生か死か!? 時速300km超のノンストップ・サバイバル! 韓国映画『新感染ファイナル・エクスプレス』が上映中。
カンヌ国際映画祭をはじめ各国の映画祭で絶賛され、ハリウッドリメイクも決定!超弩級のアクションホラー大作です!
CONTENTS
1.映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』作品情報
【公開】
2017年(韓国)
【原題】
Train to Busan
【監督】
ヨン・サンホ
【キャスト】
コン・ユ、キム・スアン、チョン・ユミ、マ・ドンソク、チェ・ウシク、アン・ソヒ、キム・ウィソン、チェ・グィファ、パク・ミョンシン、シム・ウンギョン、イェ・スジョン
【作品概要】
娘の誕生日に、別居中の妻の家に娘を送り届けるため、釜山行きの列車に乗ったソグ。しかし、ソウルを始め、韓国各地で化学工場のミスで漏れた謎のウィルスの感染が広がっていた。感染した人間はゾンビ化し、生きた人間を襲う。ソグたちの乗った列車にも感染者が乗り込んでおり、その数はどんどん増していく。ソグたちは生き残ることが出来るのか!?
2.映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』あらすじとネタバレ
予兆
韓国、チニャン。トラック運転手が停止させられ、車を消毒されています。「また豚を埋めたのか」と運転手は怒って作業員に詰め寄りますが、「バイオ団地から何かが漏れたんですよ」ときかされます。
走行中、携帯が鳴り、出ようと脇見をした瞬間、ドンという衝撃音がしました。あわててトラックを止め、降りてみると道路には点々と血がしたたり、鹿が倒れていました。
運転手は悪態をつくと、そのまま立ち去りました。しばらくして、死んだはずの鹿が動き出し、勢い良く立ち上がりました。しかし目は白目をむいたままの異様な姿でした。
ファンドマネージャーのソグは「魚が謎の大量死」と報じた記事を苦々しく眺めながら、キム代理に電話すると「関連株を全部売却しろ」と命じました。
仕事人間の彼は、妻と別居し、母と娘と暮しています。娘スアンの誕生日にWiiをプレゼントしますが、娘は当惑している様子。既に買い与えていたことをソクは失念していたのでした。
誕生日だから釜山に住むママのところに行きたいとせがむスアン。一人で電車に乗って、駅に迎えに来てもらうと母親とも打ち合わせをしているようです。「また今度っていつも嘘をつく」と言われ、耳が痛いソグ。
ソグの母親は、ソグが娘の発表会に行けなかったことをやんわりと咎めました。「明日は母親のところへ連れて行ってやるだろ?」
ベッドの上に置かれていたビデオカメラのスイッチを押すと、発表会で歌っているスアンの姿が映っていました。「オロハ・オエ」を歌っているのですが、途中で歌うのをやめていました。
翌朝早く、ソグとスアンは車でソウル駅に向かっていました。ソグは発表会のことに触れ、なんでも途中で投げ出したらダメだ。一度始めたら最後までやりきらなくてはと娘を諭しました。
目の前を何台も消防車やパトカーが通り過ぎていきます。スアンが窓から手を出すと灰のようなものがつかめました。近くのマンションで火災が起きているようでした。
感染
5時30分発KTX101号。年老いた姉妹、野球部のメンバーたち、様々な人々が乗り込んでいました。キム代理から電話を受けたソグは昼前に戻ると返答しました。
いよいよ、発車。その時、一人、怪我をしたような女性が列車に乗り込むのが見えました。
車掌は列車の上方で音がするのに気が付き見上げました。列車が動き出した時、その車掌に何者かが飛びかかったように見えましたが、誰も気付いていません。その光景を一瞬窓越しに見たスアンは妙に感じますが、隣の父親は眠っていました。
列車が動き始めてまもなく、変な人が乗っているという苦情が乗務員に寄せられました。トイレにはいったままこもって出てこないとのこと。
スアンはトイレに行きたくなって立ち上がりますが、父親は熟睡しており、一人で向かいました。乗務員がトイレのドアをたたきますが、誰も出てきません。スアンは別の車両のトイレに移りました。
そこにはサンファという男が立っていて、時間がかかるから他のところへ行った方がいいと言うのでした。彼の身重の妻、ソンギョンが中に入っているのです。仕方なく、もう一つ先のトイレに向かいました。
トイレの男は、浮浪者のような格好をしており、うずくまって震えながら「みんな死んでしまった」と呟いていました。男はトイレから出され、座席に座らされました。
最後に飛び乗った女が苦痛で身をよじらせていました。足の血管がはっきりと浮かび上がり、異様な形相です。女性乗務員が気付き彼女に駆け寄りました。女は突然乗務員に噛み付きました。
ソグは電話が鳴って飛び起き、娘がいないことに気付きます。電車の中に設置されたテレビは、街中で激しい暴力デモが起こっていると報じていました。
女の乗務員がドアを開けてよろよろと入ってきました。彼女の肩にあの女がしがみついており、彼女に噛み付いて血まみれになっていました。乗客は驚いて悲鳴をあげました。
ソグは立ち上がって娘を探しに走り出しました。後ろで早く逃げろ!という声が上がりました。
手を洗ってトイレから出てきた娘は人々が車両を走っていくのを目撃します。父親と合流でき、二人で次の車両へ飛び込みました。
ソンギョンがトイレから出てきた時、噛まれてゾンビ化した人間が他の人を襲っている光景が目に入ってきました。「助けてあげて!」とソンギョンは思わず叫び、仲裁にはいったサンファでしたが、あまりにも常識を逸した光景に彼らもまた逃げ出しました。
しかし、彼らがこちらに向かっているのをみていたはずのソグが車両のドアを目の前で閉めてしまいました。締め出された形のサンファとその妻。後ろからはゾンビが迫ってきます。
なんとかドアを開け、サンファたちを入れることに成功。ゾンビは見えると襲ってくるようだと誰かが言うのを聞いて、ソギョンは素早くドアのガラス部分に水を振り、新聞紙を貼り付けました。激しくドアを叩いていた音がやみました。
サンファはソグの行為をなじりましたが、ソグは知らん顔です。皆はスマートフォンで動画サイトを観て、今起こっていることを把握しました。街はパニックとなり、政府が軍隊を投入。各地で爆発が起こっていると報じていました。
年老いた姉妹に席を譲ってあげた娘を見て、ソグは「あんなことしなくていい」と叱りつけました。「今は自分が大事だ」。
その時、「この列車はテジョンに停まります」と車内放送が響きました。ソグはキム代理に電話を入れ安全を確認しました。キム代理の返答は「テジョンでは隔離されると思います。中央ではなく東広場に出てください」というものでした。
列車が停止すると、ホームには誰もいません。乗客たちは下車し、恐る恐る駅構内を移動していきます。
そのころ、バス会社の乗務であるヨンソクという男が列車の運転手に「テジョンが封鎖され、誰も入れない。釜山まで列車を走らせろ」と詰め寄っていました。
兵士の姿が見え、安心した皆がエスカレーターに乗って降りていくと、突然、じっと立っていた兵士たちがエスカレーターを駆け上がり始めました。彼らは既に襲われソンビ化していたのです。
自分たちだけ東広場に出ようとしていたソグにスアンが言いました。「パパは自分のことしか考えていない。だからママも家を出た」。娘の言葉が深く心に突き刺さりました。
生き残りを賭けた闘い
その時、東広場方面からもゾンビ化した兵士たちが、上がってきました。人々は懸命に来た道を戻り、プラットホームに通じるガラス扉を閉じて兵士たちを封じようとします。
ソグはサンファや野球部の学生たちとともに、襲い来るゾンビが中にはいらないよう、必死で扉をおさえ、スアンやソギョンたちに列車に乗るよう促しました。
運転手はヨンソクにせかされ、会社に連絡を取っていました。逃げ延びた人が戻って乗り込んでいきます。早く出せ!というヨンソクとまだ友達が戻ってきていないという野球部のマネージャーの少女ジニが言い合いますが、ヨンソクは運転手に怒鳴りつけ、列車は動き始めました。
ガラス戸が一瞬かっちりしまり、ソグたちは、今だとばかりに走り出しました。大勢のゾンビたちに押されて、ガラスにヒビが入り始めていました。「全力疾走だ!」
列車が動き出しているのが見えました。ゾンビたちはすぐにガラスを破り、ソグたちを追いかけてきました。野球部員たちのうち二人は逃げ遅れソンビの群れにまきこまれてしまいました。
ホームで彼らを待っていたジニに部員の一人ヨングクが駆け寄って「俺しか残らなかった」と首を振りました。
生存者たちは列車に乗り込みますが、何組かに分かれてしまいます。老姉妹も妹と姉、別々の車両に分かれてしまい、不安を隠せません。ヨングクとジニも離れてしまいました。
ソンギョンとスアン、浮浪者風の男、老夫婦の姉は13号車のトイレに隠れていましたが前の車両も後ろの車両もゾンビだらけでした。
スマホの連絡で彼女たちの居場所を知ったソグとサンファはヨングクとともに9号車にいました。ヨングクはジニの知らせで他の人々が皆15号車にいることを知ります。
まず10号車で少数のゾンビたちを殴り倒し、11号車へ。そこには野球部の仲間たちがゾンビ化していました。すくむヨングク。ソグとサンファだけでゾンビを相手にしますが、二人とも今にも噛みつかれそうになっています。ヨングクは勇気を振り絞ってゾンビたちをバットで叩きのめしました。
トンネルに入ってあたりが真っ暗になるとゾンビの動きが止まりました。ボールが転げ落ちるとゾンビたちは音に反応してそちらに飛びつきました。
トンネルと携帯音を利用して、13号車にたどり着き、スアンたちと合流。さらに次のトンネルを利用して、14号車に侵入し、ゾンビの動きが止まっている間に荷物棚を這って移動。危機もありましたが、なんとか8人は無事15号車の前までたどり着きました。
3.映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』の感想と評価
不穏で謎めいた冒頭からラストショットまで息つく暇もない、手に汗握るノンストップホラーアクションです!
鹿を轢くという冒頭から、未明のマンションの火災など、何かが起こっている様を小出しにしてサスペンスを高めていく演出が圧巻です。
釜山行きの列車が出発の準備を整えている光景は、獅子文六の小説を映画化した、川島雄三監督の『特急にっぽん』(1961)などを思い出させる爽やかな高揚感のあるものです。
それゆえに、そこに入り込んでくる一つの異分子(ゾンビに噛まれたらしい女性)に心底ゾッとさせられます。
明らかにソウル駅にも異変が起きているのですが、乗務員も乗客も誰もそのことに気付いていません。幼い少女(スアン)は一瞬何かを目撃しますが、画面の隅で見えるか見えないか程度の絶妙なショットの表現が秀逸です。
残酷描写は控えめに(韓国映画はその点容赦なく描く作品が多いという印象がありますが)、映像の積み重ねでサスペンスを盛り上げていくセンスが光っています。
韓国の各地でゾンビによる多大な被害が起こっているはずなのですが、列車のテレビに映っている報道はまだそのことに気付いていないようです(”デモによる暴力事件”が報じられています)。
これらは震災を私たちが経験した際、現地の本当の被害状況が明らかになるのに時間がかかったことを思い出させます。
YouTubeにあげられた映像で乗客が事実を知るというのもまさに今日的です。
ゾンビが単体で現れ、増殖していくというゾンビ映画の王道、セオリーを忠実に守りつつ、集団化したゾンビから、列車という限られた空間でどのように逃げ延びるのかという設定が本作の最大の見どころとなっています。
途中下車する駅や、列車の乗り換えといったバリエーションを盛り込みながら、列車で釜山に向かう市井の人々だけに焦点をあて、そこには政府の介入やましてや正義のヒーローなどは一切登場しません。
中盤、生存者が別の車両に離れ離れになり、13号車でゾンビに囲まれている数名を救助し、15号車へ向かうのですが、このハラハラドキドキな展開は秀逸で、生存者たちが頭をフル回転させた「頭のいい映画」としても記憶しておきたいところです。
ついに15号車に着いたというところで起こる疑心暗鬼の仲間割れといった展開もゾンビ映画のセオリーを貫いていますが、ここではまた別の印象を持ちました。
自分一人だけが助かりたいというバス会社の男の一連の行動は芥川の「蜘蛛の糸」を思い出させます。ゾンビのいる地獄から母の住む故郷に戻りたいと願う男は、まさに蜘蛛の糸を独り占めせんと、他の生存者を犠牲にし続けます。
芥川の「蜘蛛の糸」に似たお話は世界中に見られると言われていますし、韓国にも似たような伝承があるのではないでしょうか?
終盤、乗り換えた列車にゾンビがくらいついてひきずられ、別のゾンビがそのゾンビにくらいつくことで、帯のようにつながってゾンビが引きずられているショットは、まさに芥川龍之介の「蜘蛛の糸」の視覚化のように見えました(この時運転しているのは奇しくもバス会社の男です)。
この圧巻のショットを俯瞰でとらえているのですが、そこには「蜘蛛の糸」で外界を見下ろしていた「釈迦」の視点があるのではないでしょうか?!
ここで問われているのは人間の「倫理観」です。
人を踏みつけ、生き馬の目を抜く生活を続けていた主人公が、娘にずばりとそのことを指摘され、愕然となる場面がありますが、儒教的な思いやりの精神が、競争社会の中で否定され、ないがしろにされているという現代韓国社会への警報と読み解くことも可能でしょう。
死に囲まれ、苦闘の末、命を落とさんとしている男が最後に我が娘の「生の誕生」の瞬間を思い出す場面は涙なくしては見られません。
「生命」とはなんと美しく、神聖であるのか、それがもたらす幸福が如何ほどのものだったか。それを知るのが死ぬ瞬間であるのは皮肉でもあり、それこそが人間なのだ、とこの場面は示唆しているようです。
ラストにつながる伏線の回収も鮮やかで、どのエピソードも一つたりとも見逃せない大傑作となっています。
まとめ
今作の前日談的映画!『ソウル・ステーション/パンデミック』
ヨン・サンホ監督は、これまでアニメーション作品を手がけてきたクリエイターで、本作が初の実写映画だそう。その完成度の高さに驚かされます。
彼が手がけたアニメーション『ソウル・ステーション/パンデミック』(2017年9月30日公開予定)はソウルの感染パニックを描いたゾンビもので、この作品を実写化するという企画が持ち上がり監督をオファーされたといいます。
リメイクよりは新作をと生まれたのがこの『新感染 ファイナル・エクスプレス』です。
列車を舞台にした作品は古今東西名作が多く、最近ではジャッキー・チェンの『レイルロード・タイガー』が、ワクワクドキドキの実に楽しい活劇映画でした。
列車とゾンビを結びつけたのはまさにアイデア賞と呼んでもいいかもしれません。列車内は動く市街地であり、また動くショッピングモールでもあるということ。
しかし、それは限られた空間で、乗客の数だけゾンビは増殖していくわけですからこんな恐ろしい舞台はありません。
釜山に突き進む列車と同様、映画も最後まで予想不能の展開で突き進み、ラストは息を飲んで見守り、鮮やかな脚本に拍手を送りたくなりました。
主人公のソグを演じるコン・ユを始め、マ・ドンソク扮する男気あふれるサンファなどキャラクターも皆、個性的で、偶然、その場に居合わせた人々の人生が交錯し、運命が別れていく様子もまた、サスペンスの一つとなって胸に突き刺ささります。
スケールの大きなエンターティメントでありながら、心揺さぶる家族愛映画でもあります。まさかゾンビ映画で泣かされるとは!!
原題は『釜山行』とシンプルで、それに比べて日本のタイトルはB級映画感満載な気がしなくもないですが、マニアのみならず、幅広い層に見てもらいたい作品となっています。