『新感染半島 ファイナル・ステージ』は2021年1月1日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
韓国で公開されるや1,150万人以上の観客を動員、社会現象になり大ヒットを記録したゾンビパニック映画、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)。
ファンタジア国際映画祭で最優秀作品賞、シッチェス・カタロニア国際映画祭で監督賞・視覚効果賞を獲得するなど、国際的にも高い評価を獲得しました。
その待望の続編が完成。高速鉄道内での惨劇を描いた前作に対し、続編では何を描くのか、マ・ドンソクは今回も出演するのか、と話題を呼んでいる作品です。
タイトルは『新感染半島 ファイナル・ステージ』。カンヌ国際映画祭のオフィシャル・セレクション作品です。
ゾンビ映画ファン、韓国映画ファンが待ち望む本作の見どころを紹介します。
CONTENTS
映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』の作品情報
【日本公開】
2021年(韓国映画)
【原題】
반도 / PENINSULA
【監督・脚本】
ヨン・サンホ(연상호)
【出演】
カン・ドンウォン(강동원)、イ・ジョンヒョン(이정현)、クォン・ヘヒョ(이정현)、キム・ミンジェ(김민재)、ク・ギョファン(구교환)、キム・ドユン(김도윤)、イ・レ(이레)、イ・イェオン(이예원)
【作品概要】
人を狂暴化させるウイルスの感染爆発が発生、国家機能が停止した韓国。その4年後、ある使命を帯び崩壊した祖国に潜入する元軍人の男。
無数の感染者がさまよう世界を舞台に描かれた、ゾンビサバイバル・アクション映画です。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』、その前日譚のアニメーション映画、『ソウル・ステーション パンデミック』(2016)に引き続き、ヨン・サンホが監督を務めました。
主演は『マスター MASTER』(2016)や『1987、ある闘いの真実』(2017)、『ゴールデンスランバー』(2018)のカン・ドンウォン。
『ラブ・アゲイン 2度目のプロポーズ』(2019)のイ・ジョンヒョン、名脇役として名高いクォン・ヘヒョが出演しています。
映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』のあらすじ
韓国で謎のウィルスのパンデミックが発生、狂暴化した感染者が大量発生する中、姉一家と脱出を図ったジョンスク大尉(カン・ドンウォン)。
生存者を見捨てざるを得ない過酷な脱出行の果てに、彼らは国外に向かう船に乗り込みます。
しかし客室内で感染者が発生、ジョンスクの目前で姉と甥は命を落とします…。
4年後。たどり着いた香港で荒んだ日々を送るジョンスクに、裏社会の人間から儲け話が持ち込まれます。
それは今も感染者があふれる、完全封鎖された半島に戻り、大量のドル紙幣を積んだトラックを回収する任務でした。
上陸に成功し、目的のトラックを発見したジョンスクたち。しかし彼らの前に、生き残り残虐な行為にふける軍人たち、631部隊が現れます。
ゾンビの如き感染者の群れと、狂暴な軍人に追われ絶体絶命のジョンスクを救ったのは、生存者の幼い姉妹でした。
姉妹の母ミンジョン(イ・ジョンヒョン)、師団長の愛称で呼ばれる初老の元軍人キム(クォン・ヘヒョ)の助けを借り、脱出を図るジョンスク。
襲い来る感染者たちと、無法者集団と化した631部隊の追撃を逃れ、ジョンスクたちは無事、感染半島から逃れることができるのか。
映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』の感想と評価
ホラー・終末映画愛に満ちた作品
本シリーズのだけでなく、SFコメディ映画『サイコキネシス 念力』(2018)や、オカルトスリラードラマ『謗法 運命を変える方法』(2020~)を手掛けるヨン・サンホ監督。
今や韓国ファンタスティック系映像作品の、第一人者の彼に相応しい、ゾンビ映画&ポスト・アポカリプス映画が誕生しました。
本作に影響を与えた映画に、監督はジョージ・A・ロメロの『ランド・オブ・ザ・デッド』(2005)、また『マッドマックス』(1979)シリーズや、『ザ・ロード』(2009)をあげています。
しかしホラー映画ファンなら、さらに複数の映画をあげることが可能でしょう。
『28日後…』(2002)からは狂暴なゾンビと化した感染者だけでなく、崩壊した世界で横暴にふるまう軍人の姿を取り入れました。
この軍人像の原型に、ジョージ・A・ロメロの『死霊のえじき』(1985)を見ることも可能です。
荒廃した世界で活躍する車には、『マッドマックス2』(1981)や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)、他に『ドゥームズデイ』(2008)を思い浮かべる方もいるでしょう。
また631部隊の基地の描写は、『マッドマックス サンダードーム』(1985)、あるいは『ニューヨーク1997』(1981)のオマージュとも受け取れます。
進歩したVFX技術を駆使して描く感染者の群れは、『バイオハザード』(2002)シリーズや、『ワールド・ウォーZ』(2013)への挑戦と見ました。
様々な作品を列挙しましたが、ホラー映画ファンなら『新感染半島 ファイナル・ステージ』に、過去作への強い愛情を間違いなく感じ取るでしょう。
20世紀末、金大中政権が誕生後、通貨危機を乗り越え自信を取り戻した韓国。
その時期の韓国映画界は、アクション・娯楽性に富むハリウッド映画に挑む作品を次々生み、飛躍的な成長を遂げました。
当時の韓国映画の熱気は、ドラマ『冬のソナタ』(2002~)を中心とした、第1次韓流ブームと共に記憶する方も多いでしょう。
現在の韓国映画界は、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(2019)のような、世界をリードし受け入れられる作品を生み出す、成熟した環境に育ちました。
しかしヨン・サンホ監督の創作姿勢には、従来のホラー映画を敬愛し、それに挑みより面白いものを作る、がむしゃらな熱意が感じられます。
それはかつて『グエムル 漢江の怪物』(2006)で、様々な社会的メッセージを込めつつ、ハリウッド大作に挑んだポン・ジュノ監督に通じる姿勢です。
ポストコロナ時代のゾンビ映画
映画の中で人類を滅亡させかねない脅威として、最悪の姿で描かれる感染症の恐怖。
2020年、世界は想像した最悪の形では無いものの、余りに大きな悲劇と損害をもたらした、新型コロナウィルス感染症の脅威を体験しました。
映画界も大きな影響を受ける中、韓国で2020年7月15日に公開された『新感染半島 ファイナル・ステージ』。
映画館の席数を半減した上での公開で、初日だけで35万人以上を動員、前作同様の大ヒットを記録しました。
映画業界が苦境にあえぐ中、希望を与える作品となった本作。将に韓国版『TENET テネット』(2020)、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020)というべき存在です。
劇中に脱出者を乗せた避難船が受け入れを拒否され、しかも船内に感染症患者が発生する描写が描かれます。
コロナ禍初期の段階で、クルーズ船に起きた事態を思うと、余りに身近に感じられました。
そして香港に到着した避難民が、韓国人というだけで感染者として忌み嫌われる描写は、コロナの広まりと共に欧米各国などで発生した、アジア人に対する偏見そのものです。
また皮肉にも独裁的な監視国家は感染症に強い事実など、人類が経験したコロナ禍の有様を劇中で描いた本作。
実は本作、VFXが主役となる作品の常で、2019年10月には早くも撮影が終了しています。
コロナウィルスが世に現れる以前に、本作の構想を完成させていたヨン・サンホ監督。
彼が想像した恐怖や韓国民を襲う悲劇は、見事に時代を予見したものでした。
ゾンビ映画である本作のもう1つのテーマは、祖国を喪失した人々の姿。
これは小松左京が著し、発表された同年に映画化された『日本沈没』(1973)と同じテーマを扱ったと言えます。
さらに言えば最初の原作小説で描かれなかった、祖国を失い難民化した日本人の姿。
重いテーマに筆が進まず、共著の小説となった続編、2006年出版の「日本沈没 第二部」発表後に逝去した小松左京。
祖国を失い難民化した韓国人を描いた本作は、『日本沈没』後の人々の姿と同じで、それをリアルに描いています。
難民と化した彼らにとって、祖国や家族は何かを確認させる物語も見どころの一つ。
Netflixオリジナルアニメ、その劇場公開版『日本沈没2020 劇場編集版 シズマヌキボウ』(2020)と比較するのも、楽しみ方の一つです。
まとめ
時代を先取りして生まれ、現在を痛感させる、ホラー映画愛に満ちた映画『新感染半島 ファイナル・ステージ』。時代を代表する映画としても記憶に残るでしょう。
本作は社会派映画に留まる作品ではありません。VFXを駆使し描いたカーチェイスは痛快。
ゾンビの群れを跳ね飛ばす姿は、ロジャー・コーマン製作の映画、『デス・レース2000年』(1975)に通じるブラックユーモアすら感じさせます。
映画の見せ場の、このシーンで活躍するのが幼い姉妹を演じるイ・レとイ・イェオン。
彼女らの描き方こそヨン・サンホ監督の真骨頂。2人の存在は映画の軸であり、彼女らのような子役の存在こそ、韓国映画界の実力を示すと言えるでしょう。
この2人、間違いなく『ゾンビランド』(2009)の、エマ・ストーン&アビゲイル・ブレスリン姉妹以上に魅力的。
若くして優れた演技力を見せた彼女らの、今後の活躍にもご注目下さい。
『新感染半島 ファイナル・ステージ』は2021年1月1日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー