大阪アジアン映画祭・インディーフォーラム部門正式エントリー作品
小村昌士監督初長編作品映画『POP!』
MOOSIC LAB[JOINT]2020-2021にて上映中
『アルプススタンドのはしの方』『テロルンとルンルン』(ともに2020)などで注目を集める小野莉奈が主演を務め、2021年3月5日~3月14日にて開催の第16回大阪アジアン映画祭・インディーフォーラム部門に正式招待された映画『POP!』。
『とんかつDJアゲ太郎』(2020)『疑惑とダンス』(2019)などに出演し、個性ある演技で注目されていた俳優・小村昌士の初長編監督作である本作。早くもインディーズ映画の中で注目が集まる作品となっています。
このたび、第16回大阪アジアン映画祭での作品上映を記念し、本作を手がけた小村昌士監督へのインタビューを敢行。
主演の小野莉奈の役柄とその演出意図について、また大阪アジアン映画祭での観客の様子や自身の俳優・監督の活動に関する想いなどを語ってくださいました。
劇場上映が実現した大阪アジアン映画祭
大阪アジアン映画祭の会場ポスターと小村昌士監督
──映画『POP!』の大阪アジアン映画祭への正式招待が決まった際のお気持ちを改めてお聞かせください。
小村昌士監督(以下、小村):選んでくださったことが純粋にうれしかったですし、作品の意図が分かってもらえたという安心感がありました。大阪アジアン映画祭は、2016年に『食べられる男』(脚本)という映画で参加しましたが、大阪は僕の地元ですし、『POP!』を大阪の人に観ていただける機会が与えられ、光栄でした。
──映画祭が開催中ですが、現場の雰囲気はいかがでしょう。
小村:オンラインで開催される映画祭が多い中、作品の上映のみとはいえ劇場で開催するというのはすごいことですし、劇場や時間帯をうまく散らして、プログラムを組んでいらっしゃるように感じました。
僕も実際に劇場で『POP!』を観ましたが、外国人の方々も笑ったり驚いたりしていたことが直に伝わってきて、すごく新鮮でした。この作品はぜひ劇場で観ていただきたいと思っているので、このように劇場開催ができたのは、映画祭実行委員の皆さんのおかげだと思います。
「小野莉奈論」を具現化した「柏倉リン」
──映画『POP!』をどのような作品にしようと考えていましたか。
小村:この作品の中で「こういうことが言いたい」と主張している要素はあまりないんです。これまで短編映画を自主制作で作ってきたり、長編映画で脚本を書いてきたりしましたが、監督として長編映画を撮るのは初めてだったので、60分以上の尺の中で、何をどういうふうに見せればいいのかというところは意識しました。
実は主演の小野莉奈さんとは縁があって、小野さんがデビューしたドラマに僕も出演していたんです。そこに勝手に縁を感じて、今度は僕の長編映画デビューに小野さんに付き合ってもらったという感じです。
そういう意味でも、作品の中で小野さんの良さや魅力を引き出したいと思っていました。過去に小野さんが出演されている作品や素材を見せていただいたり、実際にお会いして話した時、僕の中でできた「小野莉奈論」みたいなものがあって、小野さんが演じている「柏倉リン」は、それをあますことなく出すために作ったキャラクターです。そしてもう一つ、実は柏倉リンは年齢も性別も違いますが、僕自身のことを重ねている部分もあります。
──柏倉リンの役作りについて、小野さんとはどんな話し合いをしましたか。
小村:柏倉リンは、生き方に迷っているキャラクターなので、あえてキャラクター作りをはっきりさせませんでした。小野さんには迷いながら演じてほしかったのです。
リンは、物語の中で地方局のチャリティー番組のキャラクターを務めていますが、「何でこんなことをしているのか」というやらされている感があります。実際に迷いながら演じてもらうことで、柏倉リンと小野さんの迷いがリンクして、とてもいい表情が出るのではないかということを意識しました。
──柏倉リンはチャリティー番組のキャラクターを務めながら、駐車場でアルバイトをしています。そもそもなぜ駐車場を舞台にしたのでしょう?
小村:リンが駐車場でアルバイトをするという設定には、大きな意味があります。車は人を乗せて動き、前へ進んでいくものですが、駐車場に止めておくだけでは当たり前のことですが、どこにも行くことができません。
冒頭で、チャリティー番組を一緒にやっている小林且弥さん演じる庄司が「車で送ろうか」とリンに声をかけるシーンがありますが、リンはその誘いを断り、駐車場バイトへと向かう。大人たちは前に進んでいるけども、リンは車を停車させる場所に居座っている。20歳を目前にしてにどこへ向かえばいいのか迷い、停滞している柏倉リンそのものがそこに居るわけです。
物語の中で、リンは20歳の誕生日を迎えます。大人になったリンが、これまでどおり駐車場に居続けるのかそれとも別の行動を取るのか、それをラストシーンで表現しています。
映画『POP!』は純度の高い作品
──監督は、俳優としても活躍されていますね。
小村:僕は役者として芝居をすることに欲がなくて、できれば出演したくないんです(笑)。俳優は自分がいいと思って演じてみてもNGになったりすることがありますし、自分がやりたくないことを指示されることもあると思います。その中でベストを尽くしてお芝居をすることに、魅力もやりがいも感じることはありますが、自分で監督や脚本に携わって作っていくことの方が、今の自分にとってはより魅力的に感じています。
ただ『POP!』を撮り終わった時、すぐまた撮りたいという気持ちが半分、二度とやりたくないという気持ちが半分でした。それぐらいしんどかったです。
──次回作の構想はありますか?
小村:次は中編映画を作ろうかと考えています。昨年、中編映画の面白い映画をいくつか観て、40分~50分というのは渋い尺で良いなと思ったんです。今回長編映画を作ったことで、映画館に観に来てほしいという気持ちと同時に、改めて映画は時間芸術だと感じました。日によって映画の体感時間は違うと思いますし、映画の尺に対して以前より意識するようになりました。
テーマは、『POP!』は小野さんが演じる柏倉リンをじっくり見せる画だったり、音楽との兼ね合いがありましたが、次はテンポにこだわりたいです。40分という時間の中でどうみせるか、どこに着地するかというのをすごく考えています。
──改めて映画『POP!』の見どころをお聞かせください。
小村:ほぼ全シーンに出演している柏倉リンを演じる小野さんの一つひとつの動作や表情から、小野さんの魅力を感じてもらえたら嬉しいです。それと今回はMOOSIC LABという企画のもと、ビートメーカーのAru-2さんに音楽を担当していただいたのですが、この物語とAru-2さんの音楽で、いい化学反応が生まれるようにと意識して作ったので、その部分を楽しんでもらえると嬉しいです。そして是非劇場で堪能していただきたいです。
今回自分で脚本を書いて長編映画を作って再認識したのは、インディーズ映画は純度が高いものであるべきだということ。本作は映画的にうまくやろうとする感覚よりも、今の自分をさらけ出した感はあるので、そういう意味では純度が高いものに仕上がったと感じてます。
インタビュー・撮影/咲田真菜
小村昌士監督プロフィール
1992年生まれ、大阪府出身。大阪芸術大学映像学科を卒業後、ENBUゼミナール・映画監督コースに入学。
これまでに数本の監督作と脚本作、また役者としての出演作がある。映画『POP!』が初の長編監督作になる。
映画『POP!』の作品情報
【上映】
2021年(日本映画)
【監督・脚本・編集】
小村昌士
【音楽】
Aru-2
【出演者】【作品概要】
『とんかつDJアゲ太郎』(2020)や『疑惑とダンス』(2019)などの作品に俳優として出演し、個性ある演技で注目をされていた小村昌士が、『アルプススタンドのはしの方』(2020)『テロルンとルンルン』(2020)などで注目を集める小野莉奈とタッグを組み、初の長編映画に挑んだ作品。また音楽を唯一無二のビートメイカーであるAru-2が手がけています。
映画『POP!』のあらすじ
地方テレビ局のチャリティー番組「明日のアース」でオフィシャルチャリティーサポーターをつとめる柏倉リン(19)。
リンは番組内でハート型のかぶりものを被り「世界平和」を謳っていながらも、実生活では20歳を目前にして「愛」というものに悩んでいます。
スタッフの大人達とは馬が合わず、バイト先の駐車場でも無断駐車されるなど上手くいかないことが多いリン。周りの大人たちの言動に疑念的な感情を抱きながら、20歳という人生の節目を迎えることになります……。