金子雅和監督の映画『アルビノの木』は、ついに15冠を達成しました!
5月17日からペルーのリマで開催されていたインカ国際映画祭で、最優秀長編劇映画賞&最優秀撮影賞のダブル受賞。
それに続き、5月25日からスペインのマルベーリャで行われたマルベーリャ映画祭でも、最優秀映画賞(グランプリ)&批評家賞のダブル受賞。
そして6月10日には、長野県木曽町で開催されるアートイベント木曽ペインティングスでの上映も決定してます。
これほどまでに広がりを見せる金子作品の魅力とは、どのようなものなのでしょう。
金子雅和監督のインタビュー第三弾として、監督のこだわりである「撮影のロケハン(ロケーションハンティング)」や、「自然観」について、ご紹介いたします。
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金子雅和監督のロケハンへの熱意とは?
金子監督:「2008年から日本で現代の寓話を撮影したいと思い、その世界観に見合った土地を探していました。
鹿のモチーフが浮かんできた時に、宮城の男鹿半島に鹿と神官にまつわる場所があって、まず、足を運びました。その帰りに、偶然、真っ赤な川(山形)を見つけたんです。これは早い段階でみつけました。(*『アルビノの木』に登場する川)
人に薦められたところに行くというよりも、自分で山に登って、発見して…というのが圧倒的に多いですね。
ロケハンの写真は1万枚。ロケのための車移動距離は、6年間で述べ1万キロになっていました。
『アルビノの木』でロケ撮影が行われた滑川
ロケハンへのこだわりはいつからか?
金子監督:「学生時代、『すみれ人形』のロケ地にもなった、奥多摩には大学生の頃から何度も通っていました。
「ここいいな」という場所があったら、地図上に書き込んでいたんです。22から23歳の頃で、ロケ地を探しに行き、地図に番号を記していたんです。最初の頃からのやり方が、どんどんエスカレートしていった感じですね。
作品として、ひとつの世界として描けるように、いろいろなロケ地を探していきました。おもしろいな、という地点を地図上に書き込んでいったのですが、それが地図上で一直線になったんです。それって地層の断面になっているのかな…と。面白い発見でした。」
『すみれ人形』(2007年/63分)
ロケ地に何度も足を運びますか?
金子監督:「場所を探すまでも時間が掛かりますが、実は決まってからも、何度も足を運びました。最低でも3回。それぞれの季節の、何時に、どのような光が射すのか。天気が良かったらどういう絵(映像)になり、悪かったらどういう感じになるか、景色の見え方が違いを知り、撮影の順番を決定しました。
自然を人間が制御して効率的に撮影をすると、本当の自然の光や風景は見えないように思うんです。自分たちが制御できないものに合わせていくと、より美しい絵(映像)が撮影できると感じています。
実際にその場所に通って、その自然に馴染んでいないと、自分が異物になってしまうような感覚になります。
自分たちが異物のままで撮ってる時は、映像自体も硬くなってしまう。変な言い方かもしれませんが、撮られる側(自然)が心を許していない感じがするんです。その環境に自分たちの感覚を合わしていくためにも、何度もその場所に行き、その土地にチューニングを合わせていく、それは、役者さんが役に近づくためのアプローチと同じだと思うんです。
そのためロケ日程は、ロケ地の天候データーを集積したり、気象庁の10年分の天気予報を参考にして決めたりしてました。笑」
映画の世界観を表す「絵」とは?
金子監督:「長編映画を作るときに映画の世界を表した地図を作るんです。
シナリオを一度地図にして表し、その世界観を可視化していく働きがあります。現実のロケ地に、「地図」の場所を探しあて、ロケ地をつなぎ合わせていく。だから、作品の中で主人公が歩いていて、次のカットの場所が、実際には何百キロも離れている…といった場面もあるんです。
短編の時は核となるものを中心にした、絵コンテを描きます。
長編の時は絵コンテを書きません。というのも長編の時はうねりのようなものの中から、流れをつくっていくイメージですね。現場でシナリオに線を引いて、ショット割りを決めます。」
次回作への今後の展望は?
金子監督:「今後撮りたいと思っているモチーフは二つあります。
一つは、自然と人間というモチーフです。
特に「火山」に興味を持っています。火山は山を複雑にし、自然を豊かにする。多様な動植物の生息を可能にしています。鉱物もあり、さらに険しい地形によって修験道の地でもあり、宗教的な聖地になっています。
日本を世界から見つめ直したとき、最も特徴的なことは島国であるということなんじゃないかと思うんです。その特徴を作り出したのが火山である、火山のあるところに人間の暮らしや、鉱物を探す人間というモチーフが気になっています。」
もう一つは、自分にとって身近な「東京」という場所です。
私の祖父は神田で育った江戸っ子で、そのルーツを探りたいというか、一度東京と言うものを撮ってみたいと思っています。
東京は今ではきれいにアスファルトに舗装されていますが、少し掘ると過去に生きていた人たちの跡が出てくる。東京にも遺跡が発掘されるんですね。ちょっとひっくり返せば、東京大空襲で亡くなった人やその痕跡がある。
自分たちはいま、その過去の人々の上を生き、存在している。でも、それがあたかもなかったもののようになってしまっている。
その想いが次の作品につながっています。」
まとめ
金子雅和監督は映画制作のために、ロケーションハンティングを入念に行うことで、架空の物語の舞台設定を構造的にしっかりと固めていくようです。
撮影場所を人任せにすることなく、自身の目で確認していく作業を行うことを通して、確信を持って映画に臨む。
そのことが世界各国で開催された際も、言葉以上に画の迫力を見つけ、映画賞15冠を賞賛を達成するに至った源なのかもしれません。
私たち金子監督ファンは、彼が目撃した“自然観”を追体験として、映画というフィクションの物語として楽しんでいるのでしょう。
また、映画の撮影のためのロケハンは、ロケーション・ハンティングの略称です。
2013年に、金子監督は『アルビノの木』の映画制作のために、狩猟資料などもかなり調べたようで、その結果、狩猟免許を取得するまでに至りました。
まさに、映画を見る観客の心象に残るような場所を見つけ出す、腕利きのハンターなのかもしれませんね。
映画『アルビノの木』2018年6月10日(日)に木曽ペインティングスで上映
【会場】
木曽町文化交流センター・多目的ホール(木曽福島)
【開催日】
6/10(日)13:30~※13:00開場
【料金】
入場無料
*『アルビノの木』の本編上映後に、金子雅和監督の登壇するトークショーも開催いたします。ぜひ、この機会に金子監督のお話を聴いてみるのはいかがでしょう。
https://www.kisopaintings.com/
*インタビュー:久保田奈保子、写真:倉田爽、構成:Cinemarche編集部