久しぶりに集まった学生時代の友人たち、それは人類最後のクリスマスの夜だった!?
学生時代の友人たちが集まり、クリスマスを祝う聖なる夜。
ですが、あらゆる生物を死滅させる謎の毒ガスが地球全土を覆っている為、人類最後のクリスマスの夜となってしまうホラー・コメディ『サイレント・ナイト』。
「ガスで死ぬか?薬を飲んで死ぬか?」という最悪の選択を迫られる、異常な事態での人間ドラマを描いた本作は、監督のカミラ・グリフィンも意図していなかった、何とも恐ろしい作品に仕上がっています。
恐ろしくも可笑しい、独特の世界が展開される『サイレント・ナイト』の魅力をご紹介します。
映画『サイレント・ナイト』の作品情報
【公開】
2022年映画(イギリス映画)
【原題】
Silent Night
【脚本・監督】
カミラ・グリフィン
【製作】
マシュー・ボーン、トルーディ・スタイラー、セリーヌ・ラトレイ
【キャスト】
キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、ローマン・グリフィン・デイビス、アナベル・ウォーリス、リリー=ローズ・デップ、ショペ・ディリス、カービー・ハウエル=バプティスト、ルーシー・パンチ、ルーファス・ジョーンズ、ハーディ・グリフィン・デイビス、ギルビー・グリフィン・デイビス
【作品概要】
人類最後のクリスマスを迎える家族と、その友人たちの人間ドラマを描いたホラー・コメディー。「キングスマン」シリーズのマシュー・ボーンが製作を務めています。
最後のクリスマスパーティーを主催する、家族の母親ネルを『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』(2003)で、ヒロイン役エリザベスに抜擢されて以降、数々の話題作に出演しているキーラ・ナイトレイが演じています。
ネルの夫サイモンを演じるマシュー・グードは『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』(2014)などに出演し、英米の映画で活躍しています。
また『ジョジョ・ラビット』(2019)で、映画初主演を果たしたローマン・グリフィン・デイビスが、ネルとサイモンの子供を演じており、ローマンの母親であるカミラ・グリフィンが、本作の監督と脚本を手掛けています。
映画『サイレント・ナイト』のあらすじとネタバレ
クリスマスの準備に大忙しのネルとサイモン夫婦。
ネルとサイモンの子供であるアートと、双子のトーマスとハーディも、パーティーの準備をしています。
そこへ集まって来た、ネルとサイモンの学生時代の友人たち。
ネルの親友サンドラは、学生時代は美貌の持ち主でしたが、今は冴えない夫のトニーと結婚し、キティという娘と3人家族です。
キティは面倒くさい性格から、アートたちに嫌がられていました。
更にベラとその恋人であるアレックス、サンドラが「王子様」と呼ぶジェームスと恋人のソフィーも、ネルとサイモンのパーティーに参加します。
ですが、全員どこか乗り気ではなく、関係がギクシャクしている様子です。
それでも夜になり、パーティーが開かれます。
サイモンは無理に盛り上げようとしますが、ソフィーが深刻な話を始めた為、クリスマスパーティーの楽しい雰囲気が壊れます。
実は、地球全体に謎のガスが発生し、人類が死滅していっていました。
ネルたちが住む地域にも、毒ガスが蔓延しており、今日が最後の夜になったのです。
人類に残された選択は「ガスを吸って苦しんで死ぬか?薬を飲んで楽に死ぬか?」の2つです。
人類最後のクリスマスに集まった参加者からは、不穏な空気が流れ始めます。
映画『サイレント・ナイト』の感想と評価
地球最後のクリスマスに開催された、不穏な空気のクリスマスパーティーを描いたホラー・コメディ『サイレント・ナイト』。
本作の冒頭では、ネルとサイモンが、友人を招いたクリスマスパーティーの準備を進めていくのですが、ニンジンを切っていたアートが手を怪我し、その血がニンジンにかかるという、何とも言えない嫌な場面から始まります。
その後、ネルの屋敷に、パーティーに招かれた学生時代の友人たちが集まるのですが、全員なんとなくパーティーに参加することを嫌がっているように見えます。
そこに、空気の読めない少女キャンディが登場したり、キッチンに集まったネルの友人が先程血がかかったニンジンをボリボリ食べたりと、前半はブラックコメディの要素が強いです。
この時点では「人類最期の時が迫っている」という部分は、まだ説明されていません。
ですが、クリスマスパーティーが始まった食事の場面から、地球を覆い始めた毒ガスの話が始まり、それ以降、作中で起きている状況が次々に説明されていきます。
理由は不明ですが、謎の毒ガスが発生し「そのガスを吸うと苦しみながら絶命する」と、研究者たちが発表しています。人類には成す術が無く、唯一の選択肢は薬を飲んで苦しまずに死ぬことです。
「クリスマスパーティーやってる場合か!」とツッコミたくもなりますが、成す術が無い為、何もかもを諦めて、日常を過ごすしかないのでしょう。
完全に諦めた状態でのクリスマスパーティー、やけくそ気味のプレゼント交換やダンスパーティーが何とも痛々しい場面となっています。
その生きることを完全に諦め「どちらにしても、死を受け入れないといけない」という状況に、疑問を持ったのがアートです。
アートは「研究者の発表が嘘で、薬を飲むことが間違いではないか?」と疑問を感じるようになりますが、大人たちは全く聞く耳を持ちません。生き延びる術を模索するアートが、全てを諦めた大人たちにより、異質のような扱いを受ける展開は、なかなか心にくるものがあります。
本作のラストは、一度ガスを吸って意識を失ったアートが、唯一薬を飲まずに生き延びるという展開になります。ただ、アートが目を覚ましたところで映画は終わるので「ガスを吸ってしまったアートは本当に無事だったのか?」それは、ハッキリと分かりません。
ラストシーンについては、アートの意思が現状を克服したという、成長を感じる意味があったようです。
『サイレント・ナイト』で描かれているのは「誰が正しかったか?」ではなく、未曽有の事態に直面し、正常な判断ができなくなった人たちの恐ろしさです。
どこか、近年のコロナによるパンデミックの混乱を連想させる、社会風刺的な展開に感じますが、監督のカミラ・グリフィンが、本作の脚本を書いたのは2018年。
カミラ・グリフィンは、軽い語り口の作品を目指したそうですが、皮肉的にも、フィクションと現実が重なってしまったという、ある意味恐ろしい作品に仕上がっています。
まとめ
『サイレント・ナイト』では「家族」という存在が、テーマにもなっています。
ネルとサイモンの家族の他、サンドラとトニーの、どこかぎこちない家族。ベラとアレックスの同性カップル、ジェームスとソフィーの年の差カップルと、さまざまな家族やカップルが登場します。
そして、有毒ガスと直面し、それぞれの家族とカップルが最期の時を迎えます。
設定がクリスマスなのは、さまざまな家族やカップルを1つの場所に集め、人間ドラマを見せる為なんですね。
また、監督のカミラ・グリフィンの、実際の3人の子供もメインで出演しているという、なかなかユニークなキャスティングになっています。
『サイレント・ナイト』は、ロックダウンが迫っていた時期に撮影されており、かなりバタバタしていたそうですが、カミラと3人の子供の家族の力で完成させた作品でもありますね。