映画『翼の生えた虎』は2022年8月20日(土)より池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開!
冒険小説家を目指していた主人公が現実の厳しさに直面し、傷心を抱えて15年ぶりに故郷へ。そこで出会った親子との交流を、美しい自然とともに描き出した映画『翼の生えた虎』。
NHK番組「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」の一員としても活動し、ブラジル・コスタリカなど世界各地を飛び回る冨田航監督の初の長編監督作です。
このたび、本作を手がけられた冨田航監督にインタビューを敢行。
冨田監督の目から見た主演・谷英明さんと池田香織さんの「本気」、ご自身が映画監督を目指されたきっかけ、6年越しに劇場公開を迎える本作への想いなどを語ってくださいました。
CONTENTS
「全員で作品を作る」にこだわった初長編
──本作は2016年に撮影された作品だと伺っております。今回のタイミングで劇場公開に踏み切られた理由をお教えいただけますでしょうか。
冨田航監督(以下、冨田):2017年には、いろいろな映画祭へ本作を出品し上映していただけたのですが、当時の状態の映画は、急いで編集したこともあり、私の中で100%納得できる出来ではありませんでした。そのまま劇場公開することもできたのですが、もう一度いちから映画を編集し直そうと思ったんです。
──初の長編監督作である本作を撮るにあたり、企画・撮影の際に冨田監督はどういった点をこだわられたのでしょうか?
冨田:自然の風景をしっかり描きたいと思いました。そのために、撮影監督であるショーン・ネオさんをシンガポールからお招きし、ロケハンから始まり、ディスカッションをしていきました。
また制作はキャスト、スタッフ、ロケ地の皆さんにたくさん助けられながら進めていきました。全員で一緒に作品を作ったという実感が大きいです。やっと公開できるので、本当に長らくお待たせしました。
役作りに「本気」で応えてくれたキャスト陣
──主人公の虎(たける)を演じられた谷英明さん、凛を演じられた池田香織さんとは、役作りに関してどのような話し合いをされたのでしょうか?
冨田:クランクイン前、お二人とはずいぶん話し合いをしました。例えば虎は、見た目は強そうだけれど内面には繊細な部分がある……そういうところを、しっかり伝えたいと思いました。谷さんとは相当ディスカッションしました。
また谷さんはもともとモデル体型で、少し華奢な雰囲気があったので、まずは身体を大きくしていただくためにも、虎と同じ仕事を実際に経験してほしいとお願いしました。僕の要望に谷さんは本気で取り組んでくださったので、当時から「この映画は良い作品になるだろう」と思いましたし、谷さんへの信頼感が生まれました。
冨田:池田さんは、凛の息子である剛を演じてくれた小島義人くんと、実際に栃木で共同生活をしてくださいました。そこまでしてくださる方はなかなかいないので、彼女の作品に対する「本気」を感じられました。
お二人とも素晴らしい俳優さんであり、役作りはもちろんのこと、現場の雰囲気を盛り上げてくださるなど、演技以外の面でもずいぶん助けてくださいました。
──剛を演じられた小島義人くんには、当初どのような印象を抱かれたのでしょうか?
冨田:剛は、いわゆるリーダー体質ではなく、例えて言うならドッチボールをしている時に、端の方にいるタイプなんです。義人くんもまさにそういうタイプの子で、剛のイメージにぴったりだったんです。
ただ彼自身はとても頭の回転が速くて、セリフも全部しっかり覚えてきてくれました。子どもながらに周りのことがよく見えている、気の遣える子でした。
キャンプを通じて「小さな世界」を作りたかった
──主人公・虎が凛と剛の親子と絆を深めていく場所、あるいは時間として「キャンプ」を選ばれた最大の理由は何でしょうか?
冨田:どこか居場所のない三人が一緒にキャンプをすることで、自分たちだけの小さな世界が作れないかなと思ったのです。
──キャンプの場面では、虎と剛の交流が色濃く描かれていました。中でも、二人が初めてテントで夜を過ごすことになった場面での「影絵遊び」を用いた演出は、とても心に残りました。
冨田:ありがとうございます。1カットが長かったですし、ここの演出にはとてもこだわりました。小さいテントの中で何ができるかと思った時、「冒険小説が好き」という虎と剛の共通点を思い返し、影絵で動物を表現するのが合うのかなと感じたのです。皆さんに是非観ていただきたいシーンの1つになりました。
──この場面をきっかけに、虎の剛に対する意識も変化していきました。
冨田:そうだと思います。それまでは剛のことを疎ましく思うなど、虎にはどちらかと言えば「悪い大人」というイメージがついていました。ところがあの場面によって、今度は凛が子どもを放置してしまった母親として描かれ、「悪い大人」のイメージの比重が傾いていきます。
ですが、凛にもいろいろな事情があり、結局どちらが悪いわけでもないんだということを表現する意味で、均衡を保つための場面となったのかなと感じています。
「映像なら伝えられる」と映画監督の道へ
──冨田監督が、映画監督になることを志したきっかけは何でしょうか?
冨田:2011年に1ヶ月間アメリカへ行き、ニューヨークを起点にグレイハウンド(※1)で旅をしました。ハンディの小さなカメラを持って撮影しながらの旅でした。
2011年の3月11日に起きた東日本大震災は、アメリカのニュースで知りました。当時は一体何が起きたのかが分からず、メディアの報道に違和感を覚えました。どこか、情報を切り取られて報道されているような感覚を抱いたのです。
その時、僕は自分自身で話すことが得意ではないものの、もしかしたら映像ならしっかり伝えられるのではないかと思ったのが、映画監督になろうと考えたきっかけです。
──そして大学ご卒業後に、映画の専門学校へ行かれたわけですね。
冨田:映画監督になると決意したので、住み込みのアルバイトをしながら映画の学校へ夜間通うことにしました。半年間で映像に関することを学ぶコースでしたが、それまで現場で学ぶ機会はなかったため、とてもいい経験でした。
※1:グレイハウンド……アメリカ最大規模のバス会社。同社が運行する長距離バスそのものを指すことも。
夢を持っている人すべてに届けたい作品
──初の長編監督作が劇場公開を迎え、冨田監督は今後どのように活動を続けていこうとお考えでしょうか?
冨田:『翼の生えた虎』では、自分にとって身近な問題の一つ、半径5メートルほどのテーマについて表現できたので、今度はもう少し大きな社会問題をからめたテーマを描いていきたいと考えています。
本作でも社会問題は描写されていますがあくまでも「夢を追うのか追わないのか」というテーマを軸に描きました。次の作品では、その気持ちから少し離れて大きいことに挑戦したいです。
──本作の見どころを改めてお聞かせください。
冨田:今現在、夢に挑戦している方はもちろん、かつて夢を持っていたけれど諦めてしまった方にも観ていただきたいです。
この映画を観て、もう一度一歩踏み出してみようか……と考えてもらえるとうれしいです。そして何よりも、主演の二人、谷さんと池田さんの演技に注目していただきたいです。
本作を観て自分自身と重ね合わせ、ご家族と話してみたり、食事をしながら話題にできるような、そんな作品になればいいですね。
インタビュー/咲田真菜
撮影/田中舘裕介
冨田航監督プロフィール
1990年生まれ。本作が初長編作品ながら国内外の映画祭で受賞多数。
NHK番組「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」の一員としても活動し、ブラジル・コスタリカなど世界各地を飛び回る。
2022年現在、次作を撮影中。
映画『翼の生えた虎』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督・脚本】
冨田航
【キャスト】
谷英明、池田香織、小島義人、奥居元雅、佐藤結耶、太三、神後修治、真柳美苗、細渕敬史、大村達郎、棚橋由佳、オキク、フランキー岡村、相澤美砂子、棚橋誠一郎
【作品概要】
夢に向かって挑戦したものの芽が出ずに過ごした歳月に疲弊した主人公・虎(たける)が、戻りたくなかった故郷で人の温かさや美しい自然に触れることで、人間として再び成長していく姿を描いたヒューマンドラマ。
監督を、NHK「ダーウィンが来た!」「ワイルドライフ」などのドキュメンタリー番組にも携わり、本作が長編映画初監督作となる冨田航が手がけています。
映画『翼の生えた虎』のあらすじ
江戸時代から続く栃木県の伝統工芸・小砂(こさいご)焼の窯元の息子として生まれた向井虎(たける)は、冒険小説家になる夢を抱き、親の反対を押し切って高校卒業と同時に上京。
しかし現実は甘くはなく、落選と肉体労働に追われる日々に疲れ果て、夢をあきらめ故郷に戻る決意をします。
15年ぶりに戻った故郷で、疎遠になっていた旧友や勘当された父親と再会した虎。ある親子にも出会い、全てがうまくいかず、本音をさらけ出すことができない虎は、ある嘘をつきます。
執筆者:咲田真菜プロフィール
愛知県名古屋市出身。大学で法律を学び、国家公務員・一般企業で20年近く勤務後フリーライターとなる。高校時代に観た映画『コーラスライン』でミュージカルにはまり、映画鑑賞・舞台観劇が生きがいに。ミュージカル映画、韓国映画をこよなく愛し、目標は字幕なしで韓国映画の鑑賞(@writickt24)。