映画『お嬢ちゃん』は新宿K’s cinemaにて2019年9月28日(土)より全国順次公開!
むき出しな気持ちを心に秘めて生きる、あるひとりの女性の生きざまを描いた映画『お嬢ちゃん』。
本作の演出を務めたのは、同業の監督たちからも骨太な作風で注目を集める、若き新鋭・二ノ宮隆太郎監督です。
二ノ宮監督といえば、前作『枝葉のこと』にてロカルノ国際映画祭ほか世界各国の映画祭で高く評価され、鮮烈な印象を国内外の映画界に刻みつけました。
その前作は監督自身が主演も務めた自叙伝とも言うべき作品でしたが、最新作にあたる映画『お嬢ちゃん』では主演に女優・萩原みのりを起用し、“生き方”にもがく若き女性の物語を描きます。
このたび映画『お嬢ちゃん』劇場公開を記念し、二ノ宮隆太郎監督にインタビューをおこないました。
萩原みのりさんを主演に起用した理由と、彼女の女優としての魅力。また前作『枝葉のこと』と『お嬢ちゃん』の違いを含む監督の脚本作りや演出法についてお聞きしました。
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“緊張感”の正体
──前作『枝葉のこと』でも大変強く感じたのですが、二ノ宮監督の作品は非常に緊張感があります。その点は監督ご自身も意識されているのでしょうか?
二ノ宮隆太郎監督(以下、二ノ宮):必ずしも緊張感を持たせるのが映画のためになるわけではないと思いますが、自分は緊張感を作品にもたらし得るカメラワークや脚本は意識しています。
ワンシーンワンカットの長回しをするならば、聞ける会話を作ることは常に考えているので、そう言っていただけるのはすごく嬉しいです。
──脚本はどのようにして作られているのですか?
二ノ宮:自分の場合は、作品内で想定される場面を頭の中で映像化しながら文字に起こすことで脚本を作っています。
ただ一度出来上がった脚本も、現場で実際の映像として場面や物語を見つめ直してゆく過程で変わっていくことはあります。
前作から変化した脚本作り
──前作『枝葉のこと』と今回公開される『お嬢ちゃん』における脚本の書き方の違いなどありますか?
二ノ宮:2012年、『魅力の人間』という初めて作った長編映画がありまして、それが第34回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリをいただきました。
当時は順風満帆な気持ちで調子に乗ってたんですが、それがいけなかったのか(笑)、それから4年間長編映画を作ることができなかったんです。
そうして色々と悩んでいた時に、『枝葉のこと』の題材になった余命僅かのお世話になった方から、映画制作のための資金を援助していただきました。
「これはその方と自分の物語を作るしかない」「だったらもう、自分が主演やるの恥ずかしいとか、そんなこと言ってられない」「とにかく何が何でも映画を完成させるんだ」という気持ちで、『枝葉のこと』を制作したんです。
二ノ宮:そのような制作経緯の影響もあり、前作は自分の身に起きた出来事をベースに脚本を作りました。
今回の『お嬢ちゃん』の脚本作りはとても悩みました。「出演者、スタッフの方々の期待に応えなくてはならない」という気持ちが強かったのもあると思います。
また、自分の頭の中だけで脚本を作るよりも、出演者ご自身の人生の中で体験した出来事、人生に対する思いを組み込むことによって、映画に深みが増すと考えました。
萩原さん始め、数名の出演者の方にお話を伺い、それらをご本人の思いを尊重する形で本作の物語へと組み込んで脚本を作っていきました。
例えば、萩原さんは過去のインタビューで「理想の男性のタイプは?」と聞かれた時に「寂しそうな顔してる人が好き」と答えていました。それを萩原みのりさん演じる「みのり」のセリフとして言い方を少し変えて脚本に取り入れました。
前作ほどではないですが、今回も実際にあった出来事とフィクションを織り交ぜています。
同名だからこそ“生きる”登場人物
──萩原みのりさんは二ノ宮監督について「私のことをよく調べてホン(脚本)を作って下さっていてびっくりした」と仰っていました。そのような形で撮ろうと考えられたのはなぜでしょう?
二ノ宮:先ほども触れましたが、その方が有効だと思ったからです。
本作の出演者の方々には全員、ご自身のお名前と同名の登場人物を演じていただきました。そのような作りにした理由は、前作『枝葉のこと』で自分自身が「隆太郎」という名の人物を演じたことにあります。
最初から萩原みのりさんにはご本人と同じ「みのり」という役名で決めていました。その後、色々と考えた結果、今回の映画は全員それでいこうと決めました。
萩原さんは役者ですから、当然ご自身とは異なる名前、役名を持つ人物を演じてもらうこともできます。ですが、ご自身の名前と同じ「みのり」を演じることで、役の中に少しでもご本人の「みのり」が混ざれば良いという思いでお願いしました。
萩原さんは役名「みのり」を受け入れてくださいました。が、もし別の役名が良いと言われてたとしても「前作で自分、腹をくくって”隆太郎”やったので、萩原さん、今回”みのり”よろしくお願いします!」と言って押し通そうと考えていました(笑)。
前作は寡黙な男性の話でしたので、前作と違う、若い女性に思いを多く語らせる映画にしたかったんです。そしてそのような役どころを、萩原さんには安心して託すことができました。
熱望した主演女優・萩原みのり
──主演を務めた萩原みのりさんは、二ノ宮監督に前作『枝葉のこと』を試写会で観てほしいと熱望されたと伺いました。
二ノ宮:はい。「こんな映画があるんだぞ!若い俳優よ、知ってくれ!」という思いでした(笑)。そしてその後、本作の映画の脚本が頭に浮かんだとき、自分の中では「この映画はどうしても萩原みのりさんじゃないと作れない」という思いでした。彼女が出演していただけなかったら、この企画では全く別の話の作品を作っています。
萩原さんには特有の魅力があると思っています。お芝居、外見は勿論そうなのですが、それ以外の部分も。他にいない大人の女性だと感じた瞬間、一見どこにでもいる普通の女の子にも感じられる。どこにもいなそうな人だと思ったら、どこにでもいる人。どこにもいない人(笑)。彼女に初めてお会いした時から、そのような印象を抱いています。
本作のリハーサルの中での彼女を最初に見た時に、「あ、自分間違ってなかった。この映画は大丈夫だ。」という手応えを得ました。
挫折を経て辿り着いた夢
──二ノ宮監督は一度日本映画学校(現・日本映画大学)を辞めてからENBUゼミナールの俳優コースに入り直し、それから映画監督としての作品制作に至っています。そのような経歴を辿られたことに、ご自身は現在どのような思いを抱かれていますか?
二ノ宮:もともと自分の趣味は映画を観るか、お酒を飲むかくらいで(笑)。昔から自分には「映画を作りたい」という夢しかなかった。
高校を卒業してすぐに日本映画学校に入学しましたが、ひねくれちゃってすぐに辞めてしまいました。
日本映画学校は、同級生でも自分と同じく高校卒業してすぐの人もいれば、30歳ぐらいの人もいるんです。実習で約5分の映画を制作する時にも、同級生内でも年齢の差があって、太刀打ちできない。言うこと聞かなきゃいけない。自分の力不足もそうでしたが、当時はとてもつまらなく感じていました。結果、ほとんど通わずに1年間で映画学校は辞めてしまいました。
──それでも、二ノ宮監督が「映画を作りたい」という夢を諦めなかったのはなぜですか?
二ノ宮:やっぱり「映画に携わりたい」という思いを捨て切れなかったんです。
映画学校を辞めた後、何年か普通に働いてたんですが、ある日「自分の外見上の特徴もあって、もしかしたら何か映画に貢献できるんじゃないか」と思い、ENBUゼミナールの俳優コースを受講しました。しかし入ってすぐに「違うな」と感じてしまいました。
小さい頃からずっと映画監督になりたいと思っていましたから、「やっぱり、自分は映画を監督したいんだ!」と気がついたんです。
ただ、受講したことで今泉力哉監督など、色んな先輩たちに出会えました。それがあったから今自分は映画に携われていると思います。
──今泉監督もまた、Twitterで「最近(2018)嫉妬を感じたのは『枝葉のこと』」とつぶやかれていましたね。
二ノ宮:ありがたい限りです(笑)。
映画監督が一番に芝居をする
──二ノ宮監督の作風が色濃く見える要因でもあるクレジット・ロール。日本映画らしい特徴だとだと思えますが、監督ご自身はいかがでしょう。
二ノ宮:中学生の時から観ている映画の影響だと。成瀬巳喜男監督、木下恵介監督が好きでした。
映画や物語そのものをシンプルに描きたいというのがあります。
音楽を挿入したりワンシーンの中でカットを割るのも映画制作における選択の一つですが、この作品ではシンプルに、潔く“人間”を描きたいと思いそうしました。
──撮影方法や演出などででこだわっている点はありますか?
二ノ宮:端的に言えば、邪魔しないこと、できる限り映画的な展開にしないことですね。現実に近づけたいんです。もちろん映画としてのカットは割っていますが。
人間を映すのには映るもの、写しかたのバランスがとても大切だと、常に考えています。
また芝居について演出する際には、「自分が役者だったら、こう言われると演りやすい」という視点で考えて、芝居のための環境作りなどを心がけていました。
今回ほど自分の頭の中と向き合った作品は初めてです。出演者の皆さんには迷惑をおかけしたと、気を遣わせてしまったのではないかと感じてます。
監督は決断力がとても大切だと思っています。普段、自分は全く決断力がないんですが、監督としてはそうならないよう心がけています。よく、「監督が一番芝居をしないといけない」って聞くのですが、あながち間違いではないと思っています。
前作は自分が主演と監督を務めていたため、どちらも「中途半端になっているんじゃないか」という思いをずっと抱いていました。ですが、本作で初めて監督のみを務めて映画を作ったのですが、果たしてどうだったのだろうかと。迷いはかえって深くなっています。
自分だけにしか作れない映画を
──二ノ宮監督は観客のみなさんに映画『お嬢ちゃん』のどの点を特に注目して観てもらいたいですか?
二ノ宮:映画に映る人間に注目していただきたいです。
くだらないことだらけの映画ですが、その中に大切なものを入れたつもりです。
ちょっとでも観ていただいた方の心に触れる事ができればと思っております。
自分が監督することでしか作れない映画は作れたと思っています。
「ほんとかよ、観て判断してやろうじゃねーか」という気持ちで劇場に足を運んでくださったら嬉しいです(笑)。
インタビュー/出町光識
構成/くぼたなほこ
写真/河合のび
二ノ宮隆太郎(にのみやりゅうたろう)監督のプロフィール
1986年8月18日生まれ。神奈川県出身。
芸能事務所「鈍牛倶楽部」に所属し、 映画監督、脚本家、俳優として活動。
2012年、初の長編作品『魅力の人間』が第34回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞し、海外の映画祭でも好評を博します。
2017年、監督・主演を務めた長編第2作『枝葉のこと』を発表。同作は第70回ロカルノ国際映画祭・長編部門に日本映画として唯一選出されました。
2019年、同年度のフィルメックス新人監督賞グランプリを受賞。また、長編第4作『逃げきれた夢(仮)』の製作が決定しており、同作にて初めて商業映画を監督することになります。
映画『お嬢ちゃん』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【脚本・監督】
二ノ宮隆太郎
【キャスト】
萩原みのり、土手理恵子、岬ミレホ、結城さなえ、廣瀬祐樹、伊藤慶徳、寺林弘達、桜まゆみ、植田萌、柴山美保、高岡晃太郎、遠藤隆太、大津尋葵、はぎの一、三好悠生、大石将弘、小竹原晋、鶴田翔、永井ちひろ、高石舞、島津志織、秋田ようこ、中澤梓佐、カナメ、佐藤一輝、中山求一郎、松木大輔、水沢有礼、髙橋雄祐、大河内健太郎
【作品概要】
大ヒット作『カメラを止めるな!』(2017)を生み出した映画専門学校ENBUゼミナールのワークショップ「シネマプロジェクト」の第8弾で製作された2作品のうちの1作。
俳優として活動するかたわら映画監督として作品を手がけ、劇場デビュー作『枝葉のこと』(2017)が第70回ロカルノ国際映画祭のコンペティション部門に出品されるなど、国内外で注目される新鋭・二ノ宮隆太郎が、夏の鎌倉を舞台に、ひとりの若い女性の生き方を描きました。
映画『お嬢ちゃん』のあらすじ
みのり、21歳。海辺の町、鎌倉でお婆ちゃんと二人で暮らしている。
観光客が立ち寄る小さな甘味処でアルバイトをしている彼女は、日々の生活の中で出会う男たちに絶対に屈しない。
大男にも平気で喧嘩を売り、持論を投げつける。誰にも媚びない、甘えない、みのり。
そんな彼女だが、ある日親友の理恵子と未来を想像した時、現実と向き合っていなかった自分に気付いてしまう。
映画『お嬢ちゃん』は新宿K’s cinemaにて2019年9月28日(土)より全国順次公開!