映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』は2021年5月8日(土)より渋谷ユーロスペース、5月22日(土)より名古屋シネマテークにて劇場公開、他全国順次公開。
映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』は架空の都市・関谷市を舞台に、太平洋戦争の平和記念館を設立させることで、ある人物の過去を改竄しようとする市長、それに反対する戦犯遺族の物語を描きます。
主人公の市長・清水正一を演じたのは、数々の作品に出演している名バイプレーヤー・吹越満。また記念館設立に反対する一家として大方斐紗子、北香那、西山真来らが出演した他、現地オーディションで選ばれた西めぐみをはじめとした新人キャストも存在感を発揮しています。
今回、吹越満さんへのインタビューを敢行。キャストの8割が現地・淡路島の人々など“オール淡路島ロケ”となった本作の撮影、共演キャスト陣や作品の魅力などを伺いました。
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“オール淡路島ロケ”での新鮮な体験と時間
──今回の『なんのちゃんの第二次世界大戦』にて吹越さんは、架空の街・関谷市に太平洋戦争の平和記念館を設立することに奮闘する市長を演じられました。
吹越満(以下、吹越):僕が演じている市長は、物語の中でいろいろな出来事に巻き込まれますが、いわゆる「普通の人」です。今までは出てきたらいきなり殺されてしまったり、ちょっと癖のある役が多かったので(笑)、こういう「普通の人」の役は珍しいし新鮮でしたね。
ただ今回の撮影で一番大きく違っていたのは、現場そのものでした。いわゆる「映画のプロ」としてのスタッフ、経験豊富な役者が大勢いる現場ではなかったことは、大変なこともあった一方で非常に楽しさも感じました。
撮影期間中は東京と淡路島を3回往復し、いろいろな意味でタイトなスケジュールでしたが、現場で一番大変な思いをしている河合監督が、誰よりも早く起きて最後まで働いていた姿を見ていましたから、それに応えたいと思っていました。なんといっても、監督本人が僕の送迎を担当してくれていましたから(笑)。
──本作はオール淡路島ロケで撮影されたことで、淡路島という場所の自然が魅力的に描かれていました。
吹越:本作は新型コロナによる混乱が起きる前に撮影を行ったので、スケジュール自体はタイトであったものの、淡路島という土地ではのんびりさせてもらった印象があります。
撮影の合間に余裕ができた時には、泊まっていた宿の近くのコンビニでお酒を買い、コンビニの前にあるベンチで飲みながら暮れていく空を見上げるなんてこともありました。それはやはり、東京ではなかなか体験できない時間の過ごし方でした。
小さな新人・西めぐみに見た“役者”の力
──本作は“オール淡路島ロケ”での撮影であったのと同時に、現地オーディションで選ばれた方たちが「新人キャスト」として出演しています。
吹越:この映画が成り立っている大きな理由でもあるのですが、淡路島の人々には多くの場面で協力していただきました。だからこそ、現地オーディションを経て出演が決まった方たちにも「映画ってこんなに楽しいんだ!」と感じてほしいと考えていました。
また僕自身も、芝居に慣れていない方たちとカメラの前で実際に並んだ時に、アンバランスさが生じてしまうことは避けなくてはと思ったので、ごく普通の市長像を作ることができれば……と意識しながら演じました。
──その新人キャストの中でも、紗江(西山真来)の幼い娘・マリ役を演じた西めぐみちゃんの存在感は際立っていました。作中では吹越さんと対等にセリフを言い合う場面もありましたが、吹越さんの目から彼女はどのように映りましたか。
吹越:撮影中は、彼女が「オーディションで選ばれた地元の子ども」ということをすっかり忘れていましたね。“子役”以上に、“役者”としてすごく魅力的だったからこそ、負けたくないとさえ感じられた。ちゃんと演らなければ……と気を引き締めていました。
彼女は撮影現場でも決して文句を言わない。雨が降っているから撮影を待たなければいけない時も、ある場面の撮影で池の中に入らなくてはいけなくなった時も、淡々とマリを演じ続けていました。また今回の撮影で映画に興味を持ち始めてくれたのか、彼女は自分が出演する場面の撮影が終わった後も、お父さんと一緒に現場に来ていましたね。
自身の仕事の“原点”を今思う
──これまで吹越さんは、映画・テレビドラマ・舞台など様々な分野で俳優として活躍されてきました。ご自身の“俳優”というお仕事を、吹越さんはどのようにお考えなのでしょうか。
吹越:僕は求められればどこにでも行きますし、何でもやります。ただ、以前から自分は一人舞台を不定期で行っていたので、状況や時期に配慮した上で再開をしたいと考えています。
そう考えるのは、「失敗するかもしれない」という環境に自分から切り込んでいくという行動を、コンスタントにやっていかなくてはならないと感じているからです。
うまくいった時には、僕と一緒に喜んでくれる仲間がいることを確認できる。また失敗した時にも、一緒に落ち込める仲間、あるいは次の作品に生かせる反省点を一緒に考えてくれる仲間を確認できる。こうしたことを経験することは、やはり生きていく上で必要だと思います。
僕はもともと映画スターになりたいと思って上京しました。ただ映画は、作り手の人々とのつながりを作らないと、“次”に進むことはなかなか難しい。そこで自分の存在を知らしめるために始めたのが、舞台での芝居でした。舞台は、自分で劇場を借りることもできますから。自身にとってのキャリアの始まりが“舞台”だからこそ改めてそこに戻りたいし、映画と舞台を同時にやっているのが、一番幸せな形なのかもしれないです。
想像するほど“予想外”をもたらしてくれる映画
──最後に、映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』の見どころを改めてお教えいただけますか。
吹越:おそらく『なんのちゃんの第二次世界大戦』は、そのタイトルから作品を想像すればするほど、イメージの“予想外”が観られる映画だと思っています。いい意味で裏切ってくれる作品なので、一体どのような作品なのか、チラシに描かれている子どもは一体何を起こすのかなど、事前に自分なりに想像して観に行くとより面白いかもしれません。
そして本作を通じて、河合健という映画監督の存在もぜひ知っていただきたいです。自分は河合監督と出会って、先頭に立って多くの人々を統率していく力に年齢は関係ないと実感しました。平成生まれの若い監督ですから、これからより一層活躍されるんだろうと確信しています。
インタビュー・撮影/咲田真菜
吹越満プロフィール
1965年生まれ、青森県出身。1984年より劇団WAHAHA本舗に所属し、1990年に市川準監督作『つぐみ』で初出演。1999年の退団後も数多くの舞台・TVドラマ・映画に出演。また2006年より放送されている人気ドラマ『警視庁捜査一課9係(現タイトル『特捜9』)』にレギュラー出演中。2011年には園子温監督作『冷たい熱帯魚』で長編映画初主演を務めるなど、映画・TVドラマ・舞台と幅広い分野で活躍を続けている。
主な映画出演作は『たそがれ清兵衛』(2002/山田洋次)、『ヘヴンズストーリー』(2010/瀬々敬久)、『友だちのパパが好き』(2015/山内ケンジ)、『モリのいる場所』(2018/沖田修一)、『よこがお』(2019/深田晃司)、『嘘八百京町ロワイヤル』『銃 2020』(2020/武正晴)、『大コメ騒動』(2021年1月公開/本木克英)など。
映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【脚本・監督】
河合健
【出演者】
吹越満、大方斐紗子、北香那、西めぐみ、西山真来、髙橋睦子、藤森三千雄、きみふい、細川佳央、河合透真
【作品概要】
平成生まれの河合健監督が、太平洋戦争の平和記念館を設立させることで、ある人物の過去を改竄しようとする市長、それに反対する戦犯遺族の物語を描いた『なんのちゃんの第二次世界大戦』。
登場人物が、バラバラの思惑で対立し錯綜していく様は、フィクションでありながらも現代社会“そのもの”をあぶり出し、現代と戦争の不透明な距離感を表現した作品となりました。
『なんのちゃんの第二次世界大戦』あらすじ
平成最後の年。外来種である亀の大量繁殖問題に悩まされている架空の街・関谷市。そんな関谷市の市長・清水昭雄は、太平洋戦争の平和記念館設立を目指していました。
そこに、一通の怪文書が届きます。
『平和記念館設立を中止せよ。私は清水正一を許さない』……送りつけてきたのは、街で石材店を営むBC級戦犯遺族の南野和子。それを機に、“市長vs南野家”の攻防劇が始まります。
思想とは無縁の長女・えり子、国際ボランティア活動を行う孫の紗江。もう一人の孫で石材店を共に営む光。そして、紗江の娘の幼子・マリ。思想もバラバラの南野家がそれぞれの思惑で昭雄にぶつかっていきます。
やがて被害者と加害者の境を見失う中で、物語は奇想天外なラストへと向かいます……。