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Entry 2020/06/29
Update

【近藤芳正インタビュー】映画『河童の女』役者として人間として生きるために“もの作り”を続けていきたい

  • Writer :
  • 咲田真菜

映画『河童の女』は2020年7月11日(土)より新宿K’s cinema、7月18日(土)より池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開!

『カメラを止めるな!』を世に放ったENBUゼミナール「シネマプロジェクト」の第9弾作品にして、川辺の民宿で働く青年とその地にたどり着いた訳アリ女性をめぐる物語『河童の女』。本作を手がけた辻野正樹監督にとっては初の劇場公開長編作品でもあります。


photo by 田中館裕介

今回、主人公である浩二の父親・康夫役を演じ、三谷幸喜作品の“常連”として知られるベテラン俳優・近藤芳正さんにインタビュー。撮影秘話やベテラン俳優ならではのエピソード、そして昨今のエンタメ業界の厳しい現状について感じることについて語っていただきました。

「とっつきやすい存在」という役割


(C)ENBUゼミナール

──はじめに、『河童の女』に出演された経緯についてお聞かせください。

近藤芳正(以下、近藤):本作のキャストのほとんどはオーディションで選ばれた方たちですが、浩二の父親役に関しては演じられる役者はいないかと探されていたそうなんです。実は以前、別の作品に出演した時にENBUゼミナールをお借りして衣装合わせを行なったことがあったのですが、その際に本作のプロデューサーである市橋浩治さんとお話する機会があったんです。それがきっかけとなって「今回の役が近藤さんに合うのでは」とオファーをいただき、僕もまた「そういうことなら、ぜひ」とお受けしました。

──実際に役を演じられてみての感想、または撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?

近藤:康夫という人物に関して言えば、僕自身にはあそこまで全てを捨てられる勇気はないと思うんです。何の計算もなく、後先考えずに一つの恋のために動く姿は、ある意味ではうらやましいと思えました。あの行動力には「おバカさんだな」と笑ってしまうのと同時に、愛おしさを感じられます。

どんなにベテランでも、現場に慣れるまではどうしても時間がかかるんです。今回は事前にみんなが揃ってリハーサルがあったのですが、その日は、「早く現場に馴染まなければ」という思いから「よろしくお願いします!」と大きな声で挨拶をしたりしましたね(笑)。それに皆さんからみてとっつきやすい存在として振舞うこと自体が、この映画全体における僕の役割なのかなとも思っていました。

息子役・青野竜平へのアドバイス


(C)ENBUゼミナール

──辻野正樹監督は本作が初の劇場公開長編作品となりますが、撮影において辻野監督とはどのようなやりとりをされましたか?

近藤:いろいろな監督と初めてお会いする時に言われることでもあるんですが、「この演技は違うのではないか」と映画監督にハッキリと指摘するタイプの役者だと思われていることが多くて。ですが本作に関しては、リハーサルや打ち合わせを念入りに行なってくださったので、出演者の皆さんだけでなく、辻野監督とも役について詳細に話し合うことができました。そのため撮影もお互いスムーズに進めることができたと思っています。

──康夫の息子にあたる主人公・浩二を演じられた青野竜平さんとの芝居はいかがでしたか?

近藤:青野くんは僕の芝居をよく観に来てくださっていて、彼自身も鈴木聡さんが主宰する劇団「ラッパ屋」の舞台に客演として出演された経験があったため、お互いに共通の話題があることも相まって僕の中ではスムーズにコミュニケーションがとれたと感じています。

また彼は映像作品への出演が本作が初だったので、舞台との芝居の違いをアドバイスする場面もありました。例えば康夫と浩二が会話をする場面の撮影で、僕の顔だけが映って青野くんは背中だけ映っているカットを撮ることがありました。

その際に青野くんは「たとえ背中しか映らなくても」と一生懸命に演じようとするんですが、あまり力が入り過ぎてしまうと青野くんの体が僕の顔に重なってしまう。そうすると、「康夫の顔を見せる」という意図を持つそのカットとしてはNGになってしまうわけです。それが映像作品における芝居の「感覚」であることをお話しすることがありました。

厳しい状況の中で再認識した自己


photo by 田中館裕介

──近藤さんは2020年5月にZoomによるオンライン演劇『12人の優しい日本人を読む会』を企画されるなど、コロナ渦により苦境を強いられる演劇界において、新たな形での活動を展開されていますね。

近藤:あの企画については、『12人の優しい日本人を読む会』の出演者の一人でもある妻鹿ありかさんが「こんな時期だからこそ、みんなで何かを読みたいと考えている」と話してくれたのがきっかけです。そしてその際の「三谷幸喜さんの『12人の優しい日本人』がいいと思う」「けれど、三谷さんに許可を取るのは大変でしょ?」という妻鹿さんの言葉を聞いて、僕はすぐに三谷さんへ電話をしました。すると三谷さんは、二つ返事でOKをくれたんです。

僕は1991年の映画版ではピザ屋の配達員役を演じましたが、1992年の舞台版・三演では陪審員6号役を演じました。『読む会』のキャスティングはその三演時の出演者の中で、現在も役者を続けている方たちに声をかけたんですが、なんと全員が集まってくれたんです。「思っていた以上に大事になったな」と裏では思っていました(笑)。ただ今回のオンライン演劇という企画については、「現在のこの状況をなんとかしなければならない」という使命感よりも、「やってみたい」という僕自身の本能によって動いた部分が大きいです。

Zoomによるオンライン演劇は、役者全員の顔や反応が観られる点がいいと実際に行なってみることで分かりました。新しい『12人の優しい日本人』が生まれたと思えましたし、三谷さんも「近未来の裁判の形を見ているかのような感覚が面白かった」「いずれはこういう時代が訪れるかもしれない」とおっしゃっていました。ただ、あくまで皆さんの力があったからこそ、あれほどうまくいったんだと思っています。


photo by 田中館裕介

──役者として、或いは舞台作品・映画作品の担い手として、今後はどのような活動を続けていきたいと近藤さんはお考えでしょうか?

近藤:コロナ禍が生み出した新たな状況は今後もしばらくは続くと思いますし、映画や舞台の制作も「密」を避けるために出演者の人数を減らさざるを得なくなっているため、例えば学園ドラマのような「群像劇」など、大人数の出演者が必須な作品が作りづらくなっているのは確かです。役者が商売として成り立たない時期が続くとは感じています。

ただ僕は、この間本多劇場で行った『DISTANCE』(2020・6月)といった一人芝居のように、それでも自分自身が楽しいと思えること、ワクワクできることを続けていけたらと考えています。また『読む会』の企画を通じて、自分は「もの作り」が好きだということを再確認できました。誰にも頼まれていないのに、勝手に何かを企画してしまうほどにそうなのだと。

ですが生活のために「商売」として成立させようとすると、純粋な思いから外れてしまうかもしれないとも感じています。そこから外れてしまわないためにも、「役者」という仕事に敢えてこだわらないようにしたいと思っているんです。例えば近所に気になる野菜屋さんがあり、そこに貼られている「アルバイト募集」の紙に惹かれている自分がいたりするんです(笑)。

もちろん様々な方たちに求められ続ける限りは、これからも「役者」という仕事を誠実さをもって続けていくつもりです。ですが人間というのは、いろいろな可能性が広がっているもの。これまでの自分の経歴はあくまで勝手に残っていくものですから、あまりこだわり過ぎずに生きたいと思っています。

「肯定」のエネルギーに溢れた作品


photo by 田中館裕介

──最後に、近藤さんにとっての映画『河童の女』の見どころを改めて教えていただけますか?

近藤:本作の物語に登場する人々は、全員しょうもない人たちばかりです(笑)。いろいろな欲を持っていて、僕が演じている康夫は自分の幸せのために愛に走ってしまうし、二人の息子のうち兄の新一はお金のことばかり考えている。そして村で暮らす人々も村を盛り上げるための名声欲にかられています。ほぼ全員が、自分たちのことしか考えていないんです。

ですが、「人間」はそれでいいと思うんです。人間のだらしない部分を可愛く描いている映画なので、「こんな生き方ではいけないんじゃないか」と現在の人生に負い目を感じている方、自分のことを否定しがちな方にこそ、ぜひ観てもらいたいです。本作は人間という生き物に対する「肯定」のエネルギーに満ちていると思うので「いろいろな生き方があっていいんだよ」と感じてもらいたいんです。

インタビュー/咲田真菜
撮影/田中館裕介

近藤芳正プロフィール

1961年生まれ、愛知県出身。1976年に『中学生日記』でデビュー。その後1979年に劇団青年座研究所に入所。

映画『12人の優しい日本人』(1991)をはじめ『ラヂオの時間』(1997)、『THE 有頂天ホテル』(2006)、舞台『笑の大学』(1996・1998再演)など三谷幸喜作品に数多く出演。またドラマではフジテレビ『王様のレストラン』、関西テレビ『GTO』、朝ドラ『なつぞら』など様々な人気作品に出演した。

さらに2001年、自身がプロデュースする劇団「ダンダン♬ブエノ」を旗揚げ。2009年にはダンダン♬ブエノから派生したソロ活動として「バンダ・ラ・コンチャン」、改め「ラ コンチャン」を始動し、舞台プロデュースの他、若手俳優を対象とするワークショップを主宰。後進の指導にも力を注いでいる。

映画『河童の女』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
辻野正樹

【プロデューサー】
市橋浩治

【キャスト】
青野竜平、郷田明希、斎藤陸、瑚海みどり、飛幡つばさ、和田瑠子、中野マサアキ、家田三成、福吉寿雄、山本圭祐、辻千恵、大鳳滉、佐藤貴広、木村龍、三森麻美、火野蜂三、山中雄輔、近藤芳正

【作品概要】
ENBUゼミナール主催の「シネマプロジェクト」第9弾作品。田舎町で民宿を営む、柴田浩二(青野竜平)と東京から家出をしてきた女性(郷田明希)をめぐる出来事を描きます。

監督・脚本は本作が初の劇場公開長編作品となる辻野正樹。また出演者にはワークショップ・オーディションで選ばれた16名の役者陣に加え、ベテラン俳優である近藤芳正が出演しています。

映画『河童の女』のあらすじ


(C)ENBUゼミナール

柴田浩二(青野竜平)は、川辺の民宿で生まれ、今もそこで働きながら暮らしています。

ある日、社長である父親(近藤芳正)が、見知らぬ女と出て行きました。浩二は一人で民宿を続ける事となり、途方に暮れます。そんな中、東京から家出してきたという女(郷田明希)が現れ、住み込みで働く事に。

美穂と名乗るその女に浩二は惹かれ、誰にも話した事の無い少年時代の河童にまつわる出来事を語ります。このままずっと二人で民宿を続けていきたいと思う浩二だったが、美穂にはそれが出来ない理由があり……。





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