうした機会を度々いただいていることもあってか、今はありがたいことに自然に広島で撮らせてもらっている「何か」があるのではないかと思っています。
「広島で生まれ育った人間」の目線を、世界へ
「広島国際映画祭2024」開会式より
──「自分にしか描けないものを描く」という思いは、全てのクリエイターの根底にある信念なのかもしれません。
時川:ハリウッドなどではよく「自分の物語を描きなさい」「作家として人間として自分にしか語れない、自分が知っている物語を描きなさい」と言われているそうです。そして「自分にとっての物語とは何だろう」と考えた時に、『惑星ラブソング』では「広島が記憶する戦争と、広島が祈る平和」を自分の目線で描いてみようと企画を進めていったんです。
「もっと商業的にも成功して、日本の多くの人が知っているほど有名な映画を作ってみたい」という思いは、今でも正直あります。東京で活動している知り合いの映画人にも「よくずっと作っていられるな」「そっちで映画を作り続けるのは難しいだろ」「東京に住めばいいのに」とよく言われます(笑)。
ただ東京以外での映画制作も、協力してくれる人がいれば決して難しくはありません。また、商業主義に振り回されがちな傾向がある映画業界において、東京はより疲弊しやすい気もしています。だからこそ、自分にとっては心身ともに健やかに、持続的に映画制作ができる広島の強みを感じています。
──今回の「広島映画祭2024」での上映について、改めてご心境をお聞かせください。
時川:こうした映画祭に参加することで、作品を日本だけでなく海外の方にも観てもらえるのは、本当にありがたいと思います。また映画祭は上映後に直接ご感想をいただける機会もあり、それが自分にとっての勉強になるところもいいですね。
特に本作は「広島で生まれ育った人間」としての目線で描いているので、海外の方に「広島で生きる人々は、こういう目線で『平和』というものを見つめているんだ」と考えてもらうきっかけになる作品だと感じています。
そして、世界各地で戦争が実際に起こっている現代だからこそ、なおさら「平和」を描こうとした本作を純粋な気持ちで観てほしいですね。
インタビュー・撮影/桂伸也
時川英之監督プロフィール
1972年生まれ、広島県出身。明治大学/バンクーバー・フィルムスクール卒ディスカバリーチャンネル・アジア(シンガポール)、ウォルト・ディズニー・テレビジョン(東京)で多くの番組にプロデューサー・ディレクターとして携わりました。
その後は映画監督・岩井俊二氏に師事。映画を中心にドキュメンタリー・テレビCM・ミュージックビデオなど幅広いジャンルの映像作品を手がけ、活動範囲は日本にとどまらず、国際色豊かな経験からユニークな作品を作り出しています。
2009年に映像会社「TimeRiver Pictures」を設立。2014年に長編第1作となる映画『ラジオの恋』をRCC中国放送のアナウンサー・横山雄二の主演で製作し、以後『シネマの天使』『鯉のはなシアター』『彼女は夢で踊る』と意欲的に作品を発表し続けています。
映画『惑星ラブソング』の作品情報
【公開】
2025年公開予定(日本映画)
【英題】
Love Song for Hiroshima
【製作・監督・脚本】
時川英之
【製作】
横山雄二
【キャスト】
曽田陵介、秋田汐梨、チェイス・ジーグラー、八嶋智人 他
【作品概要】
将来への不安を抱えながら広島で日々を過ごす若者が、謎多きアメリカ人旅行者との出会いと交流の中で自身の過去や広島の悲しい歴史、そして平和への道に向き合っていく姿を描いたファンタジー。
本作を手がけたのは『彼女は夢で踊る』(2020)『鯉のはなシアター』(2018)『ラジオの恋』(2014)など広島を拠点に映画制作を続ける時川英之監督。『彼女は夢で踊る』に続いてのアナウンサー・横山雄二との共同プロデュースのもと、原爆ドームを中心にほとんどを広島県内で撮影しました。
主演は『交換ウソ日記』『なのに、千輝くんが甘すぎる。』(ともに2023)の曽田陵介。また『つぎとまります』(2024)『リゾートバイト』(2023)などの秋田汐梨、オーディションで選ばれたアメリカの俳優チェイス・ジークラー、ベテラン・八嶋智人らが名を連ねています。
映画『惑星ラブソング』のあらすじ
広島の若者モッチとアヤカはある日、謎めいたアメリカ人旅行者であるジョンに出会い、広島の街を案内することになる。ジョンには不思議な力があり、広島の街に何かを見つけていく。
一方、小学校で広島の歴史を聞いて怖くなった少年ユウヤは不思議な夢を見る。そして夢の中で出会った少女は、彼を戦前の広島へと案内する。
広島の街に起こる不思議な物語が交錯し、少しずつ一つの大きな渦になる。広島の過去と現代が交錯し、現実と幻が融合し始める。やがて街の人々は、未だ体験したことのないある出来事に遭遇し、忘れていたあの平和の歌が街に響く。
広島から放つ、愛と平和のファンタジー。