映画『もうひとつのことば』は2022年7月22日(金)より池袋 HUMAXシネマズにて劇場公開!
オリンピックが延期となった2020年夏の東京を舞台に、ワンコイン英会話カフェで出逢った男女の《嘘》と《真実》が織りなす軽妙で魅惑的な会話劇『もうひとつのことば』。
『パラレルワールド・シアター』(2018)で劇場デビューを果たした堤真矢監督の長編第2作となる作品です。
このたび2022年7月22日(金)からの池袋HUMAXシネマズでの劇場公開を記念し、本作の公式パンフレットに収録されている堤真矢監督インタビューを、一部抜粋にて特別に解禁。
インタビューでは、映画『もうひとつのことば』の制作経緯、W主演を務めた菊池真琴さん・藤田晃輔さんの演技の魅力、本作のテーマの一つである「演じる」の意味などを語られています。
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いつもと違う東京の景色と物語
──はじめに、映画『もうひとつのことば』の制作経緯について、改めてお聞かせください。
堤真矢監督(以下、堤):元々、英会話カフェを舞台にしたラブコメのアイデアはずっと温めていたのですが、前作の『パラレルワールド・シアター』(2019)を経て次回作について考えていた時、「東京オリンピックが開催される2020年には、少しいつもと違う東京の景色が撮れるかもしれない」と思い至ったことで、本格的に本作の構想を練り始めました。そんな時にコロナ禍がやってきたんです。
1回目の緊急事態宣言が続く中「今年はこの作品は作れないかもな」と感じていた一方で、思わぬ事態で閉ざされてしまった2020年の東京で、「英語」というスキルを持った人々の人生が停滞してしまっている様子をそのまま映画のドラマに取り入れることができたら、それもまた「2020年にしか撮れない物語」になるんじゃないかと考えました。
ただ、自主制作映画のほとんどは誰かに頼まれて作るわけではなく、ある意味では「別に作らなくていいもの」「“不要不急”のもの」に過ぎないので、「僕は今、本当に映画を作っていていいのかな」という想いは制作全体を通して残り続けていました。その感情が結果的に、本作の根底に流れているテーマとも結びついて、物語とうまくシンクロしてくれたのではと感じています。
「共感を抱きたい」と感じさせてくれる二人
──W主演を務められた菊池真琴さん・藤田晃輔が演じられたことで、ミキと健二は最終的にどのようなキャラクターになったと堤監督は感じられていますか。
堤:僕の場合、脚本を書いている段階では、半分ぐらいしかそのキャラクターの人物像は見えていません。そこにどう役者さんがぶつかるかで、僕も知らなかったキャラクターの様々な面が生まれてくると思っています。
たとえばミキは、とても精神的に病んでいる女性として演じることもできます。一方で「不思議ちゃん」というようなテイストを強めることもできるし、演じる方によって大きく印象が変わり得るキャラクターだと捉えています。その中で菊池さんは、表向きは華やかさがあり魅力的に見えるけれど、精神的な危うさといった「影」も少し感じさせる女性としてミキを演じてくれました。この映画の独特の空気感や、ミキの絶妙な危うさと面白さを出せたのは、菊池さんが演じてくれたからこそだと感じています。
堤:藤田さんはオーディションの際に、過去の出演作の抜粋をいくつか観させてもらったんですが、「影」のある役を多く演じられる中で、明確な存在感を放っているというイメージを抱きました。ただ一方で、「彼は、“普通の人”を演じても良い演技をしてくれるだろうな」とも思えたんです。
実際に、藤田さんの演じた健二は、普通の好青年といった印象の中に、藤田さんの持つ魅力的な「影」を良いアクセントとして感じさせてくれるバランスだったなと思います。本作をきっかけに、藤田さんの『幅』をもっと多くの人に知ってもらえたら嬉しいです。
そもそもミキも健二も、タイプは違えど相当な変人ではあると思うんです。ただ菊池さんと藤田さんが演じてくれたことで、ただの「理解しがたい変人」に留まることなく、キュートさがありつつも、映画を観る方が共感できる……「共感を抱きたい」と感じさせてくれる二人にしてくれたと感じています。
社会の描き方の「さりげなさ」
──堤監督は、『もうひとつのことば』という映画をどのような物語だと感じられていますか。
堤:コロナ禍によって多くの人が、「政治」や「社会」と自分の生活との関係をより強く意識するようになったのではないかと思います。今までそうしたテーマをあまり扱ってこなかった自分も、より関心を抱かざるを得なくなるところはありました。その反面、「今の世の中で、社会性・政治性を前面に押し出した作品を描くのは、多分自分がやるべきことではないな」とも感じたんです。
僕自身どちらかというと、社会的背景はあくまで物語の主題ではなく背景として、さりげなく、でも当たり前に映し出されているようなタイプの映画やドラマが好きですし、その「当たり前」である点に、魅力とか巧さを感じます。『もうひとつのことば』は、半分英語劇であることも含めハリウッド作品への憧れは元々強いのですが、特に海外作品のそういった「社会の描き方のさりげなさ」への憧れは強くありました。
それもあって、「2020年の夏」の日本社会を想起させるものを色々作品に散りばめてはいるけれど、それ自体を映画の主題としては描いていません。「コロナ」という単語も、劇中には一度もセリフとしては登場しません。
あくまでも核にあるのは、人間同士のコミュニケーション、嘘や虚栄心と本音についてのお話で、それはコロナ禍前に本作を構想していた時から変わっていません。ただそうしたテーマが、時代背景によってより意味深いものになった部分はあると思っています。
インタビューの完全版は、劇場窓口で販売中の映画公式パンフレットに収録!
インタビュー/河合のび
撮影/池田旬也
堤真矢監督プロフィール
1986年生まれ、滋賀県出身。学生時代より多くの長編・短編映画を制作。卒業後は東京を拠点に、フリーランスで映像制作を行う傍ら「Tick Tack Movie」名義で活動。
自主制作Webドラマ『現実拡張 スマホ仮面』シリーズ(2012〜2013)、連作短編映画『浦島太郎』(2014〜2018)などが、YouTube他にて公開中。
2019年には長編映画『パラレルワールド・シアター』を公開。都内1館での貸館自主上映ながら『めざましどようび』の映画期待度ランキングで2位を獲得するなどし、最終的に東京・大阪・福岡3都市での上映を実現した。全ての作品で脚本も手がけ「時間と人間をナナメに描く」映画の面白さを模索中。
映画『もうひとつのことば』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督・脚本・編集】
堤真矢
【キャスト】
菊池真琴、藤田晃輔、中山利一、連下浩隆、新井敬太、山田良介、澤麻衣子、小高えいぎ、前田薫平、藤岡有沙、風さり、伊藤梢、高草木淳一、水野大絆、 佐々木しほ、Antonio Angelov、Ellen Reiter
【作品概要】
東京オリンピックが延期となった2020年夏の東京を舞台に、ワンコイン英会話カフェで出会った一組の男女を描く軽妙な会話劇。門真国際映画祭2021で映画部門・審査員特別賞を受賞するなど、国内の映画祭で高い評価を受けた。
監督を務めたのは『パラレルワールド・シアター』で知られる堤真矢。W主演を務めたのは『あの日々の話』『四人姉妹』の菊池真琴、『サクリファイス』『アポトーシス』の藤田晃輔。ともに本作が初の劇場公開主演作であり、二ヶ国語を自在に操る魅力的な演技を披露している。
映画『もうひとつのことば』のあらすじ
2020年夏、少し人通りの戻り始めた東京。カフェの一角でワンコインで気軽に英会話が楽しめる「ワンコイン英会話カフェ」に、数名の男女が参加していた。
仕事や経歴など噓をついて会話に参加し、ささやかな承認欲求を満たす女性・ミキと、アメリカでの活動を志すも渡航を制限されている俳優の青年・健二は、会話の流れから意気投合し、共に「別人になりきって英会話カフェに参加するゲーム」に興じるようになる。
そのゲームのルールはふたつ。 「お互いの人生に立ち入らないこと」そして「日本語では嘘をつかないこと」。
心地よい距離感を保ちながら、カフェでの英会話やそこで出会った人々との時間を楽しみ、停滞していた自分の現実から束の間の逃避を楽しむ二人だったが……。