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Entry 2023/09/04
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【齊藤工監督×yamaインタビュー】映画『スイート・マイホーム』主題歌という物語の蓋を閉じる“鎮魂歌”×他者と自己に“還元”されていく表現

  • Writer :
  • 河合のび

映画『スイート・マイホーム』は2023年9月1日(金)より全国公開!

作家・神津凛子のデビュー作である同名小説を、俳優として活躍しながら映像制作活動も行い、初の長編監督作『blank13』(2018)では国内外の映画祭で8冠を獲得した齊藤工監督が映画化した『スイート・マイホーム』。

窪田正孝が主演を務めた本作は、とある一家が「まほうの家」と謳われる新居を購入したのを機に怪異に巻き込まれていく様とその顛末を描き出します。


(C)田中舘裕介/Cinemarche

このたび映画の劇場公開を記念し、齊藤工監督と、本作の主題歌を歌唱したシンガー・yamaさんのお二人にインタビューを行いました。

映画の監督・主題歌の歌唱というそれぞれのお仕事で「欠けてはいけない」と感じられたもの、齊藤監督にとってのyamaさんが歌われた主題歌の魅力、2023年現在のお二人にとっての“表現”の在り方など、貴重なお話を伺うことができました。

それぞれが感じた“欠けてはならないもの”


(C)2023『スイート・マイホーム』製作委員会(C)神津凛子/講談社

──神津凛子さんの原作小説を映画化されるにあたって、齊藤監督が「これだけは絶対に、映画で欠けてはならない」と感じられた小説の魅力は何でしょうか。

齊藤工監督(以下、齊藤):原作小説を拝読した時から、『スイート・マイホーム』は女性性・母性の継承と伝承の物語であると感じました。

その上で、女性性・母性の奥に潜む何かを見つめるための儀式的な行為として「女の子が自らの手で目を覆いながらも、指と指の隙間から“起きてしまった出来事”を見つめている」という原作小説にはない描写を、脚本開発の段階から映画作中に挿入したいと考えていました。

また原作小説の結末で描かれる“タブー”は非常に残酷なものではあるのですが、その残酷性を割愛しマイルドに描いてしまったら、神津さんの小説を実写映画として表現する意味がなくなるとも確信していました。だからこそ、「どこまで描くのか」という繊細な課題と向き合いながらも「表現としては、決して“弱いもの”にしない」という点に重きを置きました。


(C)2023『スイート・マイホーム』製作委員会(C)神津凛子/講談社

──yamaさんが本作の主題歌を歌唱される上で、「これだけは欠けてはならない」と感じられたものは何でしょうか。

yama:主題歌はその映画の“後味”に深くつながっているものだと思うので、どういう形であれば映画を観終えた後のお客さんが家へ持ち帰ってくれるほどに、映画に対する余韻を感じられる音楽になれるかなとは悩んでいました。

また『スイート・マイホーム』という映画の世界観を描いた作品であるとともに、自分が歌う作品でもあるのが主題歌ですから、映画をしっかりと観た上で自分の色と映画の色をどこまで掛け合わせられるか、そのバランスをいかに図るかには気をつけていました。

「パンドラの箱」を閉じてくれる“鎮魂歌”


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──齊藤監督は、映画『スイート・マイホーム』の主題歌をyamaさんが歌唱されたことで、本作にどのような変化が生まれたと思われますか。

齊藤:yamaさんの楽曲とは本作の主題歌をお願いする以前から、自身の生活において至るところで触れていたのですが、特に『王様ランキング』(2021)というテレビアニメ作品のEDテーマである『Oz.』は作品の全てを浄化・救済するような意味を持つ楽曲として素晴らしくて、むしろEDを観たからこそ次回のエピソードも観たくなるほどだったんです。

また以前自身が俳優として携わった『シン・ウルトラマン』(2021)では米津玄師さんが主題歌を担当されたのですが、先ほどyamaさんも触れてくださった通り「主題歌とは作品の物語を踏襲した上で、観終えた後の余韻を通じて、作品と観客の生活をつながる橋渡しの役目を担うものなのだ」と改めて実感でしました。

ですからyamaさんに『スイート・マイホーム』の主題歌を担当してほしいとご相談した当初も「映画作中で描かれる様々な悲しみを浄化する“鎮魂歌”として主題歌を歌ってもらいたい」とお願いした記憶があります。


(C)田中舘裕介/Cinemarche

齊藤:そしてyamaさんが実際に歌ってくださった主題歌は、「パンドラの箱」のような物語である本作にとって、これ以上ないほどの“蓋の閉じ方”が表現されているものとなっていました。yamaさんでなければ完成できなかった、本当に素晴らしい主題歌だと思っています。

yama:ありがとうございます(笑)。

『返光』の全体的な雰囲気や聴いた際の印象はバラードらしさがあって、スローテンポな曲調やメロディも相まってどこか“懐かしさ”を感じさせる曲ではあるのですが、『スイート・マイホーム』という作品の世界観をエッセンスとして入れるとした場合、ただ優しく歌うだけではダメかもなと考えました。

そのため、歌う中での感情の波を変化させ、不定な心情を聴き手に感じられるようにすることで、よくよく歌を聴いてみることで気づける違和感……優しさの奥に潜む、悲しくも恐ろしい何かを表現できないかと当時は進めていました。

他者との対話で知る“自己の輪郭”


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──お二人は創作活動において、どのような方法でインスピレーションを得ているのでしょうか。

yama:もちろん映画や漫画などの様々な作品を見て刺激を受けることもあるんですが、曲が浮かぶことが多いのは、誰かと話している時ですね。誰かと話す中でその人の人生観や価値観を知ることで、自分自身がそれまで持っていた価値観に刺激が与えられ、そのまま歌としてアウトプットされることが多いんです。

曲を書き始めたのは本当にここ最近の話で、当初は自宅にこもって一人で煮詰まりながら制作していたんですが、人と会ってたくさんのコミュニケーションを交わしていった方が、一人きりでは出てこなかったアイデアが浮かぶことにだんだんと気づいていきました。

齊藤:今のyamaさんの言葉で、自分にもインスピレーションが浮かびました。僕は森山大道への憧れもあって、モノクロの写真を撮り続けているのですが、風景の写真を撮っていると「これは僕ではなくても、誰かが撮り得た風景なんじゃないか」「少なくとも“自分にしか撮れない風景”ではない」と思えてしまうんです。


(C)田中舘裕介/Cinemarche

齊藤:だからこそ自分は「その画家にしか描けない風景」が描かれている風景画に強く惹かれるのですが、改めて「僕にしか撮れないものがあるとしたら、それは何だろう」と再考した時、それは「人の顔」かもしれないと感じられました。

誰かの顔の写真を撮ると、そこには被写体であるその人と撮影者である自分との間にある関係性も色濃く反映されます。撮影者が自分自身でなければ、その写真は撮れないわけです。そして誰かを深く見つめ、その人が持つ心の生態系と自分自身のそれとの違いを知ることは、自己の輪郭を知ることでもあるんです。

「自分にはここがないんだ」「自分はコレにこだわっているんだ」といったある種“歪み”にも見える自己の輪郭は、自分ではない他者と対峙している時にようやく自覚できる。自分が写真でも、映画でも人を撮り続けている理由は、多分そこにあるんだと考えています。

yama:自分も、今の齊藤監督のお話を聞いて納得しました。あまり言葉にできていなかったんですが、「なぜ人と話すことで、曲が生まれるのか」の答えの一つは、きっと誰かと話すことで自分自身とも対話できていたからだと思います。

他者と自己に“還元”される表現


(C)田中舘裕介/Cinemarche

──2023年現在、お二人にとっての“表現”とは一体何か、最後にお教えいただけませんでしょうか。

yama:「誰かのために」という想いが心の軸にあるというよりかは、今もやっぱり自分のために歌っていますし、それを曲でも表現しているつもりです。

ですが、その表現を通じて結果的に、自分と共通する部分を持っていると感じてくれている方など、曲を聴いてくださった方たちのことを肯定できていたらいいなとは、今も表現を続ける中で考えていることですね。特にライブにも来てくださるお客さんは、自分に何かしらシンパシーを感じ、自分と同じように音楽に救われている方たちだとも思っていますから。

誰かと触れ合うことで自分を知って、自分自身を表現することで、誰かにまた還元できる。そうした誰かとの関係を育めることができたらと感じています。

齊藤:表現において「前例がないもの」は正直なくなってしまっている気はするのですが、それでも足したり掛け合わせたりなど、錬金術的にそういったものを生み出せるんじゃないかとは考えています。

また僕は俳優、映画監督、写真など、一見すると散漫にも思えるほど色々なことをしていますが、それらも最終的には全て経験値として集約されるものであり、自分自身の視野を広げてくれている気がするんです。

僕が20代の頃は「俳優はかくあるべき」「目指すは月9と大河」といった“俳優のフォーマット”が業界には存在していたのですが、今はすでに飽和状態に陥っていると感じています。芸人さんがYouTubeを有効活用して新たな活躍の場を増やしているように、“フォーマット”以外での表現の手段がかつてより遥かに多く存在しているからです。

多くの表現の手段を試し、たとえ一つの表現で失敗しても、経験値として還元されていく。また「要らない」と感じていた表現の形が、別の表現の手段と掛け合わされることで、必要なものだと捉え直せる場合もある。異なる表現を持つ他者と出会える実践の現場でなければ成し得ないことであり、感覚的にも自分の真の長所・短所に気づくこともできます。

そして多くの表現の手段に触れる中で視野を広げることで、主観的にだけでなく客観的にも「この表現に、自分は向いているかもしれない」と見つめ直す。それが僕にとっての表現の生い立ちの全てであり、自分の生涯の仕事を定めるためのヒントなのだと思います。

インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介

齊藤工監督プロフィール

1981年生まれ、東京都出身。パリコレクション等モデル活動を経て2001年に俳優デビュー。

俳優業の傍らで20代から映像制作にも積極的に携わり、「齊藤工」名義での初長編監督作『blank13』(2018)では国内外の映画祭で8冠を獲得。

『フードフロア:Life in a Box』(2020)ではAACA2020(アジアン・アカデミー・クリエイティブ・アワード)で日本人初の最優秀監督賞を受賞した他、『バランサー』(2014)がオレゴン短編映画祭2020で最優秀国際映画賞受賞、『COMPLY+-ANCE』(2020)がLA日本映画祭2020でW受賞した。

俳優としての主な出演作は『虎影』(2015)、『団地』『無伴奏』(2016)、『昼顔』(2017)、『MANRIKI』(2019)、『糸』(2020)、『孤狼の血 LEVEL2』(2021)、『シン・ウルトラマン』(2022)、『イチケイのカラス』『THE LEGEND & BUTTERFLY』『シン・仮面ライダー』『零落』(2023)など多数。

yamaプロフィール

2018年よりYoutubeをベースにカバー曲を公開し活動をスタート。

2020年4月に自身初のオリジナルとしてリリースされたボカロP・くじらが手がけた楽曲『春を告げる』はSNSをきっかけに爆速的にリスナーの心を掴み、あらゆるヒットチャートでトップにラ ンクイン。

また2022年に放送されたテレビアニメ『SPY×FAMILY』の第2期EDテーマ『色彩』ではボカロP・くじらと約3年ぶりのタッグを組んだ。

2023年4月から放送のテレビアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2ではOPテーマを担当するなど、現在の音楽シーンを象徴するアーティストの一人。

映画『スイート・マイホーム』の作品情報

【公開】
2023年(日本映画)

【原作】
神津凛子『スイート・マイホーム』(講談社文庫)

【監督】
齊藤工

【脚本】
倉持裕

【主題歌】
yama『返光(Movie Edition)』(ソニー・ミュージックレーベルズ)

【音楽】
南方裕里衣

【キャスト】
窪田正孝、蓮佛美沙子、奈緒、中島歩、里々佳、吉田健悟、磯村アメリ、松角洋平、岩谷健司、根岸季衣、窪塚洋介

【作品概要】
作家・神津凛子が第13回小説現代長編新人賞を受賞したデビュー作である同名小説を、俳優として活躍しながら映像制作活動も行い、初の長編監督作『blank13』(2018)では国内外の映画祭で8冠を獲得した齊藤工監督が映画化。

新居購入を機に怪異へと巻き込まれていく主人公・清沢賢二を演じたのは、齊藤監督とはドラマ『臨床犯罪学者 火村英生の推理』(2016)で俳優としてバディを組んだ窪田正孝。

また賢二の妻・清沢ひとみを蓮佛美沙子、賢二たちの新居の住宅会社営業担当・本田を奈緒、賢二の兄・聡を窪塚洋介が演じる他、中島歩、里々佳、松角洋平、根岸季衣らが出演している。

映画『スイート・マイホーム』のあらすじ


(C)2023『スイート・マイホーム』製作委員会(C)神津凛子/講談社

極寒の地・長野県に住むスポーツインストラクターの清沢賢二は、愛する妻と幼い娘たちのために念願の一軒家を購入する。「まほうの家」と謳われたその住宅の地下には、巨大な暖房設備があり、家全体を温めてくれるという。

理想のマイホームを手に入れ、充実を噛みしめながら新居生活をスタートさせた清沢一家。だが、その温かい幸せは、ある不可解な出来事をきっかけに身の毛立つ恐怖へと転じていく。

差出人不明の脅迫メール、地下に魅せられる娘、赤ん坊の瞳に映り込んだ「何か」に戦慄する妻、監視の目に怯えて暮らす実家の兄、周囲で起きる関係者たちの変死事件。そして蘇る、賢二の隠された記憶。

その「家」には何があるのか、それとも何者かの思惑なのか。

最後に一家が辿り着いた驚愕の真相とは?

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。

2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。


(C)田中舘裕介/Cinemarche






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