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Entry 2019/10/11
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【ハーマン・ヴァスケ監督インタビュー】映画『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』Why are you creative?を求めて

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』は2019年10月12日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!

ドイツの映画監督ハーマン・ヴァスケは、長年に渡り「クリエイティブとは何か?」を追い求め、研究し続けていました。彼は世界各地で活躍するノーベル賞受賞者やアーティスト、政治家、ミュージシャン、映画監督などに、“ある質問”を投げかけます。

“Why are you creative?”

「あなたは、なぜクリエイティブなのですか?」と。


(C)Cinemarche

アポイントなしの突撃取材から正式な交渉を行った取材など、ハーマン監督があらゆる形でコンタクトをとった著名人は1000名以上に及びます。

その膨大な取材映像とクリエティブの言葉たちを、長きに渡る編集作業の中で107名にまで厳選。映画『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』は完成しました。

今回は本作の日本での劇場公開を記念し、ハーマン・ヴァスケ監督にインタビュー取材を行いました。

ハーマン監督の素朴な疑問「Why are you creative?(あなたはなぜ、クリエイティブなのですか?)」に拘り続けた作品制作の裏側は、もちろん。

彼自身にも“素朴な疑問”の逆取材を敢行。本作をより深く知るために、ハーマン監督からもクリエイティブについての言葉をいただきました。

はじめに…“あなたにとってクリエイティブとは何か?”


(C) 2018 Emotional Network

──まずはじめに…“What is creative for you?(あなたにとってクリエイティブとは何でしょうか?)”

ハーマン・ヴァスケ監督(以下、ハーマン):私にとって、クリエイティブとは「1+1=3」です。

本来であれば一緒にはならないものを敢えて組み合わせ、別のもの、全く異なるもの、そして新たなものを作り出すことです。

あれだったら自分にもできた!?


(C)Cinemarche

──本作を観ていると、メディアという表現の世界にいる人間として、脳を素手で触られているかのような感覚に陥りました。特に映画冒頭に登場したハーマン監督が疑問視されていた“当然のルール”や“世界にある秩序”をご自身はどのように捉えられていますか?

ハーマン:この世界は「あれだったら自分にもできた」という定型句に溢れかえっています。

有名なエピソードとして、アーティストのダミアン・ハースト(*1)がある記者に「あなたの作品は自分にもできますよ」と言われた時、即座にこう言い返したことがあります。

「でも、あなたはこの作品を作っていないですよね」と。

“アイディア”と呼ばれるもの自体は、誰でも持っている。けれど多くの人間は、それを現実に実行する前に「これを世に出したら、みんなにどう思われるだろうか?」と、まだ生まれてすらいない周囲の評価に囚われ、ついには“自粛”という結論に至ってしまう。

“小心者の自己”が人々の内に存在するわけです。

「デヴィッド・ボウイという対象者に顔を合わせない」という“《クリエイティブ》なインタビュー”を敢行するハーマン監督


(c) 2018 Emotional Network

ハーマン:自身の内にアイディアが生まれても、“小心者の自己”のせいで結局行動には移せない。そして夢を叶えられず、死に際に「あんなこともできたはずだ」「これもできたのに」という後悔の中で息絶えてゆく。

そうやって自己への検閲を繰り返してしまう自分自身を乗り越えるのが、何より大切なのではないでしょうか。そして、「そうあるべきだ」と他者に強いる暗黙のルールが、映画でも語った“当然のルール”や“世界にある秩序”として存在しているように感じています。

それらは、今回のプロジェクトを通じて様々な人間と接してゆく中で改めて気づかされたことでもあります。

またアートディレクターのジョージ・ロイス(*2)から自著『Be careful George(直訳:ジョージ気をつけなさい)』をいただいた際に、「恐れずやってみろ」というメッセージをサインとともに添えてくれた。その言葉からも強い影響を与えられました。

*1:ダミアン・ハースト……1965年6月7日生まれ、イギリスの現代美術家。1990年代から世界的に知られるようになり、「Natural History」という鮫、牛、羊などの動物をホルムアルデヒドで保存したシリーズが代表作。

*2:ジョージ・ロイス……1931年6月26日生まれ、アメリカのアートディレクター。現代における広告グラフィックの手法を確立した一人であり、“世界を変えた伝説の広告マン”と称される。MoMA(ニューヨーク近代美術館)にも収蔵された「エスクワイア」誌・表紙やMTV初期のキャンペーン「I want my MTV」のディレクションで有名。

「1+1=3」が「1」を生み出す


(C)Cinemarche

──先ほど「1+1=3」と仰っていましたが、本作におけるハーマン監督が編集された映像も、かつてのエイゼンシュテインのモンタージュを想起させる、まさに「1+1=3」な魅力を感じました。

ハーマン:まず、長年貯めた映像のフォーマット自体がそれぞれ異なるので、異なる種類の映像をすべて生き返らせる(デジタル化する)のがとにかく大変だった。SONYのカメラを新たに購入したり…アレもコレも購入し直しました…。

映画における「1+1=3」はロサンジェルスのアメリカン・フィルム・インスティチュート (American Film Institute,AFI)で学んだことです。映画づくりはいろんな人間とのコラボレーションそのものであり、だからこそ「誰と一緒に組むのか?」が大切になってくるというわけです(笑)。

構成についても、これまでに制作してきた映画では俳優のデニス・ホッパーやジョン・クリーズ、ハーヴェイ・カイテルなどにナレーションを依頼していたんですが、今回は「自分自身でやりたい」という強い思いがあったため、自力で様々なエピソードを思い出しながら映画の道筋を作っていきました。

その際には、インタビューさせていただいた人々の創造性と、創造性の源である動機の“在り処”を特に重要視しました。子供時代の影響なのか、はたまた衝動性によるものなのかなど、それらをひとつずつ正確に伝えていくことを考慮しながら構成を整えてゆきました。


(c) 2018 Emotional Network

また、作中のアニメーション映像に関しては、言語学者ノーム・チョムスキーとの対話を記録したミシェル・ゴンドリー監督の長編映画『背の高い男は幸せ?』(2013)のアニメーションを手がけたヴァレリー・ピアソンにお願いしました。

ともに膨大な取材映像に向き合ってくれた編集のマリー=シャルロット・モローは、素晴らしい仕事をしてくれました。彼女と私は「“映像”という名の怪獣をどのように手なづけるか?」を目標に掲げ、“怪獣使い”となるべく編集に取り組みました。

そして、映画を完成させるための最後の要素として、1980年に“西ベルリン”で結成された世界的ロックバンド「アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン」の創立メンバーでもある、ミュージシャンのブリクサ・バーゲルトに本作のサウンドトラックを依頼しました。

これらの要素が全て揃った時と同じ頃、俳優のマイケル・ダグラスにインタビューをする機会がありました。そして「クリエイティブとは何か?」という問いに対し、彼は「全部が一緒になったときに、一つの作品が完成する」と答えた。

その瞬間、私のやってきたインタビューそのものが、クリエイティブの一つの形であると実感ました。

ミクストな表現としてのメディア


(C)Cinemarche

──作中で展覧会の場面が映った時点で、「これは“アート(Art)”なんだ」とハッキリ理解しました。アートとは“収集(Collect)”の行為であり、アーティストが何かを収集すること自体がアートである。それはアーティストであるハーマン監督がアーティストたちの「クリエイティブ」を収集する姿と合致します。

ハーマン:そう言ってくれてありがとう。ご指摘の通りだと思います(笑)。

まさに自分は、これまでに様々なものを“収集”して、自分なりの“スピンオフ”作品を作ろうと試み続けてきました。

実は今、来年2020年に公開することを目指して、本作の続編的作品も構想しているんです。そのタイトルは『WHY are you not creative?(原題)』というもので、「創造性を発揮する上で何が妨げになっているのか?」を描く予定です。

特に、今回の作品には登場していませんが、チェコスロバキア大統領とチェコ共和国初代大統領を務めたビロード革命(1989)の中心的人物であり、劇作家でもあったヴァーツラフ・ハヴェルが「“自主規制”とは何か?」を語った映像を入れたいと思っています。

もちろん、様々なものを“収集”したことへの責任とも常に向き合っています。

博物館やアカデミックアートとも相談し、映画のみならず、展覧会、インターネット上のWebサイト…これまでに収集してきた多くの「クリエイティブ」を多様な手法によって次世代に残し伝えていくことも、“収集”してきた自分が責任をもってすべきことだと感じています。

ふたたび…“あなたにとって《クリエイティブ》とは何か?”

──ハーマン監督とのコミュニケーションによって生まれたインタビューは、それ自体がとても興味深かったです。再度、お伺い致します。“What is creative for you?(あなたにとって「クリエイティブ」とは何か?)”の答えを、こちらに書いてください。

ハーマン:(スケッチブックに文字を書いてゆく)

「Obsession」=「執着」


(C)Cinemarche

──ハーマン監督、本日はありがとうございました。それでは15年後に、ぜひ、またインタビューをさせてください。

ハーマン:何言ってる?30年後だよ(笑)。来年次回作が公開される時にお会いしましょう。(インタビュアーと握手)

インタビュー/ 出町光識
写真/ 河合のび

映画『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』の作品情報

【日本公開】
2019年10月12日(土)(ドイツ映画)

【原題】
Why Are We Creative?

【監督・製作】
ハーマン・ヴァスケ

【出演】
デヴィッド・ボウイ、クエンティン・タランティーノ、ジム・ジャームッシュ、ペドロ・アルモドバル、ビョーク、イザベル・ユペール、スティーヴン・ホーキング、マリーナ・アブラモヴィッチ、ヤーセル・アラファト、ボノ、ジョージ・ブッシュ、ウィレム・デフォー、ウンベルト・エーコ、ミハイル・ゴルバチョフ、ミヒャエル・ハネケ、ヴェルナー・ヘルツォーク、サミュエル・L・ジャクソン、アンジェリーナ・ジョリー、北野武、ジェフ・クーンズ、ダイアン・クルーガー、スパイク・リー、ネルソン・マンデラ、オノ・ヨーコ、プッシー・ライオット、その他大勢

【作品概要】
様々な分野で創造的に活躍する人々に、“クリエイティブ”とは何かを訊ねて回り、貴重な証言の数々を集めたドキュメンタリー映画。

製作・監督のハーマン・ヴァスケは、ロンドンの名門広告代理店に入社。“BMW”“フォルクスワーゲン”などの一流企業のコマーシャル製作に携わり、現在ドキュメンタリー作家として活躍している人物です。

大学時代に“クリエイティビティ”の意味を研究し始め、広告代理店では“クリエイティブ・ディレクター”の下、“クリエイティブな案件”を産み出す“クリエイティブ部門”で働いたヴァスケ監督。

しかし彼の“クリエイティブ”のへ謎は、ますます深まるばかりでした。

そして監督は、この疑問を解明するヒントを得ようと、世界の様々な“クリエイティブ”な人々を尋ね歩きます。

映画『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』のあらすじ


(C) 2018 Emotional Network

敬愛するデヴィッド・ボウイにインタビューする、映画監督ハーマン・ヴァスケ。彼はボウイにこう尋ねます。「なぜあなたは、クリエイティブなのですか?」。

ドイツに生まれ、ルールありきの世界に生きていたハーマン監督は、ロンドンの広告代理店に入社し、自由な発想で創作する職場の同僚たちに、大きな刺激を受けます。

ある日、同僚たちと語り合った際、「なぜ我々はクリエイティブなのか?」という疑問を口にしたヴァスケ監督。上司のポール・アーデンは「それだよ、メモしとけ」と彼に答えます。

疑問の答えを知るために、ハーマン監督がとったのは単純明快で、誰にも真似できないことでした。世界で活躍する“クリエイティブな人物”に、カメラとスケッチブックを手に訪ね歩くことでした。

直接取材するだけでなく、カンヌ国際映画祭やダボス会議に乗り込み、参加した著名な人物に次々と、“Why are you creative?”の問いを投げかけるハーマン監督。

映画で紹介される107名の回答は千差万別。育ちや過去の経験を語る者、抑圧や秩序への反発、情熱や不安や衝動、遺伝や霊感や性的欲求、様々な言葉が紡ぎ出され、各々の自説が表明されます。

クリエイティブな活動を、自己の承認欲求と考える者もいれば、脅迫概念に追われて行う行為と考える者もいます。それをアートとして表現する者もいれば、政治活動として行う者もいます。

そして、人がクリエイティブであることは、どんな意味を持つのか。

シンプルな1つの問いかけは、創造性の持つあらゆる側面を探る冒険となり、人間の本質を描くだけでなく、幸せな人生を送るための、ヒントやアドバイスを与えてくれます…。

映画『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』は2019年10月12日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー!


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