2018年11月17日(土)より、ユーロスペースほかにて全国順次ロードショーされる『MAKI マキ』。
本作で映画初出演にして主演を務めたサンドバーグ直美さんに、本作の見どころや魅力、撮影の裏側などを単独インタビューで伺ってきました。
イランの名匠アミール・ナデリに師事した女性監督ナグメ・シルハンの長編第2作でもある『MAKI マキ』は、孤独な愛と欲望がゆらめくニューヨークで生きる日本人女性を描いた作品です。
モデルや女優として活躍中の直美さんが、東京から離れたニューヨークでのロケ撮影で何を感じたのか。
また直美さん自身が考える“女性として生きるライフスタイル”についても大いに語っていただきました。
CONTENTS
『MAKI マキ』公開への心境
──撮影から約3年。ついに日本で公開される心境はいかがですか?
サンドバーグ直美(以下、直美):日本の方たちに観て欲しかったのですごく嬉しいです。
2016年の1月に撮影をしてから、途中、公開の話が流れたと思った時もあって、もう公開しないかもと思っていたので、とにかく嬉しいです!
──10月に、ニューヨークの「チェルシー映画祭」で上映されましたね。おめでとうございます。
直美:ありがとうございます。
観客の反応がすごく良くて、私の方を見てスタンディングオベーションをしてもらえました。
初めての体験にすごく震えてしまって、夢のようでした。
ジュリアンとの出会い、マキへの共感
──出演のきっかけを教えてください
直美:先にトミー役に決定していたジュリアンさんと、彼の妹さんの結婚式で出会い、マキ役を探していると声をかけられました。
結婚式の翌月に、偶然ニューヨークへ行く予定があったので、現地でナグメ監督とジュリアンさんと会い、オーディションをして出演が決まりました。
ジュリアンさんと私が話をしている感じがすごくナチュラルだったことが決め手だったそうです。
舞台経験が豊富なジュリアンさんの演技はすごく自然で、撮影中もリードしてくれました。
──初めてシナリオを読んだ時の感想は?
直美:自分と重なるところがあったので、マキの気持ちがすごくわかって、これだったらできるかも!と思いました。
19歳の時に彼氏とニューヨークに引っ越して、その時のどうしようもない感じの自分と、当時のダメな彼に似ていたんです(笑)
大学に通っていて、5年くらいニューヨークと日本を行き来していました。
──共感できると役に入りやすそうですね。演技指導などはありましたか?
直美:そうですね。本格的な演技は未経験でしたが、あまり演技することを求められなかったので、素の状態で挑んだ感じです。
撮影現場でナグメ監督から「もう少しこういうエモーション(感情・情緒)で」というような指導はありました。
クラブのトイレで吐いているシーンでは、ずっとカメラを回しっぱなしの状態で「じゃあ立って…顔洗って…吐いて」と言われた通りに演じました。
たくさん撮った中で、ナグメ監督が好きなシーンを編集していったのだと思います。
マキとトミーがキッチンでアイスを食べたりキスをするシーンも、ずっとカメラが回っていて、セリフは決まっていましたが、間の演技はほとんどアドリブでした。
──ずっとカメラが回っている中で、アドリブで動くのは難しそうですね。
直美:楽しかったですよ!
セリフだけはガッチリ覚えて、後はナグメ監督を信じて演じました。
マキと一体化していた撮影当時
──彼氏を追って日本を飛び出しニューヨークへ。日本人高級クラブで働き、女の影が絶えないトミーと暮らし、妊娠。クラブのママから、お腹の子を養子に出すことを勧められる…。困難が多い役柄でしたが、辛いシーンはありましたか?
直美:監督の操り人形のようになっていたので、途中、役に入り込みすぎて病んでしまい、ナグメ監督を嫌いになってしまいました。
なんでこんな気持ちにさせられてるの?私頑張ってる!って、すごくハードでしたね。
森の中で泣き叫ぶシーンが一番辛かったです。いろんな嫌なことを思い出して泣いていました。
でも、1カット目カメラが回ってなかったんですよ…。
ナグメ監督からもう1回お願いしますと言われて、また?!って、すごくやられてました(笑)
──役に入り込んでいる時に、周りと距離を置いたりしましたか?
直美:けっこう狭い空間に人がたくさんいたので、絶対話しかけられました。
そこから逃げられなかったけど、「ちょっと一人にして!」と思う時もありました。
ベテランの女優さんは切り替えが早いそうですが、私の場合は引きずってしまいました。
撮影が終わってからも2~3か月は役が抜けず、けっこう長かったですね。
──それでもまた女優をやりたいですか?
直美:やりたいです!やりがいがあるなと思って。
ずっとモデルをやっていましたが、演技の方が全然やりたいと思って事務所を辞めて、オーディションにも行きましたがなかなか決まらず、今はデザインの仕事もしています。
──役に入り込み、一体化するように演じたマキが、ラストである決断をしますね。その決断をどう捉えましたか?
直美:後半にマキがうどんを食べるシーンがあって、その時に自分自身をもっと大切にしようと決意するんです。
そこからマキは、初めて自分自身をケアし始めます。
今まではずっと人に流されてきたけど、自信を持って自分の生き方を選んだのだと思います。
ナグメ・シルハン監督との関係
──ナグメ監督は、どのような存在でしたか?
直美:先輩、先生でもあるし、お母さんみたい。
ナグメ監督は声がとても柔らかくて丸いので、話しているだけで気持ちが落ち着いて、とても信用していました。
でも、撮影途中で嫌いになったことは話していません(笑)
──監督を嫌いだった時も、表には出さずに撮影を続けていたのですね。
直美:役に入り込みすぎて記憶になかったのですが、私が精神的にダウンしていた時、トミーとのシーンでレコードが流れていて。
その音楽が重すぎて、私が「やめろ」と言ったらしいです(笑)
ちょっと休憩させて、みたいな。だから少しは迷惑をかけていると思います。
──辛い撮影を乗り越えて完成した本作は、美しい映像の連続でした。特に好きなシーンはどこですか?
直美:アップステート(ニューヨーク州北部)の雪のシーンがすごく好きで、「小鹿みたい」と言われました(笑)
クラブの色鮮やかなシーンと、雪や自然のコントラスト。
リアリティとファンタジーが混ざった、夢のような映像です。
美しい作品を生み出す仕事観
──露出が多い衣装もありましたが抵抗はなかったですか?
直美:全然なかったです。脱いでも平気でした。でも監督に「脱がないで」と言われました(笑)
セックスシーンは入れたくないし、シャワーシーンも頭より下は見せない、ヌードは見せたくないと。
脱いでも全然OKだったんですけどね。作品のためなら画が綺麗だと思うので。
モデルを16歳からやっていて、人前で着替えたり、ショーで大勢いる中で下着になったりするので、抵抗がないのかもしれないです。
──モデルと女優のお仕事に違いはありますか?
直美:人それぞれだと思いますが、私は、モデルだったらマネキンというか、自分の個性を出すのではなくて、クライアントさんに合った顔を見せるのが使命だと思っています。
演技をする時も、ナグメ監督のメッセージが一番だから、それを乗せて、私は体を張って演じる感じなので“自分”というのはないです。
──16歳からモデルを始めて、これまでずっとクリエイティブなお仕事をされていますが、「仕事」に対してどのような思いがありますか?
直美:私は仕事が好きなので、遊びも仕事も同じだと思っています。
遊びと仕事の区切りがないので、その代わり好きな仕事をしたいです!
女優のお仕事もやりたいですが、美しいものを世に出すことが好きなので、私が有名になりたいというよりは、良い物を作りたい気持ちが大きいです。
作品を出して、それが有名になって欲しいですね。
今はグラフィックデザインの仕事もしていて、ブランディングやロゴを作ったり、パッケージデザインをしています。
趣味で展示会用に椅子を作ったり、2019年には下着のブランドを起ち上げようと動いているところです!
映画『MAKI マキ』の作品情報
【公開】
2018年(日本・アメリカ合作映画)
【監督】
ナグメ・シルハン
【キャスト】
サンドバーグ直美、ジュリアン、おおのゆりか、ブランカ・ビバンコス、原田美枝子
【作品情報】
イラン映画界の名匠アミール・ナデリに師事したナグメ・シルハン監督が、ニューヨークの日本人コミュニティに、居場所を求めてさまよう女性の孤独と愛のゆらぎを描く日米合作映画。
主人公マキ役にモデル出身で女優としても活躍を見せるサンドバーグ直美のほか、トミー役をジュリアン、また日本を代表する女優の原田美枝子が脇をかためています。
映画『MAKI マキ』のあらすじ
ニューヨークの日本人高級クラブで“エヴァ”として働くマキ。
アメリカ人の彼氏を追って日本を飛び出してから数か月。
マキは、クラブに内緒でボーイのトミーと暮らし、おなかには彼の子どもを宿していました。
クラブを経営するミカに妊娠を知られたことで、ある計画に巻き込まれ、次第に居場所を失くしてゆくマキ…。
まとめ
本作『MAKI マキ』の見どころの一つは、ナグメ・シルハン監督の照明や色、音へのこだわりが随所に感じられる美しい映像の数々です。
高級クラブと自然豊かな別荘地、深夜の繁華街と昼間のストリート…そしてニューヨークと日本。対比するように描かれる場面の中で、その背景を纏うかのように様々な表情を見せながら生きるマキ。
マキの迷いや葛藤に心を揺さぶられながら、マキを演じるサンドバーグ直美さんの存在感に魅了され、インタビューに伺いました。
孤独なマキを演じ、スクリーンでは寂しげな表情が印象的でしたが、実際の直美さんは、「3年前だから少し記憶が薄れてるかも」と笑いながら、公開が決まったことへの喜びや、撮影当時の苦労と思い出、そして自身の近況をにこやかに語ってくれました。
女優、モデル、アートディレクター、デザイナー、それぞれの仕事で美しい作品を作り上げていく日々の中で、「仕事と遊びは同じ。区切りがない」という考えを明かした直美さん。
トミー役のジュリアンさんとの偶然の出会いから始まり、自身がニューヨークで暮らした日々と重なるマキの境遇、まるで運命に導かれたかのように自然にマキを演じるうちに、撮影後も引きずる程に役に入り込んでしまったというエピソードは、純粋でストイックに仕事と向き合い続ける姿勢から生まれたものかもしれません。
インタビューの最後に、『MAKI マキ』の公開を楽しみにしている方々にメッセージをいただきました。
日本の皆さんに、海外に行って頑張っている日本人のコミュニティがある現状を知ってもらいたいです。
そこで自分を学ぶ機会もあると思いますし、ぜひ日本の女性たちに、いろいろな世界を見てもらえたら嬉しいです。
映画『MAKI マキ』は、2018年11月17日(土)より、ユーロスペースほかにて全国順次ロードショーです。
サンドバーグ直美のプロフィール
1989年東京生まれ。16歳の時にモデル事務所BeNaturalに所属。
モデルとして雑誌(SPUR、anan、Jille、Vikka、Marisolなど)や広告、テレビCM(ユニクロ、アディダス、リプトン、ソニーなど)で活躍しています。
現在、東京都の海外向けPR動画「Tokyo Wonderland」に出演中。モデルと女優業の他にアートディレクター・デザイナーなど広範囲に精力的に活動しています。
インタビュー / 苅米亜希
写真 / 出町光識