映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』はTOHOシネマズ日比谷ほかにて絶賛公開中!
数々の問題作を作り続け、唯一無二の個性を発揮する映画監督の園子温。以前からハリウッドで映画を撮りたいと熱望していた監督が、映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』で念願のハリウッドデビューをしました。
主演に迎えたのはオスカー俳優のニコラス・ケイジ。これまでにアルコール依存症、FBIエージェント、怒り狂う父親と幅広い役を演じ分けてきましたが、本作では悪名高き銀行強盗でありながらも市井の人々のために立ち上がるヒーローを演じます。
(C)2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
このたび園子温監督に、作品に込めた想いなどを語っていただきました。
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日本での撮影をニコラス・ケイジが提案
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──本作の企画の始まりは、17年に本作のプロデューサーで、脚本家のひとりでもあるレザ・シクソ・サファイから脚本が届き、監督がその内容を気に入ったことがきっかけとうかがっております。
園子温監督(以下、園):レザ・シクソ・サファイが「自分の書いた脚本を誰に持っていったらいいか」をロサンゼルスに住んでいる日本人のプロデューサーである森さんという方に相談したところ、森さんが「園子温はどうか」と提案されたことで、僕のところに送られてきたんです。
僕は15年くらい前からハリウッドで映画が撮りたいと言い続けていました。どんな作品でも面白くする自信がありましたから、即座に引き受けました。ただ、脚本にもかなり関わっています。
──舞台の1つであるゴーストランドは福島で、そこにある大きな時計塔は福島第一原発をイメージしているのではと感じられました。
園:あれは隠れ設定で、広島に原爆が投下される1分前で時計が止まっているのです。これ以上時間を進めると大変なことが起きるから、時計の針を縄で引っ張って時が進むのを止めている。ゴーストランドのクレイジーな人々というイメージです。
この作品は当初メキシコで撮影し、マカロニウエスタンのような西部劇にするつもりでした。ですが撮影を目前に僕が心筋梗塞で倒れてしまい、ニコラスが「無理をしないで、日本で撮りましょう」と言ってくれたので、日本で撮ることになったのです。
脚本上は核施設が爆発してゴーストランドになってしまったという設定でしたが、せっかく日本で撮影をするならということで、広島や福島を取り入れました。できれば長崎も入れたかったくらいです。日本はこれまでにいくつもの核問題がありましたから、そういったすべてを彷彿させる設定にしたのです。
主人公へのイメージがニコラス・ケイジと一致
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──主人公のヒーローを演じたのはニコラス・ケイジです。彼を主人公役へキャスティングされた決め手は何でしょうか。
園:今回のキャスティングはアメリカのプロデューサー陣にお任せだったので、僕はどんな人が来るか、楽しみにしていたのです。その後、プロデューサーから「ニコラス・ケイジがやりたいと言っている」と連絡があり、ニコラスが東京に遊びに来たときに会ってみました。なぜ引き受けてくれたのかを聞いたら「園子温の作品が好きなんだ。特に『アンチポルノ』がいいね。『紀子の食卓』も気に入っている」とマニアックな作品を挙げていたのです。それを聞いて、すごくうれしかったのを覚えています。
──ニコラス・ケイジには、主人公のヒーローはどのような役だと伝えられましたか。
園:僕がセルジオ・レオーネ監督の『ウエスタン』に出ているチャールズ・ブロンソンみたいな感じでやりたいと伝えたら、ニコラスも「俺もそう思っていた」と言ったのです。そんなにピンポイントで意見が合うことはなかなかありませんが、実際にそのときに彼が被っていた帽子は『ウエスタン』でチャールズ・ブロンソンが被っていた帽子のレプリカだったのです。そのくらい馬が合ったので、あとは彼に任せておけば面白い映画になると思いました。
──作中ではヒーローがママチャリに乗る場面があります。オスカー俳優がママチャリに乗る姿には驚きましたが、あの緩ませ方は監督らしいですね。
園:彼はカッコいいことをやりつくした果てに、三枚目といいますか、カッコ悪いことを好んでするようになったような気がします。黒いスーツを着たときにはアドリブで周りの人におどけるようなしぐさをしていましたし、スーツの股間の部分が爆発する場面も、こういう場面がやりたくてたまらないといった感じでした。
サムライアクションで坂口拓の右に出る者はいない
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──ニコラス・ケイジがサムライタウンで素手や銃、日本刀で華麗な立ち回りを見せますが、ヤスジロウを演じた坂口拓(TAK∴)さんがアクション監督をされたとお聞きしました。
園:『愛のむきだし』(2008)からずっと、アクションシーンは拓にやってもらっています。サムライアクションに関しては拓の右に出る者はいない。今回も日本で撮ることに決まったからには、彼にやってもらおうと思いました。
こちらからは特に何も言わず、ほぼお任せ。拓に頼んだ時点で、僕のアクション演出は終わっているくらいです。撮影中は夜中にずっとニコラスと練習していましたね。アクションシーンが長いので、刀がこっちから来てそれをどう避けて、どう攻撃するかといった型を覚えてもらっていたようです。また、アクション監督だけでなく、俳優としても出てほしかったので、彼の役をあてがきで後から加えました。
──ヤスジロウは後から加えた役には思えない重要な役ですよね。渋い魅力を感じました。役の方の演出も託されたのでしょうか。
園:拓にやってもらうのだからめちゃくちゃ重要な役ですよ。ただ演技では「静かに黙っていてほしい」と伝えました。他のキャラクターがよく喋るので、一人だけ喋らない男がいた方が謎めいていていいですよね。だから、わざとセリフを書かなかったんです。顔で雰囲気を作ってもらいました。
アメリカのプロデューサー陣が気に入ったデコトラ
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──作中では、YOUNG DAISさんが演じたラットマンが所有するトラックとしてデコトラが登場しました。あのデコトラには、日本の文化の1つとして海外に紹介したいという意図があったのでしょうか。
園:当初の脚本は『マッドマックス』(1979)のようにカーアクションが中心でした。しかし普通の車で撮ったら、『マッドマックス』の二番煎じになってしまいます。そこで「デコトラでやったら面白いかな」と思いプロデューサーにプレゼンしたのですが、日本で撮ることになって、カーアクション自体がなくなりました。ところがデコトラを知らず、そういう文化が日本にあることを知って驚いたプロデューサーがデコトラを気に入ってしまったのです。言い出しっぺは僕ですが、出したがったのはプロデューサーでした。
撮影のために全国のデコトラ集団が来てくれたのですが、代表の人の名刺を見たら住所が僕の地元と一緒。彼が中心になって全国のデコトラを束ねていることを知りました。そういう点では僕もうれしかったです。デコトラと縁ができたので、次はニコラス・ケイジをデコトラに乗せて、デコトラとママチャリカーアクションができそうです(笑)。
──撮影がメキシコから日本に変わったことで内容にもいろいろと変更があった中で、日本で撮ったことでのメリットにはどのようなものがありましたか。
園:カーアクションの場面を一掃できたことですね。オリジナルの脚本にはカーアクションが40ページくらいあって、大変なうえに二番煎じ感もあるので、本心はやりたくなかったのです。それをサムライアクションに変更できて本当によかった。
またメキシコで撮っていたら、アクションが銃中心になっていたでしょうけれど、刀の方が華麗だし、見応えがある。その点も日本でやってよかったと思っています。そもそもメキシコで撮っていたら、坂口拓にアクション監督を任せられなかったですしね。
本格的ハリウッド進出へのターニングポイントに
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──本作はご自身にとって、どのような作品となったでしょうか。
園:自分としてはハリウッドデビューなのに日本で撮ることになったのがとても悔しかったのですが、海外の人々の目から見れば、日本で撮った方が面白かっただろうと頭を切り替えて撮りました。
これからはもうハリウッド映画は日本では撮りません。2作目・3作目もハリウッドで準備中です。この作品はそれらへの橋渡しをしてくれました。自分の中で大きな意味を持つ、ターニングポイントとなりました。これまで日本で撮った作品はいったん忘れて、これから新しく始めます。
──今後はどのような作品を目指していくのでしょうか。
園:日本でやれなかったことをやりたいけれど、『ダイ・ハード』(1988)や『ザ・ロック』(1996)のような、いわゆる「ハリウッド調」のものは撮りたくない。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2008)のような地味だけれど強烈なドラマを撮っていきたいと思っています。
──これから映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』をご覧になる方にひとことお願いいたします。
園:この作品はおじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、お子さんまで安心して楽しめるファミリー娯楽痛快大作です。「園子温」のイメージで何だか怖い描写があるんじゃないかと思う方もいるかもしれませんが、まったくそういうところはありません。コカ・コーラ片手にポップコーンを食べながら見られるように作っています。怖がらずに、難しいことは何も考えず、ただただ楽しんでください。
インタビュー/ほりきみき
園子温監督プロフィール
1961年生まれ、愛知県出身。1986年、ぴあフィルムフェスティバル入選『俺は園子温だ!』で監督デビュー。翌年の『男の花道』では同フェスティバルにてグランプリを受賞。
1994年、『部屋』にてサンダンス映画祭特別賞受賞。以後『自殺サークル』(2001)、『紀子の食卓』(2006)、『愛のむきだし』(2008)、『冷たい熱帯魚』(2010)、『ヒミズ』(2012)、『希望の国』(2012)、『地獄でなぜ悪い』(2013)など多くの作品で国内外問わず様々な映画賞を受賞している。
監督・脚本・編集・音楽を手がけ、第49回モントリオール・シネヌーヴォー映画祭観客賞受賞、ベルリン批評家週間でも上映された『エッシャー通りの赤いポスト』(2021年12月25日公開予定)が待機している。
映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』の作品情報
【公開】
2021年(アメリカ映画)
【監督】
園子温
【脚本】
アロン・ヘンドリー、レザ・シクソ・サファイ
【出演】
ニコラス・ケイジ、ソフィア・ブテラビル・モーズリー、ニック・カサヴェテス、TAK∴、中屋柚香、YOUNG DAIS、古藤ロレナ、縄田カノン
【作品概要】
園子温監督のハリウッドデビュー作で、主演はオスカー俳優のニコラス・ケイジです。
園子温監督作品常連でアメリカも活躍するサムライ俳優TAK∴(坂口拓)、園子温監督が発掘しNetflixで配信された『愛なき森で叫べ』(2019)でデビューした中屋柚香、園子温監督作『TOKYO TRIBE』(2014)で主演を務めたYOUNG DAIS(ヤングダイス)のほか、園子温監督作品出演経験のある古藤ロレナ、縄田カノンが日本人キャストとして出演。
さらに『キングスマン』(2014)のソフィア・ブテラ、『悪魔のいけにえ2』(1986)をはじめホラー界の伝説的存在ビル・モーズリー、『きみに読む物語』(2004)で監督としても活躍するニック・カサヴェテスなど、さまざまなジャンルで活躍するハリウッド俳優が集結しました。
映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』のあらすじ
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悪名高き銀行強盗ヒーロー(ニコラス・ケイジ)は、ある日、相棒のサイコ(ニック・カサヴェテス)とともにサムライタウンの銀行を襲撃するが、少年(潤浩)が差し出したガムボールをきっかけに捕まってしまいます。
サムライタウンではすべてを牛耳る悪徳ガバナー(ビル・モーズリー)がいつも女を侍らせていました。傍らにはいつも用心棒のヤスジロウ(TAK∴)が控えています。
ある日、ガバナーお気に入りのバーニス(ソフィア・ブテラ)が少女のようなスージー(中屋柚香)の手引きで、ステラ(古藤ロレナ)、ナンシー(縄田カノン)とともにガバナーの魔手から逃げ出します。ヒーローはバーニスを連れ戻せば自由にするとガバナーから命じられました。ただし、5日以内にバーニスを連れ戻さねば、無理矢理着せられたボディスーツに仕掛けられた爆弾が爆発してしまいます。
ヒーローはバーニスが消息を絶ったゴーストランドへ足を踏みいれました。そこには、動かなくなった車を修理し続けるラットマン(YOUNG DAIS)、人間をマネキンに閉じ込めるキュリ(栗原類)、すべてを見つめる男ナベ(渡辺哲)たちがおり、入ったら最後、二度と出られないと言われていました。
そしてゴーストランドの住人たちは「ガバナーがいる限り、我々は時計を止めねばならない。そうしないと世界は爆発する」といい、時計塔の針をロープで引っ張り、時間を止めていました。
果たして、ヒーローはバーニスを見つけ、ゴーストランドを脱出することはできるのでしょうか。そして、サムライタウンはガバナーの手に落ちたままなのでしょうか。