実在した恐ろしいスマイルの連続殺人鬼『スマイリー・フェイス・キラーズ』
『スマイリー・フェイス・キラーズ』は、2020年に公開されたアメリカのホラー映画。心理学者兼小説家のブレット・イーストン・エリスが脚本を担当し、ティム・ハンターが監督を務めました。
『#フォロー・ミー』(2020)のローネン・ルビンシュタインを主演に抜擢し、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)のクリスピン・グローヴァーが、悍ましい悪役で出演しています。
本作は黒いマントを被った男にストーカーされて苦悩する主人公のストーリーを描いています。
アメリカの11州で45人の男性大学生全員が溺死した、不可解な連続殺人事件に基づいたホラー・ミステリーとなっています。
※本記事は『スマイリー・フェイス・キラーズ』海外公開時の鑑賞ネタバレレビューになります。『スマイリー・フェイス・キラーズ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
CONTENTS
映画『スマイリー・フェイス・キラーズ』の作品情報
【製作】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
Smiley Face Killers
【監督】
ティム・ハンター
【キャスト】
ローネン・ルビンシュタイン、クリスピン・グローヴァー、ギャレット・コーヒー、ダニエル・コービン、コディ・シンプソン、アシュリー・リッカーズ、ダニエル・ダナス、レイチェル・クロウル、ルセ・ミスラー、コーリー・プラザー、ミア・セラフィノ
【作品概要】
『アメリカン・サイコ』(2000)のブレット・イーストン・エリスとティム・ハンター監督は、実際の男子大生の溺死による連続殺人事件と”スマイリー殺人鬼”陰謀論に基づいて、これらの事件を創造的に再現しようと『スマイリー・フェイス・キラーズ』を創り上げました。
不思議な男子大生の連続溺死事件がカリフォルニアの海辺を襲う中、ある出来事で精神的苦痛を受けつつも奮闘していく主人公の姿を描いています。
影の中に隠れている黒いマントを被った男の存在は恐怖を呼び、意表を突く想定外の結末への盛り上がりは、目を離せない緊張感と期待感に溢れています。
映画『スマイリー・フェイス・キラーズ』のあらすじとネタバレ
ある田舎の一軒家で飼っている動物たちが殺されてしまいます。翌日、愛犬がいないため、飼い主が捜しに行くと、足元に血痕がありました。血痕の後を辿って行くと、動物たちの死体が積まれていました。
ある駐車場では、車に乗り込もうとする1人の若者の横にバンが止まり、若者はバンに乗せられてします。翌朝になると、海辺に1体の遺体が流れていました。
ある日の夜、男女のグループが店から出た時に、1人の若者は自分の彼女に電話をかけました。グループの少し後ろを歩いていた彼の後ろに、バン(自動車)が止まりました。グループの1人が振り返った時には、彼の姿はもうどこにもありません。
「1997年以降150人以上の男子大生が不審な溺死事件で亡くなった」というメッセージが流れます。
白いバンが止まっているのが見え、スマイルフェイスのシンボルが見えます。
「事件現場に残されたシンボルを根拠に連続殺人の疑惑が提起されることになった。単なる都市怪談としてみなすこともあるが、殺人という疑惑を提起する人もいる」
というメッセージの後に、被害者である複数の男子大生の写真が見られます。ヤシの木、レンガの建物、公園のベンチ、そして学生たちが大学のキャンパス生活を過ごしています。
大学でのサッカー部所属のジェイク・グラハムは、自転車で通学します。携帯電話で友達と話して、図書館で1人で勉強してから、ジムで身体を鍛えていました。
ベンチに座っているジェイクは、リュックサックのポケットから薬を取り出しますが、そのまま戻します。そして、泳いだ後、友達のアダムとランチ。アダムは、鬱病であるジェイクを気分転換させようと、今夜行われるビーチパーティーに誘いました。
そんなジェイクの周辺に、まるでストーカーのように白いバンが止まっています。
それから彼女のケレンの家へ向かうジェイク。ケレンと共に時間を過ごしますが、ジェイクが薬を飲んでいないことで、ケレンと気まずい雰囲気になります。
ジェイクは、医師から薬を処方されていますが、自分は正常だと思い鬱病を認めないため、薬を飲みたがりません。
パーティーに行く準備のために、一度家に帰るジェイク。ジェイクは、友達のデボンと一緒に暮らしていますが、その日はデボンは家にいませんでした。シャワーを浴びるジェイク。
すると、黒いマントを被った男が、ジェイクの部屋に侵入して来ました。ジェイクの携帯電話とパソコンをハッキングする黒いマントの男。
シャワーを浴びているジェイクは、気付きません。さらに、黒いマントの男は複数の殺人現場を示しているであろうスマイルフェイスが描かれた地図を、ベッドに残します。
シャワーを終えたジェイクの足音で、クローゼットの中に隠れる黒いマントの男。その男が隠れているクローゼットの中から、服を選ぶジェイク。
服を着ながら、ベッドに目を向いたジェイクは、地図を見つけました。デボンが置いて行ったと思ったジェイクは、デボンの部屋に入りますが、デボンはいません。
不思議に思いながらも、深堀りしないジェイクは、迎えに来たアダムの車に乗り込んで行きます。アダムの車には、ジェイク、アダム、ケレン、ケレンの女友達2人が乗っています。
そしてビーチに着いたのですが、ジェイクはドラッグを持って来るのを忘れていました。ケレンたちが取りに行くことになり、ジェイクとアダムはビーチに向かいます。
ジェイクの家に着いたケレンは、ジェイクの部屋でドラッグを手にします。すると、そこには黒いマントの男が隠れていました。ビーチへ向かおうと車に乗り込むケレンを、窓から見ている黒いマントの男。
一方で、ジェイクの携帯電話に「水が君を求めている」と言うメッセージと共に、動物の死骸の写真と宗教儀式のようなシンボルが送られて来ました。
誰だと尋ねるジェイクですが、「水が君を求めている」しか返答がないため、無視するジェイク。そして、ジェイクたちと合流したケレンたち。公衆トイレに行っているケレンを待つジェイクを、監視している黒いマントの男。
ハンマーを持っている黒いマントの男の居場所へと近付くジェイク。黒いマントの男がその背後からハンマーを振りかざそうとしたとき、ジェイクは振り向きますが、そこには誰もいません。
ケレンが戻り、仲間たちと対話する時間を過ごしている中、ケレンが元彼のロブと話していることに嫉妬するジェイク。そんなジェイクを察したアダムは「帰ろう」と言い出し、ジェイクの家まで送ります。
そしてジェイクとケレンは、アダムと女友達と別れます。デボンが家にいないことを確認するジェイク。しかし、まだ黒いマントの男が隠れていたのです。
映画『スマイリー・フェイス・キラーズ』の感想と評価
殺害される恐怖を現実味として描く
大学生のジェイクは、サッカーを趣味としてガールフレンドがいるごく普通の青年です。ジェイクの学生生活は順調に進んでいるように思えますが、彼には鬱病があり、最近処方された薬を飲むのを止めました。
そんなジェイクをストーカー行為する白いバン。車内には誰がいるのか、また何が目的なのか分からず、ジェイク自身も、ストーカー行為をされていることに気付いていません。
本作では、ベッドに置かれたスマイルフェイスが描かれた地図をジェイクに意図的に発見させ、「THE WATER WANTS YOU」というメッセージを動物の死骸の写真と共に見せて、彼を混乱に陥れます。
そのようなストーカー行為をされて、彼自身再び、不安定な精神状態に戻ってしまいます。そして、何故ジェイクが殺人のターゲットに選ばれたのかは、明らかにはされません。
観客は狂乱していくジェイクのこんな恐怖を見ることで、現実的な出来事として感じることができます。
つまり、ジェイク役を演じているローネン·ルーベンシュタインが、映画全体のストーリー進行を担っているといえます。
注目すべき点は、ルーベンシュタインがほぼ単独芝居で演じる日常生活が、とても輝いているように見えるところです。
ゆえに、追い込まれて苦悶する彼ですが、前者とのギャップを表現しているのが魅力です。
一方で、映画撮影スタイルや編集もサスペンス技法を駆使しており、またグロテスクな表現や残虐なシーンは、目をそらしてしまうほど、精細に描写されていて、生々しい恐怖を感じさせてくれます。
スマイリー殺人鬼説とは?
本作の映画の元ネタとなった‟スマイリー殺人鬼”とは、1990年代後半から2010年代初めにかけて、中西部のいくつかの州でかなり多くの溺死者が発生し、約150人の若者が遺体で発見されました。
殆どの場所の近くで、スマイルフェイスを描いた落書きを発見し、それにより、スマイリー殺人説を生んだことが始まりでした。
当時の被害者は全てが白人の大学生で、典型的に運動神経も抜群な若者たちでした。彼らの最後に目撃されたのは、殆どが泥酔状態で家路につく姿なのです。
2008年にFBIは、このような状態での死亡事件を、若者が酔っ払った状態で海に入ったことで、これらの死はしばしば偶然の一致と報告されたのです。
しかし、2008年に引退したニューヨーク市警の刑事の2人ケビン・ギャノンとアンソニー·ドゥアルテは、これらの死を調査して、彼らの不気味な死が事故ではないと発表しました。
それは、22体の死体が見つかった場所の近くの壁に描かれたスマイルフェイスを描いた落書きを、警察が発見したことによるものと思われます。
落書きの存在と犠牲者間の類似性を考慮して、2人の刑事はスマイリー殺人鬼として、広く知られている連続殺人犯による殺人であったと主張しました。
「彼らは精神病者だ。彼らに後悔はない」と刑事の一人は、当時の殺人鬼について述べました。
1997年2月16日にニューヨーク市で、21歳のフォーダム大学の学生パトリック·マクニールの失踪がありました。
事件当時の夜、マクニールはマンハッタンのアッパー·イースト・サイドにあるザ・ダッパー·ドッグと呼ばれるバーを最後に、消息を絶ちました。
警察と家族は、4月7日まで精一杯捜索しましたが、ブルックリンのベイブリッジセクションの桟橋近くの海中に、彼の体が浮かんでいるのが発見されました。
偶然の溺死のように見えましたが、ギャノンは真実を見つけると被害者の両親に誓ったのです。
2001年にニューヨーク市警を退職した後、彼はパートナーであるドゥアルテを雇い、彼らはマクニールと同様の状況で亡くなった他の若い男性に何が起こったのかを、全国調査会社の下で学び始めました。
そして彼らは、被害者は誰かに殺されてから海中に置かれたことを示唆する証拠を見つけたのです。
薬物療法と一致する中毒、彼がバーを去った後に彼の後に見られた車、彼の首の結紮マーク、彼の頭と胴体の焦げ目、通常の溺死と矛盾する水中での体の位置。
したがって、ギャノンとドゥアルテは、マクニールがストーカーされ、薬物を投与され、誘拐され、拘束され、燃やされ、殺され、そして海中に放り投げられたと結論付けました。
2人の刑事は、殺人犯がいること、そしてマクニールが唯一の犠牲者ではないことを確信したのです。
そして、4人の若い男性が、40日間でミネソタとウィスコンシンで、次々と姿を消したことを発見した後、彼らはスマイリー殺人鬼説を、さらに熱心に調査し始めました。
犠牲者の特徴はとても似ていて、似たような死因と、言うまでもなく、スマイルフェイスの落書きの存在までが明らかになったのです。さらに、殺人鬼が、嫉妬から殺すように動機付けられた可能性があることも示唆しました。
また、「(殺人鬼が犠牲者と)正反対で、頭が良くなく、学校が苦手で、仕事がなく、人気がないかも知れない」とし、薬を飲ませて殺害したと主張しました。
そして、ミネソタ大学のクリストファー・ジェンキンスという学生は、4年前に友人と酒を飲んだ後、ミネアポリスのミシシッピ川で遺体が発見され、彼の公式の死因は偶発的な溺死として記録されました。
しかし、刑事は彼もスマイリー殺人鬼の犠牲者の1人だと信じていました。
そんな中で、情報提供者が遂に刑務所に出頭し、ジェンキンスの死に関する十分な情報を警察に提供したのは2006年であり、彼の死因を偶発的な溺死から殺人に公式に変更。
それにも関わらず、ミネアポリス警察が、ジェンキンスの死、ギャノンとドゥアルテ、そして多くの探偵が調査した数十人の死の原因となった連続殺人犯がいるとは信じていないと述べたのです。
現在も、スマイルフェイス落書きの重要性や、事件の要素は不明のままです。そして、殺人の証拠がないことで、スマイリー殺人鬼事件は、未解決の犯罪のリストに載っているのです。
まとめ
映画『スマイリー・フェイス・キラーズ』のラスト20分間の出来事は、2020年公開のホラー映画の中でも秀でた作品です。
しかしこの映画では、殺人鬼の犯罪行為に焦点を当てているように見えますが、事件を捜査することは描かれていません。
鬱病であったジェイクが薬を止めたために精神状態が錯乱していったのか、それとも本当に殺人鬼がいたのかどうかについても言及されていません。
かつて1984年に公開された『エルム街の悪夢』と類似していると感じる映画ファンもいるかもしれません。