映画『一度も撃ってません』は2020年7月3日(金)より全国順次ロードショー!
日本映画界において欠かすことのできない一人であるベテラン俳優・石橋蓮司の18年ぶりとなる映画主演作『一度も撃ってません』。
監督・阪本順治×脚本・丸山昇一の往年のタッグのもと、大楠道代・岸部一徳・桃井かおりをはじめ「主役級」のキャスト陣が世代を超えて集結した「ハードボイルド・コメディ」です。
このたび本作の劇場公開を記念し、「一度も撃ったことがない」伝説のヒットマンにして売れない小説家の主人公・市川役の石橋蓮司さん、市川の旧友・石田役の岸部一徳さんにインタビュー。
阪本順治監督の魅力、若手俳優陣との共演、俳優として長きにわたって同じ時間を過ごしてきた二人が今思うことなど、貴重なお話を伺いました。
CONTENTS
一本の映画のために集う
石橋蓮司さん
──はじめに、本作への出演経緯をお聞かせください。
石橋蓮司(以下、石橋):阪本順治監督から出演オファーをもらった時点で「“俳優”石橋蓮司と“俳優”岸部一徳でこういう映画を作りたい」という話は聞いていたので、俺はただ「どうぞ、やってください」「力は必ず貸しますから」とだけ答えました。
こう表現すると本人からは怒られちゃうんですが、阪本監督の作品は脚本(ホン)よりもできあがった映画の方が必ず面白いんですよね。脚本を読んだだけでは「なぜ今、こういった映画を撮るんだ?」と疑問を抱く場面もあるんですけど、映画としてできあがってみると、現代に深く関わるテーマの核心をビックリするほど言い当てている。「これは今、必要な映画だ!」と感じられる作品だと毎回思い知らされるんです。
岸部一徳(以下、岸部):今回の企画には「大勢の優れた俳優が一つの映画に集う」という面白さがまずあるんですが、阪本監督は「それだけ」で終わらせる映画監督じゃない。映画として優れたものへと仕上げる力を確かに持っているので、一人の俳優として「この映画は、一体どんな形で仕上がるのだろう?」と期待しながら阪本監督の作品と接しています。
それに僕にとっては、憧れの蓮司さんとの共演ですから。
石橋:何を言ってんだ、お前(笑)。
岸部:大楠道代さんと桃井かおりさん、蓮司さんと僕の四人が横に並んでいるだけで、僕の中では出会った時の記憶や色々な感情が重なってくるんです。今こうして『一度も撃ってません』という一本の映画のために集まって、芝居を通じて同じ時間を過ごすことができる。こんなに幸せなことはないですよ。それがこの歳になって実現できたんですから、「阪本さんには感謝しないとな」とは感じています。
「役者」としての度量を試される現場
岸部一徳さん
──先ほど阪本監督の作品における魅力について触れられましたが、実際の現場での阪本監督はどのような映画監督なのでしょうか?
岸部:僕は阪本監督の作品には何回か出演させていただいているんですが、いわゆる「慣れ」が生じたことはありませんし、いつでも一定の緊張感をもって現場にいます。阪本監督は「なあなあ」や「適当」なんてことを絶対に見逃さないタイプなんです。そして俳優が脚本以上の何かを出さないと、「つまらない俳優」と判断する。そこはとても厳しいです。
石橋:阪本監督の方も、撮影前に役者たちからナメられないための準備をしてきているんですよね。「貴方たちは作品の色の一つをこう感じているかもしれないけれど、実はそうじゃないぞ」というスタンスを常に保っていて、だからこそ役者とも芝居についてやり合うことができる。くわえて、現場におけるサジェスチョンのタイミングがとてもいい。「ああ、なるほど」「この人物ではこういう色を出したいのか」と納得できる一番いいタイミングでそれらを出してくれるんです。
若手とベテランの貴重な機会
──本作には寛 一 郎さんや柄本佑さんなど、これからの日本映画界を担ってゆくであろう俳優陣も出演されています。お二人の目から見て、彼らの姿はどのように映りましたか?
石橋:寛 一 郎くんには「この映画が成立するか否かはお前にかかっている」「お前が俺たちのような“時代遅れ”をとことんバカにしないと、この映画のリアリティは失われてしまう」と会うたびに頼み込みました。彼は見事に演じてくれて、あまりのこき下ろしぶりに「このヤロウ」と思ってしまうほど腹が立つ場面もありました(笑)。ですが、“時代遅れ”の滑稽さを作品として描くためにはそのぐらいキツイ視点が必要でしたし、それを寛 一 郎くんにぜひ演じてもらいたいと考えていました。
佑はやはり自身の父親とのつながり、父親と同じぐらい長い間役者として生きてきた人間たちと演じるという状況を意識していました。ただ彼は面白がり屋ですから、「俺は“そこ”へ行く」「けれど俺は、絶対“あの人たちの世界”と同じ土俵ではない、別の土俵を“そこ”に入れてみせる」といった意気込みをもって現場に入ってくれた。それは一緒に演じていてとても素敵に感じられました。
──寛 一 郎さんと佑さんは形は違えど、「大御所」「レジェンド」とさえ称されるベテラン陣と真っ向から対峙されたのですね。
石橋:そうですね。彼らとは決着をつけたいと思っています(笑)。そのぐらい見事にやってのけてくれましたから、本当にホッとしています。
岸部:彼らは若い世代の代表選手なわけですが、ベテラン陣とぶつかる機会がまずないんですよね。この作品は「“主演”石橋蓮司」という前提があるからこそ若手もベテランも思いきり演じることができていましたが、他の作品ではそもそも現場が一緒になる機会すら生まれない。たとえ共演の機会が生まれても、どちらか一方が安直なステレオタイプの役を演じさせられることが多々あります。ですから、お互いにとっていい機会だったと思っています。特に「若手」と呼ばれる彼らにとっては、これからにもつながっていく貴重な財産になるんじゃないでしょうか。
「二枚目」の渋さと滑稽さ
──作中の石橋さんは「時代遅れ」ゆえの滑稽さとともに、それゆえの「渋さ」もまた表現されていました。
岸部:共演するにあたって、蓮司さんの俳優としての真の凄さや力を役を通じて見たいとは思っていたんですが、実際に現場へ入ってみたらそれ以上のものを目の当たりにしました。「男の生き方における“二枚目”とはこういうことなんだ」という思いが、役を演じるための一本の柱として最初から最後まで貫かれていた。そこに凄さが表れていましたし、それがあったからこの作品に関する他の全てが成立していったという感じがします。
石橋:俺、二枚目なんだって(笑)。やっぱり、「カッコつけて生きているヤツ」を演じようとすると、役者はどうしても「つぶし」をかけたくなるんです。どこかでつまづいたり、情けない声を出したりといった芝居をつい挟みたくなってしまう。けれど、本作の役では「それはダメだ」「今回はいつまでも“つぶし”をかけない姿を通じて滑稽さを出すべきだ」と感じたんです。時代遅れな主人公の滑稽さは、他の人物や観客の視点から見た結果として十分に伝わるのだから、変なところで小細工を入れてはいけないんだと。
岸部:そうそう、小細工を入れたくなる。
石橋:入れたくなるんだよね、どうしても。コップの一つでもうっかり落としてみたり、色々とやりたくなってしまうけれど、それを抑えてこそ本作にとっての滑稽さが描けるわけですから。改めて考えてみると、そういった「つぶし」のかけなさがダンディズムの原型なのかもしれないです。
ずっといられる相手
──最後に、お互いの俳優としての魅力を改めて教えていただけますか?
岸部:「自分自身が役を通じて何をするか?」ということよりも「蓮司さんが“生きている”そばに立った時に自分はどうなるのか?」ということを考え続けていました。脚本上での各々のセリフや役柄があるけれども、蓮司さんや皆と過ごした現場での時間は、もう二度と訪れることのない、とても貴重な一瞬の連続でした。会うこと自体はしょっちゅうあるものの、普通の映画では味わうことのできないやりとりが映し出されている。それをふまえた上で、石橋蓮司という俳優さんを世の中の人々がもっと的確に認識してほしいという思いがあります。
石橋:俺は今まで色んな役者さんと仕事をやってきたけれども、嫌われることを恐れずに敢えて言わせてもらうと、やはり一徳は非常に変わっている。そう思うのには実は理由があって、俺は自分のことを音楽の世界から入ってきた人間、「音楽家」だと思っているからでもあるんです。
たとえば以前の原田芳雄との芝居では、芳雄がメインのメロディを弾き始めると俺がベースを入れていくという風にをやっていた。そんなセッションじみたやり方がお互いの思う「居心地」のいい形だったわけだけれど、俺にとっての一徳は自分のメロディにベースとして呼応してくれる、いい「居心地」を作ってくれる存在なんです。演技のスタイル云々以前に、普段から喋っていてもそう感じる。一徳と二人でいると、自分の「音」を出しやすくなる。本作を通じて、自分がつくづく「音楽家」なんだと分かりました。
岸部:僕の中にも「音楽家」の一面がどこかにあって、蓮司さんがおっしゃる芝居の捉え方、「セッション」の感覚は意識しています。ただそのやりとりが成立させるのは、日常での会話はもちろん俳優同士であっても中々むつかしいことなので、今の連司さんの言葉はとても嬉しいです。
石橋:ずっと、いられるんだよね。「いられる」というと何か変に聞こえるけれども、セリフや言葉がなくても一徳とはずっといられる気がするんです。
インタビュー/藤田みさ
撮影/田中舘裕介
構成/河合のび
石橋蓮司(いしばし・れんじ)プロフィール
1941年生まれ、東京都出身。「劇団若草」「劇団青俳」「現代人劇場」などを経て、現在は「劇団第七病棟」を主宰。演劇・映画・テレビにおいて強い個性と演技力で異彩を放ち、幅広い役柄で存在感を示している。降旗康男・熊井啓・市川崑といった日本映画界の巨匠たちの作品の他、阪本順治・三池崇史・行定勲・堤幸彦・北野武といった次世代の才能との出会いが続き、彼らの作品でも半世紀に渡る長い経験に裏打ちされた確かな演技で高い評価を得、無くてはならない存在になっている。本作は2002年の『黄昏流星群 星のレストラン』以来18年ぶりの主演作となる。
映画出演作には『狼と豚と人間』(1964)、『あらかじめ失われた恋人たちよ』(1971)、『竜馬暗殺』(1974)、『赫い髪の女』(1979)、『魔性の夏 四谷怪談より』(1981)、『出張』(1989)、『われに撃つ用意あり』(1990)、『四十七人の刺客』(1994)、『北の零年』(2005)、『大鹿村騒動記』(2011)、『紙の月』(2014)、『団地』(2016)、『孤狼の血』(2018)、『半世界』(2019)など。
岸部一徳(きしべ・いっとく)プロフィール
1947年生まれ、京都府出身。1967年にGS「ザ・タイガース」のベーシストとしてデビュー。1975年にドラマ『悪魔のようなあいつ』で俳優に転向。カンヌ国際映画祭では審査委員グランプリ受賞作である小栗康平の『死の棘』(1990)にて、日本アカデミー賞・最優秀主演男優賞とキネマ旬報・主演男優賞を受賞した。
映画出演作には『時をかける少女』『お葬式』(1983)、『キネマの天地』(1986)、『八つ墓村』『ビリケン』(1996)、『39〜刑法第三十九条』『鮫肌男と桃尻女』(1999)、『顔』(2000)、『ゲロッパ!』(2003)、『いつか読書する日』(2005)、『フラガール』(2006)、『転々』(2007)、『大阪ハムレット』(2009)、『大鹿村騒動記』(2011)、『少年H』(2013)『舞妓はレディ』(14年)『FOUJITA』(2015)『団地』(2016)、『アウトレイジ最終章』(2017)、『北の桜守』『鈴木家の嘘』(2018)など。
映画『一度も撃ってません』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
阪本順治
【脚本】
丸山昇一
【キャスト】
石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、桃井かおり、佐藤浩市、豊川悦司、江口洋介、妻夫木聡、新崎人生、井上真央、柄本明、寛 一 郎、前田亜季、渋川清彦、小野武彦、柄本佑、濱田マリ、堀部圭亮、原田麻由
【作品概要】
日本映画界を代表するバイプレーヤーにしてベテラン俳優・石橋蓮司の18年ぶりとなる映画主演作。ハードボイルド・スタイルで夜の街をさまよう、完全に“時代遅れ”の主人公を渋く、そしておかしみたっぷりに演じる。
監督には『大鹿村騒動記』『半世界』の阪本順治、脚本には『探偵物語』の丸山昇一。共演には、妻役の大楠道代、夜な夜な市川のもとに集まる怪しげな友人役に岸部一徳と桃井かおりをはじめ、日本映画界の第一線にて活躍する幅広い年齢層のキャスト陣が集結。世代を超えての「演技合戦」が作中に展開される。
映画『一度も撃ってません』のあらすじ
市川進、御年74歳。タバコ、トレンチコートにブラックハットという出で立ちで、大都会のバー「Y」で旧友のヤメ検エリート・石田や元ミュージカル界の歌姫・ひかると共に夜な夜な酒を交わし、情報交換をする。
彼は巷では「伝説のヒットマン」と噂されていた。
しかし本当の姿は……ただの売れない小説家。妻・弥生の年金暮らし、担当編集者の児玉からも愛想を尽かされている。物語のリアリティにこだわり過ぎた市川は「理想のハードボイルド小説」を極めるために、密かに「殺し」の依頼を受けては、本物のヒットマン・今西に仕事を頼み、その暗殺の状況を取材しているのだ。
そんな市川に、ついにツケが回ってきた。妻には浮気を疑われ、敵のヒットマンには命を狙われることになってしまう。
ただのネタ集めのつもりが、人生最大のピンチ。「一度も撃ったことがない」伝説のヒットマンの長い夜が始まる……。