Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

【徳永えりインタビュー】映画『月極オトコトモダチ』が描く「男女の友情」という答えのないテーマ

  • Writer :
  • 桂伸也

新鋭・穐山茉由監督の長編デビュー映画『月極オトコトモダチ』は、2019年6月8日(土)より順次全国ロードショー!

突然目の前に現れた「レンタルトモダチ」の存在に翻弄される女性・望月那沙役を演じた徳永えりさん。


(C)Cinemarche

“男女の友情”は成立するか?」という永遠のテーマに挑んだ本作。

徳永さんは男性との友情とも愛情ともつかない微妙な感情、さらにはルームメイトの友人との関係を交えた複雑な思いに悩む主人公を演じました。

今回は、近年演技派女優として注目を集めている徳永さんにインタビューを行い、撮影に対する取り組み「レンタルトモダチ」「男女の友情」というユニークなテーマに対する印象、そして現在の演技に対する意欲的な姿勢などを語っていただきました。

“レンタルトモダチ”という題材


(C)2019「月極オトコトモダチ」製作委員会

──現代的である「トモダチをレンタルする」という設定がユニークでしたが、徳永さんはどのように受け取りましたか?

徳永えり(以下、徳永):「レンタルトモダチ」の存在は知っていました。“インスタ映え”を狙って複数のトモダチを雇うという例が多いそうですが、本作では一対一のレンタル。しかも異性同士でのレンタルが描かれています。

その使用方法は全然想像がつかなかったです。劇中、主人公の那沙がレンタルすることになる柳瀬(橋本淳)は、「男女関係にならないための“スイッチ”がある」と語っていますが、「恋愛感情に発展しないのかな?」という疑問が湧きました。

「男女の友情は成立するのか?」が本作のテーマではあるものの、そもそも正解などはありません。果たしてどのような結末へとたどり着くのか。そこが面白い点だと思いました。

──徳永さんはレンタルトモダチを活用してみたいと思いますか?

徳永:私はむしろ、「レンタルトモダチ」として、レンタルされてみたいです(笑)。「自分が対価を払って他人の時間を買う」というのはあまり考えたことがないですが、那沙のように友達に付き合ってもらいにくい趣味などがあれば、レンタルトモダチを利用するのもアリかもと思いました。

トモダチをレンタルする感覚


(C)2019「月極オトコトモダチ」製作委員会

──「プラトニックな関係にお金を払う」という感覚を受け入れにくい方もいるのではと思いましたが。

徳永:「自分のやりたいことに付き合ってくれる」のは、「欲求を満たしてくれる」という意味では他のサービス業と一緒なんだと思います。

例えるなら、「あそこに行ってみたいけれど、本当の友人や家族には中々言えない」と思った時には、他人の時間を少しだけ買って付き合ってもらおうという感覚なんです。

実は本作の撮影前、穐山監督は実際に「レンタルトモダチ」を借りてみたんだそうです(笑)。

お金を払っているから、はじめからすべてを受け止めてくれるスタンスで接してくれる。だからこそ話しやすかったと監督はおっしゃっていましたが、それをお聞きしたことで「ああ、なるほどな」と思えました。

レンタルトモダチから見える“男女の友情”


(C)Cinemarche

──徳永さんは、“男女の友情”というものが成立すると思いますか?

徳永:すると思います。実際、私にも男友だちはいます。

もちろん友情として愛情はありますし、お互いが友だちだと思っていれば、“男女の友情”は成立すると考えています。

──柳瀬をレンタルする場面では、月極のポイントカードにハンコを押していました。そこでは、那沙の柳瀬に対する思いの揺らぎが映し出されています。

徳永:確かにあの場面は、「あと何時間で…」と柳瀬との別れが近づき、寂しさを感じながらもレンタル料金を支払わなければならないという現実を描いています。

そしてあの時点で、彼女は柳瀬がレンタルトモダチなのかどうなのか分からなくなりつつあるんだと思います。そう思わせる柳瀬は罪な男だなと(笑)。

共演者と演じた役柄とそのモデル


(C)2019「月極オトコトモダチ」製作委員会

──本作で演じられた那沙という人物を、徳永さんはどのような人物だと捉えましたか?

徳永:那沙には悩まされました(笑)。彼女の性格があまりにも分からなかったためです。

脚本を読ませていただいた時、「彼女は30手前にしてはちょっと幼い部分があるな」と感じました。それ故に、様々な表情が彼女から現れるんです。

ホワ〜ッとした頼りなさげな雰囲気を纏っている一方で、内に秘めた確固たる部分、頑固な部分も存在する。どこに重きを置いて演じたら、彼女の性格が表現できるのかと悩みました。そして、その役柄を掴む過程において大きな助けとなったのが、橋本さんが演じた柳瀬という人物です。

現場に入って橋本さんとお芝居をした時に気づいたんですが、彼はこちらの演技に“波”があっても、決して揺るがない人だったんです。お芝居を受け止めてくださるのに、柳瀬役として揺るがず、淡々と演じ続けてくださる。そのおかげで、那沙にはこの“波”があっていいんだと気づけたんです。

実は那沙を演じるにあたって、あるモデルをずっと観察し続けていたんです。それが、穐山監督です(笑)。

彼女の纏っている雰囲気に触れた時、「もしかして那沙のモデルは穐山さんなんじゃないか?」と思えたんですよ。もちろん監督は脚本も書かれているので、ご自身の何かは必ず出るものだとは思いますが。

今後も“積み重ね”を


(C)Cinemarche

──2018年のテレビドラマ『恋のツキ』(テレビ東京系)にて主演、そして本作でも主演を務めるなど、そのご活躍は止まることを知りません。一方でご入籍もされ多くの変化があったわけですが、現在のご心境はいかがでしょう?

徳永:昨年は多くの作品に参加することができて、本当にありがたかったです。それも様々なジャンルの作品や人物を演じられたこともあり、とても充実していました。

昨年私は30歳になったのですが、自分はむしろ早く30歳になりたいとずっと思っていたんです。私が事務所に入ったのは16歳ごろだったんですが、当時の社長に「えりは30歳からだね」と言われて(笑)。ただ、その言葉に自分でも妙に納得したんです。

「多分、私は“積み重ね”が必要、人生の“積み重ね”が必要なタイプなんだ」と考えていたんです。だからこそ、20歳は修行時代だと捉えて、早く30歳にならないかとずっと待ち遠しく思っていました。

──“積み重ね”ができたと、ご自身でも実感されていますか?

徳永:30歳手前の頃には、お芝居に対しても少し悩んでいた時期がありました。いまいちやりきれない。或いは自分ではベストを尽くしたつもりが、うまくいかないということが多くあったんです。

けれど、その中でNHKの朝ドラ「わろてんか」に出演させていただいた後は、とても身軽になったように感じました。芝居のスタンスが変化が現れ、やっとお仕事が「楽しい!」と思えるようになったんです。

「今の自分に何ができるか」「これから何を求められるか」を考えること。それは楽しさでもある一方、自分で更新していかなくてはいけない課題だと捉えています。

インタビュー・写真/桂伸也
記事構成/加賀谷健

徳永えり(とくながえり)のプロフィール

1988年生まれ。2002年ファッション雑誌『ピチレモン』の準グランプリを獲得し、専属モデルを経て、2004年にドラマ『放課後。』(フジテレビ系)で女優デビュー。

2006年には映画『放郷物語 THROES OUT MY HOMETOWN』で映画初出演、主演を果たしました。

近年連続テレビ小説『梅ちゃん先生』『わろてんか』(NHK)などの出演でブレイクし、『デイジー・ラック』(NHK)、『ヘッドハンター』(テレビ東京系)、『健康で⽂化的な最低限度の⽣活』(フジテレビ系)、『フルーツ宅配便』(テレビ東京系)と出演作が続き、昨年はドラマ『恋のツキ』(テレビ東京系)でドラマ初主演を果たし、現在最も今後が期待される女優の一人となっています。7月からはレギュラー出演する連続ドラマ『べしゃり暮らし』(EX)の放送が控えています。

映画『月極オトコトモダチ』の作品情報


(C)2019「月極オトコトモダチ」製作委員会

【公開】
2019年6月8日より全国順次公開(日本映画)

【監督】
穐山茉由

【キャスト】
徳永えり、橋本淳、芦那すみれ、野崎智子

【作品概要】
本作が長編デビュー作となる新鋭・穐山茉由監督は、ファッション業界で会社員として働きながら「30代はやりたいことをやろう」と思い立ち、本格的に映画美学校で映画製作を学び、映画製作の道に進み始めた新鋭。

主人公の望月那沙役を徳永えりが熱演、その那沙がひょんなきっかけで出会い「レンタルトモダチ」として契約をすることになる柳瀬草太役を橋本淳が務めます。

本作の音楽には、ミュージシャンのBOMIとシンガーソングライターの入江陽が参加。音楽×映画の祭典「MOOSIC LAB 2018」では長編部門グランプリほか4冠を達成し、話題を呼んでいます。また本作は「第31回 東京国際映画祭」日本映画スプラッシュ部門にも正式出品されました。

映画『月極オトコトモダチ』のあらすじ

30歳を目前にしながら、仕事も恋愛もパッとしない、Webマガジンサイトの編集者・望月那沙。彼女はある日、後輩のユリに連れられて出会い系パーティーの場に足を運んでいました。そこで那沙は、一人の男性・柳瀬草太と出会います。

何事もなく終わったパーティーでしたが、日が明けて那沙はユリより、柳瀬が「レンタルトモダチ」であることを知ります。

そのことにピンと閃いた那沙。彼女はサイトのコラムとして「男女の友情はレンタルできるか?」という新たなテーマを立案、編集長のGOを得て、再び柳瀬と対面し、レンタル契約を結びます。

「男女関係にならないスイッチを持っている」という柳瀬。レンタル契約という関係もあってか、気楽な付き合いから始まった彼との時間を、目いっぱいに楽しむ那沙。その経験をもとに執筆した那沙のコラムは、意外にも人気のコンテンツへと成長していきます。

しかしその一方、那沙が病気でベッドに臥したときに、柳瀬は「サービスだから」と手厚い看護を施してくれたり、那沙にとって柳瀬との関係は、徐々に微妙な関係に変化することに。

さらにプライベートでは音楽をやっているという柳瀬は、那沙のルームメイトで、シンガーソングライターの小野珠希(芦那すみれ)と、とあるきっかけで急接近。さらに複雑な思いに友人との友情が絡み合い、那沙は一層思い悩むことに。果たして、男女の不思議な関係の行きつく先やいかに?

映画『月極オトコトモダチ』は、2019年6月8日(土)より順次全国ロードショー!

関連記事

インタビュー特集

【尾上松也インタビュー】ドラマ『課長バカ一代』原作漫画と“愛”に向き合いながら“俳優”としてあり続ける

ドラマ『課長バカ一代』は2020年1月12日(日)よりBS12 トゥエルビにて放送、1月4日(土)よりひかりTV・dtvチャンネルにて順次配信開始! 優秀なのか?それともバカなのか?「課長補佐代理心得 …

インタビュー特集

映画『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』インタビュー|田口智久監督が語る“シリーズを壊す”という挑戦と感謝とは

映画『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』は2020年2月21日(金)より全国ロードショー公開! “デジタルワールド”に呼ばれた“選ばれし子どもたち”とパートナーデジモンの成長と …

インタビュー特集

【優希美青インタビュー】映画『WALKING MAN』ANARCHY監督の作品制作への思いに応える演技を

映画『WALKING MAN』は2019年10月11日(金)より全国ロードショー! ラップ・ヒップホップ界で現在、絶大な人気を誇るアーティストANARCHYが初監督を務めた映画『WALKING MAN …

インタビュー特集

【李相日監督インタビュー】映画『流浪の月』広瀬すず・松坂桃李が描き出すカテゴライズできない確かなつながり

映画『流浪の月』は5月13日(金)より全国ロードショー公開! 凪良ゆうの人気原作小説を『悪人』(2010)、『怒り』(2016)で知られる李相日監督が映画化した『流浪の月』。 世間によって誘拐事件の“ …

インタビュー特集

【和田光沙インタビュー】『映画(窒息)』“セリフなし”の状況で再考した“身体という言葉”×役に投影される“生きている誰か”のための表現

『映画(窒息)』は2023年11月11日(土)より新宿K’s cinema他で全国順次公開! 『いつかのふたり』(2019)の長尾元監督の長編映画第2作にして「セリフなし・モノクロ撮影」と …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学