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Entry 2019/08/05
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映画監督パスカル・ロジェ:インタビュー【ゴーストランドの惨劇】が描いたイマジネーションの世界とは

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『ゴーストランドの惨劇』は2019年8月9日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

トラウマ映画『マーターズ』や『トールマン』などで知られる、鬼才パスカル・ロジェ監督

6年ぶり脚本執筆と監督を務めた『ゴーストランドの惨劇』は、亡き叔母の家に引っ越してきた母娘が、突如絶望的な状況に巻き込まれていく不条理を描いた高尚なスリラー作品


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

人里離れた叔母の家を相続し、移り住むことになったシングルマザーのポリーンと双子の娘。新居へ越してきた日の夜、正体不明の2人の暴漢が家に押し入る。母と双子の娘を襲った凄惨な事件。それから16年後…。

日本劇場公開を記念して、パスカル・ロジェ監督にインタビューを行いました。少年時代に大人たちの世界をどのように感じとっていたのか。また本作にどのようなイマジネーションを与えたのか?

また監督自身がなぜホラー映画に固執するのかなど、考えをお聞きしました。

映画制作のきっかけ


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

──本作の制作のきっかけについてお聞かせください?

パスカル・ロジェ監督(以下、パスカル):正直、家賃を払わないといけなかったから(笑)。

本当は別に構想をあたためていた作品があったのだけれど、急遽変更になってしまい、新たに脚本を作らねば…という思いから出来上がったのが本作だった。実際、「家賃を…」というのは、映画を作るのにとても良い動機になったし、背中を押してもらった。

そしてこの企画自体は、映像化される可能性のある脚本だったこともあり、結果3、4ヶ月ほどで書き上げ、8ヶ月後には制作費が集まっていた。それはとても嬉しかったし、ホッとしたよ。


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

──「主観的な見解」についての映画を作りたいと述べていましたが、主観的な見解を支えるための客観性をどのように確保したのか?

パスカル:難しい質問だね。まず、「主観性」を打ち立てるには、何が客観なのかを定義づける必要がある。

母親と姉妹が家にやってくるあたりが、それに当たるんじゃないかと思っている。

注意深く観ていただくとわかると思うのですが、実際の世界とイマジネーションの世界とでは撮影の方法が違うんです。演出の仕方で、「主観」と「客観」の世界を描き分けている。

これは非常に興味深い問いで、何が現実で何が非現実なのか。それらはどのように異なるのか。定義されたものとの違いがあるのか。

二つの異なるスタイルは、あるべきもの、あると思われているもの、本物でないと思われているものの撮影の方法が異なるので、ぜひそれを味わってください。

僕の映画の独自性を感じ取って欲しいところが、劇中における過剰で、暴力的なシーンは全部現実であって、想像の世界はすごく落ち着いている。それは通常の世界とは逆で、夢の世界というのが大抵クレイジーだったり、やりすぎだったりすることが多いが、そこを実際は引っくり返しているんだ。

原体験が「創造世界」に影響を与えている


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

──今回の作品は、現実と想像(イマジネーション)の世界というのが表裏一体に表現されていました。

パスカル:この作品のゴールは、イマジネーションの力を理解することであり、日常生活の中でイマジネーションをどのように使うことができるのか。イマジネーションをいかに現実の世界に転換することができるか。それはアーティストが試みようとしていることだろう。

僕らは何もない、見えてさえいない頭の中にあるものを現実の世界に作り出している。いわば現実化している。僕自身も、今、10代の頃に抱えていた情熱を現実化しているのだから。

アーティストとして、より優れた存在になろうとするならば、悪を経験しなければならない。悪とは人が経験する痛みであったり、日々の苦しみだったり。それこそが僕にとってのホラーというジャンルなんだ。

自分にとっての痛みや苦しみを悪に置き換えて、それを経験することでより良い人間にな、そういうものを描こうとしたんだ。


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

──自らの原体験が「想像/創造世界」=作品に影響を与えているとするならば、監督自身の生い立ちといった「原体験」は今回の作品のどのような点に影響を与えていますか?

パスカル:僕の家族は、作品内の家族とは違ってとてもバランスが取れているよ。過去に悲劇もないし、親も僕を愛しているし。ただ唯一、大人の世界が悪夢的な世界なんだという気づいたこと以外はね。

少年の頃に大人の世界は複雑で秘密があって、嘘が社会に含まれていることを知っていく。親が自分(子ども)を守るために言わないようにしているんだけど、実際はどうなんだろうと思っていた。それがもしかしたら影響を与えているのかもしれない。

キャラクターについて


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

──本作に登場する姉妹と、監督の兄弟関係が作品に与える影響についてお聞かせください。

パスカル:この作品の執筆を始めた時に、兄と自分の関係について考えたのは間違いがない。兄は、地に足がついていて、イマジネーションに繊細じゃないし、ホラー映画も好きではない。もちろん仲はいいんだけれど。違いや合わないということがある。

それが映画を考える上での起点になっている。兄との関係性を理解しようと考える中で、兄弟の関係がそのまま姉妹の関係になった。


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

──母娘関係についてはいかがですか? 母と娘の関係が特徴的な作品でした。

パスカル:「母」「娘」という、象徴(シンボリズム)の説明は無理だよ。これは完全に直感で創作した物語で、その多くを我々が幼い時に触れたおとぎ話からインスピレーションを得ているんだ。

特に19世紀のポール・ギュスターヴ・ドレの挿絵、グリム兄弟のおとぎ話の挿絵。それらの物語にある、暗い森、そこで迷子になる兄妹、大きな悪いオオカミ…というイメージから始まっている。

悪役たちは行動の動機が説明されていない。セリフも「お人形さんと遊びたいんだ」という一つしかない。それだけが彼らの行動を正当化させ説明する言葉だった。

なぜなら、これは彼らの物語ではなく、ベスについての物語だから。彼女が悪と対峙した時にその経験を経てどんな人物になるのかがメインであって、それ以外の部分は理由はいらないと判断したんだ。

「崇拝」という行為が及ぼすもの


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──この作品のキーコンセプトに「崇拝」があると感じた。主人公が「H.P.ラブクラフト」を崇拝している。監督にとっての崇拝者は、トビ・フーパー監督だと感じた。その点についていかがですか? 

パスカル:僕のヒーローの一人。10代の時に僕の部屋に飾っていたポスターは、役者やロックスターのものではなくて、デヴィッド・クローネンバーグ、ダリオ・アルジェント、クレール・ドゥニ、トビー・フーパーだった。

彼らはこのジャンルを用いて非常にパーソナルなものを表現していた。皮肉めいた目線で見ないし、斜に構えることもないもない。本当にホラーを信じている。このジャンルが大好きな僕にとって重要なこと。

クレイジーになりすぎてるかな、と思ったときには、トビーのクレイジーさが僕にインスピレーションや、そして時に勇気を与えてくれた。自分の脳裏にあった最高の作品を作ることができた。

言い換えるならば、トビー・フーパーが霊的な存在として僕を支えてくれていたわけです(笑)。

インタビュー/ 出町光識

パスカル・ロジェのプロフィール

フランスの映画監督であり脚本家のパスカル・ロジェは、2本の短編『Tête de citrouille(原題)』(1993年)と『4ème sous-sol(原題)』(2001年)でキャリアをスタートさせた。

2011年にはクリストフ・ガンズ監督の時代もののファンタジー・アクション『ジェヴォーダンの獣』に助監督として参加し、同作のメイキングの監督も務めた。

ホラー映画の熱狂的なファンであるロジェは、『MOTHER マザー』(2004年)、ホラー・ファンから絶賛された悪名高いカルト映画『マーターズ』(2008年)、ジェシカ・ビールを主演に迎えた初の英語作品『トールマン』(2012年)を監督した。

最新作『ゴーストランドの惨劇』は、ジェラルメ国際ファンタスティック映画祭(マチュー・カソヴィッツ主催)にてグランプリ、観客賞、SyFy審査員賞という、三つの主要部門で受賞を果たした。

『ゴーストランドの惨劇』は、ホラージャンルの典型にひねりを加えつつ、テーマに主観的な視点を駆使したダークな寓話だ。

映画『ゴーストランドの惨劇』の作品情報

【日本公開】
2019年8月9日(カナダ・フランス合作映画)

【脚本・監督】
パスカル・ロジェ

【キャスト】
クリスタル・リード、アナスタシア・フィリップス、エミリア・ジョーンズ、テイラー・ヒックソン、ロブ・アーチャー、ミレーヌ・ファルメール

【作品概要】
『マーターズ』や『トールマン』など、強烈な描写と物語設定で映画ファンに衝撃を与えた鬼才パスカル・ロジェ監督。

監督が6年ぶりに演出を務めた『ゴーストランドの惨劇』は、わずか3ヶ月あまりで脚本を執筆し、パスカル監督自身もノリノリで仕上げた力作の作品。

絶望的な惨劇に巻き込まれた姉妹の運命を、オリジナリティある主観的な描写で構成を取りながら、物語に伏線を張り巡らせて展開させる「どんでん返しあり」のサスペンス映画。

キャストにテレビドラマ『ティーン・ウルフ』のクリスタル・リード、『ブリムストーン』のエミリア・ジョーンズなどが挑みます。

ジェラルメ国際ファンタスティック映画祭グランプリ・観客賞・SyFy審査員賞受賞。

映画『ゴーストランドの惨劇』のあらすじ


(C)2017 – 5656 FILMS – INCIDENT PRODUCTIONS – MARS FILMS – LOGICAL PICTURES

人里離れた叔母の家を相続し、そこに移り住むことになったシングルマザーのポリーンと双子の娘。

姉のヴェラは、奔放で現実的な価値を持つ少女。一方の妹ベスは、作家ラヴクラフトを崇拝する内向的な少女でした。

双子の姉妹ながら性格は正反対だった2人。そんな彼女たちが新居に到着した、その日の夜、突然の惨劇が一家を襲います。

正体不明の2人の暴漢が家に押し入ってきました。大切な2人の娘を守ろうとする母は必死に反撃。なんと姉妹の目の前で暴漢たちをメッタ刺しにします。

あの惨劇から16年後…。

ベスは小説家として一躍人気者となり、成功を収めたものの、姉ヴェラは精神を病み、今もあの家で母と2人で暮らしていました。

久しぶりに実家に戻った妹ベスを母は迎え入れるが、ヴェラは地下室に閉じこもっていた。そしてベスに向かって衝撃の言葉をつぶやく…。

映画『ゴーストランドの惨劇』は2019年8月9日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!




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