映画『神田川のふたり』は2022年9月2日(土)より池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開中!
全編の85%以上を屋外ロケーションで撮影し、東京都杉並区から武蔵野市は井の頭恩賜公園までの「小さな旅」を描いたロードムービー『神田川のふたり』。
お互いに片思いながら別々の高校に進学した男女ふたりが、元クラスメイトの葬儀で再会したのを機に始まった「小さな旅」を通じて濃密な24時間を過ごす様を、『れいこいるか』のいまおかしんじ監督が映し出します。
上大迫祐希さんとW主演を務めたのは、2020年の各映画賞で高い評価を受けた『アルプススタンドのはしの方』で知られる平井亜門さん。
このたび『神田川のふたり』劇場公開を記念し、平井さんにインタビュー。自身が演じる上での緊張との向き合い方と「自然体」の作り方、俳優という仕事を続けられるその理由など、貴重なお話を伺いました。
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「10年前の自分なら」と「10年前の自分よりも」
──今回の映画『神田川のふたり』で男子高校生・智樹を演じられるにあたって、平井さんはどのような点を意識されたのでしょうか。
平井亜門(以下、平井):撮影当時26歳だった自分からすると、ちょうど10年前が高校生だったので、智樹を演じる上での台詞や仕草などに関しては「10年前の自分ならこうするだろう」と若干意識しながら考えていました。
ただ作品によっては、高校生なのに今の自分より大人びているという役もあるので、あくまでも若かりし頃の精神状態だけを思い出して演じることもあります。
今回演じた智樹の場合は、「高校生の頃の僕よりもひょうきん者なヤツにしたい」と意識しながら演じていました。舞と智樹には一応「友だち」という幼馴染としての関係性が強いので、距離が急接近するのを感じながらも、智樹はそこをなんとか冗談でごまかしたいと考えてしまうヤツなんです。
自然体と緊張との向き合い方
──本作の見どころの一つである冒頭40分のワンシーンワンカットには驚かされました。同場面の撮影に向けてのリハーサルは入念に行われたのでしょうか。
平井:実はリハーサルを1回しただけで、実際の撮影自体は2回だけだったんです。神田川沿いを歩き続ける場面の撮影中に、通行人の方が横を通り過ぎるのは正直当たり前のことですし、想定外が起きるのも覚悟して挑みました。
またこれもロケ撮影あるあるですが、本番中には子どもたちが撮影風景を見ていたんです。僕は視界の隅っこで子どもたちを確認しつつ、撮り直しの可能性に不安を感じていたんですが、そこは撮影監督の藍河兼一さんがうまくアングルで隠してくれました。全員で連携をとりつつ、撮影する場面の芝居への集中力を高めていきました。
平井:僕はもともと緊張しないタイプでしたが、本作を通じていろんな場面を経験させてもらう中で、さらに緊張しなくなりました。40分間のセリフを全部頭に入れて、最低限のリハーサルのみではありましたが、それでも失敗を怖がりすぎないよう心がけていました。
舞台作品のような大きい空間での芝居だと、細かい表情の機微まではなかなか感じとられません。ですが映像作品での演技では、表に出る感情は全てカメラによって拾われるので、極力自分が緊張するようなことは考えません。自然体でいるためにも、変に自分を作ったり、格好つけたりしないように気をつけています。また、どんな俳優さんと共演しても、相手の芝居に対しなるべく素直に反応したいと思っています。
俳優をそれでも続けられる理由
──平井さんは俳優・モデルのお仕事のほかに、ミュージシャンとしても活動をされています。
平井:これといったきっかけはないのですが、子どもの頃テレビで見てから、ずっとミュージシャンに憧れていました。
小中学生の時に友だちから歌を褒められたこともあって、「ミュージシャンって自分に向いてるんじゃないか」と淡く思ってましたね。その後高校生になって楽器演奏を勉強し始めたんですが、音楽には「理屈」があり、コードや音楽の理論といった最低限の基礎や知識の蓄積が不可欠なんだと思い知らされました。
俳優の仕事も以前担当してくれていたマネージャーの勧めで始めたんですが、当初は「なんとなくでできるだろう」とナメきっていました。その後はもちろん俳優という仕事の難しさを思い知らされたわけですが、それでも続けられているのは、俳優という仕事が自分の性に合っているからなのかもしれないですね。
実は自分で言うのはおこがましいですが、俳優を続けていく中で「自分は、この仕事に少し向いているのかもしれない」と思える瞬間がありました。
ありのままを見せるだけではなく、自分というフィルターを通していかに自然体で振る舞い、その上で共演者という他者とかけ合いができるか。芝居の中で、その感覚をもって演じることの大切さに気づけたんです。
作品と観客の架け橋となるために
──映画『神田川のふたり』で“いまおか演出”も経験した今、平井さんはどのような俳優として活動していきたいと考えられていますか。
平井:ここ最近になって金髪で役を演じるお仕事をいただき、ホストっぽい役、ヤンキーっぽい役など、普段の自分とはかけ離れた暴力的な一面を持つ役を演じる機会を得られました。
ただ、どんな役でも何かしら自分と共通するところがあるはずなので、それをどう大きくするか。自分の中の一部を誇張した上での、暴力的な感情の増幅のさせ方などはまだ試行錯誤中です。
そういう新しい挑戦をしつつも、許される限りは高校生役をやり続けたいです(笑)。また「30歳ぐらいまでは毎年高校生役をやる」という目標を掲げていたら、多分自分にも負荷がかかって、見た目としても若くいられるんじゃないかと思っていますね。
観ている人にとって作品がかけ離れないよう、常に等身大でいたいと感じています。自分の役割として、肩の力を抜いて「普通の男の子」を演じることで、作品と観客の皆さんとの架け橋になれるよう心がけています。
インタビュー/タキザワレオ
撮影/田中舘裕介
平井亜門プロフィール
1995年生まれ、三重県出身。
2017年に雑誌「smart」のモデルオーディションでグランプリに輝く。モデル・俳優として活躍中。城定秀夫監督作『アルプススタンドのはしの方』(2020)での演技が各方面から高い評価を得る。
映画では『36.8℃ サンジュウロクドハチブ』(2017)、『左様なら』(2018)、『レイのために』(2019)、『カーテンコールのはしの方』(2020)、『うみべの女の子』(2021)、『シチュエーション ラヴ』(2021)、『階段の先には踊り場がある』(2022)、『ほとぼりメルトサウンズ』(2022)などがある。
また、2022年9月10日(土)〜9月11日(日)には音楽舞台『あなたはエディット・ピアフを知っていますか?』(新宿シアタートップス)に出演。さらに10月からはBS-TBS連続ドラマ『サワコ』に出演。
《音楽舞台『あなたはエディット・ピアフを知っていますか?』(新宿シアタートップス)の詳細はコチラ→》
映画『神田川のふたり』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
いまおかしんじ
【脚本】
川崎龍太、上野絵美
【編集】
川崎雄太
【キャスト】
上大迫祐希、平井亜門、椎名糸、岡本莉湖、橋本達、佐藤宏、石綿宏司、逢澤みちる
【作品概要】
かぐや姫の名曲『神田川』で知られる神田川を舞台にした、高校生男女の青春の物語。
『れいこいるか』(2020)が『映画芸術』2020年日本映画ベストワンに選出された監督・いまおかしんじが、全編の85%以上を屋外ロケーションによって撮影し、東京都杉並区から隣の武蔵野市にある井の頭恩賜公園までの「小さな旅」を描いたロードムービーです。
主演として舞と智樹を演じたのは、2021年の東京国際映画祭や上海国際映画祭において世界から高い評価を受けた『スパゲティコード・ラブ』(2021)の上大迫祐希と、2020年の各映画賞で高い評価を受けた『アルプススタンドのはしの方』(2020)の平井亜門。
共演は佐藤宏、石綿宏司、逢澤みちるほか。
映画『神田川のふたり』のあらすじ
高校2年生の舞と智樹は中学時代のクラスメイトの葬儀の帰り、久しぶりに二人きりで神田川沿いで自転車を押していた。
二人は互いに気があったものの、思いを伝えられず別々の高校へ進学していたが、どうもその気持ちはまだ続いているようだ。
東京都杉並区永福町の幸福橋から高井戸方面へ神田川沿いを上る二人は、上下オレンジ色のスウェットに両手首を縄で縛られ倒れている謎の男に遭遇するが、その遭遇がきっかけで下高井戸八幡神社へ行くことになる。
神社で亡きクラスメイトが想いを寄せているみおという名の女性との恋が成就するよう祈願した絵馬を発見した二人。井の頭恩賜公園のボート乗り場で働くみおにクラスメイトの想いを伝えるため、舞と智樹は神田川の源流である井の頭恩賜公園へ向かうことに。
みおがお気に入りのクマにキャラクターのぬいぐるみと、告白には欠かせないとクラスメイトが言っていたモンブランをゲットし、なんとか日没前に公園に到着するも、その日はみおが非番のため会うことができずに翌日に改めることにする。
すっかり日も暮れて賑やかさを増す吉祥寺の街を歩く2人だが些細なことで口論となり、それぞれが夜の街に消えていく。
バッタリ会った高校の同級生と路上で話し込む智樹の前を、ナンパしてきた男と二人で街をゆく舞が通りかかり……。
タキザワレオのプロフィール
2000年生まれ、東京都出身。大学にてスペイン文学を専攻中。中学時代に新文芸坐・岩波ホールへ足を運んだのを機に、古今東西の映画に興味を抱き始め、鑑賞記録を日記へ綴るように。
好きなジャンルはホラー・サスペンス・犯罪映画など。過去から現在に至るまで、映画とそこで描かれる様々な価値観への再考をライフワークとして活動している。