映画『コーポ・ア・コーポ』は2023年11月17日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかで全国順次公開!
芥川賞作家・西村賢太が生前絶賛した、コミックサイト「COMIC MeDu」連載の岩浪れんじによる同名漫画を実写映画化した『コーポ・ア・コーポ』。
大阪の下町にある安アパート「コーポ」を舞台に、そこに住む様々な訳あり住人たちの日常と人生を描き出した群像劇です。
今回の劇場公開を記念し、本作で主演を務め、主人公・辰巳ユリ役を演じられた馬場ふみかさんにインタビューを行いました。
本作で演じられた主人公と自身との間の“接点”、「役の“話”に耳を傾ける」という役作り、現在のお仕事を続けていく上での“責任”という楽しみなど、貴重なお話を伺えました。
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“あの頃”だから演じられた“馴染み”の良い役
──本作の主人公・辰巳ユリを演じられた中で、ご自身との間にはどのような“接点”を感じられましたか。
馬場ふみか(以下、馬場):ユリちゃんはどうしても何かを伝える時はズバッと言うけれど、それ以外の時には割と感情を表に出さない面があるんですが、そこは自分と近しいところがありますね。できれば感情に波風を立てずに生きていきたい、イラっとする何かがあっても基本的には「そういうものなんだろう」と捉え、感情を荒立てずに生きたいと考えているんです。
また映画では、ユリちゃんは聞き役として他人の話に付き合うことが多く、住人たちもそんなユリちゃんに話しかけに来るという様子が描かれているんですが、普段の私も自分からは積極的には話さず、人の話に耳を傾けるという場面がよくあります。
年々、自分の内から言葉を発することの難しさを痛感していて、たとえ話している相手がとても仲の良い友だちであっても、相手を傷つけるような言葉を口にするのは嫌だと感じてしまうんです。
自分は「話す」ということが得意ではないんだと思います。ですが「言葉で相手を傷つけたくない」と感じるようになったのは、逆に自分が傷ついた経験があるからでもあるし、どれほど気をつけていても世界中の誰もが「傷ついた」と思わない言葉は絶対に存在しないので、自分でできる最低限の気遣いはいつも心がけています。
この映画でユリちゃんを演じていると、“馴染み”が良かったんです。そう思える作品や役は正直珍しくて、なかなか出会えるものではありません。
ただ一方で、撮影して1年ほど経って私自身も変化していったことで「もう今は、彼女を演じられない」とも実感しています。あの頃の自分だったからこそ演じられた作品だし、役だったんだと思います。
隣に立つ“役”の話に耳を傾ける
──ご自身との「馴染みの良さ」を感じられたユリを演じられる上で、どのような役作りをされていったのでしょうか。
馬場:ユリちゃんは感情をあまり出さない子といいますか、出すのが苦手な子なんですが、それはかなり感情的な性格である母親との関係性が大きく影響しています。
「母親とは全く違う人間でありたい」と思い続けた結果が、表面的には感情が見えづらい今のユリを作り上げたんだと思います。だからこそ彼女を実際に演じていても、家族に対する感情を露わにする場面では「自分が想像したよりも、ユリの感情が大きく表れている」と感じる瞬間もありました。
また、これはどの役を演じる時にもそうなんですが、自分ととても似ていたり、逆に全く違ったりと様々な役を演じる際には必ず、自分と近しい部分を探して“そこ”から役の人柄を覗くようにしています。そうすることで、自分と役の距離感をさらに探っていくんです。
撮影で誰かを演じる時には、短くて2週間、長くて3ヶ月近くを自分として生きながらも、自分とはたとえ似ていても“違う人”である役のことを同時に考え続けます。そして、家族とも恋人とも友だちとも違う距離感を持つ、けれど自分のすぐ隣に立つようになった役自身の話に耳を傾けていくんです。
悩めば悩むほど、自分は“人間”になっていく
──本作へのご出演を経た2023年現在の馬場さんにとって、お仕事を続けていく上での“力”の源となるものとは一体何でしょうか。
馬場:私はお芝居において「自分の“心”を開く」ということがあまり得意ではなくて、そのせいで女優のお仕事に対して「向いていないのでは」と感じてしまう時もありました。
ですが以前、ファンの方々からいただいたメッセージの中で「看護師の役を演じていた馬場さんの姿を見て、自分も看護師を目指しました」という言葉を見つけました。
私の女優としての仕事によって、誰かの人生が変わるのかもしれない。自分が女優やモデルの仕事を続けてきたのも、様々な人との出会いの中で影響を受けて「仕事を続けたい」と思えたからだと感じていたので、その“責任”を仕事における楽しみの一つにしたいと次第に考えるようになりました。
また、自分の女優人生において「演技を上手くできた」「女優として完成できた」といった気持ちが生まれないのは、女優という仕事に対して貪欲であり続けていること、“やりがい”を感じられていることの証だと思っています。
貪欲であり続けたら、自分が自分に対して求めることも増えていきます。その分、仕事に対して感じる難しさも変化していきますが、「悩めば悩むほど、自分は“人間”になっていく」と考えて今の仕事を続けています。
インタビュー/河合のび
撮影/田中舘裕介
馬場ふみかプロフィール
1995年生まれ、新潟県出身。2014年に映画『パズル』(内藤瑛亮監督)で女優デビュー。
2015年に『仮面ライダードライブ』で敵女幹部・メディック役を演じて話題となり、『黒い暴動♡』(2016/宇賀那健一監督)で映画初主演を務める。2023年には『恋は光』(2022/小林啓一監督)での演技が評価され、第44回ヨコハマ映画祭にて最優秀新人賞を受賞した。
主な映画出演作に『劇場版コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』(2018/西浦正記監督)、『ひとりぼっちじゃない』(2023/伊藤ちひろ監督)など。
映画『コーポ・ア・コーポ』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督】
岩浪れんじ
【監督】
仁同正明
【脚本】
近藤一彦
【キャスト】
馬場ふみか、東出昌大、倉悠貴、笹野高史、前田旺志郎、北村優衣、藤原しおり、片岡礼子
【作品概要】
大阪の下町にある安アパート「コーポ」を舞台に、そこに住む様々な訳あり住人たちの日常と人生を描いた群像劇。芥川賞作家・西村賢太が生前絶賛した岩浪れんじ作の同名漫画を実写映画化した。
本作の主人公を『恋は光』で第44回ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞を受賞した馬場ふみかが演じたほか、コメディから社会派まで幅広い演技で知られる東出昌大、今泉力哉監督作品などを始め数々の映画・ドラマに出演する倉悠貴、日本映画・ドラマ界に欠かせないベテラン俳優の一人である笹野高史が出演する。
映画『コーポ・ア・コーポ』のあらすじ
家族のしがらみから逃げてきたフリーター・辰巳ユリ。複雑な過去を背負いながら、女性に貢がせて生計を立てている中条紘。日雇いの肉体労働で日々を過ごし、女性に対する愛情表現が不器用な石田鉄平。過去こそ話さないが怪しげな商売を営む初老の宮地友三。
人々は皆、大阪の下町にある安アパート「コーポ」で暮らしている。
ある日、「コーポ」の住人の一人・山口が首を吊って亡くなっているのを宮地が見つける。似た境遇で暮らしていた人間の死を目の当たりにし、ユリたちはそれぞれの人生を思い返す……。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。